かたいなか

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「まだ咲いてない花のハナシだが、お題に丁度良いネタ見つけたわ。銀蘭、ギンランだとさ」
◯◯さん、ずっと隣でイビキかいてたよ。
ずっと隣で独り言言ってたけどどうしたの。
お題の上京をあれこれ考えながら、しかしなかなかコレという物語を書けないでいる某所在住物書きである。何をトチ狂ったか、花に新天地を求めた。

「特定の種類の樹木、ブナとかに対して、おんぶに抱っこな花らしくてさ。そのおんぶ抱っこな木から離されると、生きられないらしい。だから『キレイだな』って思って根っこごと引っこ抜いて、鉢植えにしても、途端に枯れちまうの。……つまりずっと隣同士でなきゃならねぇと」
ずっと隣同士で居続けたブナ役とギンランモチーフ、ひょんなことから離されて、数日後ブナがギンランを尋ねると、云々。「ずっと隣でなければ、生きられなかったんだね」。

あらエモい。しかし物書きは首を振った。
「……書けねぇ。」

――――――

最近最近の都内某所、某稲荷神社近所の茶葉屋、お得意様専用の飲食スペース。完全防音のそこ。
準和風の廊下をトテトテチテチテ、看板子狐が尻尾振って歩き、狐型料理配膳ロボットを先導して、ひとつの個室のふすまに辿り着く。
前足で器用にふすまを開けて、目当ての客と視線が合うと、爆速で突撃して、スライディングよろしく畳に顔と背中を擦り寄せ、ポンポンチラリ。
腹を撫でてほしいのだ。

「随分お前に懐いてるな」
くぅーくくくっ、くわー、くわぅー!
全力で甘え鳴く子狐に優しいため息を吐き、腹を撫でる親友に、声を投げる者がある。宇曽野という。
その男声に、狐撫でる方が答えた。
「私の後輩の方が、こいつは好きだろうさ。ペット用メニューをいつも頼んでやっているから」
こちらの名前は藤森、旧姓を附子山といった。

藤森の言う「後輩」とは、長年同じ部署で共に仕事をしてきた仲の女性のこと。
まさしく「ずっと隣で」、書類を捌き、ノートのキーボードを叩き、上司の理不尽に抗いながら、苦楽とシェアランチ・シェアディナーを共にしてきた。
今年の3月突然、離れ離れとなり、後輩は支店に、藤森は後輩と違う場所に、それぞれ異動となった。

面倒な人物が彼等と同じ職場に就職してきたのだ。

「ところで藤森。加元が動いたぞ」
「加元、私の元恋人の、今月ウチに入ってきて、お前の部署に配属された加元さん?」
「他に居ないだろう」
「『動いた』って何をした?お前に危害など、加えちゃいないだろうな?」
「お前の姿を探して、今まで本店だけをウロウロしてたがな、最近ウチの全7支店の場所を調べ始めた」
「支店、……あいつは、後輩のあいつは無事か?!」
「一昨日、店舗の外には来ていたそうだ。付烏月のやつが『加元の差し金っぽい人が支店の外観撮ってたよん』だとさ。店内には入らなかったと。

心配か。長年ずっと隣で仕事してきた後輩が」
「隣ではない。向かい合わせだ。
……付烏月さんが居るから、べつに、心配など」
「正直だなぁ藤森」

まぁ、俺としては、加元がお前にどれだけ執着しようと執念をごうごう燃やそうと、面倒な騒動だの事件だのさえ起こさなければ、別に。
そう付け足す宇曽野は、配膳ロボットから己の頼んだ料理を取り出し、追加注文としてオススメ表示された東北地鶏のササミの小鉢をトントン。2度タップ。
藤森の和膳も回収して、ロボットを厨房へ送り返す。

「お前の今の所属先、いつ加元にバレるだろうな」
「あのひとはすぐ嗅ぎつけるよ。それより先に、付烏月さんの『自称旧姓附子山』に引っかかるだろうさ」
「違いない」

双方が双方で、意味深な言葉を交わして、茶なり酒なり各々グラスに注いで「いただきます」。
詳細は前回投稿分、あるいは前々回投稿分参照だが、スワイプが面倒なので気にしない。
藤森と宇曽野はその後もアレコレ情報を交換し合い、その間、看板子狐は藤森のずっと隣で、あるいは膝の上で、丸くなったりヘソ天したりしていたそうな。

3/14/2024, 5:00:47 AM