「終わらせないで欲しい、なのか、終わらせないで良かった、なのか。他にも色々考えつきそうよな」
昨日20℃超だった東京の、今日の最低気温が6℃。なんなら土曜日の予報が最低4℃。
乱高下もはなはだしい。某所在住物書きは、モフモフにしてフカフカな、偉大なる2枚合わせハーフケットを肩より羽織って、ぬっくぬくの至福に浸っていた。
誰かが「肩は寒さを感じやすい」と言っていた。
事実か虚偽かは知らない。
「個人的にはな」
物書きは呟いた。
「コンビニのおでん、冬限定は惜しい気がすんの。いろんな具の出汁吸ったスープがたまんねぇのよ。
冷やしおでんとかで夏、いや、需要少ないか……」
――――――
東京が、最低気温だけ確実に冬になった。
朝起きたら毛布の外がバチクソ寒くて、朝ごはんと昼のお弁当作らなきゃいけないのに無理で。
私は結婚してないから、「体が動かなくて無理」だったら作らなきゃ良いだけのハナシだけど、
家庭があって、子供がいて、自分が調理担当で……
ってのを想像したら、私のお母さんは「冬も朝ごはんとお弁当作ってくれた」ってことだけは、
少なくとも、確実に、偉大だった、と思った。
お父さん今も自分の服だけ自分で洗って、自分でアイロンかけてるのかな(お察しください)
ハナシがそれた。ともかく、今日はいきなり寒くなったから、朝ごはんは食べないで、お昼は職場近くの激安お惣菜屋さんから買うことにした。
そしたら職場で長いこと一緒に仕事してる先輩が、お前のことなどお見通しだ、みたいな抑揚で、
「飲んでおけ」
私が職場の自分のデスクにつくなり、先輩の席から、少し小さめのスープジャーを差し出してきた。
「生姜と、少しだけ葛を入れてある」
ジャーのフタを開けると、中は優しそうな琥珀色したスープと、コトコト煮込まれたんだろうタマネギとニンジンと鶏団子だった。
「ナンデ?」
「昨日ドラッグストアで手羽元のB級品が」
「そうじゃなくて、」
「今朝作り過ぎた」
「そうじゃなくて。ナンデ?」
「具材から期待される効能の説明か?それとも私がこれをお前に渡す理由?」
「後者」
「おまえ去年の今頃、徹夜と朝飯抜きからの、通勤途中の低温と寒暖差で、体調悪くしただろう」
「あっ」
ドラッグストアで手羽元のB級品。
てことは、この鶏団子は、先輩がちまちま手羽元からお肉とって、軟骨とって、ミキサーか包丁パタパタかをしたんだ。
湯気少し上がるスープの、香りを吸い込んで、ひとくち。 和風だ。少量の麺つゆだ。
鶏とタマネギの出汁に、生姜がピリッとアクセントになって、優勝だ。
「料金は後日の徴収で構わない」
先輩は言った。
「私にこれ以上迷惑なお節介をされたくなければ、今後はせめて、某バランス栄養食の1、2本でも腹に入れて来るんだな」
「いや、個人的には私、サブスクでも都度払いでも良いから、お節介サ終してほしくない」
今の時期、酷い寒暖差からの寒さで、私動けないとき本当に動けないし。冗談抜きで助かるし。
ちまちま言いながら、多分葛でとろみが付いてるんだろう鶏団子をチュルンしてると、
私をキョトンとした目で見た先輩が、視線そらしてため息吐いて、
「……物好きめ」
小さく、ゆっくり、首を振った。
「あのね、本当に、ほんっとうに動けないの」
「知っている」
「お世辞じゃなくて、お節介サービス、先輩が負担じゃなければ、ホントに終わらせないで欲しいの」
「私をおだてたところで、登る木が無いぞ」
「あのね……?」
「愛が!需要過多!」
愛と平和、愛を叫ぶ、愛があれば何でもできる、愛言葉。類似の「恋」も含めれば、これで丁度10個目。
某所在住物書きとしては、しりとりの気分である。
あい→息→きたい→板→たよりない→イルカ→ 。
今までどの題目で、どのような物語を書いてきたか、すべて紹介すれば随分な文量となるだろう。
「『オキシトシンは「愛情」ホルモンと呼ばれているが、場合によっては攻撃性を誘発し得る』なんて、バチクソ初期に書いちまってるしな……」
他は何だろうね。昔愛情サイズなんてCM見た気もするが、アレ、今もあるのかな。
物書きはため息をつき、数ヶ月昔の過去投稿分を漁る。遠い過去のハナシであればコピペしても……
――――――
恋愛主題も祝10個。ネタの枯渇も否めない中からの、以下は苦し紛れな、愛情としりとりのおはなし。
冬間近な筈の11月最終週、都内某所の某職場。
