かたいなか

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10/7/2023, 4:39:12 AM

「丁度3月1日、アプリ入れて最初に書いたハナシに出した花の花言葉が、『追憶』だったわ」
犬泪夫藍(たのしいおもいで)、蕎麦(なつかしいおもいで)、それから菊咲一華(ついおく)。
まったく、過ぎたハナシと花言葉は相性が良いねぇ。某所在住物書きはネット検索を辿りながら呟いた。

マイヅルソウなどは「清純な少女の面影」だという。春咲く小さな花に、恋した誰かの「過ぎた日」を想起すれば、これでひとつエモネタが完成であろう。
「反対は『汚れっちまった野郎の行く末』?
……俺じゃねぇよ。誰だ無言で指さしてんの」
アプリのインストールから、はや220日。
過ぎた220日前を思いながら、今日も物書きは苦し紛れにネタを組む。

――――――

三連休初日。東京はこれから段々曇ってきて、連休最後の月曜日には、降水確率が80%って予報。
どこもかしこも、インフルがどうとか、発熱がどうとかで、薬局も薬の在庫が無いって聞いたから、
風邪貰ってきてもイヤだし、たまには部屋でおとなしく、出費節約でもしようと思って、
ひとまず自分の部屋の掃除を、

「あっ、」
しようと思って、積読置き場の本棚の、上を小さなパタパタホウキで叩いたら、
「やだ、懐かしい」
棚の上から、ピラピラ、10cm四方のワックスペーパーが数枚落ちてきた。

花の写真が薄くプリントされた、オリジナルのワックスペーパーだ。
昔々、数ヶ月前、具体的には4月18日、
私の職場の、雪国の田舎出身っていう先輩が、その紙に小さなキューブチョコを、キャンディーみたいに包んで渡してくれた。
チョコは当然、とっくの昔に食べちゃったけど、包み紙の方はどうしても捨てられなくて、
いつかキレイに飾ろうって、折り目を直して、そのまま放ったらかしてた。
「すっかり忘れてた。ここに置いてたんだ」

スミレ、フクジュソウ、カタクリ。それから名前を忘れちゃった黄色とか白とか、ともかく春の花がキレイな包み紙。
先輩は「どこで買ったか忘れた」って、平坦な表情でとぼけてた。
本当はわざわざ、プリントサービスやってる人に頼んで、作ってもらったんだ。
私が「先輩の故郷の花を見たい」とか、「故郷に行ってみたい」とか言ったから。

「……この花、なんて名前だっけ」
カサリ。
随分昔に過ぎちゃった、季節のわりに暑かった春の日を思いながら、懐かしく包み紙の数枚を見てたら、
白いタンポポみたいな、フクジュソウみたいな、名前を思い出せない花が目に入ってきた。

『私の故郷はね』
3月最初、1日に見せてもらった花だ。懐かしい思い出がもうひとつ、頭にふわり浮いてきた。
『雪が酷くて、4月直前にならなければ、クロッカスも咲かなくて』
昼の休憩時間、美味い低糖質ケーキを見つけたから奢ると手を引かれて、外出した先のオープンカフェ。
先輩は虚空を見たまま、故郷の春を語ってくれた。
『今頃はまだ、妖精さんも雪の中だ』

「春の妖精」。春の最初から咲き始めて、夏来る前に土の中に帰る花。数十種類ある内の、そのひとつ。
「追憶」を花言葉に持つ、白と青紫の花畑。
あの頃がなんとなく懐かしくって、プリントされた花を見ながら、ちょっとだけ、しんみりした。
この紙をくれた先輩とは、近々すぐ、会う予定だから、その時「あの花なんだったっけ」って、聞いてみようと思う。

10/6/2023, 1:58:22 AM

某所在住物書きは過去投稿分の題目を確認した。
「星」はこれで5度目、「夜」も含めれば10、「空」も含めれば15。1年365回出題される題目の、5%である。ソシャゲのガチャにおける最高レア排出率よりは高かろう。

「もうだいぶ、ネタ使い尽くしちまったのよな。
池に落ちる雨を夜空の星空に見立てるとか、花畑の黄色い花を星に例えるとか、5枚花弁の桜吹雪は流れ星にしたし。普通に夜空を見上げるネタは昔々とうに文章にしちまったし。そこからの『星座』か」
さて、面白くなってまいりました。物書きは天井を見上げ、途方に暮れる。
「現在の星座とピアノの鍵盤の数が一緒ってのは?……どう書けと?」

