かたいなか

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5/22/2024, 5:04:21 AM

「先月は『無色』、今月最初は『カラフル』。で、今回は『透明』か」
さすがにもう色系のお題は来ねぇよな。某所在住物書きは、透明な水を湯に変えて、カップ麺に注いだ。
「色彩学じゃ無色と透明は別。それは覚えた」
無色のお題の方、バチクソ悩んだな。物書きは回想し、濁りを伴う透明スープから麺をつまむ。

「別に、『透明』の字が入っていれば、半透明だろうと不透明だろうと、無色透明だの透明性だのだろうと、それはそれで良いんだよな?」
透明な水、半透明なガラス、不透明な社会に、透明性を欠いた課金履歴。今年は何を書くか。
物書きは麺を食い、突発的な熱の痛みに悶絶した。

――――――

今日5月22日は抹茶新茶の日らしい。
今日も今日とて、昨日から今週の金曜日までリモートワーク中の先輩の代わりに、
3月から先輩の「上司」をしてる緒天戸へ、先輩が仕込んだ水出しの新茶が入ったボトルを届けた。

東京都内は本日最高気温24℃予想。お茶なんて、ホットは飲んでられなそうな暑さ。
明日も25℃で、明後日なんて30℃の真夏日だ。
雪国出身の先輩は、今外なんか出たら溶けちゃう。
だから暑さに慣れるまで、先輩は涼しい在宅で、淡々と、テキパキと、仕事を捌く。
「暑さに慣れていない時期に在宅を選択できるようになったのだけは、ありがたい」って先輩は言う。
令和ちゃんそろそろ温度管理資格取って(切実)

ところで。
緒天戸は先輩が淹れるお茶を、「他のやつが淹れるより美味い」ってバチクソ気に入ってる。
職権乱用、立場乱用も甚だしいけど、
その分、淹れた先輩も届けた私も、経費+時給分の御駄賃貰えるから、まぁ、いいや。

……緒天戸が言うには、先輩と緒天戸のタッグは1年未満、期間限定の予定らしいけど、
このまま緒天戸専属のお茶くみとして、
まさかとは、思うけど、ひょっとして。

さて。
「ゆたかみどり品種。鹿児島の新茶だ」
昼休憩を利用して、先輩が居るアパートに行ってみると、室内で先輩が不透明な冷茶を用意してた。
「茶の甘味が比較的多く、鼻に抜ける余韻も濃い。好きなやつは好きな味だと思う」
氷の詰まったデカンタは、濃ゆい若葉色で満たされて、からり、カラリ。澄んだ、透明な、涼しい音をたて、テーブルの上の耐熱グラスに新茶を落としてる。

「いつも淹れてくれるお茶の味と違う」
グラスを貰って、飲んで、私がぽつり言うと、
「多分新茶の特徴だ」
先輩は、デカンタに水を補充して、私に言った。
「少し、旨味のようなものを感じるだろう。新茶は新茶以外に比べて、それが比較的多いのさ」
人によっては「ホットで飲むと、かすかにお茶漬けの味がする」という人もいるらしいぞ。
カラリ、カラリ、カラン。先輩はデカンタの中身を混ぜるように揺らしながら、そう付け足した。

「先輩はどっちが好きなの?」
「どっち、とは」
「新茶と、新茶じゃない方と?」

「お前はどうなんだ」
「『なかなかすぐには決められない』?」
「ちがっ、私にも、明確な茶の嗜好くらい」
「図星のときの先輩、すぐ『ちがう』って言いたがるから、図星だね。ハイハイ」

いいんじゃない?べつに「好きな味」に明確な透明性が無くても。 私はそう言って、ちびちび、普段先輩から貰うお茶より濃ゆい感じのする冷茶を口に含む。
「ちなみに、好き嫌い関係ナシで、コレの正反対って先輩が思ってるお茶は?」
「色のことか、それとも香り?味?」
「全部」
「ぜんぶ?……ぜんぶ……」
真面目な先輩は、それでも誠実な回答を私に提示したいらしくて、額にシワ寄せながらお茶をすする。
濃い若葉の不透明を喉に通して、唇を湿らせた先輩は、最終的にすごく悩みに悩んで、ぽつり。
「川根かな……」
なにか、多分どこか、きっとお茶の産地を言った。

5/21/2024, 3:55:09 AM

「『ひと』を書きたい。……とは常々思ってる」
昨日が昨日で今日も今日。19時着の題目に対して苦悩悶々安定な、某所在住物書きである。
去年は理想の「The She」と「The He」、いわゆる「自分にとって一切解釈相違の無い推しキャラ」を題材にして投稿した――では今年は?

