かたいなか

Open App

「このアプリ入れてから382日らしいけど、未だに『みんなの投稿』に関しては『怖がり』よ」
去年は「ドアノブ触るときの静電気が怖い」ってネタ書いてたな。某所在住物書きは鼻に優しい系のティッシュ箱を手繰り寄せながら白状した――自分の頭が加齢によって段々固くなってきていることを、他者の投稿は明確に提示してくるのだ。

「昨日の『星が溢れる』だけどさ。久しぶりに他の人の投稿見てよ。涙を星に見立てるってネタいくつか見てハッとしたもん。『その手があったか』って」
コレよ。この引き出しの種類の差よ。
ぐしゅぐしゅ、ちーん。物書きは少し痛くなり始めた鼻に対して恨めしく、ティッシュをゴミ箱へ。
今の時期なら外出も、花粉症諸兄諸姉にとって、一種の「怖がり」に該当するだろう。

そういえば以前、ニュースで某北国は、杉の木が多いのに花粉症持ちが少ないと報道されていた。
ゴボウが鍵という。 個人的には信じていない。

――――――

東京の日曜日は、バチクソに暖かくて、いい感じに晴れた。つまり散歩日和だ。
先月まで一緒の本店、一緒の部署で仕事してお弁当食べて、たまにシェアランチしたりした先輩の、
今はお互い別々の場所に飛ばされて、今どの場所どの部署で仕事してるかも分からない先輩との、
先月までの思い出、面影を探して、先輩が先月まで住んでたアパートの近所にある稲荷神社を訪ねた。

今はそのアパートの部屋、先輩の旧姓を名乗る「謎の男」が住んでる。スイーツ作りがすごく上手な男だ。
先輩ホントどこ行っちゃったんだろう。
いや、別に、新しい異動先でその人のスイーツおすそ分けしてもらえるから敵視はしてないけど。
先輩ホントどこ行っちゃったんだろう。

『あの白いフクジュソウモドキが、キクザキイチゲ』
その稲荷神社は、深めの森の中にあって、本物の狐の家族が住んでる神社だった。
『そこの黄色がキバナノアマナ。絶滅危惧種だ』
先輩はそこに咲く日本の在来種を愛した。
田舎の雪国の公園を、懐かしく思い出すらしい。
一緒に散歩すると、よく「あの花は◯◯」、「その花は△△」って、花言葉や可食不食、毒なんかも含めて教えてくれた。
おかげで私は少しだけ、エモい花、エモい植物のエモい撮り方に詳しくなった。

『ところで、知ってるか』
そういえば先輩、こんなことも話してた。
『この神社、私利私欲で許可無く草花を持っていくと、稲荷の狐に祟られて心や魂を食われるそうだ』
別に怖くない(誰も質問してない)

先輩が狐の話をしてくれたのは、一昨年の春。
稲荷神社で山椒の葉っぱの見分け方を教えて貰ってたとき、子狐が男のひとにギャンギャン吠えてた。
そのひとは私達の隣の部署の非正規君で、少し大きめのバッグを持ってて、
非正規君のそばにある黄色い花畑が、一部、不自然に掘り起こされてた。

『実際は、ここの神職と大学の植物学部と、善良な自然保護団体とが結託して、花や植物を手入れして保全して、手厚く守っているから、らしいがな』
ギャン!ギャン! 当時の子狐は非正規君相手に、尻尾を後ろ足の間に隠して怖がりながらも、果敢に吠えて、牙まで剥いてた。
『神社でよく会うおばあさんが言っていた。「ここの狐は祟る」と。「善を好み悪を決して許さない」と』

非正規君は子狐を、うっとうしそうにコツン、軽く蹴り飛ばして、そそくさ花畑から離れて、
翌日、何かに酷く怯えながら職場に来た。
数日すごく何かを怖がって、何かを警戒して、
次の週から1ヶ月くらい、職場に来なかった。

『おばあさんが言うにはな。昔、神社を取っ払ってマンションを建てようとした悪徳建設業者の社長が、強引に神社の木を数本切らせたことがあったらしい』
別に怖くない(だから、誰も質問してない)
『伐採した人は数ヶ月寝込み、社長は半年後死亡』
ホントに別に怖くない(同上)
『特に社長は亡くなる数ヶ月前、何度も神社に出向いて何度も謝罪の祈祷を頼んで、最後は魂が抜けたように無感情だったそうだ。……真偽は不明だが』
怖くない(略)

「私と先輩には、こんなに甘えん坊なのにね」
神社の花畑でパシャパシャ、アクスタと一緒にスマホで静かに写真を撮ってたら、
例の子狐が、尻尾ブンブンに振り回して私に突撃してきて、ソッコーでおなかを見せてきた。
「なんであんな、怖い噂が出てくるやら」
くぅくぅ幸せそうに、かつ盛大に甘え鳴く子狐は、何も答えない。ただ尻尾振って幸せそうに鳴いて、私に撫で撫でをせがむだけ。
私が撮った花とアクスタの写真を見ると、「花が増えた」とでも勘違いしてるのか、更に幸せそうに歌って私を舐めて、尻尾をもっと振り回した。

3/17/2024, 5:07:17 AM