「見事にやらかした『夢見心地から醒める直前』の失態エピソードなら、丁度仕入れて手持ちにあるわ」
某所在住物書きは昼のニュースを確認しながら、ぽつり。それから、長く大きなため息を吐いた。
「最近、家電量販店、ウォーク◯ン見なくなったろ。店員に聞いたら『最近はは皆スマホだし、需要も減って生産終了』と。……シリーズそのもの全部撤退と勘違いしてさ、生産終了機の、近隣他県に残ってた最後の新品1個を、取り寄せてもらうことにしたワケ。
もう夢見心地よ。『間に合った』、『良かった』と」
まぁ、その後は、ネット少し調べてもらえばすぐ分かるわな。物書きは再度息を吐く。
「夢見心地の2日後、ネットで『後継機が去年発売したぞ!』って記事見つけちまったの。
取り寄せキャンセルも、返金も、無理だとさ」
夢心地は夢心地のままの方が、良いよな。物書きは3度目のため息を吐く。
ストップその場の即決。まずスマホで公式からの情報を確認しよう。
――――――
夢が醒める前に緊急地震速報が鳴って、
夢が覚めた直後にはもう揺れてた。
今日の私は、支店長のはからいで、今年度未消化分の有給休暇を使ってた。
理由は酷い睡眠不足と頭の圧迫感だ。ベッドのスプリングマットレスのヘコみと枕の組み合わせが悪かったせいで、ここ2〜3日くらい私は寝たいのに眠れない日が続いてて、
支店長が「1日か2日くらい使って体を休めなさい」って、有給消化を勧めてくれたのだ。
「有給使用が癪ならリモートの在宅ということにしても良い」って。
枕をオーダーメイドで調整してもらって、
ヘコんでるマットレスを逆にして、調整してもらった枕を置いて毛布も整えて、
ちょっと背中、肩甲骨のあたりの高さをハーフタオルケット敷いて調整したら、
頭にかかる圧とか良い具合に減って、すごく久しぶりにぐっすり眠れて、
で、バチクソ久しぶりに夢とか見てたら夢が醒める前に例の地震でスマホに起こされて、
何故か、私の毛布の上で、
先輩のアパートの近所の稲荷神社の、そのまたご近所にある茶っ葉屋さんの看板子狐が、
地震の揺れに驚いて飛び跳ねて、
私の毛布の中に潜り込んできた。
ナンデ(知らない)
どこから入ってきたの。窓もドアも鍵してるよ。なんならカーテンだって閉めてるよ。ここ3階だよ。
どうやって入ってきたの。
「私まだ夢の中なのかな」
枕元のスマホを見ると、ピロンピロン、安否確認と朝のあいさつのメッセが飛び交ってて、
多分これから呟きックスのトレンドも、地震関連で埋まってくるんだろう。
「夢にしては、子狐ちゃんのモフみが、リアル」
どうやって入ってきたかも、何故入ってきたかも知らない看板子狐は、カタカタ毛布の中で震えてる。
よく整えられたモフモフを撫でると、その撫でた手やら腕やらに顔を押し付けてきた。
「……夢の中なのかな」
再度呟いて子狐を撫でると、何か思い出したのか、もぞもぞ毛布から出てきて私の机から何かを咥え持って、私のところに戻ってきた。
それは先輩のアパートの近所の稲荷神社の、そのまたご近所の茶っ葉屋さんの、ハーブティーを入れた小さな巾着だった。
「『睡眠不足と伺いました。安眠に効果があるとされているハーブティーの試供品をお送りします』」
ハーブティーにくっついてきた封筒を開けて、便箋を取り出して、バチクソキレイな文字を読む。
「『注文票も同封しましたので、お気に召しましたら、ぜひ数量御記入のうえ、子狐に持たせてやってください』……ちゅーもんひょー?」
カサリ。封筒の中を見ると、これまたバチクソキレイな手書き文字で、それぞれのお茶の効能とオススメのアレンジと、値引き後の価格が書かれてる。
和ハーブのお茶と、漢方根拠のお茶と、それから普通のラベンダーとかカモミールとか。
種類はそこそこ多い。
注文票の一番下には、漢方根拠のお茶のアドバイザーとして、昨日お世話になった病院の、昨日お世話になった漢方医さんの名前が、「夫:」の前置詞をくっつけて、明記されてた。
「昨日の先生と御夫婦だったんだ……」
なるほどね。それで、私の寝不足を知ってたんだ。
まだまだ夢が醒める前のような心地で、あくびしながら子狐のモフみと共に在った私は、グルチャやDMに返信してからお茶用のお湯を沸かしにキッチンへ。
何かおやつが貰えると思ってるらしく、子狐は尻尾をブンブン振って、私にくっついてくる。
お茶は結局和ハーブの1種類と、洋ハーブの2種類を、それぞれ小分けティーバッグで2杯ずつ、
注文票に数字を書いて、子狐に持たせた。
ティーバッグはその日のうちに、昨日お世話になった漢方医さんが届けてくれたけど、
結局、子狐がどうやって私の部屋に入ってきたかは、サッパリ分からずじまいのままだった。
3/21/2024, 3:12:39 AM