かたいなか

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3/25/2024, 2:34:24 AM

「『ところにより雨』、『いつまでも降り止まない、雨』、『梅雨』に『雨に佇む』、それから『通り雨』と『柔らかい雨』。『雨』って確実にお題に明記されてるやつだけでも、少なくとも6個あるんだわ……」
「空が泣く」とかも追加すれば、もう少し増えるな。
某所在住物書きは過去投稿分から「雨」を検索しながら、窓の外を見た――東京は雨雲がかかっている。
記憶が正しければ、「雲」も「入道雲」が6月のお題として出題される筈であった。

「経験として、『ザ・雨!』を初手で出し過ぎると、後の方でネタに困る」
物書きは言った。
「……事実去年の11月頃ネタを探して頭抱えた」

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。
ぐずぐず雨雲がかかっては、ポツポツところにより雨の降る、ちょっとしんみりな空模様、
某稲荷神社敷地内の広い広いお庭では、神社在住の子狐が、そこそこ大きめのフキの傘を、噛んでぶんぶん振り回して、楽しく遊んでおりました。
コンコン子狐は不思議な狐。人間に化ける妙技を持つ、化け狐の末裔でして、神社敷地内の一軒家に家族で仲良く住んでおるのでした。
住民票もあります。お母さん狐もお父さん狐も労働して納税しています。なんという申し訳程度のリアル。
まぁ、細かいことは気にしないのです。

ところで子狐、最近知ったハナシなのですが、
世の中には、子狐の神社に生えているそれより、もっともっと大きなフキがあるそうです。
アキタブキ、それから、ラワンブキというそうです。
背丈は人間に化けたお父さん狐より高く、茎は人間に化けたお母さん狐の手首くらいもあるそうです。

本当かなぁ。コンコン子狐、神社のフキをカジカジしながら首を傾けます。
なんで東京には生えてないんだろう。コンコン子狐、神社のフキをブンブンしながら頭で考えます。
そんな大きなフキがあれば、きっと子狐の大好きな、フキと油揚げとお肉の炒め物はどっさりできるし、
余った葉っぱなどは、傘にもピクニックの敷き物にもなるでしょう。

でも、東京には生えてないのです。
東京生まれの東京育ち、東京から一度も外に出たことのない子狐は、それを見たことがないのです。
「食べたいなぁ。たべたいなぁ」
コンコン子狐言いました。
「かかさんが作ってくれる、フキとお揚げさんとお肉の炒め物、どっさり、食べたいなぁ」
個人的にはお肉は鶏そぼろがマッチです。
でもお母さん狐は、豚ミンチと、たまにコロっと小さいサイコロお肉が有る方が、好きなようです。
まぁ、個々の好みは気にしないのです。

――「……私の実家では、炒め物より肉詰めがメジャーだった気がする」
ところにより雨のぐずつく空の下、今日は子狐の大好きな「おとくいさん」が、稲荷神社にご参拝。
神社のご近所でお母さん狐が店主をしている、お茶っ葉屋さんに寄った帰り、とのこと。
この雪国出身者はお茶っ葉屋さんの常連さん、お得意様なのです。

「ある程度の長さに切って、だいたい豚だったかな、ミンチを詰めてコトコト煮るんだ」
子狐のおとくいさん、あごに親指と人差し指そえて、ぐずつく空を見上げながら、言いました。
「醤油味だった。美味い」

「フキに肉詰めなんて、ちょっとしか入らないよ」
「そうでもない。フキの中に、丁度良い空洞があるんだ。そこに詰める」
「フキのクードーなんて、小っちゃいよ」
「そうでもないんだ。寒い地域だからなのか、あっちこっちのフキノトウが放ったらかしだからなのか、詳しい理由は知らないが、私の地元のフキとフキノトウは、そこそこ大きい」

「アキタブキだ!」
「えっ?」
「傘だ!ピクニックの敷き物だ!どっさりのフキとお揚げさんとお肉の炒め物だ!ちょーだい!」
「あのな子狐。私の故郷は雪国だ。多分向こうは、まだフキノトウのトウ立ちすらしていない」
「アキタブキ!ラワンブキ!ちょーだい!」
「こぎつね……」

