かたいなか

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「星のお題はこれから複数回出てくるんだわ……」
記憶している限りでの直近は10月の「星座」、それから7月の「星空」。「星空の下で」なんてのもあった気がするけれど何月だっただろう。
某所在住物書きは過去投稿分を辿って、ぽつり。
空ネタ、エモネタ、雨のお題に星。あと愛。
このアプリが出題するお題には、いくつかの頻出傾向が存在する。「星」はその中のひとつであった。
無論物書き自身の経験と偏見と独自解釈である。

「『星』をダイレクトに使うと、すぐネタが枯渇するからさ。前回は星を別の何かに置き換えたわ」
物書きは経験を提示した。
「例としては、今回なら『星みたいな夜景が溢れる』とか。夜の新幹線を流れ星に見立てるとか」
今なら海水に洗われたシーグラスを星に重ねるのも、アリかもしれない。 ……他には?

――――――

星が溢れる。なにやら難しそうなお題ですね。
困った時の、童話頼みなおはなしです。「都内にそんな神社無いよ」は気にしない構えのおはなしです。
都内某所の某稲荷神社に、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。

稲荷神社は森の中。あっちこっちに木が生えて、あっちこっちに花が咲き、あっちこっちで山菜や薬草、キノコなんかがポコポコ出てきます。
だいたい日本の在来種です。外来種や帰化植物は生態系を崩さない程度に、お行儀良くしています。
たまに妙な■■■なんかも顔を出しますが、気にしない、気にしない。

そんな不思議な不思議な、森深めな稲荷神社の中に、フクジュソウの見頃のピークが過ぎる頃、それらが土の中に帰る頃、入れ替わりに顔出す花がありました。
キバナノアマナといいます。
ユリ科キバナノアマナ属。レッドデータブック掲載。
絶滅危惧I類にカテゴライズされており、全国的に個体数が減少。神奈川では姿を消しました。
黄色い、小ちゃな小ちゃな星のような花びらを、ユリかオオアマナかニラのように咲かせる早春の花です。
これは、そのキバナノアマナの早起き組、フライングチームが、花を咲かせた時期のおはなしです。

「咲いた、咲いた!今年もさいた!」
稲荷神社の社殿のそば、正面向かって斜め右よりの、お日様がポカポカ当たる広場で、
今年も春の妖精が、春の儚い告知花が、6枚の黄色をお日さまに向けて、綺麗に広げておりました。
その黄色は、まるでお星様のような形でした。
「ちっちゃなお星さま、あぁ、キレイだなぁ!」
これから顔を出すであろうたくさんの「星の花」を、子狐は思い出し、跳ねまわりました。

つい最近まで咲いていたフクジュソウは星の海。
これから顔を出すキバナノアマナは星の原っぱ。
同じユリ科のカタクリは、白い花びらと紫の花びらをして、ぽつぽつ、庭にまたたきます。
今年も春が、始まるのです。
今年もあれらの花畑が、去年より少しだけ大きくなって、この場所に現れるのです。
まるで夜のお空のお星様が、朝昼の間ここに来て、ぎゅうぎゅう、溢れてしまっているような。
星溢れるあの春が、始まるのです。

今年も多くの人間が、パシャパシャいうカメラと一緒に、あるいは同じ音で鳴く板を片手に、この稲荷神社へ来るのでしょう。
今年も多くの人間が、お賽銭して、ガラガラを鳴らして、狐のまじない振ったおみくじを買って、祈りを願いを嘆きを決意を、稲荷神社に託すのでしょう。
「でも、一番星は、渡さないんだ。どの一番星も、だれにも、渡さないんだ」
今年最初のキバナノアマナを、フサフサ尻尾で囲い込み、子狐は幸福に、そこでお昼寝を始めます。
子狐のお母さんは心優しく元気に育った子狐を、慈悲深く、安らかな瞳で、見守っておったのでした。

お花を星に見立てた、稲荷神社の早春、花畑のおはなしでした。 おしまい、おしまい。

3/16/2024, 1:58:18 AM