――――――

そういえば、冬の星座のオリオン座、ベテルギウスが「そろそろ爆発して無くなるかも?!」とか騒がれていましたが、
ネットによれば、最近、「まだ10万年くらいはどうも安泰かもよ」なんて分析結果が、出ているとか、気のせいとか。
というのは全然関係の無い、大粒の涙を星座に例える、苦し紛れをご用意しました。

法学疫学付け焼き刃なおはなしです。ほぼほぼフィクションでファンタジーなおはなしです。

時期は数ヶ月前、あの暑かった春から夏の頃。
都内某所の某稲荷神社に、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
家族の中には末っ子の、コンコン子狐もおりまして、
子狐は狐ですが、ちゃんと白米と味噌汁と、よく加熱したお肉と野菜と山菜を食べるため、エキノコックスなんかへっちゃらです。
しかし子狐はイヌ科なので、狂犬病予防法第5条、同施行規則第11条の類推適用により、年1回、狂犬病ワクチンのお注射を、受ける必要があるとかないとか。

海外では、狐が狂犬病にかかり、安楽死の処置をされたというニュースがあるそうです。
自分がかからず、人間にうつさず、なにより法律で、そして物書きの「涙→星座」の苦し紛れのせいで、
父狐の「美味しいもの食べに行こう」の口車にのせられて、化け狐の対応もしてくれる動物病院へ、電車に揺られタタンタタン、子狐とうとうやって来ました。

「やだっ!注射やだっ!」
ギャンギャン。注射を準備する化け狸の獣医さんに、小狐は吠えて威嚇し、暴れます。
「ウカサマ、ウカノミタマのオオカミサマ!しもべの声をお聞きください!しもべをいじめる悪いやつを、どうかやっつけてください!」
ギャンギャンギャン。子狐は必死に、チカラいっぱい訴えますが、だーれも助けてくれません。
おお。規則よ。汝、法の名を持つ理不尽よ。
しゃーない。ワンコなら誰しも通る道です。多分。

わんわんわん、ギャンギャンギャン。
子狐があんまり泣くもので、そしてあんまり暴れるもので、大粒の涙が診察台に、パタパタ、ポタポタ、落ちてゆきます。
あっちに一粒落っこちて、こっちに二粒落っこちて、それらが天井のライトで照らされて。
そちらに涙の大三角、それから涙の北斗七星。
診療台に、落涙の星座がいっぱい、いっぱい。あらキレイ。

「ハイ大丈夫ですよー、すぐだからねー、泣かない泣かない頑張るよー」
キャン、キャン。小狐が吠え疲れ、おとなしくなると、とうとう細い銀の針が、小狐のおしりに……

10/5/2023, 8:23:47 AM

「……『探しものは』の歌しか思い浮かばねぇ」
今日のお題、何ですか。難しいお題ですか。
頭の中も、本棚とかも、探したけれどネタが出ないので、「お題無視」は、ダメですか。
某所在住物書きは昔々の歌の、カバー曲を聴きながら、残り2時間を切った文章投稿期限で何を書こうと葛藤していた。
9月の「踊るように」以来の踊りネタである。
ダンス必修化以前、とっくの昔に義務教育を卒業した世代である。「踊りませんか」と言われて、何の知識・経験が役に立とうか。

「今の時期の『踊る』って、盆踊りは終わっちまったし、何だろうな」
踊る、おどる、ねぇ。物書きはスマホをいじり、ネット検索に助言を求めた。

――――――

「ゴマスリが?」
「抑えろ。声がデカい」

10月始まって、はやくも5日。
今日も朝から仕事して、昼になって折り返して、午後からの夕暮れからのちょっと残業で、とっぷり夜になった。
いつも通りのサビ残で、いつも通りに帰宅、
と思ったら、いつも以上に平静な表情の先輩に呼び止められ、ふたりで話をするため、少し遠めのカフェの個室へ。
先輩がヒソヒソ声で語ったのは、ウチの部署の「ゴマスリ係長」の話だった。

先月、つまり9月16日。
ウチの係長、後増利係長が、私と先輩で進めてた仕事の案件を、お客さんとの契約締結直前で、堂々パクっていった。
普通にブチギレ案件だけど、直前で担当が私達からゴマスリ係長に変わったことで、お客さんが大激怒。
私達から手柄をむしり取ろうとした係長は、逆にお客さんにバチクソ怒られた。