某部署で主任をしている宇曽野という男と、その親友の藤森が、20℃超な昼休憩に屋上で、冷たいアイスクリームを持ち込みペロペロ。
穏やかに、談笑などしている。
「それこそ、加元がお前に寄せてた感情、『「い」で攻めるしりとり』だったんじゃないか?」
「は?」
「基本的に2人以上居ないと始まらないが、自分自分自分で攻め過ぎて、相手のことを考えず一点突破すると、相手から手痛い反撃を食らって全部自分に返ってくる。結果相手が消えてソレ自体ができなくなる」
「はぁ」
「攻める側を加元、相手側をお前で当てはめてみろ」
「………あっ、……なるほど」
つい2週間前、11月13日か14日付近まで、8年越しの恋愛トラブルに悩まされていた藤森。
元恋人を加元という。元カレ・元カノの、かもと。安直なネーミングセンスはご容赦願いたい。
8年前、藤森の容姿に惚れた加元に、
藤森がいざ惚れ返したところ、「ココが違う」「ソレがおかしい」と、あれよあれよの批判三昧。
表で笑顔を振りまきながら、加元はSNSの裏で散々に藤森をディスり倒した。
加元の恋に藤森は愛で報いようとしたが、
そもそも加元のその好意が、厳選厨であり解釈押し付け厨であり、所有欲であった。愛ではなかったのだ。
要するに、己の理想と1mmも違わぬ、「恋人」と題されたミラーピアスかジュエリーリングが欲しかっただけなのである。
愛→息→期待→板→頼りない→イルカ→解釈相違。
相手をかえりみず、自分自分自分で攻め過ぎた「い」の恋愛しりとりは、最終的に藤森が「いち抜け」。
2週間経過した現在、再会と再開の目処は双方たっていない。
「きっと、愛情のやり取りをしたかったんじゃない」
宇曽野が言った。
「あいつは自分だけが満足したかった。しりとりに勝ちたかっただけなのさ」
たまに居るんだよ、恋人をアクセサリーか貴金属か、綺麗な自分を見るための鏡としか思ってないやつ。
運と相性が悪かったんだよ。次の恋に専念しな。
宇曽野はパンパン、藤森の背中を叩いた。
「私はもう恋などしないよ、宇曽野」
パリパリパリ。アイスクリームのクリーム部分を食べ終え、コーンの処理にとりかかる藤森。
加元については既に吹っ切れているらしく、表情には苦悩も悲痛も無い。
「『愛情を貰っていたと思ったら、実は裏でディスり倒されていました』など、もう、まっぴらゴメンだ」
最後のひとくちを食べ終えると、残り十数分の昼休憩の中、扉を開け階段を駆け下りていった。
「もう、してると思うがなぁ?」
ひとり残された宇曽野は、藤森の消えていった扉を見ながら、ポツリ。
「鈍感なのやら何なやら」
吐いたため息は、晴れた東京の空気に溶けた。
「風邪以外の『微熱』っていうと、他には、何があるんだろうな……」
ネットによれば、37.5℃以上が「発熱」なので、それより下が「微熱」だろう、とのこと。
38℃は「高熱」らしい。日本の感染法上の定義だというが、事実かどうかは分からない。
で、3月22日あたりに一度風邪ネタ書いたこのアカウントで、「微熱」は何が書けるだろう。某所在住物書きはため息を吐き、天井を見上げた。
「……全然関係無いが、コロナ禍の初期、風邪薬のCMが少なかったような、気がしないでもないんよ」
ほらアレ。栄養ドリンクかな。「体調悪いけど、頑張らなきゃいけない!そんな時に!」みてぇなヤツ。
あれから数年だってよ。長いわな。物書きは再度息を吐いた。 で、今回のお題、どうしよう。
――――――
職場のゴマスリ係長、上司にゴマスリばっかりして自分の仕事は部下に丸投げな係長が、風邪で休んだ。
微熱ながら、発熱がみられたため、インフル拡大の近況を考えて自宅療養、とのことだった。
数ヶ月前、ゴマスリと仕事の丸投げが、職場のトップにバレて叱られてから、係長はだいぶ大人しくなったけど、性根は全然変わってないらしい。
というのも、今朝通勤途中、「微熱」のハズなのにマスクもつけず、缶ビール買ってコンビニから出てくる係長を、私と職場の先輩とで目撃したのだ。
あのさぁ(略)
「それでも診断書、画像で送ってきたらしいぞ」
良いよね有給気楽に使えて。 ねー。
同部署の仲間とウラミツラミなおしゃべりしてたら、先輩が決裁書類の提出から戻ってきた。
「本当に『微熱』で、『風邪』だとしたら、うつされては困るだろう。放っとけ」
かわりにホラ、お前の分。
