かたいなか

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「『閉ざされた』『日記』って、どういう状況……」
前回は真冬に「木枯らし」、前々回は3部作チャレンジのごとく、「どうして」からの「この世界は」からの、「美しい」。そして今回が「閉ざされた日記」。
随分高難度なお題が続く。
某所在住物書きは、前回投稿分を投稿して約2時間後、アプリから配信された新しいお題にパックリ、開いた口が塞がらない。

アレか。閉鎖されたブログサービスサイトか。
それともIDやパスワードを忘れてログインできず、更新方法が絶たれたのか。
紛失か、喪失か、なにそれ難しい。
「毎日文章投稿してるアプリは、ほぼ日記……?」
閉ざされた日記って、何。物書きは繰り返した。

――――――

3月1日から投稿し続けてきたこのアカウントも、あと1ヶ月と10日程度ではや1年。
続けてきた日記モドキを、今の執筆スタイルで2年目突入するか、心機一転新シリーズを始めるか、なんならそれこそお題どおり閉じるか。
そろそろ考える必要のある物書きが、今回はこんなおはなしをご用意しました。

最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
母狐のお茶っ葉屋さんで看板狐のお仕事をしたり、自分で稲荷のご利益豊かなお餅を作って売り歩いたり。
餅売りの儲けは少ないものの、去年の3月3日頃から、人間のお得意様がひとり付きました。

そんなコンコン子狐が、おうちの庭を縄張り巡回、もとい、お散歩していたところ、
おやおや、子狐の餅売りのお得意様、まさしくその本人が、なにやら古い、A5サイズくらいのメモ帳を、その分厚いページをぱらり、ぱらり。
イスのかわりに置いてある、座り心地の良いヒノキに腰掛けて、それはそれは、懐かしそうな目をしておったのでした。

要するに、お金をくれるお得意様です。頭と背中と腹を幸福に撫でてくれるお得意様です。
子狐コンコン、尻尾をぶんぶん振り回して一直線!
お得意様に突撃して、膝に飛び乗り、服をよじ登ってぺろぺろぺろ!
エキノコックスも狂犬病もしっかり対策された安全な舌で、首だの顎だのを舐め倒しました。

「おとくいさん、おとくいさん!なに見てるの」
何ってそりゃ、今回のお題は「閉ざされた日記」ですから、日記には違いないのです。
子狐を膝上まで押し返して、お得意様、答えます。
「昔々上京してきた頃、1年だけ書いていたメモだ」
勿論、ちゃんと途中から白紙です。

「めも?」
「昨日、本を整理していたら出てきた。昔人間嫌いが酷かった頃、『メンタル管理にどうだ』と日記を勧められたんだが、書くことも見当たらなくて、結局その日食った飯の記録と、出会った美味いものの一覧に」
「めんたる?」
「田舎と都会の違いに揉まれて、やつれていた頃さ。結局続かず、1年で閉じた」

「麺タル!」
「待て。確実に何か勘違いしているだろう」
「タルタル、らーめん?れーめん?」
「Mental、心だ。チャーシュー麺だの担々麺だのの亜種じゃない」

「たんたんタルタルめん」
「なんだそのちょっと美味そうな新メニュー」

たんたん、タルタルたんめん、めんタルタルめんま。
コンコン子狐、子狐なので、メンタル管理が分かりません。心を整理するための日記帳を、なにかタンメンだの乾麺だの、美味しい麺類のメモと勘違いです。
子狐はメモが見たくて見たくて、仕方なくて、やっぱりお得意様の服をよじよじ。
あわよくば、その美味しい麺類を、一家のシェフ、板長、花板である母狐に、作ってもらいたいのです。

「麺タル、見せて、みせて」
「だから、麺でもタルタルでもない。メンタル管理用の日記だ。ただの記録でしかないし、有益な情報など何も無い。明日にはゴミ箱か可燃ごみの袋の中だ」
「ごみ、ダメ!タルタルたんたんタンメンみせて」
「あのな……?」
たんたんたん。たるたるたん。
1年程度で閉ざされた、途中から真っ白の日記帳は、稲荷の子狐に麺類のメモ帳と勘違いされて、
当分、だいたい5分と55秒くらい、狙われて甘噛みされて、引っ張られて、
最終的に、子狐が持ってってしまいましたとさ。
しゃーない、しゃーない。

1/19/2024, 3:46:06 AM