かたいなか

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「執筆の上での個人的お気に入りは、日常ネタよ。自分の経験をそのまま活用できるから」
特に食い物かな。メシなんて毎日食うし。某所在住物書きはぼっちで肉を煮込みながら、小腹の空腹解消のため、堅揚げポテチをカリカリかじっていた。

「リアルタイムネタも、トレンドだのニュースだのが勝手に物語持ってきてくれるから書きやすいが……」
ああいうのって、事件とか事故とか、「その単語を今使うと、今日発生した△△を想起させるからちょい危険」とかあるから、やるときゃ丁寧に選んでるわ。
「お気に入り」を書くのと「無難」を書くのって、時折マッチしないから、さじ加減なんかなぁ。
物書きはポテチを食べ終え、鍋の状態を確認して――

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所、某不思議な稲荷神社のおはなしです。
開発に開発が重ねられ、今も開発が加速している都の中で、その神社は比較的森深く、いつか昔の面影を残し、花と草と山菜に囲まれて、しかし杉花粉からもヒノキ花粉からも、守られておったのでした。
御神木がヒノキなのに変ですね。「不思議な神社」だからです。花粉知らずの、善いヒノキなのです。

さて。そんな花多き稲荷神社には、これまた不思議な子狐が、家族で仲良く暮らしておりまして、なんと、人に化ける妙技を持つ、化け狐の末裔なのです。
コンコン子狐はお花が大好き。
特に冬の終わり告げる春の花は、カッコよく「スプリング・エフェメラル」などと呼ばれているものは、
それはそれは、もう、それは。大のお気に入り。
そろそろ見頃を終えるフクジュソウなど、まるでお日様かお星様のよう。
今日もコンコン子狐は、尻尾をぶんぶん振り回し、嬉しい気持ちでびゅんびゅん跳びはねて、駆け回りながら、花咲く神社の敷地をお散歩するのです。

「お花、おはな!」
きゃん、きゃん! コンコン子狐、土の上のお花見スポットを、小ちゃい体で一気に駆け抜けます。
「お花の、春がくる!」
じきに顔出すキクザキイチゲ、似た姿のアズマイチゲ、それからもう少し先のキバナノアマナ。
神社がお気に入りの花でいっぱいになる日が、もうすぐ、また、やって来るのです。
「春だ!はるだ!」
きゃきゃきゃっ、キャンキャン! コンコン子狐嬉しくて、びゅんびゅん、神社の散歩道を駆け回ります。

ベンチ代わりに置かれている大木、じき隠れたフォトスポットになる花畑、夏ホタルが来る泉を抜けると、コンコン子狐、更にスピードアップです。
「おとくいさんだ!」
人間を見つけたのです。それも、子狐のよく知るお得意様な人間です。名前を藤森といいます。

藤森は遠い遠い、雪国の田舎出身。
花と一緒に季節を辿り、山菜と一緒に季節を味わい、山野草と一緒に季節を惜しみます。
藤森も、お花が大好き。特に極寒の雪深い故郷に冬の終わりを告げる、いわゆる「春の妖精」は、
それはそれは、もう、それは。大のお気に入り。
そろそろ見頃を終えるフクジュソウを、今日も、スマホに収めにやって来たのです。

「フクジュソウが終われば、次はキクザキイチゲとキバナノアマナ、それからカタクリか」
冬の終わりを、または春の足音を知らせてくれるそれらに、藤森は穏やかな笑顔で、カメラを向けました。
「お。そこのフキノトウ、丁度食い頃……」
私の故郷はきっと、この暖冬でも、もう少しだけ先なんだろうな。藤森は、手まりか中華まんのようなフキノトウにも、カメラを向けました。

パシャッ、パシャッ。いつか昔の景色を残す稲荷神社に、お気に入りの花を撮るカメラの音が鳴ります。
コンコン子狐はそこを目掛けて、お気に入りの参拝者兼お得意様に、頭を腹を背中を撫でてもらうべく、
一直線に、突撃してゆきました。
子狐の勢いが強過ぎて、突撃して激突された藤森、バランス崩して落ち葉の上に盛大にダイブしてしまうのですが、まぁまぁ、その辺は文字数。 おしまい。

2/18/2024, 2:32:36 AM