先輩は少しだけ、ほんの少しだけ笑って、私とウラミツラミ仲間の机に何か置いた。
クッキーだ。小さなクッキーと、マカロンだ。
「課長が旅行に行ったらしい。ブラックフライデーで安売りしていた菓子屋があったから、土産だと」
「課長まで『微熱』で倒れたりするかな」
仲間ちゃんが気を利かせてコーヒー持ってきてくれたから、私も、本日のおやつのスティックポテト、早い話がじゃがベーを、小袋開けて3等分。
お昼まで、残り数分。ちょっと時間を繰り上げて、お先に休憩失礼することにした。
「にしても、世の中変わったよね。数年前まで『少し熱出しても気にせず職場に来い』だったのに」
「段々その頃に、戻り始めている気もするがな」
ポリポリ。じゃがべーつまむ先輩が言った。
「微熱でも出勤、微熱でも自宅療養。はてさてどちらが良いのやら」
「私は自宅療養したいけどゴマスリは出勤すべき」
「うつされるぞ。風邪だの何だの」
「それはヤダ、けど、ゴマスリはキライ」
「気持ちは分からないでもない」
「頑張った仕事、何回も横取りされたもん。私、絶対忘れないもん」
「それがバレて、厳重注意にはなっただろう」
あーだこーだ、あーだこーだ。
おしゃべりしてお菓子食べて、コーヒー飲んで。
月曜日の昼前としては最高のひととき。
時計を見ようと視線そらしたら、奥隣の部署の知らない誰かが、
少しだけ顔赤くして、額に手を当てて、奥部署の課長と何か話してた。
「ウチの職場もとうとう、か?」
先輩も、私が見てる光景に気付いたらしい。
「インフルはゴメンだぞ。まだ予防接種していない」
「『太陽の下』って言葉の第一印象が夏なのは、だいたい理由分かるけどさ。
『月の下』って言われても、そういえばいまいち、特定の季節と結びつきづらいよなって」
なんでだろうな。不思議だけど、俺だけかな。某所在住物書きはポツリ呟き、太陽と夏の妙な結びつきを引き剥がそうと、懸命な努力を続けていた。
今は冬である。一部地域は平地で雪が積もった。
東京の3日後が20℃超え予想だろうと、どこかで寝ぼけた桜が狂い咲こうと、今は冬である。
寒空の太陽の下はさぞ、さぞ……どうであろう。
「放射冷却?寒い?それか道路の雪が溶ける?」
ヤバい。分からん。物書きは首を大きく傾けた。
――――――
最近最近のおはなしです。雪国に雪が降った頃、紅葉や銀杏に雪がちょこん、積もる頃のおはなしです。
都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
その内末っ子の子狐は、東京から一歩も出たことがなくて、「一面真っ白の雪景色」なんて、テレビか絵本でしか、見たことがありません。
今晩は雪国の平地で積雪。夜のニュースの、画面いっぱいに、白をかぶった車やら木やら、いろんなものが、映ります。
「なんだかんだで、冬が来たなぁ」
あんなに暑かったのに。
ねぇ、かかさん。そうですね、ととさん。
一家団らん、美味しい美味しい鶏なんこつと鶏ヤゲンの野菜出汁スープを飲みながら、某病院で漢方医をしている父狐が言いました。
「ほら、見てごらん」
ニュースは雪積もる町の映像から、北海道の美しい雪原に切り替わりました。
「キタキツネだよ。遠い遠い北の国の、私達と少し違って少し同じ狐だよ」
テレビ画面には、黒い靴下模様を足につけた、おしゃれでモフモフな狐が1匹映っておりました。
晴れた雪原をじっと見下ろし、首を傾けて聞き耳をたて、ピョンと飛び跳ね鼻からズボリ!
ランチの哀れな野ネズミくわえて、遠く遠くへ走って消えてしまいました。
「ゆき!キタキツネ!」
おめめをキラキラ輝かせ、コンコン子狐叫びます。
「楽しそう!気持ちよさそう!」
テレビの真似して真っ白な、お茶碗の中のつやつやごはんをじっと見つめ、首を傾けて聞き耳をたて、
鼻先からズボリすると確実に母狐からピシャリ叱られるので、そこは、我慢しておきました。
子狐は思い浮かべます。
東京にも、美しい自然の残る場所があるそうです。
神社の森より深い森。神社の花畑より大きい花畑。
神社の庭より広い、どこまでも続く広い草原。
そこならきっと、このニュースの映像のように、雪が白く白く積もるに違いないのです。
青空と飛行機雲と太陽の下で、モフモフ冬毛をたなびかせ、モフモフ尻尾を振り回し、
光反射する真っ白の中を、どこまでも、どこまでも走り回るのです。
なんと美しく、楽しく、幸福なことでしょう!
