かたいなか

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「愛が!需要過多!」
愛と平和、愛を叫ぶ、愛があれば何でもできる、愛言葉。類似の「恋」も含めれば、これで丁度10個目。
某所在住物書きとしては、しりとりの気分である。
あい→息→きたい→板→たよりない→イルカ→ 。
今までどの題目で、どのような物語を書いてきたか、すべて紹介すれば随分な文量となるだろう。

「『オキシトシンは「愛情」ホルモンと呼ばれているが、場合によっては攻撃性を誘発し得る』なんて、バチクソ初期に書いちまってるしな……」
他は何だろうね。昔愛情サイズなんてCM見た気もするが、アレ、今もあるのかな。
物書きはため息をつき、数ヶ月昔の過去投稿分を漁る。遠い過去のハナシであればコピペしても……

――――――

恋愛主題も祝10個。ネタの枯渇も否めない中からの、以下は苦し紛れな、愛情としりとりのおはなし。
冬間近な筈の11月最終週、都内某所の某職場。
某部署で主任をしている宇曽野という男と、その親友の藤森が、20℃超な昼休憩に屋上で、冷たいアイスクリームを持ち込みペロペロ。
穏やかに、談笑などしている。

「それこそ、加元がお前に寄せてた感情、『「い」で攻めるしりとり』だったんじゃないか?」
「は?」
「基本的に2人以上居ないと始まらないが、自分自分自分で攻め過ぎて、相手のことを考えず一点突破すると、相手から手痛い反撃を食らって全部自分に返ってくる。結果相手が消えてソレ自体ができなくなる」
「はぁ」

「攻める側を加元、相手側をお前で当てはめてみろ」
「………あっ、……なるほど」

つい2週間前、11月13日か14日付近まで、8年越しの恋愛トラブルに悩まされていた藤森。
元恋人を加元という。元カレ・元カノの、かもと。安直なネーミングセンスはご容赦願いたい。
8年前、藤森の容姿に惚れた加元に、
藤森がいざ惚れ返したところ、「ココが違う」「ソレがおかしい」と、あれよあれよの批判三昧。
表で笑顔を振りまきながら、加元はSNSの裏で散々に藤森をディスり倒した。
加元の恋に藤森は愛で報いようとしたが、
そもそも加元のその好意が、厳選厨であり解釈押し付け厨であり、所有欲であった。愛ではなかったのだ。
要するに、己の理想と1mmも違わぬ、「恋人」と題されたミラーピアスかジュエリーリングが欲しかっただけなのである。

愛→息→期待→板→頼りない→イルカ→解釈相違。
相手をかえりみず、自分自分自分で攻め過ぎた「い」の恋愛しりとりは、最終的に藤森が「いち抜け」。
2週間経過した現在、再会と再開の目処は双方たっていない。
「きっと、愛情のやり取りをしたかったんじゃない」
宇曽野が言った。
「あいつは自分だけが満足したかった。しりとりに勝ちたかっただけなのさ」

たまに居るんだよ、恋人をアクセサリーか貴金属か、綺麗な自分を見るための鏡としか思ってないやつ。
運と相性が悪かったんだよ。次の恋に専念しな。
宇曽野はパンパン、藤森の背中を叩いた。

「私はもう恋などしないよ、宇曽野」
パリパリパリ。アイスクリームのクリーム部分を食べ終え、コーンの処理にとりかかる藤森。
加元については既に吹っ切れているらしく、表情には苦悩も悲痛も無い。
「『愛情を貰っていたと思ったら、実は裏でディスり倒されていました』など、もう、まっぴらゴメンだ」
最後のひとくちを食べ終えると、残り十数分の昼休憩の中、扉を開け階段を駆け下りていった。

「もう、してると思うがなぁ?」
ひとり残された宇曽野は、藤森の消えていった扉を見ながら、ポツリ。
「鈍感なのやら何なやら」
吐いたため息は、晴れた東京の空気に溶けた。

11/28/2023, 4:24:36 AM