「7月23日近辺に、既に『もしタイムマシンがあったなら』ってお題、書いてんのよ……」
ネタの重複は日常茶飯事。雨系空系の類似語句に何度頭を抱えたことか。
「当時は、本音として別の気持ちがあるのを隠した上で、『そんなモンあったら博打で億当てて、クソな職場ともオサラバするわ』みたいなこと書いたな」
で、ほぼ半年後の今回、ほぼ同一のネタでひとつ書くわけだ。某所在住物書きは頭を抱えた。
タイムマシンからどう話を膨らませろというのだ。
「……これ以上重複しねぇよな?」
さすがに今後3度目の時間軸ネタとか来られたら、俺、詰むが。ガチで詰むのだが。
フラグめいたため息を吐き、物書きはスマホを見る。
――――――
最近最近の都内某所、某アパートの一室、夜。
部屋の主を藤森といい、今日はその藤森の親友たる宇曽野という男が、客人として晩飯を共にしている。
テーブルの上には、本来藤森ひとりで食う予定だったものを、追加の野菜と肉とで、急きょ無理やり2人前にかさ増ししたメニュー。
焼き肉のタレを流用した、スタミナスープである。
宇曽野はそれを白米にのせ、つゆだくだくのスタミナ丼に仕立ててしまった。
「藤森。変なこと聞いていいか」
「なんだ」
「おまえ、もしタイムマシーンがあったら、」
「半年前、私の後輩にも聞かれた話題だ」
「俺からはまだだろう。……あったらお前、加元と会う前に戻りたいか?それとも上京自体しなかった?」
「どうだろうな」
いきなり聞かれても、面白い回答は言えないが。
藤森はそう付け加えると、幸福な甘じょっぱさのスープからキャベツと豚バラを取り出し、ぱくり。
加元とは、藤森の元恋人のこと。元カレ・元カノの、かもと。安直なネーミングはご了承願いたい。
理想押しつけ厨とも言うべき加元と、加元に執着され続けていた藤森との間には、つい最近まで、小さいながらも8年越しの恋愛トラブルが横たわっていた。
そのトラブルが去年、メタい話をすれば11月13日頃、ようやく決着したのである。
「ただ、そんな都合の良いものが有ったところで、私はどこまで行ったって『私』だ。
東京には来ただろうし、何度上京前に戻っても、毎回お前や加元さんと会って、加元さんに心をズッタズタにされて、11月にカタがついて。今日ここで、事前連絡も無しに来たお前と飯を食うだろうさ」
何も変わらないよ。多分。
藤森は穏やかにため息を吐いた。
「つまり何度も何度も俺に冷蔵庫のプリン食われて、その都度喧嘩して、ケロっと仲直りするワケだな」
「そもそもタイムマシンなど使わない、というハナシだ。それにその理屈、つまりお前、何度も何度も私の冬の里帰りのたびに、何度も何度も私の実家についてきて、あの氷点下と地吹雪に当てられて、風呂に緊急ダイブすることになるが。良いのか」
「風呂上がりのアイスが美味かったから構わん」
「……あのな?」
「そういや、あのホワイトアウトの夜の飯もスタミナ系だった。同じタレか?例のご当地の?」
「よく覚えてるなお前?」
そもそも何故タイムマシン云々なんて、そんな妙なこと、わざわざ聞くんだ。
ちまちま野菜を食いながら不思議がる藤森。
宇曽野は特に何の理由も意図も無い風で、だくだくのつゆの味が好ましかったらしく、追加の白米をじゃんじゃか投下している。
「そんなに食って、明日、胃もたれしないか?」
「お前が少食過ぎるんだよ」
予約も無く唐突に始まった親友ふたりの晩餐会は、メインを食い終えた後で茶が入り、
少量のクッキーだのチョコだのを楽しむ前に、
宇曽野がその日も藤森秘蔵のプリンを冷蔵庫から勝手に盗み出していたことが発覚し、
ポコロポコロポコロ、
漫画だのアニメだのよろしく、ひとしきり大乱闘の喧嘩を繰り広げた後、
ケロッと、いつの間にか仲直りして、終了した。