「理想としてはドキュメンタリーよ。舞台の箱作って。設定持たせたキャラ置いて。当日のお題をテーマに動いて生活してもらって、そのシーンを撮影する感覚で文字に起こすの」
まぁ、所詮理想だから、結果はご覧の通りだけど。己の投稿作品を読み飛ばす物書きの視線は完全にチベットスナギツネであった。
「……理想の俺が遠過ぎて困難」

――――――

真夏日手前の都内某所、某アパートの一室、午前。
部屋の主を藤森といい、最高気温氷点下も有り得る雪国の出身で、ゆえにその日の日中は一歩も屋外に出ず、仕事もリモートワークに徹している。
3月から藤森の上司をしている緒天戸は、「お前の仕込む冷茶だけは、後生だから俺の部屋に持って来い」と、職権および地位乱用により要請。
2月末まで藤森と共に仕事をしていた後輩が、気を利かせて、保冷ボトルを所定の部屋までデリバリーした――後日藤森が美味な何かを奢ることを条件に。

「……はぁ」
ため息、背伸び、あくび。
氷水で抽出した深蒸しのあさつゆ品種は、渋みが非常に少なく、茶的な甘香と甘味が好ましい。
ひとくち喉に通せば、水出しの余韻が藤森の心的披露を少しだけ癒やした。

ところで。藤森が振り返った先に、子狐がいる。
藤森のベッドの上の冷感ジェルクッションに体をゴシゴシゴロゴロしているネコ目イヌ科は、
すなわち、藤森が世話になっている茶葉屋の看板子狐たるウルペスウルペスである。
「つめたい。つめたい」
言葉まで解して発するこのモフモフ、いつになったら己の家であるところの稲荷神社、あるいは母親の待つ美しい茶葉屋に帰るのか。

「やだっ!キツネ、まだ帰らない」
「暑いからか」
「ちがうの。このジェルクッション、すずしいの。つめたいの。寝心地もサイコーなの」
「そりゃあ、某〼クールの最高グレードだからな」

「理想のつめたさ、理想の寝心地。キツネ、今日はここでお昼寝する」
「父さんや母さんがきっと心配するから、昼飯のためにも一旦帰りなさい」

ゴロゴロゴロ。すりすりすり。
理想のあなた、狐の匂いをまといなさい。
気に入った物を己の所有物とする本能ゆえか、コンコン子狐はご機嫌に、尻尾を上げて、頬を首筋を体を、クッションにこすり付けている。
おかげでクッションカバーは狐色の毛がいっぱい。
換毛期の抜け残り、冬の残滓が少しだけ、子狐の体に残っていた様子であった。

「子狐」
「やだ。キツネ、ここにいる。ここでお昼寝する」
「こぎつね。ほら、良い子だから。そんなにそれが気に入ったなら、貸してやるから」
「やだやだ!やだっ!」

「今この部屋だけでその理想のクッション使うのと、今家に帰って1週間くらい理想のクッションを使えるの、どちらが良い?」
「どっちも」
「……だよな。うん」

知ってた。予想はしてた。
テコでも動かぬ決意の子狐を見て、静かに首を振り、その日二度目のため息を吐く藤森。
この物言う不思議なコンコンは、一度己の理想物をロックオンすると、並大抵の根気の更に10倍でも覚悟しなければ、そこから引き剥がすことができない場合が、時折存在するのだ。

「そちらがその気なら、仕方無い」
スマホを取り出した藤森は、トントントン、アドレス帳から子狐の母親の営む茶葉屋を見つけ出し、
子供対応における理想のエキスパート、すなわち「子供の母親」へ連絡を入れて、
ひとまず、彼女の子供の所在地と現状と、
昼寝とヤダヤダタイムが落ち着いてから、どうにかして家まで送る約束を伝え、
「理想の冷たいクッション」の上で狐団子を形成し、スピスピ寝息をたてる子狐に、
ぱさり、冷感のタオルケットをかけてやった。

「きもちいい。きもちいい」
「それは良かったな」
最終的にそのタオルケットも、子狐によって理想判定のお気に入りロックオン。
後日藤森、冷感ジェルマットとタオルケットを自分用に、新調しましたとさ。

