かたいなか

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2/19/2024, 1:17:14 AM

「長文のお題だったから、5月22日の『昨日へのさよなら、明日との出会い』はよく覚えてるわ」
昨日にバイバイして明日と会うなら、「今日」は「どこ」にあるんだろなと思ったら、約9ヶ月後の今か。
某所在住物書きは過去の投稿分を辿った。
3月から「さよなら」は4回。上記と「さよならを言う前に」、「さよならは言わないで」、そして今回。
「突然の別れ」と「別れ際に」を入れれば、2ヶ月に1度は別離ネタが配信される計算となろう。

物書きは首筋を掻いた。失恋、夜逃げ、記憶喪失、食材使えずさよなら未遂。他に「さよなら」は?
「今日に『は』さよなら『を実行する予定』なのか、
今日『という日』にさよなら『する時間帯』か……」

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室、夜。
あと10分で休日の「今日」にさよならして、平日の「明日」が挨拶に来る頃合い。
部屋の主を藤森といい、今夜は十数年来の親友であるところの既婚な野郎、宇曽野が遊びに来ている。

「8年前お前を壊して、去年お前がフった加元だが、あいつ、とうとうウチに履歴書出してきたぞ」
知覧の冷茶をひとくち。宇曽野が話題を提示した。
「ウチに、りれきしょ……」
渡された情報に、藤森はため息ひとつ。
目を細めた表情は、あきれとも、諦めともとれるチベットスナギツネであった。

宇曽野のいう加元とは、8〜9年前、藤森と恋仲であった筈の、すなわち元恋人。
先に加元から藤森に惚れて、藤森が加元に後から惚れ返すと、SNSでボロクソにこき下ろした。
鍵もかけぬアカウントで、批判を連投し、藤森の心魂をズッタズタに壊し尽くしたのだ。
理想の性格・性質・在り方と違う、と。
にも関わらずリアルでは、加元は笑顔を咲かせ真逆を言い、好意をささやいて藤森を引き止め続けた。

投稿に気付き、連絡方法を絶って離れて、追われて、職場を突き止められて何度も押し掛けられた藤森。
勝手に極が変わる磁石のような関係は、去年11月、曖昧ながら藤森がフって終わらせた、筈だった。

「まぁ、そもそも、『ヨリを戻す気はないけれど、それでも話をしたいなら恋人でも友達でもなく、他人として』とか言ってしまったのが私だ」
自業自得だな。藤森はいびつな、げんなりのスマイルでポツリ付け足し、茶に口をつけた。

ところで、本来ならば夏の飲み物たる冷茶。
冷水で抽出するので、渋味のカテキンや覚醒のカフェインが比較的少なく、穏やかに甘い。
季節外れに仕込んだ若草色のそれは、月曜火曜の規格外な暑さに備えてのこと。雪国の出身の藤森は、極寒には強いが、暑さにバチクソ弱かった。
「毎年4月の20℃で溶けるし30℃超でSAN値が吹っ飛ぶ」とは、藤森の後輩の経験則である。

「あれだけお前のこと、散々『地雷』だの『解釈違い』だの言い続けたのにな」
「どうせ所有欲と損失感情だろう?自分の所有物である筈の私が、勝手に手元から逃げて、あまつさえ自我持って『ヨリ戻す気はない』だから?」
「で、ウチに履歴書出して通って、じき最終面接だ」
「はぁ……」

「どうする?」
多分あの、お前の元恋人のことだから、職場でバッタリ出会った途端面倒なことになるぞ。
宇曽野は茶を飲み干し、2杯目を注いで時計を見る。
今日にさよならするまで、残り7分と少し。スマホの天気予報によれば、最高気温は18℃である。
「どうするかなぁ」
つられて己のスマホを見る藤森は、「実は高温予報は予測アルゴリズムのバグでした」が欲しくて、
数度スワイプし、何度更新しても変わらぬ数値に、
ため息を吐き、目を閉じ、小さく首を振った。

「さよなら私のハビタブルゾーン」
「木曜には最高一桁だ。我慢しろ雪だるま」

2/18/2024, 2:32:36 AM

「執筆の上での個人的お気に入りは、日常ネタよ。自分の経験をそのまま活用できるから」
特に食い物かな。メシなんて毎日食うし。某所在住物書きはぼっちで肉を煮込みながら、小腹の空腹解消のため、堅揚げポテチをカリカリかじっていた。