コンコンコン、コンコンコン。
ところにより雨のぐずつく空とは正反対。キラキラおめめを更に輝かせて、子狐、困り顔のお得意様な参拝者さんに尻尾を振ります
お得意様はため息ひとつ。実家に、故郷のフキを「少しだけ」、時期になったら送ってほしいと連絡。

しばらくしまして子狐の住む稲荷神社に、雪国の大きく立派なフキが、田舎クォンティティーとして「少し」届きましたが、
やれ傘だ、ピクニックの敷き物だと楽しみにしていたフキの葉っぱは全部バッサリ除かれておりまして、
その点に関してだけは、ところによりどころか線状降水帯のごとく、子狐、わんわん涙を流しましたとさ。

3/24/2024, 3:38:24 AM

「去年もいったと思うけど、やっぱ俺には『特別な存在』っつったら某『彼もまた』から始まる某キャンディーなんよ……」
まぁ、年齢バレるし、ゆえに俺の執筆ネタの引き出しが固くて少ない理由も説明ついちまうけどさ。
ソレしか思いつかねぇっつったら思いつかねぇんだから、仕方ねぇよな。
某所在住物書きは昔々の動画を観ながら呟いた。
そういえば元ネタを食ったことが無い。

「キャンディーっつったら、ガキの頃ずっと食ってた、けど今はどこにも売ってねぇのど飴があってよ」
物書きは言った。
「EXじゃねぇ方の、かつ某UMAみたいな名前の会社から出てたやつ。……今でも味よく覚えてるわ」
物書きにとっての「特別なキャンディー」といえば、すなわちそれであった。

――――――

最近最近の都内某所、某特定の作品群に対する監督シリーズのファンが集うカフェ、夜。
その日の訃報ひとつが発端で、SNSにより急きょ非公式な「偲ぶ会」の開催が告知・拡散され、
席は個室から相席まで満員御礼、
巨大なスクリーンには、訃報届いた声優の出演作が、アニメのみならず、ジャンルもシリーズも超えた特撮まで引っ張り出して、映し出されている。
店主はわざわざ版権元に電話をかけ、許可をとりつけ、後日使用料の振り込みまで行うという。

客の誰もがほぼ初対面。
私のデビューは◯歳だった、僕のファーストコンタクトは◯◯だった、なんなら俺の自己紹介の鉄板はあのキャラの声真似だ、等々、等々。
それぞれが、それぞれの弔いを共有している。

店内に、特撮ファンでも某監督作品群マニアでもない、別のゲームに対する元二次創作作家、昔々物書き乙女であった女性が2人、紛れていた。
片や元夢物語案内人、片や薔薇物語作家。
薔薇の物書き乙女が夢の物書き乙女を誘ったのだ。

「私の作風の一番の転機が、『コレ』だったの」
二次創作の執筆と公開から離れて数年。かつての薔薇物語作家がスクリーンを観ながら、ポツリ。
「今でも覚えてる。父さんが根っからのファンだったの。アンタとの相互小説書いてる丁度その頃だった」
そうそう、ここ、このシーン。
薔薇乙女がスクリーンを指さす。
映っていたのは劇中のヒロインが飛空艇内の調理場を戦場として、料理を次々整えている場面。
この後の食事風景は飯テロで有名である。

「『美味しそう』って感想しか無かった」
「わかる」
「でも父さんがね、バチクソにドヤ顔で言ったの。
『必ず食事シーンがある』、『必ずコケる』、それから『歩き方だけでその人の年齢とおおまかな職業と、感情が分かる』って」
「はぁ」

「メインキャラ以外、数秒しか登場しない人にも、その映画の『前』と『後』がある。
本当の名作は、その世界だけでなく、世界に生きる人の生活や息遣いまで見える映画だってさ」
「完全にそっちのお父さんの解釈と感想だね」
「でも、なんかハッとしたの。
メインキャラにも子供時代が、モブキャラにも『その後』の生活があるんだって」