で、その「お客様に怒られた後増利係長」のハナシが、お客さんから伝いに伝って、
なんと、ウチの職場のトップ、緒天戸の耳に到達。
「鶴の一声」。「オテント様が見てる」。
厳重注意のもと、場合によっては降格させよと。
そのタレコミなリークを、先輩の友人にして隣部署の主任、宇曽野主任が持ってきたらしい。

「上司にゴマすって、部下の仕事を盗んで」
先輩がコーヒーを飲みながら言った。
「その結末が『降格やむなし』だったと」
悪徳上司がとうとう懲らしめられたワケだ。喜びの舞いでも踊ろうか?
付け足す先輩は少しだけ、ほんの少しだけ、勧善懲悪劇の結果に満足してそうだった。

「4月に左遷させられたオツボネ前係長みたいに、ヒラとして総務課送りになったりしないかな」
「そこまでは聞いていない。が、違うだろうさ」
「ちぇっ」
「ウチの部署の係長職が、二度もお目玉を食らったんだ。会議にかけられないだけマシ、ということにしておけ」

「一応、これで、ハッピーエンドなのかな」
課長にゴマスリばっかりして、自分の仕事を全部部下に押し付けて、全部終わる頃に成果を持ってった係長、後増利。
ちょっとだけ、ざまーみろ、と思う。
「さぁ?」
自称捻くれ者の先輩は、片眉上げて首を傾けるだけ。
「少なくとも、お前がベソかいて私の部屋のコーヒーだの炭酸水だのを飲み干す回数は減るだろうな」
それでも少しだけ、ほんの少しだけ、唇と目が、穏やかに笑っているように、見えなくもなかった。

「ナンノ、話デセウ」
「尾壺根の確認不足。責任転嫁と理不尽な始末書。メタ的な話をすると、4月18日」
「記憶にございません。ございませぇーん」

10/4/2023, 6:31:52 AM

「巡り、『会えたら』っつーより、『会ってしまったら』なら、文章投稿後とかハート送った後とかの、バチクソにセンシティブな広告だわ」
6月後半頃、「君と最後に会った日」なる題目なら一度挑んだらしい。某所在住物書きは過去投稿分を辿り、類似のネタを探してスマホをスワイプしていた。
当時は「ホタルと最後に会った日」を書いたようだ。

「アプリは好きよ。そりゃそうさ。でなけりゃ200日も付き合っちゃいねぇ。……ただ広告の種類がな」
課金で良いから、本当に広告非表示プラン欲しいね。物書きはひとつ、大きなため息を吐いた。
「そういう広告に『巡り会ったら』どうするって?
ブルートゥース機器の接続・切断で強制終了」

――――――

今日もどこかで、某衛星列車が空を横切るとか、横切らないとか。
そんな秋空を、不思議な子狐が見上げるお話です。

最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家には、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしております。
その内の末っ子は餅売りで、お花とお星様が大好き。
「満点の星」とは言えなくとも、晴れた夜はお空を見上げ、アレはきっと何の星、ソレはきっと誰の星と、コンコン、名前をつけて物語を作って、楽しみます。

そんなコンコン子狐が、ある夜6時半を過ぎた頃、神社を包む森の隙間、木々の窓からいつものように、夜空の星を見上げていると、
おやおや、あれは何でしょう。ひとつだけ、まっすぐ、ツーっと窓の右から左へ、横切っていく星がありました。
人工衛星です。太陽の光を一身に受けて、流れ星よりはゆっくりと、悠々堂々、空を飛んでいます。

「おほしさまの船だ!」
当たらずとも遠からず。「人工衛星」を知らないガキんちょ子狐。目を輝かせ、尻尾をぶんぶん!
初めての、動くお星様を、感激の視線で見上げます。
「おとくいさんに、自慢してやろう!」

木々の窓の端まで飛んでって、見えなくなってしまった「お星様の船」。子狐はこの経験を、誰かに話したくてたまりません。
せっかくなので、子狐の商売のお得意様、週に1〜2回お餅を売りに行く人間のアパートへ、ぴょんぴょん、文字通り跳ねてゆきました。

「それは……うん、良かったな」
さて。
都内某所、某アパートの一室。「お星様の船を見たんだよ」と、しっかり人間に化けてお餅を売りに来て、コンコン子狐言いますが、
部屋の主さん、労働し納税する大人なので、それの正体を知っています。
教えてやるべきか否か、猛烈に悩んでいました。