5/20/2024, 3:24:27 AM

「死別、夜逃げ、サ終、垢凍結、恋仲をフッて縁切り。メジャーどころはこんなモンか」
ちょっと変わり種で、今まで頑張って進めてきたゲームのデータを不注意で初期化?
かつて某モンスター収集ゲームで、129匹登録した図鑑を「はじめから」の「ボックスをかえる」でサヨナラバイバイした経験のある某所在住物書き。もう15年程度昔の失敗談である。

「……セーブデータとの突然の別れは、一部失恋より喪失感ハンパない説」
昔々のモノクロドットを思い出す物書きは、懐かしさに負けて、折り畳みの2画面ゲーム機を取り出す。

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室、夜。
部屋の主とその友人と、何故か子狐1匹が、
テーブル上のそこそこ大きめな箱1個を見ている。
部屋の主は名前を藤森といい、その友人は付烏月、ツウキといって、
子狐は藤森のよく知る茶っ葉屋の看板子狐。どこからともなく入り込み、気が済むまで居座るのだ。

くんかくんかクンカ。ひとしきり箱の匂いを嗅いだ子狐は、更に情報を得るため、口を開け牙を見せ、
箱に噛みつく直前で、藤森に阻止される。抱き上げられ、箱の代わりに油揚げを突っ込まれたのだ。
途端、子狐は大人しくなる。
あむあむあむ。ああ、おいしい。

「マルチブレンダー。俺のおフルだよん」
箱を持ち込んだ付烏月が中身を説明した。
「ホイップクリームからスムージー、フローズンスイーツまでコレ1台!バチクソ便利だよ」
コレ覚えたら、手作業とはさよならバイバイだよ。
そう付け加える付烏月は小首を傾け、にっこり。

スイーツ作りに凝っている付烏月。食うより作る派で、ゆえに職場に製作物を持ち込み、支店の常連や勤務者に喜ばれている。
先週は怪物客に運悪く絡まれた新卒者のメンタルケアを兼ね、キューブケーキの納品を依頼された。

「先週のことはよく覚えている。付烏月さん、あなたが私の部屋に来て、私のキッチンにハンドミキサーもブレンダーも無いことに絶望していた」
「だって約20個分のケーキ作るのに、泡だて全部手作業だよ。おかげで翌日筋肉痛だったよ」
「つまりあなたの運動不足解消に、少しだけ」
「少しも役立ってないよ!ノーアゲインだよ!」
詳細は過去作5月14日投稿分参照だが、スワイプが面倒なだけなので、気にしてはいけない。

「ともかく!」
ビシッ!と付烏月。
「コレで、手動の重労働とはさよならバイバイ!
ウチの先々代、旧型ブレンダーあげるから、手作業に使ってた大量の時間を他に回しなさい!」
藤森の腕の中で油揚げを食い終えた子狐、目の前の人間が人差し指を突き出すので、
挨拶と勘違いしたのか、体をうんと伸ばして、くんかくんか。匂いなど嗅いでいる。
好ましい香りを知覚したのだろう。最終的にべろんべろん、子狐は付烏月の指を舐め始めた。

「具体的に、これは、何ができるんだ」
泡だて、すりつぶし、ときに製粉。
すり鉢だのホイッパーだのによる手作業、運動不足のささやかな解消を目的とした労働に対して、突然の別れを切り出された藤森。
マルチブレンダーを見て、指から子狐を引っ剥がして、小首を傾け付烏月に問う。

「よくぞ聞いてくれました!」
付烏月は答えた。
「ズバリ、今の時期だと、お前の好きな茶っ葉とかフルーツとかプラス生クリームとかバニラアイスとかで、簡単に自家製シェークモドキが作れる!」

「付烏月さん……」
「どう、便利でしょ、作ってみたいでしょ?」
「多分、不勉強な私が下手に作るより、作り慣れているあなたに『コレとコレでソレを作って』と手間賃を渡した方が、数倍美味いものが飲める」

「自分で心を込めて作った方が、」
「子狐も言っている。『食材を無駄にするのは、あまり好ましくない』と」
「それ絶対コンちゃん言ってないよね?」
「ほら、言っている。『全自動も電動も良いが、手作業の良さもある』と」
「さっきから『そんなこと言ってない』って不服そうな顔してる気がするけど?!」

5/19/2024, 3:26:42 AM

「いつだったかな。先日は『愛があれば』だった」
某所在住物書きは過去投稿分の題目を辿りながら、小首をひねる。
このアプリにおいて、「恋」と「愛」は月例のお題と言っても良さそうな出題頻度であった。
「愛と平和」、「愛を叫ぶ」、「初恋の日」、「失恋」「本気の恋」。「秋恋」は何月だったか。