「リアルタイムネタも、トレンドだのニュースだのが勝手に物語持ってきてくれるから書きやすいが……」
ああいうのって、事件とか事故とか、「その単語を今使うと、今日発生した△△を想起させるからちょい危険」とかあるから、やるときゃ丁寧に選んでるわ。
「お気に入り」を書くのと「無難」を書くのって、時折マッチしないから、さじ加減なんかなぁ。
物書きはポテチを食べ終え、鍋の状態を確認して――

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所、某不思議な稲荷神社のおはなしです。
開発に開発が重ねられ、今も開発が加速している都の中で、その神社は比較的森深く、いつか昔の面影を残し、花と草と山菜に囲まれて、しかし杉花粉からもヒノキ花粉からも、守られておったのでした。
御神木がヒノキなのに変ですね。「不思議な神社」だからです。花粉知らずの、善いヒノキなのです。

さて。そんな花多き稲荷神社には、これまた不思議な子狐が、家族で仲良く暮らしておりまして、なんと、人に化ける妙技を持つ、化け狐の末裔なのです。
コンコン子狐はお花が大好き。
特に冬の終わり告げる春の花は、カッコよく「スプリング・エフェメラル」などと呼ばれているものは、
それはそれは、もう、それは。大のお気に入り。
そろそろ見頃を終えるフクジュソウなど、まるでお日様かお星様のよう。
今日もコンコン子狐は、尻尾をぶんぶん振り回し、嬉しい気持ちでびゅんびゅん跳びはねて、駆け回りながら、花咲く神社の敷地をお散歩するのです。

「お花、おはな!」
きゃん、きゃん! コンコン子狐、土の上のお花見スポットを、小ちゃい体で一気に駆け抜けます。
「お花の、春がくる!」
じきに顔出すキクザキイチゲ、似た姿のアズマイチゲ、それからもう少し先のキバナノアマナ。
神社がお気に入りの花でいっぱいになる日が、もうすぐ、また、やって来るのです。
「春だ!はるだ!」
きゃきゃきゃっ、キャンキャン! コンコン子狐嬉しくて、びゅんびゅん、神社の散歩道を駆け回ります。

ベンチ代わりに置かれている大木、じき隠れたフォトスポットになる花畑、夏ホタルが来る泉を抜けると、コンコン子狐、更にスピードアップです。
「おとくいさんだ!」
人間を見つけたのです。それも、子狐のよく知るお得意様な人間です。名前を藤森といいます。

藤森は遠い遠い、雪国の田舎出身。
花と一緒に季節を辿り、山菜と一緒に季節を味わい、山野草と一緒に季節を惜しみます。
藤森も、お花が大好き。特に極寒の雪深い故郷に冬の終わりを告げる、いわゆる「春の妖精」は、
それはそれは、もう、それは。大のお気に入り。
そろそろ見頃を終えるフクジュソウを、今日も、スマホに収めにやって来たのです。

「フクジュソウが終われば、次はキクザキイチゲとキバナノアマナ、それからカタクリか」
冬の終わりを、または春の足音を知らせてくれるそれらに、藤森は穏やかな笑顔で、カメラを向けました。
「お。そこのフキノトウ、丁度食い頃……」
私の故郷はきっと、この暖冬でも、もう少しだけ先なんだろうな。藤森は、手まりか中華まんのようなフキノトウにも、カメラを向けました。

パシャッ、パシャッ。いつか昔の景色を残す稲荷神社に、お気に入りの花を撮るカメラの音が鳴ります。
コンコン子狐はそこを目掛けて、お気に入りの参拝者兼お得意様に、頭を腹を背中を撫でてもらうべく、
一直線に、突撃してゆきました。
子狐の勢いが強過ぎて、突撃して激突された藤森、バランス崩して落ち葉の上に盛大にダイブしてしまうのですが、まぁまぁ、その辺は文字数。 おしまい。

