かたいなか

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「巡り、『会えたら』っつーより、『会ってしまったら』なら、文章投稿後とかハート送った後とかの、バチクソにセンシティブな広告だわ」
6月後半頃、「君と最後に会った日」なる題目なら一度挑んだらしい。某所在住物書きは過去投稿分を辿り、類似のネタを探してスマホをスワイプしていた。
当時は「ホタルと最後に会った日」を書いたようだ。

「アプリは好きよ。そりゃそうさ。でなけりゃ200日も付き合っちゃいねぇ。……ただ広告の種類がな」
課金で良いから、本当に広告非表示プラン欲しいね。物書きはひとつ、大きなため息を吐いた。
「そういう広告に『巡り会ったら』どうするって?
ブルートゥース機器の接続・切断で強制終了」

――――――

今日もどこかで、某衛星列車が空を横切るとか、横切らないとか。
そんな秋空を、不思議な子狐が見上げるお話です。

最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家には、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしております。
その内の末っ子は餅売りで、お花とお星様が大好き。
「満点の星」とは言えなくとも、晴れた夜はお空を見上げ、アレはきっと何の星、ソレはきっと誰の星と、コンコン、名前をつけて物語を作って、楽しみます。

そんなコンコン子狐が、ある夜6時半を過ぎた頃、神社を包む森の隙間、木々の窓からいつものように、夜空の星を見上げていると、
おやおや、あれは何でしょう。ひとつだけ、まっすぐ、ツーっと窓の右から左へ、横切っていく星がありました。
人工衛星です。太陽の光を一身に受けて、流れ星よりはゆっくりと、悠々堂々、空を飛んでいます。

「おほしさまの船だ!」
当たらずとも遠からず。「人工衛星」を知らないガキんちょ子狐。目を輝かせ、尻尾をぶんぶん!
初めての、動くお星様を、感激の視線で見上げます。
「おとくいさんに、自慢してやろう!」

木々の窓の端まで飛んでって、見えなくなってしまった「お星様の船」。子狐はこの経験を、誰かに話したくてたまりません。
せっかくなので、子狐の商売のお得意様、週に1〜2回お餅を売りに行く人間のアパートへ、ぴょんぴょん、文字通り跳ねてゆきました。

「それは……うん、良かったな」
さて。
都内某所、某アパートの一室。「お星様の船を見たんだよ」と、しっかり人間に化けてお餅を売りに来て、コンコン子狐言いますが、
部屋の主さん、労働し納税する大人なので、それの正体を知っています。
教えてやるべきか否か、猛烈に悩んでいました。

「すごいんだよ、お空のはじっこから、はじっこまで、こうやって、ツゥーって!」
子狐は自分が、いかに素晴らしいものを見たか、身振り手振りの大振りジェスチャーで、説明します。
きっと、子狐は「船」の正体なんて、どうでも良いのです。
ただ美しい物との遭遇を、お得意様と共有して、「すごいね」と羨ましがってほしいのです。
それでも『その珍しいものは「人工衛星」と言うんだよ』と、伝えるべきか、否か、悶々か。

「もし、もう一度、」
散々悩みに悩んだ末に、アパートの部屋の主が無難に、尋ねました。
「『お星様の船』と巡り会えたら、どうする?」

「おとくいさんと、ととさんと、かかさんと、おじーじとおばーばと一緒に見る!」
コンコンコン!
お目々を輝かせる子狐は、部屋の主をまっすぐ見て、幸せそうに答えました。

人工衛星横切る秋空を、子狐が見上げるお話でした。
今日はまさしく、衛星列車が通過するかもしれないそうなので、
都内のどこか、森に鎮まる神社で、狐一家と人間ひとりが、お空を見上げて、いるかも、さすがにフィクションが過ぎるかも。
おしまい、おしまい。

10/4/2023, 6:31:52 AM