かたいなか

Open App
10/12/2023, 4:20:34 AM

「かーてん……?」
アレか、語源のラテン語、「覆う」だの「器」だの、「人の和」だのの意味があるらしい「Cortina」のハナシでもすりゃ良いのか。
某所在住物書きは部屋のカーテンをパタパタ。揺らしながら葛藤して苦悩した。
「それとも、なんだ、『皆さんカーテンって、どれくらいの頻度で洗ってますか』とか……?」

不得意なエモネタでこそない今回。とはいえ、窓覆うこの布について何を書けるものか。
ひとまず物書きはネットの海に、カーテンの語源と種類と値段の幅を問うて、物語を組もうと画策する。

――――――

最近最近の都内某所、某稲荷神社に住む子狐は、不思議なお餅を売り歩く不思議な不思議な子狐。たまに「誰か」の夢を見ます。
それは神社にお参りに来た誰かの過去と悔恨。お賽銭を入れた誰かの現在と祈り。お餅を買った誰かの未来と予知。
楽しそうな子供時代の夢もあれば、美味しそうな旅行中の夢、寂しそうな仕事中の夢もあります。
今夜の夢は、「誰か」というより、「どこか」の夢の様子。コンコン、ちょっと覗いてみましょう。

『とうとう、私の田舎にも、「再生可能エネルギー」の波が来たらしい』
最初の夢は、ごく最近の都内某アパート。お餅を売る子狐の、唯一のお得意様のお部屋です。
お得意様、ふわふわ湯気たつ緑茶を片手に、夜の窓の外を見ております。
『あのミズアオイの花咲く田んぼが、メガソーラーにでもなったか』
お得意様に尋ねるのは、お得意様の親友さん。
どうやらシェアディナーの最中の様子。鶏肉がぼっち用鍋の中で、コトコト。美味しそうです。

『風力だ。山の上に、デカい風車だとさ』
寂しげに、でも希望をもって、お得意様が答えます。
『需要、経済、放置山林の活用。仕方ないことだ。分かっている。……それに、時代がどれだけ「田舎」を壊そうと、きっと、残る「何か」は、在ると思うよ』

ぱたり、ぱたり。
はためく窓のカーテンが、次の夢を連れてきます。

『今日の例のお客様、パないよ……』
次の夢は、同じ部屋の、違う時期。お得意様の後輩が、ゆっくり畏敬の念を含んで首を振ります。
前の夢でぼっち鍋のあった場所に、今回は低糖質のキューブケーキが複数個。
小ちゃくて、カラフルで、これまた美味しそうです。
『知らない言語でまくし立てて、クレーマーさん撃退しちゃったもん。きっと良識ある外人さんだよ……』

『あの客の話の前半、通訳してやろうか』
対する部屋の主、コンコン子狐のお得意様は相変わらず。平坦な声して冷たい緑茶をひとくち。
どうやら、暑い夏の頃のようです。
『「お前、いい歳して、こんな朝から、ぎゃーぎゃーわめくものじゃない。他の客の子供がお前を見て、怖がっているのが分からないのか」だ』

『なんでわかるの』
『私の故郷の方言だ』
『ふぁ……?』

ぱたり、ぱたり。
はためく窓のカーテンが、次の夢を連れてきます。

『買い過ぎた……』
最後の夢は、更に過去に飛んだ同じ場所。同じ部屋。
『それにしても、なんだったんだ、あの子狐。そもそも子狐……?』
ぼっち鍋やキューブケーキがあった場所には、握りこぶし1個くらいの大きさのお餅が合計10個。
どうやら、子狐とお得意様が初めて出会って、初めてお餅を買ってもらった、3月3日のその後の様子。
途方に暮れて、おでこを片手で押さえるお得意様。
でももう片方でお餅を1個、つまんで噛んで、ちょっと幸せそう。いや、泣いてそう……?

