かたいなか

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「セーターは、うん、ぶっちゃけ静電気が恐ろしくてここ数十年着てねぇのよ……」
ところでその、セーターを脱ぐ際の静電気、ネット情報によると数千から数万ボルトらしいな。
そもそもクローゼットに今回の題目に合致する衣類を入れていない某所在住物書きである。
仕方がないので、ネット検索から、物語のネタを引っ張ってこようと画策したは良いものの、そもそも何の検索語句と合わせようか想像ができぬ。

「サジェスト検索も、おしゃれとか干し方とか、洗濯とかくらいしか出てこねぇ。……クソダサセーターの物語でも書きゃ良いのか?」
多分俺には少々難しいが?己の提案に己自身でツッコミを入れて、ため息。
今日も相変わらず物書きは途方に暮れる。

――――――

昨日、最高24℃で微妙に溶けてた職場の先輩が、今日はケロッと復活して、
だけどなんだか、夢見が悪かったらしくて、朝からすごく不思議そうな、寂しそうな、なんかエモそうな顔をしてた。

「どしたの?」
本日、先輩の部屋でいただく食費&調理費節約のシェアランチは、私が買ってきた半額豚こま肉と先輩が用意してた半額サラダを使った、コンソメ鍋。
タマネギは勿論だけど、意外とパプリカとかレタスとかからも出汁が出てて、おいしい。
シメはオートミールをブチ込んで、低糖質チーズリゾット風の予定だ。
「言っただろう。夢見が悪かった」
諸事情で今月最初に買い替えた冷蔵庫の鎮座するキッチンから、おいしそうなリンゴと柿と梨と、それからクリームチーズを持ってきた先輩。
夢の内容を聞く私に、ため息ひとつ吐いて言うには、

「セーター脱いでバッチバチの状態で、金属製のドアノブを掴まなければならない夢を見た、とかどうだ」

「顔に『この夢を実際に見たワケではありません』って書いてる」
「コレはコレで、悪い夢見ではあるだろう」
「なんかバチクソ変な夢とか?」
「変といえば、たしかに、変だった」
「怖い怪獣に襲われた?今の歳で?」

「デザートは、私の実家から来た果物に少しチーズを載せるやつで、構わないか」
「出た先輩の伝家の宝刀、話題チェンジ」

さくり、さくり、さくり。
リンゴと柿と梨が、半分の半分の半分の、そのまた半分、8等分のウサギさんか半月みたいに切られて、その上に白いクリームチーズが、ちょこん。
さわやかな、甘い果物の新鮮な香りが、鼻先で咲く。
ランチのお鍋食べてる途中だけど、どうにも待てなくて、勝手に梨チーと柿チーのひと切れをつまんだ。
「あっ。こら。つまみ食い」
甘くて、しょっぱい。
濃ゆいフルーツヨーグルトみたいな清涼感が、豚こま肉とコンソメで幸福だった口の中を、一気にデザートコースに模様替えした。

「分かった」
「ん?」
「先輩の実家から、果物と一緒にセーターも送られてきたけど、クソダサセーターだったって夢だ」
「……それもそれで嫌だな?」

セーターも怪獣も、変な夢も、どうでも良くなってきた私は、しょっぱい豚こま食べてサッパリな果物食べて、ちょっと野菜挟んでまた豚こま食べて。
バチクソに優勝な余韻に、じっくり浸った。
「ミカンもいけるかな。冬はミカンじゃん」
「ミカンは……私はクリームチーズより、カマンベールを合わせたいな。試食の店員がジャムを付けていて、美味かったんだ」
「かまんべーるに、じゃむ……?」

お肉と、野菜と、チーズと果物。それからジャム。
その日のシェアランチは、ワインか甘口ビールあたりが有っても良さそうなメニューと話題で、
だけど真面目な先輩の部屋にお酒のストックなんて無いから、
最終的にノンアルコール、強炭酸水で我慢になった。

11/25/2023, 3:49:47 AM