2/17/2024, 3:54:54 AM

「『誰よりも、ずっと』が4月9日、『誰にも言えない秘密』6月5日、『誰かのためになるならば』7月26日で、『誰もがみんな』が2月10日なんだわ」
「誰」5部作かな。某所在住物書きは過去のお題を振り返り、約10ヶ月前の投稿を二番煎じ可能か確認して、片眉を吊り上げた――できそうではある。
不思議な稲荷神社が舞台で、そこ在住の狐一族が、「だれよりも」、ずっと長い間、人間の生活を見続けていた、という投稿である。

「他に『誰よりも』って、何書けるだろうな」
物書きはお題をネットの画像検索にかけ、結果を眺めた。使いやすい言葉だけあって、映画に書籍、歌曲など、多くの作品のタイトルに添えられている。
「……そういや『コレ』も、『誰よりも』だわ」
物書きの目を引いたのは、見覚えある劇場版の……

――――――

都内某所、某アパートの一室、夜。
ジャパニーズアロマポットの一種、茶香炉から八女のあさつゆ品種の甘香が、静かに咲いて、室内の平穏を引き立てている。
パタタタタ、カタタタ、タタン、パサリ。
響くのは部屋の主である藤森の、キーボードに指を滑らせ打鍵する音と、めくった書類の擦れ合い。
それから、ピロン、ピロン。スマホの通知音。

『【急募】オススメのお土産と価格帯』
『誰よりも地元を知る、地元民から見たオススメ
 はよ、はよ……』

職場の同部署の後輩である。
ひょんなことから、具体的かつピンポイントな過去投稿分では11月13日、大きな借りを作ってしまい、
ゆえに、その礼として、後輩たっての頼みで、
2月末の藤森の帰省、例年ならば雪深く氷厚い時期であるところの雪国への旅行に、同行するのだ。
オフシーズンの新幹線は割安で、かつ快適。
浮いた移動費の使用先を、後輩は友人へのプレゼントに定めたようであった。

ふむ。 小さな思慮のため息をひとつ吐いて、少し遠くを眺めてから、藤森はスマホを手に取った。
スワイプしてタップして、画像を選んで。グループチャットにメッセージを残す。
『積雪の画像:0円 そこそこ珍しがられる
 白鳥の画像:0円 田んぼに居るのを撮るとウケる
 凍っている湖:0円 「雪原に見えるが実は」』
実際のところ、何が良いだろう。冗談半分事実半分を送信した藤森は、即座に検索と選別を開始した。

『違う違う、写真じゃ、写真じゃな〜いぃ』
『あながち間違いではない
 欲しい情報は?菓子系?工芸品?』
『ぜんぶ』
『お前の土産の予算は小束か大束なのか』

百万(こたば)!千万(おおたば)!
大金移動の気配に、何故か藤森の膝の上でモフモフ団子を形成していた子狐が、耳をピンと立て、尻尾を送風機か高速メトロノームのごとく、振り回している。

「お前の稲荷神社へのお布施じゃないぞ」
くぅくぅ歌って目を輝かせている子狐と、藤森とは、去年の3月3日、約11ヶ月前からの付き合い。
「お前は何が良い?ジャーキーか、新しい首飾り?」
週に1〜2回の頻度で遊びに来る、小さな神秘と不思議の内包者は、言葉の意味を知ってか知らずか、
更に目を輝かせ、ちぎれんばかりに尾を回し、
どこからともなく、某ドッキリで使用するような横看板を取り出して、藤森に見えるよう前足で支え持ち、
そこには、こう書かれている。

【おいしいものいっぱい キレイなものいっぱい
 お米とお酒とお揚げさんとお稲荷さんは必須】

「……子狐」
【なぁに】
「多分お前とお前の神社への土産が、誰よりも高額で、非常に難しいと思う。減額の交渉は可能か」
【かかさんに お問い合わせください
 ととさんは 多分ケンゲン、ありません】

『で、先輩、オススメのお土産 is なに』
ピロン。子狐とそこそこ真剣な問答中の藤森に、先刻の後輩からメッセージが届く。
藤森はしばし目を閉じ、深く息を吸って、吐くと、
「ちょっと待て」の意味として、短い返事を送った。
『写真』