それから私の作風が変わったの。
それから、コレも含めてこの監督の映画が、私の執筆スタイルの目標として、理想として、
すごく、「特別な存在」になったの。
かつての薔薇物語作家はスクリーンを見つめたまま、視線を離さない。
劇中モチーフの木樽型コップに口をつけ、傾けて、中のジンジャーハイによって喉を湿らせるばかり。

「それじゃあ、私と相互してからそっちのサイトの小説にモブキャラが増えたのも、カプの子供時代とか食事風景とかのネタが増えたのも、」
「そっちの片思いリンク先の作風に引っ張られたんじゃなくて、父さんのドヤ顔トリビアが理由」
「見向きもしなかった例の厨二病ロボットっぽいアニメを観始めたのも、」
「『物語の中の日常風景がバチクソ丁寧に描かれてる』ってのが、すごく似てたから」

「特別な目標になったワケだ」
「そう。特別な存在になってた」

懐かしいね。
一緒に個人サイトで相互結んで一緒に小説書いて、なんやかんやで二次から離れて、
あれから、もう何年経ったろうね。
かつての物書き乙女ふたりは、互いにカフェの一角を、すなわちアニメ映画を上映しているスクリーンを見つめて、酒をあおる。
その後カフェの中は劇中飯の話題となり、どれが一番美味いかでモメにモメて、プチ騒動となったが、
詳細を記すと長くなるので、推して知るのみとする。

3/23/2024, 4:42:03 AM

「おろかなこと、無益なこと、度が過ぎることに用を為さないこと。……『バカ』にも色々あんのな」
ネット情報では、一部のセンダングサとかひっつき虫のオオオナモミとかを「バカ」って呼ぶ地域もあるのか。某所在住物書きはネットの検索結果を辿りながらひとつ閃き、数秒で諦めた。
「ひっつき虫とも呼ばれる『バカ』みたいに、近くを通るとピョンとくっついてくる子猫あるいは子犬」
物書きはため息を吐いた。猫犬カフェであろうか。

「『バカ』って通称の魚もいる」
植物を元ネタとした物語に困難を感じた物書きは、検索の幅を植物から食い物へ変更。
「調理法は、この地域で『バカ』って言われてる魚や貝『みたい』なカンジで大丈夫」
再度ため息。「バカ」の調理法が分からない。

――――――

東京の今日は、お昼過ぎまで雨だ。
そろそろ花粉症のピークはスギからヒノキに変わる頃で、でも雨だから飛散量は比較的少なくて、
私はさいわい、スギもヒノキも平気。

そのかわり天気と気圧とホルモンバランスが天敵。

スギでもヒノキでもなく、イネの花粉症持ちな前係長は、バカみたいに出てくる鼻水に対処しながら、
アナタ、別に毎年毎年箱ティッシュが半日で無くなるでもないんだから、マシでしょ、
なんてネチネチ言ってきたことがあった。
ティッシュにお金はかからないけど漢方とかお薬とかで生活費が消えるんだ。

ブタクサの花粉症持ちでスイカが食べられないって清掃員さんは、バカみたいに鼻がつまるらしくて、
キミは良いねぇ、花粉の時期にその花粉の飛散状況をいちいち気にしなくても、外に出られるんだから
なんて花粉対策用メガネを直しながら言ってた。
花粉の飛散状況はあんまり気にしてないけど、気圧配置とかは梅雨の時期バチクソ気になるんだ。

北海道でわりとメジャーなシラカバ花粉症が東京で猛威をふるうことはすごく少ないらしいけど、
その花粉症のせいでイチゴが食べられなくなったっていう相互さんは、バカみたいにでもないけど、
多分私達の苦労って、症状持ち同士、当事者同士でしか分かりあえないよね
なんて、ポロリため息を吐きながら言ってた。
……ホントそれ(共感と同意)

「付烏月さんはさ、何か、花粉症あるの」
「附子山だよ後輩ちゃん。俺、ブシヤマ」
「ヒノキとか大丈夫なのツウキさん」
「スギ持ちだったよん。舌下療法で完治したけど」