「すごいんだよ、お空のはじっこから、はじっこまで、こうやって、ツゥーって!」
子狐は自分が、いかに素晴らしいものを見たか、身振り手振りの大振りジェスチャーで、説明します。
きっと、子狐は「船」の正体なんて、どうでも良いのです。
ただ美しい物との遭遇を、お得意様と共有して、「すごいね」と羨ましがってほしいのです。
それでも『その珍しいものは「人工衛星」と言うんだよ』と、伝えるべきか、否か、悶々か。

「もし、もう一度、」
散々悩みに悩んだ末に、アパートの部屋の主が無難に、尋ねました。
「『お星様の船』と巡り会えたら、どうする?」

「おとくいさんと、ととさんと、かかさんと、おじーじとおばーばと一緒に見る!」
コンコンコン!
お目々を輝かせる子狐は、部屋の主をまっすぐ見て、幸せそうに答えました。

人工衛星横切る秋空を、子狐が見上げるお話でした。
今日はまさしく、衛星列車が通過するかもしれないそうなので、
都内のどこか、森に鎮まる神社で、狐一家と人間ひとりが、お空を見上げて、いるかも、さすがにフィクションが過ぎるかも。
おしまい、おしまい。

10/3/2023, 2:30:28 AM

「エモネタ多い気がするこのアプリだけど、何気に『奇跡』とか『運命』とかは、3月から今までならコレが初出だったのな……」
まるで、何度も引いてSSRは揃った常設ガチャの、何故か1枚だけ出てこないSRのようだ。某所在住物書きは過去投稿構分を辿り、今まで一度も「奇跡」が出題されていなかったことに気付いた。

「俺としては『もう一度奇跡』なんざ、10年前の例の、『あと一度だけ』から始まる歌と、それこそソシャゲのリセマラよ。
必要SSR2枚抜き。確率約0.05%が2枚。ほぼ奇跡じゃん。……『奇跡をもう一枚』よな」
まぁ、結局挫折して妥協したけど。物書きはポツリ、呟いてスマホをいじる。

――――――

酷い低確率のポジティブな現象が、己のまったく期待せぬ状況で発現することは、「奇跡」と評しても良いのではなかろうか。

最近最近の都内某所、某アパートの一室。
部屋の主を藤森というが、朝食と、スープジャーに詰めて職場へ持っていく昼食としての、オートミール入りのポトフを、

「……何を入れた……?」

作ったのは良いものの、
仕事で少し蓄積し始めた疲労と、それに起因する寝ぼけ眼で調理して、
そろそろ使い終わるであろう調味料を、処分のためにポイポイ目分量で投入したところ、
これが藤森の味覚に超絶ヒット。
「コンソメと、コショウは確実に入れた。
……どれだけ?どの程度?」
藤森は、後日同じ味を再現したくて、懸命に調理工程を思い出そうとするが、
「コレ入れれば美味い」をつまんで振って、落として入れて。入れた種類はギリギリ分かっても、入れた分量が出てこない。

「……しちみ?」
スープをひとさじ、すくって味見用の小皿へ。
舌にのせた黄金色は、入れた記憶のない少々のスパイスを伴っていた。

諸事情により、10月末で部屋を引き払おうと考えている藤森。
キッチンの調味料を今月で使い切り、退去時の荷物を軽くしようと画策している。
他者に提供する料理であればいざ知らず、それこそ丁寧に丁寧を重ねた調理と調味にもなろうが、
自分ひとりで食うものなど、それこそ自分ひとりが納得できればそれで良い。
そろそろ無くなりそうな粉があれば優先的にブチ込み、あと1回使えば容器を捨てられる顆粒があれば問答無用で放り込む。

それが今回は良くなかった。
分量不明と分量不明が、煮込んだ野菜と肉の出汁に対して、ああなってこうなって、どうなって。
一部カオスなランダム要素。これを忠実に再現するのは、まさしく「奇跡」の2字であろう。
なにより寝ぼけた頭と、「所詮自分単独」の大雑把で作ったメシとあっては。

「だめだ。わからない」
分量不明と分量不明。それから野菜と肉とオートミール。この確率的奇跡をもう一度。
藤森は悩んだが、結局時間内に解は得られず、
味覚の幸福とレシピの悶々が午前中ずっと残る結果となった。

昼休憩、イタズラに藤森のポトフをひとくち盗んだ、長い付き合いの後輩は、
「メッッッチャ奥の奥に、メッッッチャかすかにウスターソースの味がする」
と申告したが、
そもそも藤森の今のキッチンに、ソース類の在庫は無い筈である。

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