「面接前夜、幸運にもチケット取れたライブだの何だの、クリスマス、バレンタイン……は夜じゃねぇか」
他には?某所在住物書きは、今日も今日とて何連続か、己の不得意とするお題に対してなんとか知恵を絞り出そうと、懸命な努力を継続していた。
「特別、と言われてもなぁ……」
物書きはため息を吐く。「特別」を感じづらい生活を続けて、十数年、数十年である。
何を書けというのか。カレーの日を題材とした、カレーキャラの特別な夜か。
とうとう二次創作デビューか、云々か。
「……そもそも1月22日って、何の日?」
ネタに詰まった物書きは、相変わらずネットの検索結果に救助を求める。
――――――
平凡な月曜日、通常営業の職場、いつもの休憩室とテーブル。
職場の先輩とコーヒー並べて、お弁当広げて、
悪い意味で特別になった昨日の夜のハナシを、つまり呟きックスのおセンシバグのことを愚痴りつつ、
多分誰かが観てるだろうテレビの情報番組をちょっとしたBGMに、ランチをもぐもぐしてる。
「スゴいよね。例の稲荷神社の子狐の画像上げても、おセンシの判定だよ」
今日の先輩のお弁当は、スープジャーに入った雑炊みたいなオートミール。
「呟きックス、子狐ちゃんが水着ロリだのショタだのにでも見えてたのかなって。化け狐ちゃんかよって」
クラッシュタイプ60gに、某てっぺんバリュのカツオ水煮ライトフレークと、某良品のミネストローネをブチ込んで、熱湯入れるだけ。
糖質40.7g。塩分相当量1.5g。
ゴマスリ係長から押し付けられた案件のせいで、ろくに弁当の準備もできなかったから、とりあえずレトルトとフリーズドライとオートミールをブチ込んだ、とのこと。
「ぐぅぐるの検索結果に出てきた西多摩郡の週間天気とか、木曜あたりが最低マイナス8℃だったから、それスクショして上げたら『刺激の強いコンテンツ』だって。どゆこと、って」
低糖質(たりない)。
超低糖質(ぜったいたりない)。
もっと食えって私のミートボール3個あげたら、お礼に味変用の半熟とろーりゆで卵と、間食用に持ってきたっていう小さなヘルシーお餅1個貰った。
逆にそれ食べてください。
「西多摩が氷点下8℃?」
ふーん。
先輩は何か記憶ライブラリに検索かけるように遠くを見ながら、スプーンでミネストローネ味のオートミールをすくって、ふーふーして、舌にのせた。
ちょっとおいしそう。いや多分おいしい。
でも極低糖質(かくじつにたりない)。
「なんとなく、少し、デジャヴだな。去年似たことが無かったか、『東京で氷点下2桁』のような?」
「言われてみれば。バズった気もする」
「それの類似だろうか。……私のスマホでは、木曜の西多摩は、最低氷点下3℃らしいが」
「ふーん」
「で、それをスクショして、投稿したところ、昨日の夜のバグで『刺激の強いコンテンツ』にされたと」
「そう。なんか、悪い意味で特別な夜になってて、そこそこ楽しかった」
「それはなにより」
おかずを渡して逆に貰って、
もっと食えとか、あまり運動しない私にはこれくらいで十分だとか、何とか。
昨日のバグった夜の話題もちょっと混ぜて、その日もお昼が終わった。
おセンシバグは、気がついたら元に戻ってたけど、
西多摩の四捨五入マイナス2桁は、結局事実かバグなのか、分からずじまいだった。
「ごめん、今朝のトレンドのせいで、某緑色歌姫の『深海少女』しか思いつかねぇ」
海の底。前回も前回だったが、いつになったら己にとって、比較的書きやすいお題が出てくるやら。
某所在住物書きは某リアルタイム検索で確認していたSNSのトレンドランキングに、15年以上前初出である筈の単語を見つけた。
15年前の記憶とか。今頃多分海馬の底どころか、大脳皮質にすら残っちゃいねぇよ。多分。
物書きは深い、大きなため息を吐いた。
