「『ところにより雨』、『いつまでも降り止まない、雨』、『梅雨』に『雨に佇む』、それから『通り雨』と『柔らかい雨』。『雨』って確実にお題に明記されてるやつだけでも、少なくとも6個あるんだわ……」
「空が泣く」とかも追加すれば、もう少し増えるな。
某所在住物書きは過去投稿分から「雨」を検索しながら、窓の外を見た――東京は雨雲がかかっている。
記憶が正しければ、「雲」も「入道雲」が6月のお題として出題される筈であった。
「経験として、『ザ・雨!』を初手で出し過ぎると、後の方でネタに困る」
物書きは言った。
「……事実去年の11月頃ネタを探して頭抱えた」
――――――
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。
ぐずぐず雨雲がかかっては、ポツポツところにより雨の降る、ちょっとしんみりな空模様、
某稲荷神社敷地内の広い広いお庭では、神社在住の子狐が、そこそこ大きめのフキの傘を、噛んでぶんぶん振り回して、楽しく遊んでおりました。
コンコン子狐は不思議な狐。人間に化ける妙技を持つ、化け狐の末裔でして、神社敷地内の一軒家に家族で仲良く住んでおるのでした。
住民票もあります。お母さん狐もお父さん狐も労働して納税しています。なんという申し訳程度のリアル。
まぁ、細かいことは気にしないのです。
ところで子狐、最近知ったハナシなのですが、
世の中には、子狐の神社に生えているそれより、もっともっと大きなフキがあるそうです。
アキタブキ、それから、ラワンブキというそうです。
背丈は人間に化けたお父さん狐より高く、茎は人間に化けたお母さん狐の手首くらいもあるそうです。
本当かなぁ。コンコン子狐、神社のフキをカジカジしながら首を傾けます。
なんで東京には生えてないんだろう。コンコン子狐、神社のフキをブンブンしながら頭で考えます。
そんな大きなフキがあれば、きっと子狐の大好きな、フキと油揚げとお肉の炒め物はどっさりできるし、
余った葉っぱなどは、傘にもピクニックの敷き物にもなるでしょう。
でも、東京には生えてないのです。
東京生まれの東京育ち、東京から一度も外に出たことのない子狐は、それを見たことがないのです。
「食べたいなぁ。たべたいなぁ」
コンコン子狐言いました。
「かかさんが作ってくれる、フキとお揚げさんとお肉の炒め物、どっさり、食べたいなぁ」
個人的にはお肉は鶏そぼろがマッチです。
でもお母さん狐は、豚ミンチと、たまにコロっと小さいサイコロお肉が有る方が、好きなようです。
まぁ、個々の好みは気にしないのです。
――「……私の実家では、炒め物より肉詰めがメジャーだった気がする」
ところにより雨のぐずつく空の下、今日は子狐の大好きな「おとくいさん」が、稲荷神社にご参拝。
神社のご近所でお母さん狐が店主をしている、お茶っ葉屋さんに寄った帰り、とのこと。
この雪国出身者はお茶っ葉屋さんの常連さん、お得意様なのです。
「ある程度の長さに切って、だいたい豚だったかな、ミンチを詰めてコトコト煮るんだ」
子狐のおとくいさん、あごに親指と人差し指そえて、ぐずつく空を見上げながら、言いました。
「醤油味だった。美味い」
「フキに肉詰めなんて、ちょっとしか入らないよ」
「そうでもない。フキの中に、丁度良い空洞があるんだ。そこに詰める」
「フキのクードーなんて、小っちゃいよ」
「そうでもないんだ。寒い地域だからなのか、あっちこっちのフキノトウが放ったらかしだからなのか、詳しい理由は知らないが、私の地元のフキとフキノトウは、そこそこ大きい」
「アキタブキだ!」
「えっ?」
「傘だ!ピクニックの敷き物だ!どっさりのフキとお揚げさんとお肉の炒め物だ!ちょーだい!」
「あのな子狐。私の故郷は雪国だ。多分向こうは、まだフキノトウのトウ立ちすらしていない」
「アキタブキ!ラワンブキ!ちょーだい!」
「こぎつね……」
コンコンコン、コンコンコン。
ところにより雨のぐずつく空とは正反対。キラキラおめめを更に輝かせて、子狐、困り顔のお得意様な参拝者さんに尻尾を振ります
お得意様はため息ひとつ。実家に、故郷のフキを「少しだけ」、時期になったら送ってほしいと連絡。
しばらくしまして子狐の住む稲荷神社に、雪国の大きく立派なフキが、田舎クォンティティーとして「少し」届きましたが、
やれ傘だ、ピクニックの敷き物だと楽しみにしていたフキの葉っぱは全部バッサリ除かれておりまして、
その点に関してだけは、ところによりどころか線状降水帯のごとく、子狐、わんわん涙を流しましたとさ。
3/25/2024, 2:34:24 AM