かたいなか

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「面接前夜、幸運にもチケット取れたライブだの何だの、クリスマス、バレンタイン……は夜じゃねぇか」
他には?某所在住物書きは、今日も今日とて何連続か、己の不得意とするお題に対してなんとか知恵を絞り出そうと、懸命な努力を継続していた。
「特別、と言われてもなぁ……」
物書きはため息を吐く。「特別」を感じづらい生活を続けて、十数年、数十年である。
何を書けというのか。カレーの日を題材とした、カレーキャラの特別な夜か。
とうとう二次創作デビューか、云々か。

「……そもそも1月22日って、何の日?」
ネタに詰まった物書きは、相変わらずネットの検索結果に救助を求める。

――――――

平凡な月曜日、通常営業の職場、いつもの休憩室とテーブル。
職場の先輩とコーヒー並べて、お弁当広げて、
悪い意味で特別になった昨日の夜のハナシを、つまり呟きックスのおセンシバグのことを愚痴りつつ、
多分誰かが観てるだろうテレビの情報番組をちょっとしたBGMに、ランチをもぐもぐしてる。

「スゴいよね。例の稲荷神社の子狐の画像上げても、おセンシの判定だよ」
今日の先輩のお弁当は、スープジャーに入った雑炊みたいなオートミール。
「呟きックス、子狐ちゃんが水着ロリだのショタだのにでも見えてたのかなって。化け狐ちゃんかよって」
クラッシュタイプ60gに、某てっぺんバリュのカツオ水煮ライトフレークと、某良品のミネストローネをブチ込んで、熱湯入れるだけ。
糖質40.7g。塩分相当量1.5g。
ゴマスリ係長から押し付けられた案件のせいで、ろくに弁当の準備もできなかったから、とりあえずレトルトとフリーズドライとオートミールをブチ込んだ、とのこと。
「ぐぅぐるの検索結果に出てきた西多摩郡の週間天気とか、木曜あたりが最低マイナス8℃だったから、それスクショして上げたら『刺激の強いコンテンツ』だって。どゆこと、って」

低糖質(たりない)。
超低糖質(ぜったいたりない)。
もっと食えって私のミートボール3個あげたら、お礼に味変用の半熟とろーりゆで卵と、間食用に持ってきたっていう小さなヘルシーお餅1個貰った。
逆にそれ食べてください。

「西多摩が氷点下8℃?」
ふーん。
先輩は何か記憶ライブラリに検索かけるように遠くを見ながら、スプーンでミネストローネ味のオートミールをすくって、ふーふーして、舌にのせた。
ちょっとおいしそう。いや多分おいしい。
でも極低糖質(かくじつにたりない)。
「なんとなく、少し、デジャヴだな。去年似たことが無かったか、『東京で氷点下2桁』のような?」

「言われてみれば。バズった気もする」
「それの類似だろうか。……私のスマホでは、木曜の西多摩は、最低氷点下3℃らしいが」
「ふーん」

「で、それをスクショして、投稿したところ、昨日の夜のバグで『刺激の強いコンテンツ』にされたと」
「そう。なんか、悪い意味で特別な夜になってて、そこそこ楽しかった」
「それはなにより」

おかずを渡して逆に貰って、
もっと食えとか、あまり運動しない私にはこれくらいで十分だとか、何とか。
昨日のバグった夜の話題もちょっと混ぜて、その日もお昼が終わった。
おセンシバグは、気がついたら元に戻ってたけど、
西多摩の四捨五入マイナス2桁は、結局事実かバグなのか、分からずじまいだった。

1/22/2024, 3:53:59 AM