かたいなか

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3/18/2024, 4:52:54 AM

「今の時期に『泣かない』は、ちょっと難しい人も居るんじゃねぇのかな……」
だって、花粉だぜ。鼻水に涙、くしゃみだぜ。
某所在住物書きは過去投稿分を確認しながら、小さく首を振った。

去年は職場の不条理と、それをフォローする先輩とを題材に選んだようである。「上司のミスを自分に責任転嫁された」と。
「花粉、職場の理不尽、ガチャの爆死……」
泣く状況、他には? 物書きは天井を見上げて――

――――――

3月も後半戦。残り約2週間。
夜中に都内で震度1とか2とかを観測する地震があったらしいけど、気づかない程度には寝てた。
都内全域に強風注意報が出る程度には風が吹いてて、私は通勤中に引き直し可能ガチャで目当てのキャラ3枚抜きの最高条件を流れ作業で見送った。
泣かないよ(涙拭けよ)
泣かないもん(だから、涙拭けよ)

隣に乗ってたオバチャンが
「飴ちゃんに願い事すれば、きっとこれから良いことあるよ。知らんけど」
みたいなことを関西っぽいアクセントで言って、私に星の形の飴ちゃんくれたけど、
一気に心のAPが無くなっちゃって、ガチャ画面でスマホ放置して、それから午前中、ずっと引いてない。
私の界隈で「鶴」、ツルと呼ばれてるカプに、「ウサギ」を足した3人だったのに。
ツー様がまさしく「このキャラの中では完全に人権かつ最強」って言われる属性とコスのやつだったのに。
泣かないよ( )
泣かないもん(  )

「後輩ちゃん、その、『ツル』ってなに」
「主人公の『ツバメ』と上司の『ルリビタキ』部長」
「『ウサギ』って、もしかしてツバメとルリビタキの組織の裏切り者さん?」

「知ってるの、付烏月さん」
「俺附子山だよ後輩ちゃん。俺、ブシヤマ」
「ゲームやってるの、ツウキさん」
「図書館勤務時代、それのアンソロジーコミック全巻寄贈に来た猛者を見たの」

「あんそろじー、ぜんかん」
「ウチの図書館が、そのゲームの同人時代の聖地だからって。『是非置いてください』って」
「わかった、ばしょ、とくていした……」

仕事場での昼休憩は、引き直しガチャの続きをしながらお弁当食べつつ、
3月に一緒にこの支店に異動してきた「謎の男」、自称旧姓附子山の付烏月さん、ツウキさんと雑談。
今日の差し入れは、花粉症に予防効果があるっていうゴボウパウダーと緑茶の粉を使った、ホイップクッキー。付烏月さんいわく、「作りたいから作るけど、たまってばっかりだから持ってきてる」って。
……二次創作仲間がおんなじこと言ってた(推しモチーフ小物を作りたいから作るけど云々)

「多分まだ、『借りた人に渡してください』って言われたノベルティ、残ってると思う」
「『ノベルティ』?」
「同人時代のシークレットノベルって言ってたよん」
「ツル召喚の触媒だ、同人時代の聖遺物だ……!」

良かったね、俺の前職がそこの図書館で。
付烏月さんがニヨロルン、私にメッチャ良い笑顔で名刺を――図書館の職員時代の名刺を渡してくれた。
コレ持って図書館に行け、ってことだと思う。
支店は小さくて人が居なくて静かだから、私と付烏月さんの会話は支店長にも聞こえてて、
支店長も、私を見てニヤリしてる。

「相変わらずの開店休業状態だし、ちょっと、外回りにでも出てきたまえ」
支店長が言った。
「そのままリモート直帰でも構わん。君に任せる」
前職聖地の付烏月さんと、
職場で一番「小説」に理解があるって言われてる支店長――昔々のコ◯ケを知り、昔々のコミ◯に『民俗学と二次創作』って頒布本でカチコミかけた事があるという「教授支店長」に、
私はバチクソ深く、ふかーくお礼のお辞儀をして、
その日の午後は、急きょ自分の部屋でリモートワークってことにした。

図書館寄ってシークレットノベル貰って、朝貰った飴ちゃん食べながらガチャの引き直し作業してたら、
触媒のおかげか飴ちゃんの加護か、きっとどっちもだと思う、30分で脅威の推し4枚抜きを達成。
泣いていいと思う(Happy End)
これは、泣かないでいられないと思う(Peaceful)
次にオバチャンと付烏月さんに会ったら、
最大限のお礼を、しようと思う。