でもまずは目の前の、美味しい美味しい晩ごはんを、お肉と軟骨と野菜とお米を胃袋の中へ収めましょう。
ちゃむちゃむちゃむ、ちゃむちゃむちゃむ。
お肉をかじって白米、スープを飲んで白米、母狐と父狐のコンコンおしゃべりを聞きながら白米。
子狐は狐の子供らしく、たっぷりのごはんをペロリたいらげると、なんだか眠くなってしまって、コロン。
幸せにスピスピ、すぐ寝息をたてました。
その夜コンコン子狐は、北海道か別の地域かサッパリ分かりませんが、
ともかくどこかの雪国の、雪原の夢を見ましたとさ。
もの言う子狐が、太陽の下で雪原を駆け回る想像をする、ちょっと苦し紛れなおはなしでした。
おしまい、おしまい。
「セーターは、うん、ぶっちゃけ静電気が恐ろしくてここ数十年着てねぇのよ……」
ところでその、セーターを脱ぐ際の静電気、ネット情報によると数千から数万ボルトらしいな。
そもそもクローゼットに今回の題目に合致する衣類を入れていない某所在住物書きである。
仕方がないので、ネット検索から、物語のネタを引っ張ってこようと画策したは良いものの、そもそも何の検索語句と合わせようか想像ができぬ。
「サジェスト検索も、おしゃれとか干し方とか、洗濯とかくらいしか出てこねぇ。……クソダサセーターの物語でも書きゃ良いのか?」
多分俺には少々難しいが?己の提案に己自身でツッコミを入れて、ため息。
今日も相変わらず物書きは途方に暮れる。
――――――
昨日、最高24℃で微妙に溶けてた職場の先輩が、今日はケロッと復活して、
だけどなんだか、夢見が悪かったらしくて、朝からすごく不思議そうな、寂しそうな、なんかエモそうな顔をしてた。
「どしたの?」
本日、先輩の部屋でいただく食費&調理費節約のシェアランチは、私が買ってきた半額豚こま肉と先輩が用意してた半額サラダを使った、コンソメ鍋。
タマネギは勿論だけど、意外とパプリカとかレタスとかからも出汁が出てて、おいしい。
シメはオートミールをブチ込んで、低糖質チーズリゾット風の予定だ。
「言っただろう。夢見が悪かった」
諸事情で今月最初に買い替えた冷蔵庫の鎮座するキッチンから、おいしそうなリンゴと柿と梨と、それからクリームチーズを持ってきた先輩。
夢の内容を聞く私に、ため息ひとつ吐いて言うには、
「セーター脱いでバッチバチの状態で、金属製のドアノブを掴まなければならない夢を見た、とかどうだ」
「顔に『この夢を実際に見たワケではありません』って書いてる」
「コレはコレで、悪い夢見ではあるだろう」
「なんかバチクソ変な夢とか?」
「変といえば、たしかに、変だった」
「怖い怪獣に襲われた?今の歳で?」
「デザートは、私の実家から来た果物に少しチーズを載せるやつで、構わないか」
「出た先輩の伝家の宝刀、話題チェンジ」
さくり、さくり、さくり。
リンゴと柿と梨が、半分の半分の半分の、そのまた半分、8等分のウサギさんか半月みたいに切られて、その上に白いクリームチーズが、ちょこん。
さわやかな、甘い果物の新鮮な香りが、鼻先で咲く。
ランチのお鍋食べてる途中だけど、どうにも待てなくて、勝手に梨チーと柿チーのひと切れをつまんだ。
「あっ。こら。つまみ食い」
甘くて、しょっぱい。
濃ゆいフルーツヨーグルトみたいな清涼感が、豚こま肉とコンソメで幸福だった口の中を、一気にデザートコースに模様替えした。
「分かった」
「ん?」
「先輩の実家から、果物と一緒にセーターも送られてきたけど、クソダサセーターだったって夢だ」
「……それもそれで嫌だな?」
セーターも怪獣も、変な夢も、どうでも良くなってきた私は、しょっぱい豚こま食べてサッパリな果物食べて、ちょっと野菜挟んでまた豚こま食べて。
バチクソに優勝な余韻に、じっくり浸った。
「ミカンもいけるかな。冬はミカンじゃん」
「ミカンは……私はクリームチーズより、カマンベールを合わせたいな。試食の店員がジャムを付けていて、美味かったんだ」
「かまんべーるに、じゃむ……?」
お肉と、野菜と、チーズと果物。それからジャム。
その日のシェアランチは、ワインか甘口ビールあたりが有っても良さそうなメニューと話題で、
だけど真面目な先輩の部屋にお酒のストックなんて無いから、
最終的にノンアルコール、強炭酸水で我慢になった。