「海底ねぇ。マリアナ海溝?戦時中の沈没船?」
物書きは記憶の底をわっちゃわっちゃ引っ掻き回す。
「浅瀬の海の底を泳いでたタコなら見たことあるが、ぜってーそういう想定じゃねぇよな」
タコ焼き食いたくなってきた。物書きのネタも物語も浮かばぬ固い頭は、11時近辺ゆえに、食欲に傾く。
――――――
東京の今日は、雨だ。
皆「雨スゴい」とか「土砂降り」とか、「これが昼やむ予報とかおかしい」なんてポスってる。
さいわい、私は今日お休み。
低気圧のせいか低温のせいか、いつもの低速スタートのせいか知らないけど、ともかくガチの意味で体がダルくて、朝ご飯も昼ごはんも作れそうにない。
そこで、雪国出身で東京の寒さ程度じゃびくともしない職場の先輩のアパートに、自主避難、自主救急搬送をすることにした。
先輩、今日もごはん、お世話になります。
「先輩の実家は、今頃は雪?」
あったかい朝ご飯貰って、体が温まったおかげでちょっと動けるようになった私は、
先輩の部屋の窓から雨を見て、先輩の故郷の雪国を、ちょっと粗めの解像度で想像する。
「パウダースノー?粉雪?」
先輩の言う「極寒」、「真冬」を知らないから、私の想像の中の雪国は、全部静かで、奥多摩とか八王子とかに雪をドチャクソ降らせたカンジだ。
無風。多分曇天。歩道橋も広場も街路樹も、人差し指が全部埋まっちゃうくらい雪が積もって、
皆、モフモフでぬっくぬくなコートとマフラーと、それから帽子を付けて歩いてる。
空から降ってくるのは粉雪だ。夜はきっと綺麗だ。
照明で、積もってる雪と降ってくる雪が、双方照らされて、暗い中のシンシンとした降雪は、きっと海の底に落ちるマリンスノーだ。
白積もる海底の、元横断歩道のあたりに立って、音無くじゃんじゃか白落とす空を見上げて……
「指摘するのは非常に心苦しいが、天気図によると私の故郷も今、荒れ荒れの大荒れだ」
「えっ」
海底のマリンスノー終了のお知らせ。
先輩が食後のお茶タイムとして、耐熱ガラスのティーポットに、深い深い青色を淹れて持ってきた。
「雪か雨かは知らない」
タパパトポポトポポ。先輩が湯気立つ青を透明なティーカップに注いで、低糖質のチョコチップクッキーと一緒に私に差し出した。
「だが、少なくとも、強風と波浪の注意報が出ているのは確かだな」
先輩は言って、小さな15ccくらいの軽量カップから、ほんの少しだけ、明るい琥珀色を青に落とす。
段々上から青色が、下に向かって、紫に変わる。
「バタフライピーだ!」
「その仲間の、アンチャンというらしい。同じマメ科のハーブティーだ。ひいきにしている茶葉屋の店主が『賞味期限近いので買いませんか』と」
「私も紫やる」
「よせ。多分マズい」
「何入れたの」
「黒酢だ」
「そこ、レモン汁ポジション……」
「私の部屋にそんな小洒落た物を期待するな」
海底云々のノスタルジーは、これで我慢しておけ。
先輩はバチクソ少量の粒砂糖をつまんで、1粒、2〜3粒、4粒5粒。
深い深い青色に、味が変わらない程度の量で、パラリパラリ落としていく。
「あんまりよく見えない」
「それは申し訳ございませんでしたな」
青いお茶を海の底に見立てて、砂糖でマリンスノーを再現しようと、してくれたんだろうけど、
海に見立てた青はバチクソ深くて、砂糖の方も角砂糖とか氷砂糖とかでもないから、
マリンスノーモドキは目論見に反して、青に溶けて、カップの底に積もるようなことはなかった。
「君に、『会いたくない』って人しか、いない……」
君に会いたくて、何を買うのか、どこに行くのか、
あるいは、誰を見たために、どれを見返したために、君に会いたくて仕方なくなるのか。
まぁ、シチュエーションは色々あるわな。某所在住物書きは昼飯の準備として、ぼっち用鍋で肉を煮込みながら、スマホで文章をポンポンポン。