3/17/2024, 5:07:17 AM

「このアプリ入れてから382日らしいけど、未だに『みんなの投稿』に関しては『怖がり』よ」
去年は「ドアノブ触るときの静電気が怖い」ってネタ書いてたな。某所在住物書きは鼻に優しい系のティッシュ箱を手繰り寄せながら白状した――自分の頭が加齢によって段々固くなってきていることを、他者の投稿は明確に提示してくるのだ。

「昨日の『星が溢れる』だけどさ。久しぶりに他の人の投稿見てよ。涙を星に見立てるってネタいくつか見てハッとしたもん。『その手があったか』って」
コレよ。この引き出しの種類の差よ。
ぐしゅぐしゅ、ちーん。物書きは少し痛くなり始めた鼻に対して恨めしく、ティッシュをゴミ箱へ。
今の時期なら外出も、花粉症諸兄諸姉にとって、一種の「怖がり」に該当するだろう。

そういえば以前、ニュースで某北国は、杉の木が多いのに花粉症持ちが少ないと報道されていた。
ゴボウが鍵という。 個人的には信じていない。

――――――

東京の日曜日は、バチクソに暖かくて、いい感じに晴れた。つまり散歩日和だ。
先月まで一緒の本店、一緒の部署で仕事してお弁当食べて、たまにシェアランチしたりした先輩の、
今はお互い別々の場所に飛ばされて、今どの場所どの部署で仕事してるかも分からない先輩との、
先月までの思い出、面影を探して、先輩が先月まで住んでたアパートの近所にある稲荷神社を訪ねた。

今はそのアパートの部屋、先輩の旧姓を名乗る「謎の男」が住んでる。スイーツ作りがすごく上手な男だ。
先輩ホントどこ行っちゃったんだろう。
いや、別に、新しい異動先でその人のスイーツおすそ分けしてもらえるから敵視はしてないけど。
先輩ホントどこ行っちゃったんだろう。

『あの白いフクジュソウモドキが、キクザキイチゲ』
その稲荷神社は、深めの森の中にあって、本物の狐の家族が住んでる神社だった。
『そこの黄色がキバナノアマナ。絶滅危惧種だ』
先輩はそこに咲く日本の在来種を愛した。
田舎の雪国の公園を、懐かしく思い出すらしい。
一緒に散歩すると、よく「あの花は◯◯」、「その花は△△」って、花言葉や可食不食、毒なんかも含めて教えてくれた。
おかげで私は少しだけ、エモい花、エモい植物のエモい撮り方に詳しくなった。

『ところで、知ってるか』
そういえば先輩、こんなことも話してた。
『この神社、私利私欲で許可無く草花を持っていくと、稲荷の狐に祟られて心や魂を食われるそうだ』
別に怖くない(誰も質問してない)

先輩が狐の話をしてくれたのは、一昨年の春。
稲荷神社で山椒の葉っぱの見分け方を教えて貰ってたとき、子狐が男のひとにギャンギャン吠えてた。
そのひとは私達の隣の部署の非正規君で、少し大きめのバッグを持ってて、
非正規君のそばにある黄色い花畑が、一部、不自然に掘り起こされてた。

『実際は、ここの神職と大学の植物学部と、善良な自然保護団体とが結託して、花や植物を手入れして保全して、手厚く守っているから、らしいがな』
ギャン!ギャン! 当時の子狐は非正規君相手に、尻尾を後ろ足の間に隠して怖がりながらも、果敢に吠えて、牙まで剥いてた。
『神社でよく会うおばあさんが言っていた。「ここの狐は祟る」と。「善を好み悪を決して許さない」と』

非正規君は子狐を、うっとうしそうにコツン、軽く蹴り飛ばして、そそくさ花畑から離れて、
翌日、何かに酷く怯えながら職場に来た。
数日すごく何かを怖がって、何かを警戒して、
次の週から1ヶ月くらい、職場に来なかった。

『おばあさんが言うにはな。昔、神社を取っ払ってマンションを建てようとした悪徳建設業者の社長が、強引に神社の木を数本切らせたことがあったらしい』
別に怖くない(だから、誰も質問してない)
『伐採した人は数ヶ月寝込み、社長は半年後死亡』
ホントに別に怖くない(同上)
『特に社長は亡くなる数ヶ月前、何度も神社に出向いて何度も謝罪の祈祷を頼んで、最後は魂が抜けたように無感情だったそうだ。……真偽は不明だが』
怖くない(略)