2/16/2024, 2:57:07 AM

「10年後の自分『に』、届『ける』手紙、なら書いたことあるわ。イベントだったかな」
ソレじゃなくて、10年後の自分「から」、届くんだろ?どう書く? 物書きは首筋をガリガリ書きながら、天井を見上げた。今回もお手上げであった。
「……誰かの手紙が、自分のところに来て、それがまるで10年後の自分が書いたような内容だったとか」

そんなん言ってもグルチャ社会だぞ。あるいはDM社会だぞ。電子手紙すら最近見ねぇ。物書きは呟いた。
「2月3日あたりのお題、『1000年先も』だったな。未来想定ネタがお好き……?」
そういえば、「明日」がつくお題を4回ほど書いた。

――――――

私の職場の先輩の、アパートの近所の稲荷神社は、「ユニークですごく当たる」っておみくじが売られていて、ほんの少し、短期間だけ千バズした。
去年の7月9日あたりだ。

小さな白い巻物の形で、赤紐で封されて、紐を解くと小吉も大凶も無く、花と狐が何かしてるイラストと、その花の名前&簡単な言葉が添えられてる。
私の時はアキワスレナグサと、それに虫眼鏡近づける子狐の絵と、「電話してみたら」だった。
その時実はイヤリング無くしてて、思い当たる場所に電話してみたら、「保管してますよ」っていう。
コンコンを崇めよ(おい狐は祟るぞ)

ところでその稲荷神社、2月15日と16日だけ、特別なおみくじを売ってるらしい。
昨日、呟きックスのTLを見てたら、流れてきた。
『◯◯区の、本物の狐がいる稲荷神社で10年前に買ったお手紙みくじ、マジで当たった』って。
お手紙みくじ、とは。 真相を確かめるため、私と職場の先輩は、森深い稲荷神社へ向かった……

「何故私まで?」
「去年の7月のおみくじ、一緒に引いたじゃん」

仕事が終わって、夜。先輩のアパートの近所、バズった稲荷神社に行ってみると、投稿を見たっぽい人がやっぱり、チラホラ。
中には何枚もおみくじ買って、千円札を渡してる人もいたけど、意味あるのかな。
おみくじの名前は、「10年後からの手紙みくじ」。
A7かB8あたりの封筒に、縦向き・巻き三つ折りの便箋が入ってて、誰にでも当てはまりそうなコメントが2個3個。ひとつ、200円だって。

200円払って、300も500も整列してる封筒の小箱から、ランダムにピンクの封筒を1枚抜く。
「ねぇ先輩、10年後、私達どうなってるだろ」
便箋を、1回、2回、パタンパタン。
「さぁな?お前はもっと条件の良いところに転職して、私は相変わらずあそこに留まって?」
開いたA7だかB7だか知らないけど、その便箋に書かれてたのは、こんな言葉だった。
【自分で滑ってみようとはゼッタイ思うな】
じぶんで、すべってみようとおもうな、とは。

「なんだ。目当てのコメントではなかったか」
先輩も白封筒を1枚抜いて、封切って。
「当たるも当たらぬも、だ。みくじの言葉から、自分自身と向き合って、自分なりの答えを探してみろよ」
きっと、自分の問題の答えを自分のチカラで見つけるのを助けるのが、この手のくじだろうから。
先輩はそう言って、封筒から、便箋を取り出して……
数秒、ぱっくり口開けて、フリーズして、
静かに、便箋を畳んだ。

「おまえ、手紙の内容、なんて」
「『自分で滑ってみようとは思うな』って」
「そうか。……そうだな」
「どしたの。先輩の手紙、なんて書いてたの」

なんなの。なんでフリーズしたの。 かたい表情の先輩から、ちょっと手紙を失敬して見てみると、
私の手紙より詳細に、具体的に、こんなことが。

【冬の運転は気をつけろ。絶対にヘマをするな
滑った瞬間、アトラクションと間違われる】

「どゆこと」
「……黙秘」
「先輩、心当たりあるの。先輩の故郷の雪国、冬の運転、アトラクション並みに滑るの」
「黙秘だ」

2/15/2024, 12:23:40 AM

「うん。2月14日は『バレンタイン』。知ってた」
予想通り。だって行事ネタと空ネタと恋愛ネタのお題が多いこのアプリだから。
物書きは過去のお題の出題傾向を、それをまとめたメモをスワイプしながら、ポツリ。
このお題が来ることは、だいたい理解していたのだ。
ただ「予想できる」と「すぐ書ける」は別物。
不得意なのだ。 貰った試しが無いから。
「……でも『ホワイトデー』は書いた記憶ねぇな」