不得意なお題の連続に、相変わらず苦戦している。
「昔々のクソ上司だろ、相互の中の隠れアンチだろ、『いやそれを俺に言われても』のモンカス。等々」
「君に会いたくて」が居るひとの、温かい話題をひとまず視察したい。しんみりした目で、煮込みを転がし、スマホに目を向ける。
――――――
まさかまさかの続き物。前回投稿分、都内某所の某稲荷神社で、雪国出身の人間が、
「閉ざされた日記」、1年で書くのをやめたメンタル管理用の日記を、タルタル麺だのタルタルタンメンだののレシピノートと勘違いされまして、
不思議な不思議な、言葉を話す子狐に、その日記、とられてしまいました。
狐が言葉を話すとか、バチクソ非現実的ですが、まぁまぁ、細かいことは気にしない。
さて。麺タルなる未知の料理を記している、と子狐が誤解しているA5サイズのメモ帳です。
「おいしいもの、いっぱい書いてるんだろうなぁ」
ひとまずザッと見渡して、一番美味しそうなものを、母狐に作ってもらおう!
コンコン子狐、自分のおうちである稲荷神社の、敷地内にある一軒家で、さっそく日記をご開帳!
「いでよ、めんタルタルたんたんめんのレシピ!」
1年で閉じられたメンタル管理用の日記、1ページ目の最初には、こう書かれていました。
7月17日(日)
メンタル管理日記記録開始
午前:事務作業
午後: 同上
伝票集計入力にて、先輩の伝票に誤記載と記入漏れ
「先輩のミスに気づかなかった」ということで、こちらが叱責。入社数ヶ月の私を責める前に、まず基礎を教えてほしい。「伝票そのまま入力するだけ」とは?
「……めんたる、……かにて、の?」
コンコン子狐、狐なのに、宇宙猫状態。
ガキんちょなのです。まだ漢字が読めないのです。
でも、なんだかおかしいな。料理の名前はどれかしら。必要な食材とその分量はどれかしら。
料理の完成写真すら、貼っ付けられてないなんて。
これではどれが美味しい料理か、サッパリです。
「ととさん、ととさん。レシピ読んで」
分からないことは、分かる誰かに聞きましょう。
ここコンコンコン、コココこんこんこん。
子狐は「麺タルの日記」を読んでもらうため、都内の某病院で漢方医をしている、けれど今日丁度お休みで家に居る、父狐に援護要請。
ここコンコンコン、コココこんこんこん。
子狐元気に鳴きながら、廊下を走り父狐を呼びます。
ととさん、ととさん。君に会いたくて、コンコン子狐は疾走中なのです。
「レシピ?」
自分の部屋で、普段飲みできる薬湯を、つまり陳皮と粳米と少しの蜂蜜でほっこり整えた生姜湯を、愛する母狐のために調合していた父狐。
「どれどれ、ととさんが、読んであげよう」
子狐から日記帳を貰って、表紙をめくると、
まぁまぁ、病院で漢方医として仕事するくらいです。
それが「麺タルのレシピ帳」ではなく、「メンタル管理の日記帳」だと、すぐに、ひしひし理解して、
すべて、察するのです。
「この日記の持ち主、今は、元気にしてるかい?」
父狐が優しく尋ねると、コンコン子狐、至極不思議そうな顔で、でも正直に頷きます。
「そう。良かった」
父狐、安心して、穏やかに言いました。
「元の場所に返してあげなさい」
「やだ。タルタルめん、たべたい」
「ととさんが、ちゃんと作ってあげるから」
「ととさん、おにく、炭にする。かかさんがいい」
「じゃあ、かかさんに頼んであげるから。これは元の場所に返しておいで。ね、いい子だから……」
「『閉ざされた』『日記』って、どういう状況……」
前回は真冬に「木枯らし」、前々回は3部作チャレンジのごとく、「どうして」からの「この世界は」からの、「美しい」。そして今回が「閉ざされた日記」。
随分高難度なお題が続く。