「私と先輩には、こんなに甘えん坊なのにね」
神社の花畑でパシャパシャ、アクスタと一緒にスマホで静かに写真を撮ってたら、
例の子狐が、尻尾ブンブンに振り回して私に突撃してきて、ソッコーでおなかを見せてきた。
「なんであんな、怖い噂が出てくるやら」
くぅくぅ幸せそうに、かつ盛大に甘え鳴く子狐は、何も答えない。ただ尻尾振って幸せそうに鳴いて、私に撫で撫でをせがむだけ。
私が撮った花とアクスタの写真を見ると、「花が増えた」とでも勘違いしてるのか、更に幸せそうに歌って私を舐めて、尻尾をもっと振り回した。

3/16/2024, 1:58:18 AM

「星のお題はこれから複数回出てくるんだわ……」
記憶している限りでの直近は10月の「星座」、それから7月の「星空」。「星空の下で」なんてのもあった気がするけれど何月だっただろう。
某所在住物書きは過去投稿分を辿って、ぽつり。
空ネタ、エモネタ、雨のお題に星。あと愛。
このアプリが出題するお題には、いくつかの頻出傾向が存在する。「星」はその中のひとつであった。
無論物書き自身の経験と偏見と独自解釈である。

「『星』をダイレクトに使うと、すぐネタが枯渇するからさ。前回は星を別の何かに置き換えたわ」
物書きは経験を提示した。
「例としては、今回なら『星みたいな夜景が溢れる』とか。夜の新幹線を流れ星に見立てるとか」
今なら海水に洗われたシーグラスを星に重ねるのも、アリかもしれない。 ……他には?

――――――

星が溢れる。なにやら難しそうなお題ですね。
困った時の、童話頼みなおはなしです。「都内にそんな神社無いよ」は気にしない構えのおはなしです。
都内某所の某稲荷神社に、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。

稲荷神社は森の中。あっちこっちに木が生えて、あっちこっちに花が咲き、あっちこっちで山菜や薬草、キノコなんかがポコポコ出てきます。
だいたい日本の在来種です。外来種や帰化植物は生態系を崩さない程度に、お行儀良くしています。
たまに妙な■■■なんかも顔を出しますが、気にしない、気にしない。

そんな不思議な不思議な、森深めな稲荷神社の中に、フクジュソウの見頃のピークが過ぎる頃、それらが土の中に帰る頃、入れ替わりに顔出す花がありました。
キバナノアマナといいます。
ユリ科キバナノアマナ属。レッドデータブック掲載。
絶滅危惧I類にカテゴライズされており、全国的に個体数が減少。神奈川では姿を消しました。
黄色い、小ちゃな小ちゃな星のような花びらを、ユリかオオアマナかニラのように咲かせる早春の花です。
これは、そのキバナノアマナの早起き組、フライングチームが、花を咲かせた時期のおはなしです。

「咲いた、咲いた!今年もさいた!」
稲荷神社の社殿のそば、正面向かって斜め右よりの、お日様がポカポカ当たる広場で、
今年も春の妖精が、春の儚い告知花が、6枚の黄色をお日さまに向けて、綺麗に広げておりました。
その黄色は、まるでお星様のような形でした。
「ちっちゃなお星さま、あぁ、キレイだなぁ!」
これから顔を出すであろうたくさんの「星の花」を、子狐は思い出し、跳ねまわりました。

つい最近まで咲いていたフクジュソウは星の海。
これから顔を出すキバナノアマナは星の原っぱ。
同じユリ科のカタクリは、白い花びらと紫の花びらをして、ぽつぽつ、庭にまたたきます。
今年も春が、始まるのです。
今年もあれらの花畑が、去年より少しだけ大きくなって、この場所に現れるのです。
まるで夜のお空のお星様が、朝昼の間ここに来て、ぎゅうぎゅう、溢れてしまっているような。
星溢れるあの春が、始まるのです。

今年も多くの人間が、パシャパシャいうカメラと一緒に、あるいは同じ音で鳴く板を片手に、この稲荷神社へ来るのでしょう。
今年も多くの人間が、お賽銭して、ガラガラを鳴らして、狐のまじない振ったおみくじを買って、祈りを願いを嘆きを決意を、稲荷神社に託すのでしょう。
「でも、一番星は、渡さないんだ。どの一番星も、だれにも、渡さないんだ」
今年最初のキバナノアマナを、フサフサ尻尾で囲い込み、子狐は幸福に、そこでお昼寝を始めます。
子狐のお母さんは心優しく元気に育った子狐を、慈悲深く、安らかな瞳で、見守っておったのでした。

