かたいなか

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「去年もいったと思うけど、やっぱ俺には『特別な存在』っつったら某『彼もまた』から始まる某キャンディーなんよ……」
まぁ、年齢バレるし、ゆえに俺の執筆ネタの引き出しが固くて少ない理由も説明ついちまうけどさ。
ソレしか思いつかねぇっつったら思いつかねぇんだから、仕方ねぇよな。
某所在住物書きは昔々の動画を観ながら呟いた。
そういえば元ネタを食ったことが無い。

「キャンディーっつったら、ガキの頃ずっと食ってた、けど今はどこにも売ってねぇのど飴があってよ」
物書きは言った。
「EXじゃねぇ方の、かつ某UMAみたいな名前の会社から出てたやつ。……今でも味よく覚えてるわ」
物書きにとっての「特別なキャンディー」といえば、すなわちそれであった。

――――――

最近最近の都内某所、某特定の作品群に対する監督シリーズのファンが集うカフェ、夜。
その日の訃報ひとつが発端で、SNSにより急きょ非公式な「偲ぶ会」の開催が告知・拡散され、
席は個室から相席まで満員御礼、
巨大なスクリーンには、訃報届いた声優の出演作が、アニメのみならず、ジャンルもシリーズも超えた特撮まで引っ張り出して、映し出されている。
店主はわざわざ版権元に電話をかけ、許可をとりつけ、後日使用料の振り込みまで行うという。

客の誰もがほぼ初対面。
私のデビューは◯歳だった、僕のファーストコンタクトは◯◯だった、なんなら俺の自己紹介の鉄板はあのキャラの声真似だ、等々、等々。
それぞれが、それぞれの弔いを共有している。

店内に、特撮ファンでも某監督作品群マニアでもない、別のゲームに対する元二次創作作家、昔々物書き乙女であった女性が2人、紛れていた。
片や元夢物語案内人、片や薔薇物語作家。
薔薇の物書き乙女が夢の物書き乙女を誘ったのだ。

「私の作風の一番の転機が、『コレ』だったの」
二次創作の執筆と公開から離れて数年。かつての薔薇物語作家がスクリーンを観ながら、ポツリ。
「今でも覚えてる。父さんが根っからのファンだったの。アンタとの相互小説書いてる丁度その頃だった」
そうそう、ここ、このシーン。
薔薇乙女がスクリーンを指さす。
映っていたのは劇中のヒロインが飛空艇内の調理場を戦場として、料理を次々整えている場面。
この後の食事風景は飯テロで有名である。

「『美味しそう』って感想しか無かった」
「わかる」
「でも父さんがね、バチクソにドヤ顔で言ったの。
『必ず食事シーンがある』、『必ずコケる』、それから『歩き方だけでその人の年齢とおおまかな職業と、感情が分かる』って」
「はぁ」

「メインキャラ以外、数秒しか登場しない人にも、その映画の『前』と『後』がある。
本当の名作は、その世界だけでなく、世界に生きる人の生活や息遣いまで見える映画だってさ」
「完全にそっちのお父さんの解釈と感想だね」
「でも、なんかハッとしたの。
メインキャラにも子供時代が、モブキャラにも『その後』の生活があるんだって」

それから私の作風が変わったの。
それから、コレも含めてこの監督の映画が、私の執筆スタイルの目標として、理想として、
すごく、「特別な存在」になったの。
かつての薔薇物語作家はスクリーンを見つめたまま、視線を離さない。
劇中モチーフの木樽型コップに口をつけ、傾けて、中のジンジャーハイによって喉を湿らせるばかり。

「それじゃあ、私と相互してからそっちのサイトの小説にモブキャラが増えたのも、カプの子供時代とか食事風景とかのネタが増えたのも、」
「そっちの片思いリンク先の作風に引っ張られたんじゃなくて、父さんのドヤ顔トリビアが理由」
「見向きもしなかった例の厨二病ロボットっぽいアニメを観始めたのも、」
「『物語の中の日常風景がバチクソ丁寧に描かれてる』ってのが、すごく似てたから」

「特別な目標になったワケだ」
「そう。特別な存在になってた」

懐かしいね。
一緒に個人サイトで相互結んで一緒に小説書いて、なんやかんやで二次から離れて、
あれから、もう何年経ったろうね。
かつての物書き乙女ふたりは、互いにカフェの一角を、すなわちアニメ映画を上映しているスクリーンを見つめて、酒をあおる。
その後カフェの中は劇中飯の話題となり、どれが一番美味いかでモメにモメて、プチ騒動となったが、
詳細を記すと長くなるので、推して知るのみとする。

3/24/2024, 3:38:24 AM