似たお題の頻出はネタ枯渇の危機こそあるものの、ひとつの言葉を多角的、多方向的に観察し直す練習としては丁度良さそうであった。

「続き物っぽい文章を1年以上投稿して思ったけどさ。やっぱ、『付かず離れずな日常風景の相棒もの』な物語って、ハナシ続けるのラクな気がする」
ベッタリ恋愛ものは続かねぇの。恋愛皆無の仲間ってのは俺の好物なの。
心の距離感便利。物書きはポツリ結び、今日も文章を投稿する。

――――――

昨日の猛暑から一転、今日の東京はいい具合に過ごしやすい気温に戻った――気温に関してだけは。
昨日と一昨日でろんでろんに溶けてた、雪国の田舎出身だっていう先輩も、今日は通常運転。
雨の湿度と気温の乱高下でぐったりしてる私の代わりに、先輩の故郷のソウルフードを、つまり簡単でサッパリしたお手軽冷やし麺を作ってくれた。

「なんていう料理だっけ。冷やしラーメン?」
「ざるラーメン、あるいは、ざる中華や中華ざると呼ぶ地域もある。基本的には、冷水でしめた中華麺をめんつゆで食う。今日は胡麻ダレも用意した」
「ふーん」

今朝は、去年辞めてった元新人ちゃんから、バチクソ久しぶりにDMが届いた。
去年の4月1日で左遷されたウチの本店の前係長、名前通りのオツボネ係長にいじめられた心の傷が酷くて、最終的に辞めてった。
今はすごく元気にしてますと。
ホテルのレストランで仕事をしているので、ぜひランチでもディナーでも、食べに来てほしいと。
向こうの上司や先輩と一緒に笑ってピースしてる画像を添えて、送ってきた。

元新人ちゃんは先輩に恋をしてた。
オツボネ係長にいじめられてたとき、元新人ちゃんの悩みと苦しみを聞いてくれた先輩に。
そして、それはどうやら、初恋らしかった。

暑さが落ち着いたら、近い内に、先輩のお宝情報でも持って。当時の苦労話でもしながら。

「私のお宝情報?」
お昼ごはんの最中、元新人ちゃんのハナシを「初恋さん」に渡したら、冷やし麺を突っつく手を止めて、首を傾け口をあんぐり開けた。
「何故、私の情報が要る?」

「だって元新人ちゃん、ゼッタイ恋してたし」
「こい?……だれに?」
「先輩以外いないでしょ。去年の4月4日か5日頃に1回先輩に相談して、その後も先輩に相談して、どっちも『オツボネ係長がトラウマで、今すごく弱ってます』って話だったじゃん。忘れた?」
「忘れるものか。……たまたま、係長への密告リスクの低い相談者が私だっただけだ」

「ああいう社会に出たばっかりのバンビちゃんってね。追い詰められてるときに優しくされると、キュンしちゃうんだよ」
「はぁ」
「てことで、交際決まったら呼んで。『ウチの先輩はやらん!』の頑固オヤジ役やりたいから」
「私はお前の何なんだ」

そもそも恋なんてものはだな。
所詮不勉強の付け焼き刃知識でしかないが、
前頭前野の活動鈍化とドーパミンの活発な分泌と、血中コルチゾールの上昇等々による、ただの生理現象であってだな。
照れもせず顔を赤くもせず、ただ淡々と、先輩はいつもの心理学&脳科学講義を、つらつら。

「先輩」
びしっ。私が人差し指を伸ばし、突き立てて、小さく左右に振り、
「恋の前にはね。ゼントーゼンヤは無意味なの」
恋物語は学問云々じゃなく、多分ハートから始まるんだよ、って意味でポツリ言うと、
「その通り。前頭前野は無意味だ」
なんか全然違う、ちゃんとした学問の話で意味が完璧に通じちゃったらしく、一度、深く頷いた。
ちがう。そうじゃない。

5/18/2024, 4:58:38 AM

「このアプリの文章投稿、意外と真夜中と20時21時頃と、正午付近に集中してる説」
ぶっちゃけアプリ入れてから1年と少ししか経ってねぇから、気のせいの可能性の方が大だが。
某所在住物書きは真夜中に書き終えていた文章を推敲し、結局削除しながらチョコを食べていた。
深夜テンションで書いた初稿はその大部分がカット。ほぼ全滅であった。