「そんな効くの?」
「運が良かっただけかなぁ。完治数割、改善大半、全然効果ナシも数割だってさ」

後輩ちゃんの体調不良も、いつか、舌下免疫療法みたいに完治できる時代が来ればいいね。
午前営業で終わった支店で、片付けと退勤の準備をしながら、付烏月さんが私に言った。
天気とホルモンバランスの関係で、体があんまり思うように動かない私に代わって、私が使ったコーヒーのマグカップとかお菓子の小皿とかは、付烏月さんが全部洗ってくれた。

「昼ごはん、どーする?作れる?出前?」
「今日はウバろうかなって」
「俺でよけりゃ作るよ?藤森からも、『あいつは苦しいとき、倦怠感で本当に体が動かなくなってしまうから』ってハナシは聞いてるし」
「ウバるんでホントにダイジョブです付烏月さん」

ぽんぽんぽん。タブレットの電源落としてデスクに置いて、ノートのタスクもAlt+F4の連打で強制終了。
支店の照明も全部消したら、最後に一度だけ店内を見渡して今日の仕事はおしまい。

「そういえば、例の稲荷神社の茶っ葉屋さん、ご近所の和菓子屋さんとコラボって、期間限定で桜スイーツと桜のお茶入れたらしいよん」
「マジ」
「藤森によると、『桜の花びらを仕込んだローシュガーのイチゴ大福が美味かった』らしいよ」
「情報あざすです附子山さん」

カギかけて、セキュリティーをオンにして、
じゃ、また月曜、また月曜。
ちょっとスマホいじってソシャゲのデイリーこなしてから、 さぁ、帰ろうって顔を上げて、
なお降り続いてる雨に対して、今更気づいた。

私、ロッカーから、傘持って来るの忘れた。
(まさしくバカみたい)

3/22/2024, 4:12:33 AM

「花にいくつか『二人』があるわ。
今の時期ならニリンソウとか、フタリシズカとか」
ニリンソウの花言葉は「友達」、「協力」、「ずっと離れない」等々、フタリシズカは「いつまでも一緒に」だとさ。某所在住物書きはネットで花の画像をスワイプしながら、他の「二人」を探していた。

ニリンソウが1株だけ、ふたつの花をつけてぽつんと朝日に当たっているのは、ノスタルジックであろう。
フタリシズカは見たことがない。ただ、某大ヒットオープンワールドゲーに登場する、例の名前が似ている「しずか」とは、まったくの別物らしい。
ぼっちか。物書きは呟いた。こちとら生粋の一人ぼっちだが、二人ぼっちへの憧れは無い――断じて。

――――――

都内某所、某職場の某支店、昼休憩。
かつての物書き乙女、元夢物語案内人の現社会人は、睡眠負債返済の一環として仮眠をとっている最中、
己の4日前の行動ゆえにひとつ、幸福なような、あるいは黒歴史のような夢を見た。

――すなわち、このような夢であった。
会員制レストラン、最高ランクの個室。
クリスタルのシャンデリアが、落ち着いた明度と彩度を伴って、真下の男女二人ぼっちに対し、
平等に、穏やかに、光を注いでいる。

『単刀直入に言う』
男性側が言った。それは乙女の架空の推しであった。
かつて個人開設のホームページが全盛であった頃、ハマったゲームに己の分身を付け足して、
主食の夢物語も、いわゆる非公式メジャーカップリングとされている薔薇物語も、この元物書き乙女は双方を楽しんだものであった。
『君の力を貸してほしい。私の地位と経済力の範囲であれば、報酬はいくらでも相談に応じる』

何故今更二次創作的な夢を見ているのだろう。
多分4日前投稿分の作品が理由です。
要するに発端は何であろう。
同人時代に配布されたという公式シークレットノベルが手に入り、それを読み倒したからです。
詳しいことは過去作参照が面倒なので気にしない。