お花を星に見立てた、稲荷神社の早春、花畑のおはなしでした。 おしまい、おしまい。

3/15/2024, 4:59:29 AM

「7月30日付近にもうひとつ『瞳』書いたわ」
たしか「澄んだ瞳」だったかな。某所在住物書きは過去投稿分を確認しながら、ぽつり。「安らか」通り越して虚無な瞳で呟いた――眠いのだ。
10時間以上前の揺れに関しては何の被害も無かった。ただ情報を追い掛けているうちに睡眠時間を削ってしまったのだ。
いわゆる「明日は我が身」の心構えである。

「『澄んだ瞳』ってどんな瞳よって、当時俺、それっぽい顔して、鏡見たんよ」
ふわわ、わわぁ。デカいあくびを行儀悪く為して、物書きはまた虚無る。
「……案の定鏡見た途端自爆したわな」
日頃の防災意識は重要だが、眠れるときに寝ておくことも大事である。

――――――

日付変わる頃の例の最大震度5弱、某ヤホーのリアルタイム検索でぼーっとトレンドウォッチンしてたら
『強い地震がありました』
って速報がトップに上がってきて、
一番揺れの酷かった県を見た途端、ヒュッって、私の舌先から血流が引いてった。

そこは「おばあちゃん」の引っ込み先だった。
血縁関係ある本当のおばあちゃんじゃない。小学校と中学校時代にお世話になった「大化け猫の駄菓子屋さん」って駄菓子屋さんを切り盛りしてた、当時の皆のおばあちゃんだ。
去年の5月6日頃――つまり、さかのぼるのも面倒なくらい昔の数ヶ月前――都内のお店を畳んで、福島に引っ込んだ。
さいわい私は約5ヶ月後の10月14日頃――つまり、これまたさかのぼるのが面倒な昔――職場の長い付き合いな先輩のおかげで、「おばあちゃん」に手紙を出すことができて、
おばあちゃんは私にランチクレープのレシピを手紙に書いて贈ってくれた。「贈って」くれたのだ。

福島のおばあちゃん、どうしてるだろう。
おばあちゃんのスマホの番号は知らないし、グルチャや呟きックスに関しては、そもそもおばあちゃんのアカウント自体存在しない。
だから安否の確認方法なんて、手紙しかない。
すぐ書いて速達に出そうにも、0時だから郵便局が開いてない。コンビニに持ち込むにしたって速達対応できるコンビニが分からない。

おばあちゃん、どうしてるだろう。
居ても立ってもいられなくなった私は、呟きックスで現地の「無事です」の投稿を漁って、でもやっぱり少しも安心できなくて、
何をトチ狂ったか、先輩のアパートの近所にある稲荷神社の鳥居を潜ってた。
「困ったときの神頼み」とはこのことだと思う。
テンパってもいたんだと思う。

相手の安否を「すぐ」確かめるための方法が無い。
既読も未読も無い。相手と1ミリも繋がってない。
それは、今の私にはとんでもなくストレスだった。

お賽銭して、手をパンパンして、ただただ、昔お世話になったおばあちゃんの安全を祈る。
我に返って振り返ると、ポツリ、すごくキレイな大人の狐が、ホンドギツネとキタキツネのハーフっぽい色合いの明るい毛並みな狐が、
参道の真ん中におすわりして、私を見て、
すごく安らかな瞳をしてて――


――「……そっから帰宅までの記憶が曖昧なんです」
「狐にイタズラされたのでしょう」
「いたずら、」
「稲荷の狐は善良な心魂を愛でて、そういう者を茶化したり、心の味見をしたりするのを好みますから」
「はぁ……」

15日の昼休憩。
今どこに居るとも分かんない先輩がよく使ってる茶っ葉屋さんにフラリ立ち寄って、リラックス用にスイーツでも買おう、と思ってブラリしてきたら、
お店の女店主さんから開口一発、ポツリ。
『日付変わってすぐの頃、稲荷神社を参拝していませんでしたか』。
茶っ葉屋さんの店主さんは、稲荷神社のひとだった。

「『駄菓子屋のおばあちゃん』でしたら、」
私がレジに持ってきたスイーツをピッピしながら、店主さんが言った。
「震度は3で、被害も無く元気にしていますよ」
何も心配は要りません。善い杞憂で終わるでしょう。
店主さんはそう付け足して、なんだかすごく見覚えありそうな、安らかな瞳を私に向けた。

……。
……いやまさかね(あなた疲れてるのよ案件)

スマホで決済して、おまんじゅうと低価格生菓子を小さい紙箱に入れてもらって、
こちらクーポンですからの、アリガトウゴザイマシタまたお越しくださいからの、退店。
ドア潜って、ふと店主さんの方を振り返ったら、
やっぱり、店主さんはバチクソに見覚えありそうな、すごく安らかな瞳をしてた。