「かく言う俺も結構深夜テンションで書いて……」
深夜テンションで書いて、真夜中投稿してる。そう付け加えたくて己の過去投稿分をさかのぼるも、今年に入って昼投稿ばかりであることに気付き、
「寝て起きて『コレ違う』って大部分修正するわ」
ぽつり。己の深夜帯の文才を疑問視する。

――――――

真夜中は日中ほど、インスリンが働いてくれないので、夜食は潜在的に脂肪になりやすい。
そんな小ネタを観たような、実はデマなような、なんなやらを覚えている物書きです。
今回はこんなおはなしをご用意しました。

最近最近の都内某所、某アパートの一室、真夜中。
部屋の主を藤森といいまして、
小さなため息ひとつ吐いて、頬杖なんかついて、
どうやって侵入してきたとも分からない稲荷の子狐を、穏やかに見ておりました。
藤森はこの子狐のお得意様でした。子狐のお母さんが茶っ葉屋さんをしており、藤森はそのお店の大切なリピーターなのです。

「おとくいさん、再来週、たいへん」
物言う子狐はお尻と後ろ足でもって体を支え、
前足で器用にスープカップを持ち、
愛情と幸福でぽっこり膨れたおなかを、ピチャピチャ、ホットミルクで満たします。
「おとくいさんをイジメるひと、来週帰ってくる」
コン、コン。子狐は言い終えると、藤森が作ってくれたホットミルクに顔を戻しました。

「私の初恋のひとが、1ヶ月の新人研修旅行から来週の金曜日、帰ってくるハナシか」
あぁ。これは、おかわり要請コースだな。
コンコン子狐のミルクの減り具合を見て、藤森、おもむろに牛乳をぼっち鍋へ投入。
ジンジャーパウダーと、シナモンパウダーと、砂糖少々を振りまして、ひと煮立ち。
案の定、子狐コンコン、飲み終えたカップを両手で藤森に差し出しました。
「どこで聞いたんだ、子狐?お前にはそのこと、一度もひとつも、話していない筈だが?」

約10年前、初恋を経験した藤森。
この初恋さん、実は恋人厳選厨の理想押し付け厨、恋愛対象を自分のアクセサリー程度にしか思ってないタイプの執着強火さんでして、
藤森、1年で心をズッタズタに壊されたのです。
で、藤森から縁を切った筈だったのですが、執着強火な初恋さん、3月に中途採用として職場に入ってきまして。つまり藤森を追ってきたのです。
詳しくは前々回投稿分参照ですが、ぶっちゃけスワイプが面倒なので、気にしない、気にしない。

「キツネ、ぜんぶしってる。キツネうそいわない」
「そうか。で?」
「キツネわかる。おとくいさんをイジメるひと、あーなってこーなって、そーなって、泣いちゃう」
「すまないよく分からない」
「ここから先は、ベットリョーキンです」
「はぁ」
「ホットミルクとお揚げさん、モーシウケます」

「腹が減ったのか」
「ちがうもん。タクセンりょー、託宣料だもん」
「私の実家から、今年も根曲がり竹が届いている。お前の好きなホイル焼きなら、すぐ作れるが」
「たべる!タケノコ、たべる!」

ビタンビタンビタン!
まるでサーキュレーターか扇風機のように、コンコン子狐、尻尾を振り回します。
都内キロ単価3千5千オーバーの味を、なにより藤森の善き心魂を込めた料理の優しさを、コンコン子狐、ガッツリ学習済みなのです。
ビタンビタンビタン、びたんびたんびたん!
尻尾をバチクソ振り回す子狐に、藤森、2度目の小さなため息を吐いて、
雪国の実家から届いた段ボール箱から根曲がり竹を5本くらい、出してアルミホイルに包みます。

(結局、何故あのひとが帰ってくることを知っていたのか、子狐に聞けずじまいだった)
魚焼きグリルにホイルを並べて、スイッチオン。
真夜中の夜食の準備、もとい、捧げ物の用意です。
(そもそも「あーなってこーなって」「そーなって」「泣いちゃう」とは?)
藤森の背後でガサゴソ、音がするので振り返ると、
食いしん坊の子狐が段ボール箱に頭を突っ込み、コリコリ。タケノコをつまみ食いしておったとさ。

「おいしい。おいしい」
「……マヨネーズ、要るか」
「いる!」

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