で、夢の情景に戻る。
ダークブラウンの円卓に、向かい合って座るふたり。
片や黒、所属を示す制服にロングジャケット。
片や白、着慣れぬ様子のワンピースにストール。
芸術的に整えられた肉料理と魚料理が、エディブルフラワーのベジサラダをまとい、
スパークリングのグラスとデカンタ、それから3色のプチマカロンの隣に控える。
カチャッ、……カチッ。
フォークとナイフと料理皿の間で、つつましく心地よい接触音が、己の要求を静かに提示する男の声と、その背後で控えめにささやく弦楽四重奏に混じった。

わぁ。 私、昔こういうの書いてたんだ。
傍観者としての元物書き乙女は、夢の登場人物としての元物書き乙女をジト見して、口をパックリ開けた。

『金が必要であれば、管理局の平社員の給料10年分程度を、一括で。地位が欲しければ、私の口利きが可能な場所に限られるが、ある程度。世界一の宝石を手元に置きたければ、それも良いだろう。
……復讐や、仕返しをしたい相手が居るなら、君の望む範囲と程度で、君のシナリオに添えるように』
男の独白は続く。
今思えば「彼」は「こういうキャラ」ではない。
むしろ最近登場した別キャラがこれに該当する。
まぁ気にしない。
『どうしても探し出して、取り戻したいものがあるんだ。その探しものが終わるまでの間で構わない。その後の君の人生まで、拘束しようとは思わない。
どうか……どうか。私に、君の数年数ヶ月を、くれ』

たのむ。 二人ぼっちの室内で目を閉じ、うつむいて黙り、女性の良い返事を乞い願う彼は、
『え、っと』
彼女の戸惑いの声を、祈る心地で聞き、
『……あの、地位とか、仕返しとか、別に良いので』
続く言葉を悪く予想して、更に強く目をつぶり、
『ひとまず、普通の婚姻届と普通の指輪、欲しいんですけど。良いですか』

『えっ?』
予想外の要求に、ぱっ、と顔を上げ、驚きと困惑が差したそれで、彼女を見詰めた。
7、8秒間フリーズし、口が開きっぱなしになる。
過負荷の思考リソースを無理矢理働かせて、どうにかこうにか意味にたどり着くと――

「後輩ちゃーん、そろそろ休憩終わるよん」
夢の中の架空な推しが何か返事を寄越す前に肩をポンポン叩かれて起こされた。
「支店長は今本店だし、他の人も外回り中だから、二人ぼっちだよ。俺ひとりじゃお仕事困るよ」
起きて起きてー。
元物書き乙女の同僚たる彼は、彼女が何の夢を見ているか知りもせず、ただ乙女にコーヒーとプチマカロンの3色を差し出した。

「ふたりぼっち、」
「そう、二人ぼっち」
「もっかい寝たいような、ハズくて無理なような」
「ゴメンよく分かんない」
「だいじょぶ分かんなくていい……」

3/21/2024, 3:12:39 AM

「見事にやらかした『夢見心地から醒める直前』の失態エピソードなら、丁度仕入れて手持ちにあるわ」
某所在住物書きは昼のニュースを確認しながら、ぽつり。それから、長く大きなため息を吐いた。

「最近、家電量販店、ウォーク◯ン見なくなったろ。店員に聞いたら『最近はは皆スマホだし、需要も減って生産終了』と。……シリーズそのもの全部撤退と勘違いしてさ、生産終了機の、近隣他県に残ってた最後の新品1個を、取り寄せてもらうことにしたワケ。
もう夢見心地よ。『間に合った』、『良かった』と」
まぁ、その後は、ネット少し調べてもらえばすぐ分かるわな。物書きは再度息を吐く。
「夢見心地の2日後、ネットで『後継機が去年発売したぞ!』って記事見つけちまったの。
取り寄せキャンセルも、返金も、無理だとさ」