『懐かしい、味がする』
またひと噛み。お得意様が言いました。
『あの味だ。「田舎」の味だ。時代に壊されて、もう無くなったと思っていたのに』
壊されても、崩されても、残るものは在るのかもしれない。お得意様はまたひとくち、お餅を齧りました。

ぱたり、ぱたり。そろそろ頃合い。
窓のカーテンがはためいて、今日の夢は、おしまい、おしまい。

10/11/2023, 6:05:30 AM

「涙が涙腺から出てくる仕組み、その涙が出た経緯、そもそも涙が目から出ることによる体への効果……」
まぁ、まぁ。ひねくれて考えれば、今回のお題も、誤解曲解多々可能よな。某所在住物書きはスマホを凝視しながら言った。
画面にはソーシャルゲームのガチャ画面と、「石が足りません」の無慈悲。
約250連であった。すり抜けであった。

「大丈夫」
まだ泣く痛みではない。物書きは無理矢理笑った。
「数年前溶かした有償石より傷は浅い」

――――――

私の職場に、そこそこ長い付き合いの先輩がいて、その先輩はなかなかに低糖質低塩分料理が上手。
食材とか電気代とかを、半々想定で払ったり持ってったりすると、ヘルシーなわりにボリューミーな、ランチだのディナーだのをシェアしてくれる。
いつから始まったか、どうやって始まったかは、不思議とよく覚えてる。
コロナ禍直前。先輩の、個チャのメッセージだ。

『飯を作り過ぎた。食いに来ないか』

当時私は職場に来たばっかりの1年生。
転職先が、ブラックに限りなく近いグレーな職場だって少しずつ気付き始めて、
私も正規雇用になったらノルマ課せられるんだ、
私もあと数ヶ月したら、売りたくない商品無理矢理売らなきゃいけなくなるんだ、
って、ドチャクソに、疲れて、参ってる頃。

副業禁止のくせに、非正規は安月給。
アパートの家賃とか電気代とか、その他諸々でキッツキツだったから、
後先考えないで、食費とガス代節約の目的で、先輩に教えてもらった住所の部屋を訪ねた。
それが最初のシェアごはんだった。

「ウチの仕事は、人間関係はつらいか」
たしか、一番最初のメニューはチーズリゾット。
お米の代わりにオートミール、牛乳とかコンソメとかの代わりにクリームポタージュの粉末スープを使った、簡単に作れる低糖質レシピだ。
「お前の代わりも、勿論私の代わりも、ウチの職場には大勢いる。部下を消耗品程度にしか思っていない上司は事実として居るし、使い潰されて病んで辞めていく新人など、何人も見てきた」
味も香りも、心の疲労のせいで覚えてない。付け合せも何かあった気がするけど、記憶にない。

「過剰で長いストレスは、本当に、科学的な事実として、頭にも体にもすごく悪い。
無理だと思ったら、長居をするな。遠くへ逃げて、次を探せ。心の不調が体に出てくる前に」
ただ、
参っちゃってる私を見通した先輩の、言葉の平坦だけど優しい透過性に、ちょっと、興味を持ったのは確かだった。
「私が言いたいのはそれだけだ。……悪かったな。突然チャットで呼びつけて、美味くもない自炊飯に付き合わせて」

で、リゾットをスプーンですくって、とろーり溶けるチーズを眺めて、口に入れて、
美味しい、あったかい、
これをわざわざ、私のために作ってくれたんだ
って思った途端、突然、ぶわって涙が出てきて。
「席を外した方が良いか?それとも、ここでこのまま、私が一緒に飯を食っても構わない?」
ボロボロ泣いた理由は、正直よく分かんなかった。

「ここに居て」
これが、先輩とのシェアランチだの、シェアディナーだのの始まり。最初の最初。
「また、ごはん食べに来ても、いい?」
それから数年、悩み相談にせよ生活費節約にせよ、何回も何回も。
先輩の部屋に現金だの食材だの持ち込んで、低糖質低塩分メニューを作ってもらっては、一緒に食べてる。

