かたいなか

Open App

「『太陽の下』って言葉の第一印象が夏なのは、だいたい理由分かるけどさ。
『月の下』って言われても、そういえばいまいち、特定の季節と結びつきづらいよなって」
なんでだろうな。不思議だけど、俺だけかな。某所在住物書きはポツリ呟き、太陽と夏の妙な結びつきを引き剥がそうと、懸命な努力を続けていた。

今は冬である。一部地域は平地で雪が積もった。
東京の3日後が20℃超え予想だろうと、どこかで寝ぼけた桜が狂い咲こうと、今は冬である。
寒空の太陽の下はさぞ、さぞ……どうであろう。
「放射冷却?寒い?それか道路の雪が溶ける?」
ヤバい。分からん。物書きは首を大きく傾けた。

――――――

最近最近のおはなしです。雪国に雪が降った頃、紅葉や銀杏に雪がちょこん、積もる頃のおはなしです。
都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
その内末っ子の子狐は、東京から一歩も出たことがなくて、「一面真っ白の雪景色」なんて、テレビか絵本でしか、見たことがありません。

今晩は雪国の平地で積雪。夜のニュースの、画面いっぱいに、白をかぶった車やら木やら、いろんなものが、映ります。
「なんだかんだで、冬が来たなぁ」
あんなに暑かったのに。
ねぇ、かかさん。そうですね、ととさん。
一家団らん、美味しい美味しい鶏なんこつと鶏ヤゲンの野菜出汁スープを飲みながら、某病院で漢方医をしている父狐が言いました。
「ほら、見てごらん」
ニュースは雪積もる町の映像から、北海道の美しい雪原に切り替わりました。
「キタキツネだよ。遠い遠い北の国の、私達と少し違って少し同じ狐だよ」

テレビ画面には、黒い靴下模様を足につけた、おしゃれでモフモフな狐が1匹映っておりました。
晴れた雪原をじっと見下ろし、首を傾けて聞き耳をたて、ピョンと飛び跳ね鼻からズボリ!
ランチの哀れな野ネズミくわえて、遠く遠くへ走って消えてしまいました。

「ゆき!キタキツネ!」
おめめをキラキラ輝かせ、コンコン子狐叫びます。
「楽しそう!気持ちよさそう!」
テレビの真似して真っ白な、お茶碗の中のつやつやごはんをじっと見つめ、首を傾けて聞き耳をたて、
鼻先からズボリすると確実に母狐からピシャリ叱られるので、そこは、我慢しておきました。

子狐は思い浮かべます。
東京にも、美しい自然の残る場所があるそうです。
神社の森より深い森。神社の花畑より大きい花畑。
神社の庭より広い、どこまでも続く広い草原。
そこならきっと、このニュースの映像のように、雪が白く白く積もるに違いないのです。
青空と飛行機雲と太陽の下で、モフモフ冬毛をたなびかせ、モフモフ尻尾を振り回し、
光反射する真っ白の中を、どこまでも、どこまでも走り回るのです。
なんと美しく、楽しく、幸福なことでしょう!

でもまずは目の前の、美味しい美味しい晩ごはんを、お肉と軟骨と野菜とお米を胃袋の中へ収めましょう。

ちゃむちゃむちゃむ、ちゃむちゃむちゃむ。
お肉をかじって白米、スープを飲んで白米、母狐と父狐のコンコンおしゃべりを聞きながら白米。
子狐は狐の子供らしく、たっぷりのごはんをペロリたいらげると、なんだか眠くなってしまって、コロン。
幸せにスピスピ、すぐ寝息をたてました。
その夜コンコン子狐は、北海道か別の地域かサッパリ分かりませんが、
ともかくどこかの雪国の、雪原の夢を見ましたとさ。

もの言う子狐が、太陽の下で雪原を駆け回る想像をする、ちょっと苦し紛れなおはなしでした。
おしまい、おしまい。

11/25/2023, 2:24:06 PM