かたいなか

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「君に、『会いたくない』って人しか、いない……」

君に会いたくて、何を買うのか、どこに行くのか、
あるいは、誰を見たために、どれを見返したために、君に会いたくて仕方なくなるのか。
まぁ、シチュエーションは色々あるわな。某所在住物書きは昼飯の準備として、ぼっち用鍋で肉を煮込みながら、スマホで文章をポンポンポン。
不得意なお題の連続に、相変わらず苦戦している。
「昔々のクソ上司だろ、相互の中の隠れアンチだろ、『いやそれを俺に言われても』のモンカス。等々」

「君に会いたくて」が居るひとの、温かい話題をひとまず視察したい。しんみりした目で、煮込みを転がし、スマホに目を向ける。

――――――

まさかまさかの続き物。前回投稿分、都内某所の某稲荷神社で、雪国出身の人間が、
「閉ざされた日記」、1年で書くのをやめたメンタル管理用の日記を、タルタル麺だのタルタルタンメンだののレシピノートと勘違いされまして、
不思議な不思議な、言葉を話す子狐に、その日記、とられてしまいました。
狐が言葉を話すとか、バチクソ非現実的ですが、まぁまぁ、細かいことは気にしない。

さて。麺タルなる未知の料理を記している、と子狐が誤解しているA5サイズのメモ帳です。
「おいしいもの、いっぱい書いてるんだろうなぁ」
ひとまずザッと見渡して、一番美味しそうなものを、母狐に作ってもらおう!
コンコン子狐、自分のおうちである稲荷神社の、敷地内にある一軒家で、さっそく日記をご開帳!

「いでよ、めんタルタルたんたんめんのレシピ!」
1年で閉じられたメンタル管理用の日記、1ページ目の最初には、こう書かれていました。

 7月17日(日)
メンタル管理日記記録開始
午前:事務作業
午後: 同上
伝票集計入力にて、先輩の伝票に誤記載と記入漏れ
「先輩のミスに気づかなかった」ということで、こちらが叱責。入社数ヶ月の私を責める前に、まず基礎を教えてほしい。「伝票そのまま入力するだけ」とは?

「……めんたる、……かにて、の?」
コンコン子狐、狐なのに、宇宙猫状態。
ガキんちょなのです。まだ漢字が読めないのです。
でも、なんだかおかしいな。料理の名前はどれかしら。必要な食材とその分量はどれかしら。
料理の完成写真すら、貼っ付けられてないなんて。
これではどれが美味しい料理か、サッパリです。

「ととさん、ととさん。レシピ読んで」
分からないことは、分かる誰かに聞きましょう。
ここコンコンコン、コココこんこんこん。
子狐は「麺タルの日記」を読んでもらうため、都内の某病院で漢方医をしている、けれど今日丁度お休みで家に居る、父狐に援護要請。
ここコンコンコン、コココこんこんこん。
子狐元気に鳴きながら、廊下を走り父狐を呼びます。
ととさん、ととさん。君に会いたくて、コンコン子狐は疾走中なのです。

「レシピ?」
自分の部屋で、普段飲みできる薬湯を、つまり陳皮と粳米と少しの蜂蜜でほっこり整えた生姜湯を、愛する母狐のために調合していた父狐。
「どれどれ、ととさんが、読んであげよう」
子狐から日記帳を貰って、表紙をめくると、
まぁまぁ、病院で漢方医として仕事するくらいです。
それが「麺タルのレシピ帳」ではなく、「メンタル管理の日記帳」だと、すぐに、ひしひし理解して、
すべて、察するのです。

「この日記の持ち主、今は、元気にしてるかい?」
父狐が優しく尋ねると、コンコン子狐、至極不思議そうな顔で、でも正直に頷きます。
「そう。良かった」
父狐、安心して、穏やかに言いました。
「元の場所に返してあげなさい」

「やだ。タルタルめん、たべたい」
「ととさんが、ちゃんと作ってあげるから」
「ととさん、おにく、炭にする。かかさんがいい」
「じゃあ、かかさんに頼んであげるから。これは元の場所に返しておいで。ね、いい子だから……」

1/20/2024, 3:05:53 AM