「次回からは100円から500円程度、材料費の半額分、別途負担してもらうが」
その先輩がどうも、ちょっとした勘でしかないけど、近々東京を離れて、雪国の田舎に帰っちゃう、かもしれなかった。
「それでも良いのであれば。ご自由に」
原因は、先輩に最近やたら粘着してくる、8年前先輩の心をズッタズタに壊した元恋人。
いつの世も、ヨリ戻したい縁切りたいの色恋沙汰って、唐突だし、理不尽だと思う。

10/10/2023, 5:30:35 AM

「これ、同名の歌とか、その歌使ったアニメのハナシとかじゃねぇだろうな?」
某忍者アニメにせよ、デフォルメなロボットアニメにせよ、俺観てねぇし聴いてねぇから知らんぞ。
某所在住物書きは今回の題目を、その通知を見て頭をガリガリ掻いた。
今日も相変わらずだ。どこに着眼し、何をひねり、どう書くか見当がつかない。
「そういや、デマか誰かの持論か知らねぇが、『大人になって時間が早く感じるの、子供の頃よりココロオドル経験が少ないから』、みたいなのが……」
気のせいかな、事実かな。物書きは天井を見上げ、今日もため息を吐く。

――――――

3連休が終わって、仕事の1週間が始まった。
東京は昨日、どうしてこうなったってくらい突然気温が下がったから、私は慌てて、秋物を重ね着したり、晩ごはんをお鍋にしたり。
そんな3連休の次の日。火曜日。

「呟きックスのフォロワーがね、」
昨日より7℃くらい高くなったお昼、職場の休憩室。
「地方に、旅行に行ったらしいんだけど、たった1〜2年でガラっと変わっちゃったって」
長い付き合いの職場の先輩と、いつものテーブルに座って、お弁当箱広げて、コーヒー飲んで、
誰が観てるんだか、誰も観てないんだか分からないテレビのニュースをBGMに、おしゃべり。
「山と田んぼに癒やしてもらおうって、心躍らせてバスに乗ったら、目的地に着く前に現実に無理矢理引き戻されて、スン……ってなっちゃったって」

雪国の田舎出身っていう先輩。私のハナシに思うところがあったみたいで、アッ察し、みたいな顔してる。
「田んぼが埋め立てられて、観光客用の施設か飲食店でも増えていたか」
先輩が理由を当てにきた。
「それとも、ビルでも建った?」

「なんかね、街の中は、観光客が増えただけで、なんにも変わってなかったんだってさ」
「ふむ」
「自然が見たいのと、そこ生まれの文豪が出るアニメが好きなのとで、ほぼ毎年参拝してるらしいの」
「ふむ……?」

「山の上に、いつの間にか風力発電の風車がニョキニョキ生えてて、それ見えちゃったって」
「それ私の故郷ではないかな」

まぁ、まぁ。理由や事情は、電力会社側にも土地権利者側にも。色々な。だが景観や観光客としてはな。
先輩はそれこそ、うん……って顔して、自分のスープジャーを突っつく。
思うところが、すごくあるみたい。
「いい街だよ。花と草と、山野草しか無いけれど」
先輩がため息を吐いた。
「ただ、時代と、経済と、需要がな。どうしても。

ところでそんな辛気臭い話題より、それこそこういう、心躍る方はどうだ」

ぽん。
先輩がテーブルに、和菓子の紙包みを置いた。
開けてみろよ。
両眉少し上げた先輩に促されて包みを開いてみたら、中に入ってたのは、淡い色した大福3個。
桃色、白、若草色。白を手にとって半分くらい食べたら、中にミカンとホイップクリームと、それから、素朴で懐かしい味のこしあんが入ってた。

「昨日、ひいきにしている茶葉屋の子狐が、私の部屋に入ってきてな」
先輩はニヨリ笑って、スマホの画面を私に見せた。
「保護して世話した例として、店主から」
表示されてたのは、先輩が常連してるお茶っ葉屋さんの商品ページ。テーブルに置いてる桃色と白と若草色と、他にも数種類、優しい色がズラリ。
商品名は、「【新米入り】キツネの神社のコンコンフルーツ大福」。
1個、税込み555円。祈祷料込みだと5550円。