某所在住物書きは、前回投稿分を投稿して約2時間後、アプリから配信された新しいお題にパックリ、開いた口が塞がらない。
アレか。閉鎖されたブログサービスサイトか。
それともIDやパスワードを忘れてログインできず、更新方法が絶たれたのか。
紛失か、喪失か、なにそれ難しい。
「毎日文章投稿してるアプリは、ほぼ日記……?」
閉ざされた日記って、何。物書きは繰り返した。
――――――
3月1日から投稿し続けてきたこのアカウントも、あと1ヶ月と10日程度ではや1年。
続けてきた日記モドキを、今の執筆スタイルで2年目突入するか、心機一転新シリーズを始めるか、なんならそれこそお題どおり閉じるか。
そろそろ考える必要のある物書きが、今回はこんなおはなしをご用意しました。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
母狐のお茶っ葉屋さんで看板狐のお仕事をしたり、自分で稲荷のご利益豊かなお餅を作って売り歩いたり。
餅売りの儲けは少ないものの、去年の3月3日頃から、人間のお得意様がひとり付きました。
そんなコンコン子狐が、おうちの庭を縄張り巡回、もとい、お散歩していたところ、
おやおや、子狐の餅売りのお得意様、まさしくその本人が、なにやら古い、A5サイズくらいのメモ帳を、その分厚いページをぱらり、ぱらり。
イスのかわりに置いてある、座り心地の良いヒノキに腰掛けて、それはそれは、懐かしそうな目をしておったのでした。
要するに、お金をくれるお得意様です。頭と背中と腹を幸福に撫でてくれるお得意様です。
子狐コンコン、尻尾をぶんぶん振り回して一直線!
お得意様に突撃して、膝に飛び乗り、服をよじ登ってぺろぺろぺろ!
エキノコックスも狂犬病もしっかり対策された安全な舌で、首だの顎だのを舐め倒しました。
「おとくいさん、おとくいさん!なに見てるの」
何ってそりゃ、今回のお題は「閉ざされた日記」ですから、日記には違いないのです。
子狐を膝上まで押し返して、お得意様、答えます。
「昔々上京してきた頃、1年だけ書いていたメモだ」
勿論、ちゃんと途中から白紙です。
「めも?」
「昨日、本を整理していたら出てきた。昔人間嫌いが酷かった頃、『メンタル管理にどうだ』と日記を勧められたんだが、書くことも見当たらなくて、結局その日食った飯の記録と、出会った美味いものの一覧に」
「めんたる?」
「田舎と都会の違いに揉まれて、やつれていた頃さ。結局続かず、1年で閉じた」
「麺タル!」
「待て。確実に何か勘違いしているだろう」
「タルタル、らーめん?れーめん?」
「Mental、心だ。チャーシュー麺だの担々麺だのの亜種じゃない」
「たんたんタルタルめん」
「なんだそのちょっと美味そうな新メニュー」
たんたん、タルタルたんめん、めんタルタルめんま。
コンコン子狐、子狐なので、メンタル管理が分かりません。心を整理するための日記帳を、なにかタンメンだの乾麺だの、美味しい麺類のメモと勘違いです。
子狐はメモが見たくて見たくて、仕方なくて、やっぱりお得意様の服をよじよじ。
あわよくば、その美味しい麺類を、一家のシェフ、板長、花板である母狐に、作ってもらいたいのです。
「麺タル、見せて、みせて」
「だから、麺でもタルタルでもない。メンタル管理用の日記だ。ただの記録でしかないし、有益な情報など何も無い。明日にはゴミ箱か可燃ごみの袋の中だ」
「ごみ、ダメ!タルタルたんたんタンメンみせて」
「あのな……?」
たんたんたん。たるたるたん。
1年程度で閉ざされた、途中から真っ白の日記帳は、稲荷の子狐に麺類のメモ帳と勘違いされて、
当分、だいたい5分と55秒くらい、狙われて甘噛みされて、引っ張られて、
最終的に、子狐が持ってってしまいましたとさ。
しゃーない、しゃーない。