かたいなか

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「これ、同名の歌とか、その歌使ったアニメのハナシとかじゃねぇだろうな?」
某忍者アニメにせよ、デフォルメなロボットアニメにせよ、俺観てねぇし聴いてねぇから知らんぞ。
某所在住物書きは今回の題目を、その通知を見て頭をガリガリ掻いた。
今日も相変わらずだ。どこに着眼し、何をひねり、どう書くか見当がつかない。
「そういや、デマか誰かの持論か知らねぇが、『大人になって時間が早く感じるの、子供の頃よりココロオドル経験が少ないから』、みたいなのが……」
気のせいかな、事実かな。物書きは天井を見上げ、今日もため息を吐く。

――――――

3連休が終わって、仕事の1週間が始まった。
東京は昨日、どうしてこうなったってくらい突然気温が下がったから、私は慌てて、秋物を重ね着したり、晩ごはんをお鍋にしたり。
そんな3連休の次の日。火曜日。

「呟きックスのフォロワーがね、」
昨日より7℃くらい高くなったお昼、職場の休憩室。
「地方に、旅行に行ったらしいんだけど、たった1〜2年でガラっと変わっちゃったって」
長い付き合いの職場の先輩と、いつものテーブルに座って、お弁当箱広げて、コーヒー飲んで、
誰が観てるんだか、誰も観てないんだか分からないテレビのニュースをBGMに、おしゃべり。
「山と田んぼに癒やしてもらおうって、心躍らせてバスに乗ったら、目的地に着く前に現実に無理矢理引き戻されて、スン……ってなっちゃったって」

雪国の田舎出身っていう先輩。私のハナシに思うところがあったみたいで、アッ察し、みたいな顔してる。
「田んぼが埋め立てられて、観光客用の施設か飲食店でも増えていたか」
先輩が理由を当てにきた。
「それとも、ビルでも建った?」

「なんかね、街の中は、観光客が増えただけで、なんにも変わってなかったんだってさ」
「ふむ」
「自然が見たいのと、そこ生まれの文豪が出るアニメが好きなのとで、ほぼ毎年参拝してるらしいの」
「ふむ……?」

「山の上に、いつの間にか風力発電の風車がニョキニョキ生えてて、それ見えちゃったって」
「それ私の故郷ではないかな」

まぁ、まぁ。理由や事情は、電力会社側にも土地権利者側にも。色々な。だが景観や観光客としてはな。
先輩はそれこそ、うん……って顔して、自分のスープジャーを突っつく。
思うところが、すごくあるみたい。
「いい街だよ。花と草と、山野草しか無いけれど」
先輩がため息を吐いた。
「ただ、時代と、経済と、需要がな。どうしても。

ところでそんな辛気臭い話題より、それこそこういう、心躍る方はどうだ」

ぽん。
先輩がテーブルに、和菓子の紙包みを置いた。
開けてみろよ。
両眉少し上げた先輩に促されて包みを開いてみたら、中に入ってたのは、淡い色した大福3個。
桃色、白、若草色。白を手にとって半分くらい食べたら、中にミカンとホイップクリームと、それから、素朴で懐かしい味のこしあんが入ってた。

「昨日、ひいきにしている茶葉屋の子狐が、私の部屋に入ってきてな」
先輩はニヨリ笑って、スマホの画面を私に見せた。
「保護して世話した例として、店主から」
表示されてたのは、先輩が常連してるお茶っ葉屋さんの商品ページ。テーブルに置いてる桃色と白と若草色と、他にも数種類、優しい色がズラリ。
商品名は、「【新米入り】キツネの神社のコンコンフルーツ大福」。
1個、税込み555円。祈祷料込みだと5550円。

「景色が変わろうと、時代が『田舎』を崩そうと、」
先輩が、あったかそうな緑茶を、保温ボトルから紙コップに淹れながら言った。
「それでも、残るものは在ると、私は思いたいよ」
あんこの甘味を、緑茶のサッパリが奥に流していく。
555円か、5550円の方か知らないけど、
先輩から貰った大福は、週はじめの気だるい心をほっこり温めて、ちょっぴり踊らせてくれた。

10/10/2023, 5:30:35 AM