夢心地は夢心地のままの方が、良いよな。物書きは3度目のため息を吐く。
ストップその場の即決。まずスマホで公式からの情報を確認しよう。

――――――

夢が醒める前に緊急地震速報が鳴って、
夢が覚めた直後にはもう揺れてた。

今日の私は、支店長のはからいで、今年度未消化分の有給休暇を使ってた。
理由は酷い睡眠不足と頭の圧迫感だ。ベッドのスプリングマットレスのヘコみと枕の組み合わせが悪かったせいで、ここ2〜3日くらい私は寝たいのに眠れない日が続いてて、
支店長が「1日か2日くらい使って体を休めなさい」って、有給消化を勧めてくれたのだ。
「有給使用が癪ならリモートの在宅ということにしても良い」って。

枕をオーダーメイドで調整してもらって、
ヘコんでるマットレスを逆にして、調整してもらった枕を置いて毛布も整えて、
ちょっと背中、肩甲骨のあたりの高さをハーフタオルケット敷いて調整したら、
頭にかかる圧とか良い具合に減って、すごく久しぶりにぐっすり眠れて、
で、バチクソ久しぶりに夢とか見てたら夢が醒める前に例の地震でスマホに起こされて、

何故か、私の毛布の上で、
先輩のアパートの近所の稲荷神社の、そのまたご近所にある茶っ葉屋さんの看板子狐が、
地震の揺れに驚いて飛び跳ねて、
私の毛布の中に潜り込んできた。

ナンデ(知らない)
どこから入ってきたの。窓もドアも鍵してるよ。なんならカーテンだって閉めてるよ。ここ3階だよ。
どうやって入ってきたの。

「私まだ夢の中なのかな」
枕元のスマホを見ると、ピロンピロン、安否確認と朝のあいさつのメッセが飛び交ってて、
多分これから呟きックスのトレンドも、地震関連で埋まってくるんだろう。
「夢にしては、子狐ちゃんのモフみが、リアル」
どうやって入ってきたかも、何故入ってきたかも知らない看板子狐は、カタカタ毛布の中で震えてる。
よく整えられたモフモフを撫でると、その撫でた手やら腕やらに顔を押し付けてきた。

「……夢の中なのかな」
再度呟いて子狐を撫でると、何か思い出したのか、もぞもぞ毛布から出てきて私の机から何かを咥え持って、私のところに戻ってきた。
それは先輩のアパートの近所の稲荷神社の、そのまたご近所の茶っ葉屋さんの、ハーブティーを入れた小さな巾着だった。

「『睡眠不足と伺いました。安眠に効果があるとされているハーブティーの試供品をお送りします』」
ハーブティーにくっついてきた封筒を開けて、便箋を取り出して、バチクソキレイな文字を読む。
「『注文票も同封しましたので、お気に召しましたら、ぜひ数量御記入のうえ、子狐に持たせてやってください』……ちゅーもんひょー?」

カサリ。封筒の中を見ると、これまたバチクソキレイな手書き文字で、それぞれのお茶の効能とオススメのアレンジと、値引き後の価格が書かれてる。
和ハーブのお茶と、漢方根拠のお茶と、それから普通のラベンダーとかカモミールとか。
種類はそこそこ多い。
注文票の一番下には、漢方根拠のお茶のアドバイザーとして、昨日お世話になった病院の、昨日お世話になった漢方医さんの名前が、「夫:」の前置詞をくっつけて、明記されてた。

「昨日の先生と御夫婦だったんだ……」

なるほどね。それで、私の寝不足を知ってたんだ。
まだまだ夢が醒める前のような心地で、あくびしながら子狐のモフみと共に在った私は、グルチャやDMに返信してからお茶用のお湯を沸かしにキッチンへ。
何かおやつが貰えると思ってるらしく、子狐は尻尾をブンブン振って、私にくっついてくる。

お茶は結局和ハーブの1種類と、洋ハーブの2種類を、それぞれ小分けティーバッグで2杯ずつ、
注文票に数字を書いて、子狐に持たせた。
ティーバッグはその日のうちに、昨日お世話になった漢方医さんが届けてくれたけど、
結局、子狐がどうやって私の部屋に入ってきたかは、サッパリ分からずじまいのままだった。

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