かたいなか

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「10年後の自分『に』、届『ける』手紙、なら書いたことあるわ。イベントだったかな」
ソレじゃなくて、10年後の自分「から」、届くんだろ?どう書く? 物書きは首筋をガリガリ書きながら、天井を見上げた。今回もお手上げであった。
「……誰かの手紙が、自分のところに来て、それがまるで10年後の自分が書いたような内容だったとか」

そんなん言ってもグルチャ社会だぞ。あるいはDM社会だぞ。電子手紙すら最近見ねぇ。物書きは呟いた。
「2月3日あたりのお題、『1000年先も』だったな。未来想定ネタがお好き……?」
そういえば、「明日」がつくお題を4回ほど書いた。

――――――

私の職場の先輩の、アパートの近所の稲荷神社は、「ユニークですごく当たる」っておみくじが売られていて、ほんの少し、短期間だけ千バズした。
去年の7月9日あたりだ。

小さな白い巻物の形で、赤紐で封されて、紐を解くと小吉も大凶も無く、花と狐が何かしてるイラストと、その花の名前&簡単な言葉が添えられてる。
私の時はアキワスレナグサと、それに虫眼鏡近づける子狐の絵と、「電話してみたら」だった。
その時実はイヤリング無くしてて、思い当たる場所に電話してみたら、「保管してますよ」っていう。
コンコンを崇めよ(おい狐は祟るぞ)

ところでその稲荷神社、2月15日と16日だけ、特別なおみくじを売ってるらしい。
昨日、呟きックスのTLを見てたら、流れてきた。
『◯◯区の、本物の狐がいる稲荷神社で10年前に買ったお手紙みくじ、マジで当たった』って。
お手紙みくじ、とは。 真相を確かめるため、私と職場の先輩は、森深い稲荷神社へ向かった……

「何故私まで?」
「去年の7月のおみくじ、一緒に引いたじゃん」

仕事が終わって、夜。先輩のアパートの近所、バズった稲荷神社に行ってみると、投稿を見たっぽい人がやっぱり、チラホラ。
中には何枚もおみくじ買って、千円札を渡してる人もいたけど、意味あるのかな。
おみくじの名前は、「10年後からの手紙みくじ」。
A7かB8あたりの封筒に、縦向き・巻き三つ折りの便箋が入ってて、誰にでも当てはまりそうなコメントが2個3個。ひとつ、200円だって。

200円払って、300も500も整列してる封筒の小箱から、ランダムにピンクの封筒を1枚抜く。
「ねぇ先輩、10年後、私達どうなってるだろ」
便箋を、1回、2回、パタンパタン。
「さぁな?お前はもっと条件の良いところに転職して、私は相変わらずあそこに留まって?」
開いたA7だかB7だか知らないけど、その便箋に書かれてたのは、こんな言葉だった。
【自分で滑ってみようとはゼッタイ思うな】
じぶんで、すべってみようとおもうな、とは。

「なんだ。目当てのコメントではなかったか」
先輩も白封筒を1枚抜いて、封切って。
「当たるも当たらぬも、だ。みくじの言葉から、自分自身と向き合って、自分なりの答えを探してみろよ」
きっと、自分の問題の答えを自分のチカラで見つけるのを助けるのが、この手のくじだろうから。
先輩はそう言って、封筒から、便箋を取り出して……
数秒、ぱっくり口開けて、フリーズして、
静かに、便箋を畳んだ。

「おまえ、手紙の内容、なんて」
「『自分で滑ってみようとは思うな』って」
「そうか。……そうだな」
「どしたの。先輩の手紙、なんて書いてたの」

なんなの。なんでフリーズしたの。 かたい表情の先輩から、ちょっと手紙を失敬して見てみると、
私の手紙より詳細に、具体的に、こんなことが。

【冬の運転は気をつけろ。絶対にヘマをするな
滑った瞬間、アトラクションと間違われる】

「どゆこと」
「……黙秘」
「先輩、心当たりあるの。先輩の故郷の雪国、冬の運転、アトラクション並みに滑るの」
「黙秘だ」

2/16/2024, 2:57:07 AM