かたいなか

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「うん。2月14日は『バレンタイン』。知ってた」
予想通り。だって行事ネタと空ネタと恋愛ネタのお題が多いこのアプリだから。
物書きは過去のお題の出題傾向を、それをまとめたメモをスワイプしながら、ポツリ。
このお題が来ることは、だいたい理解していたのだ。
ただ「予想できる」と「すぐ書ける」は別物。
不得意なのだ。 貰った試しが無いから。
「……でも『ホワイトデー』は書いた記憶ねぇな」

正直なところ、ホワイトデーやバレンタインの、売れ残ってしまった3割引5割引をウォッチするのが楽しみで、そちらをメインイベントとしたい説。
物書きは提言した。残り物にはきっと、福がある。

――――――

昨今のバレンタイン事情、報道によれば、どうやら義理チョコが衰退してきて、推しとか自分用とか、本当に感謝を伝えたい人用とかに、傾いてきている様子。
ゆえにチョコが貰えなくたって、全然寂しくないのです。まったく、寂しくないのです。涙は拭きます。
そんなこんなの物書きが、「バレンタイン」をお題に、こんなおはなしをご用意しました。

都内某所、某アパートの一室、夜。
部屋の主を藤森といいまして、どうやら親友が遊びに来ている様子。親友の名前は宇曽野といいます。

「低糖質チョコ3種類と、ミニクラッカーと、砂糖少なめホイップクリームと?これで合わせて?」
「税抜き700円程度。ホイップのディップ容器に、100均のタルトカップを使っている」

今日はバレンタイン。藤森と宇曽野が二人して、
小さく丸いクラッカーに真っ白ホイップ、それから小さなキューブチョコをのせて、チョコパーティーなど、しておったのでした。

「七味、なかなかイケるな」
ホイップチョコ付きのクラッカーに、赤い小瓶を振りかけて、宇曽野が言います。
味変のオトモは各種調味料。七味にジンジャーに黒こしょう、シナモンや刻みレモンチューブも控えます。
ワサビチューブとか、完全に罰ゲーム……?

「いや、意外と、ホイップが刺激を軽減して」
藤森、興味本位でほんの少し、緑を絞っていざ毒味。
ワサビチューブの原材料に、どうやら食塩が一緒に入っていたようです。
「甘じょっぱい……?」
感覚的に、ワサビ風味の塩バニラ、かもしれない。
藤森、このクリーミーとジャパニーズスパイシーの不思議な組み合わせに、更に緑を絞りまして、
「……ァッ、違う、ダメだ、からい!」
小さな小さな、悲鳴を上げました。

「で、藤森」
「なんだ、『もう少しワサビ絞ってみないか』と言われても、私、やらないぞ」
「何故今日俺を誘った?いつもはバレンタインなんざ、気にも留めないお前が?」
「昨日後輩に、焼き肉食べ放題とチョコレートオンリービュッフェに連れ出された」

「人が多過ぎて疲れた?」
「酔った後輩とその友人が講義を始めた」

日頃、感謝を感謝として、小さく伝えておくことの重要性と意義だとさ。
ワサビでヒリヒリした舌を、ちょっと濃いめのお茶でなんとか流して、藤森、宇曽野に言いました。
焼き肉屋では、「日頃から感謝を伝えておかないと、神絵師も文豪様も消えてしまうのだ」ということ。
チョコビュッフェでは、「デカい荒らしの単発を癒せるのは、小さな感謝DMの継続だ」ということ。
それぞれを、藤森の後輩とその友人が、それはそれはもう、力説しておったのでした。

なんということでしょう。藤森の後輩とその友人、元二次創作の物書き乙女だったのです。
ただ藤森、二次もナマモノも知らんので、
ただ藤森、「要は善良な感情を表に出すことの重要性」とだけ聞き取りまして、
ならば、「ちょっと親友の宇曽野にでも、実践してみようか」と。思い立ったのでした。
「宇曽野。こんな捻くれ者の堅物で、面白みも無い私だが、それでも十数年つるんでくれて、本当に――」

せっかくの、好意を伝えるバレンタインだ。
告白でも何でもないが、ただ感謝だけ、伝えておく。
ありがとう。
お茶で口元を隠して、藤森、宇曽野に言いました。
対する宇曽野は後輩の言う「神絵師」だの「文豪様」だのを、自分の一人娘と愛する嫁さんのおかげで、ちょっと、ほんのちょっと知っておったので、
うん、お前はそのまんまで良いよと、心の奥で、ポツリ言いましたとさ。 おしまい、おしまい。

2/15/2024, 12:23:40 AM