「景色が変わろうと、時代が『田舎』を崩そうと、」
先輩が、あったかそうな緑茶を、保温ボトルから紙コップに淹れながら言った。
「それでも、残るものは在ると、私は思いたいよ」
あんこの甘味を、緑茶のサッパリが奥に流していく。
555円か、5550円の方か知らないけど、
先輩から貰った大福は、週はじめの気だるい心をほっこり温めて、ちょっぴり踊らせてくれた。

10/9/2023, 5:44:58 AM

「お題に従って文章書く、っつー縛りからの『つかの間の休息』って意味なら、まぁ、こちとら自由に書かせてもらうがな」
どうせ書いたところで、自分の納得いくハナシは時間内に書けねぇし、投稿期限も残り数時間なんよ。
某所在住物書きは今朝の地震と津波に関する情報を、スマホとテレビで追いながら、先程まで書いていた文章を白紙に戻した。
誰が3連休の最終日に、防災に関する真面目ネタなど読みたいと思うものか。
「……文才欲しいわなぁ……」
ため息、頬杖、頭ガリガリ。今日も物書きは物語を書いて消して書いて、また消す。

――――――

昼の都内某所、某アパートの一室。
雨により急降下したままの気温を、その数値の結果を、窓越しに眺めながら、
薄い保温生地、いわゆる着る毛布のコートを羽織り、部屋の主が温かい緑茶を飲んでいる。
名前を藤森という。
値段<価値か、値段=異常かで有名な家具ブランド。最高グレードの保温性は、藤森の故郷、氷点下の風吹き付ける雪国で実証済み。
コレは確実に、良い買い物だった。
藤森は椅子に座り、毛布コートの性能に、あらためて満足して茶を飲んだ。

雨の東京である。防音防振の整った室内に、騒音だの喧騒だのはほぼ届かない。
ただ空が曇り、階下地上の人を車を街路樹を、等しく濡らしている。
3連休の3日目。十数時間後には外に出るなり、あるいは在宅ワークなり、また仕事が始まる。
今日はまさしく、明日に対する「束の間の休息」と言えよう。

「もうふ、あったかい、あったかい……」
見よ。静寂の室内、保温毛布の上では、ものを喋る子狐が団子になって暖を、

……「ものを喋る子狐」?

「おまえ、どこから入ってきた?」
休息終了のお知らせ。
静寂の室内、保温毛布の上で、不思議な不思議な子狐が、まんまる団子になり暖を享受している。
毛は雨でしっとり濡れ、ゆえに周囲の毛布の色が、わずかに濃い。

「おそと」
コンコンコン。
「エキノコックス・狂犬病対策済み」の木札を下げたこの子狐は、アパート近所の、森深き稲荷神社在住。
そして藤森が「お得意様」としてひいきにしている茶葉屋の、女店主がよく抱えている、いわば顔見知り。
こっくりこっくり、頭を揺らす子狐は、じき眠ってしまいそうなほど幸福に、目を閉じた。

何がどうなっているのか。
細かいことを気にしてはいけない。
どうせ多々投稿されている今回の題目の、ありふれた物語のひとつである。たまにこんなトンデモ展開が登場しても良かろう。

「そうじゃなくて。どうやって入ってきた。ドアの鍵は?いつもなら、お前がインターホンを鳴らして、私が鍵を開けてから、」
「さむかったの。つめたかったの」

あーあー。こんなに濡れて。こんなに濡らして。
藤森は子狐の首根っこをつかみ、フカフカのタオルに下ろして、くしゃくしゃポンポン。包んで優しく叩き拭く。
毛布は洗濯だ。アパート内のコインランドリーを使えば、なんとかなろう。

「タオルより、さっきの毛布がいい」
「我慢しなさい」
キャウキャウキャウ、キャウキャウキャウ。
遊んでもらっていると勘違いしている子狐の鳴き声は、ただ嬉しそうで、しかし眠そうで、
途中、コテン、突然電池が切れる。
「茶葉屋に保護の連絡を入れておくか……」
幸福に寝落ちた子狐を見下ろし、ため息を吐いて、藤森はまた、濡れた毛を拭く作業に戻った。