3/14/2024, 5:00:47 AM

「まだ咲いてない花のハナシだが、お題に丁度良いネタ見つけたわ。銀蘭、ギンランだとさ」
◯◯さん、ずっと隣でイビキかいてたよ。
ずっと隣で独り言言ってたけどどうしたの。
お題の上京をあれこれ考えながら、しかしなかなかコレという物語を書けないでいる某所在住物書きである。何をトチ狂ったか、花に新天地を求めた。

「特定の種類の樹木、ブナとかに対して、おんぶに抱っこな花らしくてさ。そのおんぶ抱っこな木から離されると、生きられないらしい。だから『キレイだな』って思って根っこごと引っこ抜いて、鉢植えにしても、途端に枯れちまうの。……つまりずっと隣同士でなきゃならねぇと」
ずっと隣同士で居続けたブナ役とギンランモチーフ、ひょんなことから離されて、数日後ブナがギンランを尋ねると、云々。「ずっと隣でなければ、生きられなかったんだね」。

あらエモい。しかし物書きは首を振った。
「……書けねぇ。」

――――――

最近最近の都内某所、某稲荷神社近所の茶葉屋、お得意様専用の飲食スペース。完全防音のそこ。
準和風の廊下をトテトテチテチテ、看板子狐が尻尾振って歩き、狐型料理配膳ロボットを先導して、ひとつの個室のふすまに辿り着く。
前足で器用にふすまを開けて、目当ての客と視線が合うと、爆速で突撃して、スライディングよろしく畳に顔と背中を擦り寄せ、ポンポンチラリ。
腹を撫でてほしいのだ。

「随分お前に懐いてるな」
くぅーくくくっ、くわー、くわぅー!
全力で甘え鳴く子狐に優しいため息を吐き、腹を撫でる親友に、声を投げる者がある。宇曽野という。
その男声に、狐撫でる方が答えた。
「私の後輩の方が、こいつは好きだろうさ。ペット用メニューをいつも頼んでやっているから」
こちらの名前は藤森、旧姓を附子山といった。

藤森の言う「後輩」とは、長年同じ部署で共に仕事をしてきた仲の女性のこと。
まさしく「ずっと隣で」、書類を捌き、ノートのキーボードを叩き、上司の理不尽に抗いながら、苦楽とシェアランチ・シェアディナーを共にしてきた。
今年の3月突然、離れ離れとなり、後輩は支店に、藤森は後輩と違う場所に、それぞれ異動となった。

面倒な人物が彼等と同じ職場に就職してきたのだ。

「ところで藤森。加元が動いたぞ」
「加元、私の元恋人の、今月ウチに入ってきて、お前の部署に配属された加元さん?」
「他に居ないだろう」
「『動いた』って何をした?お前に危害など、加えちゃいないだろうな?」
「お前の姿を探して、今まで本店だけをウロウロしてたがな、最近ウチの全7支店の場所を調べ始めた」
「支店、……あいつは、後輩のあいつは無事か?!」
「一昨日、店舗の外には来ていたそうだ。付烏月のやつが『加元の差し金っぽい人が支店の外観撮ってたよん』だとさ。店内には入らなかったと。

心配か。長年ずっと隣で仕事してきた後輩が」
「隣ではない。向かい合わせだ。
……付烏月さんが居るから、べつに、心配など」
「正直だなぁ藤森」

まぁ、俺としては、加元がお前にどれだけ執着しようと執念をごうごう燃やそうと、面倒な騒動だの事件だのさえ起こさなければ、別に。
そう付け足す宇曽野は、配膳ロボットから己の頼んだ料理を取り出し、追加注文としてオススメ表示された東北地鶏のササミの小鉢をトントン。2度タップ。
藤森の和膳も回収して、ロボットを厨房へ送り返す。

「お前の今の所属先、いつ加元にバレるだろうな」
「あのひとはすぐ嗅ぎつけるよ。それより先に、付烏月さんの『自称旧姓附子山』に引っかかるだろうさ」
「違いない」

双方が双方で、意味深な言葉を交わして、茶なり酒なり各々グラスに注いで「いただきます」。
詳細は前回投稿分、あるいは前々回投稿分参照だが、スワイプが面倒なので気にしない。
藤森と宇曽野はその後もアレコレ情報を交換し合い、その間、看板子狐は藤森のずっと隣で、あるいは膝の上で、丸くなったりヘソ天したりしていたそうな。

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