正直なところ、ホワイトデーやバレンタインの、売れ残ってしまった3割引5割引をウォッチするのが楽しみで、そちらをメインイベントとしたい説。
物書きは提言した。残り物にはきっと、福がある。

――――――

昨今のバレンタイン事情、報道によれば、どうやら義理チョコが衰退してきて、推しとか自分用とか、本当に感謝を伝えたい人用とかに、傾いてきている様子。
ゆえにチョコが貰えなくたって、全然寂しくないのです。まったく、寂しくないのです。涙は拭きます。
そんなこんなの物書きが、「バレンタイン」をお題に、こんなおはなしをご用意しました。

都内某所、某アパートの一室、夜。
部屋の主を藤森といいまして、どうやら親友が遊びに来ている様子。親友の名前は宇曽野といいます。

「低糖質チョコ3種類と、ミニクラッカーと、砂糖少なめホイップクリームと?これで合わせて?」
「税抜き700円程度。ホイップのディップ容器に、100均のタルトカップを使っている」

今日はバレンタイン。藤森と宇曽野が二人して、
小さく丸いクラッカーに真っ白ホイップ、それから小さなキューブチョコをのせて、チョコパーティーなど、しておったのでした。

「七味、なかなかイケるな」
ホイップチョコ付きのクラッカーに、赤い小瓶を振りかけて、宇曽野が言います。
味変のオトモは各種調味料。七味にジンジャーに黒こしょう、シナモンや刻みレモンチューブも控えます。
ワサビチューブとか、完全に罰ゲーム……?

「いや、意外と、ホイップが刺激を軽減して」
藤森、興味本位でほんの少し、緑を絞っていざ毒味。
ワサビチューブの原材料に、どうやら食塩が一緒に入っていたようです。
「甘じょっぱい……?」
感覚的に、ワサビ風味の塩バニラ、かもしれない。
藤森、このクリーミーとジャパニーズスパイシーの不思議な組み合わせに、更に緑を絞りまして、
「……ァッ、違う、ダメだ、からい!」
小さな小さな、悲鳴を上げました。

「で、藤森」
「なんだ、『もう少しワサビ絞ってみないか』と言われても、私、やらないぞ」
「何故今日俺を誘った?いつもはバレンタインなんざ、気にも留めないお前が?」
「昨日後輩に、焼き肉食べ放題とチョコレートオンリービュッフェに連れ出された」

「人が多過ぎて疲れた?」
「酔った後輩とその友人が講義を始めた」

日頃、感謝を感謝として、小さく伝えておくことの重要性と意義だとさ。
ワサビでヒリヒリした舌を、ちょっと濃いめのお茶でなんとか流して、藤森、宇曽野に言いました。
焼き肉屋では、「日頃から感謝を伝えておかないと、神絵師も文豪様も消えてしまうのだ」ということ。
チョコビュッフェでは、「デカい荒らしの単発を癒せるのは、小さな感謝DMの継続だ」ということ。
それぞれを、藤森の後輩とその友人が、それはそれはもう、力説しておったのでした。

なんということでしょう。藤森の後輩とその友人、元二次創作の物書き乙女だったのです。
ただ藤森、二次もナマモノも知らんので、
ただ藤森、「要は善良な感情を表に出すことの重要性」とだけ聞き取りまして、
ならば、「ちょっと親友の宇曽野にでも、実践してみようか」と。思い立ったのでした。
「宇曽野。こんな捻くれ者の堅物で、面白みも無い私だが、それでも十数年つるんでくれて、本当に――」

せっかくの、好意を伝えるバレンタインだ。
告白でも何でもないが、ただ感謝だけ、伝えておく。
ありがとう。
お茶で口元を隠して、藤森、宇曽野に言いました。
対する宇曽野は後輩の言う「神絵師」だの「文豪様」だのを、自分の一人娘と愛する嫁さんのおかげで、ちょっと、ほんのちょっと知っておったので、
うん、お前はそのまんまで良いよと、心の奥で、ポツリ言いましたとさ。 おしまい、おしまい。

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