10/8/2023, 3:26:41 AM

「物理的な力を込めるか、なんかオマジナイ的な力にするかで、まず変わってくるんだろうな」
あと「声に力を込める」とか言うのもアリか。某所在住物書きは今回の題目の使い方を、あれこれ思案しながらポテチをかじった。

身体、祈願、声量。他には何があるだろう。加齢により固くなった頭では、奇抜なネタは時間がかかる。
「無難が安定かな……」
次の題目配信まで、残り6時間と40分程度。
物書きはネットの海に活路発見を頼り、ひとまず「力を込める」の検索結果を辿った。

――――――

3連休の真ん中。「そばの日」の都内某所、某アパートの一室。
食費および光熱費のシェアと節約を名目に、某ブラックに限りなく近いグレー企業の職員が、その先輩の部屋で、ふたりして昼食の準備をしている。

「キクザキイチゲだ」
「そういう名前だっけ」
「7ヶ月前、3月1日にお前に見せた花のことだろう。それなら、キクザキイチゲ。『追憶』の花だ」

雪国の田舎出身という、部屋の主、藤森。
後輩から花の名前を尋ねられ、答えながら小さめのすりこぎ棒で、同じく小さめのすり鉢をゴリゴリ。
実家から送られてきたソバの実を、力を込めて製粉し、蕎麦粉にしているのだ。
本日のランチは手作りガレット。蕎麦粉と食材は藤森が用意し、材料代の半分とすり鉢とすりこぎ棒を後輩が負担した。

「それめっちゃ疲れそう」
「ストレス解消に最高だぞ」
「ホント?」
「ノルマ反対。打倒悪しき昔のパワハラ。いい加減にしろクソ上司」
「わぁ。蕎麦粉が恨みにまみれてる」

室内は完全に最低限、最小限の家具家電のみ。
感情希薄なフィクションキャラクターの、希薄さを際立たせるために、その人物の居住スペースからベッド以外のオブジェクトをすべて撤去してしまう設定も多々見受けられるが、それに数歩〜十数歩迫る程度。

部屋を引き払おうと藤森が思えば、すぐにでも可能そうである。
事実、藤森はそれを今月末、実行しようと画策中である。
諸事情あってこの藤森、昔々の初恋相手から、8年逃げ続けたは良いものの、最近居住区がバレて、
その初恋相手に、職場に突撃訪問され、住所特定のため探偵まで差し向けられた始末。
『職場にこれ以上迷惑はかけられない』。
藤森は決断し、誰にも相談せず、すべてを心の内に秘めて行動した。
結果が、元々物の少なかった藤森宅の、更に生活感が希薄化した現状だった。

勿論それに気づかぬ後輩ではない。
ただ、藤森が自分からすべてを言い出すまで、後輩のよしみで待ってやっている最中である。

「私も蕎麦粉ゴリゴリしたい」
「お前もなにか、ストレスが?」
「どこぞの誰かさんが、全部自分ひとりで背負い込んで、なんにも私に言ってくれないから」
「なんだって?」
「なんでもないです。なんでもないでーす」

ふぁっきん初恋さん。
ふぁっきんストーカー数歩手前な初恋さん。
ふぁっきん昔先輩の心をズッタズタにしたくせに今更ヨリ戻そうとしてるストーカー数歩手前な初恋さん。
ゴリゴリゴリ。後輩は力を込め、すりこぎ棒を回す。
「……随分溜まってるな?」
気迫か怒気か、ただならぬ心の業火に、藤森は開いた口が塞がらぬ。
ただその業火の先に、よもや自分がいるのではと、静かに戦慄し、目を細めるのであった。

「大丈夫。先輩だけど先輩じゃないから」
「結局私じゃないか」
「だから、先輩だけど、先輩じゃないの」
「つまり私だろう」

「たしかにストレス解消なるね。コレ」
「んん……?」

Next