かたいなか

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「今の時期に『泣かない』は、ちょっと難しい人も居るんじゃねぇのかな……」
だって、花粉だぜ。鼻水に涙、くしゃみだぜ。
某所在住物書きは過去投稿分を確認しながら、小さく首を振った。

去年は職場の不条理と、それをフォローする先輩とを題材に選んだようである。「上司のミスを自分に責任転嫁された」と。
「花粉、職場の理不尽、ガチャの爆死……」
泣く状況、他には? 物書きは天井を見上げて――

――――――

3月も後半戦。残り約2週間。
夜中に都内で震度1とか2とかを観測する地震があったらしいけど、気づかない程度には寝てた。
都内全域に強風注意報が出る程度には風が吹いてて、私は通勤中に引き直し可能ガチャで目当てのキャラ3枚抜きの最高条件を流れ作業で見送った。
泣かないよ(涙拭けよ)
泣かないもん(だから、涙拭けよ)

隣に乗ってたオバチャンが
「飴ちゃんに願い事すれば、きっとこれから良いことあるよ。知らんけど」
みたいなことを関西っぽいアクセントで言って、私に星の形の飴ちゃんくれたけど、
一気に心のAPが無くなっちゃって、ガチャ画面でスマホ放置して、それから午前中、ずっと引いてない。
私の界隈で「鶴」、ツルと呼ばれてるカプに、「ウサギ」を足した3人だったのに。
ツー様がまさしく「このキャラの中では完全に人権かつ最強」って言われる属性とコスのやつだったのに。
泣かないよ( )
泣かないもん(  )

「後輩ちゃん、その、『ツル』ってなに」
「主人公の『ツバメ』と上司の『ルリビタキ』部長」
「『ウサギ』って、もしかしてツバメとルリビタキの組織の裏切り者さん?」

「知ってるの、付烏月さん」
「俺附子山だよ後輩ちゃん。俺、ブシヤマ」
「ゲームやってるの、ツウキさん」
「図書館勤務時代、それのアンソロジーコミック全巻寄贈に来た猛者を見たの」

「あんそろじー、ぜんかん」
「ウチの図書館が、そのゲームの同人時代の聖地だからって。『是非置いてください』って」
「わかった、ばしょ、とくていした……」

仕事場での昼休憩は、引き直しガチャの続きをしながらお弁当食べつつ、
3月に一緒にこの支店に異動してきた「謎の男」、自称旧姓附子山の付烏月さん、ツウキさんと雑談。
今日の差し入れは、花粉症に予防効果があるっていうゴボウパウダーと緑茶の粉を使った、ホイップクッキー。付烏月さんいわく、「作りたいから作るけど、たまってばっかりだから持ってきてる」って。
……二次創作仲間がおんなじこと言ってた(推しモチーフ小物を作りたいから作るけど云々)

「多分まだ、『借りた人に渡してください』って言われたノベルティ、残ってると思う」
「『ノベルティ』?」
「同人時代のシークレットノベルって言ってたよん」
「ツル召喚の触媒だ、同人時代の聖遺物だ……!」

良かったね、俺の前職がそこの図書館で。
付烏月さんがニヨロルン、私にメッチャ良い笑顔で名刺を――図書館の職員時代の名刺を渡してくれた。
コレ持って図書館に行け、ってことだと思う。
支店は小さくて人が居なくて静かだから、私と付烏月さんの会話は支店長にも聞こえてて、
支店長も、私を見てニヤリしてる。

「相変わらずの開店休業状態だし、ちょっと、外回りにでも出てきたまえ」
支店長が言った。
「そのままリモート直帰でも構わん。君に任せる」
前職聖地の付烏月さんと、
職場で一番「小説」に理解があるって言われてる支店長――昔々のコ◯ケを知り、昔々のコミ◯に『民俗学と二次創作』って頒布本でカチコミかけた事があるという「教授支店長」に、
私はバチクソ深く、ふかーくお礼のお辞儀をして、
その日の午後は、急きょ自分の部屋でリモートワークってことにした。

図書館寄ってシークレットノベル貰って、朝貰った飴ちゃん食べながらガチャの引き直し作業してたら、
触媒のおかげか飴ちゃんの加護か、きっとどっちもだと思う、30分で脅威の推し4枚抜きを達成。
泣いていいと思う(Happy End)
これは、泣かないでいられないと思う(Peaceful)
次にオバチャンと付烏月さんに会ったら、
最大限のお礼を、しようと思う。

3/18/2024, 4:52:54 AM