かたいなか

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「かーてん……?」
アレか、語源のラテン語、「覆う」だの「器」だの、「人の和」だのの意味があるらしい「Cortina」のハナシでもすりゃ良いのか。
某所在住物書きは部屋のカーテンをパタパタ。揺らしながら葛藤して苦悩した。
「それとも、なんだ、『皆さんカーテンって、どれくらいの頻度で洗ってますか』とか……?」

不得意なエモネタでこそない今回。とはいえ、窓覆うこの布について何を書けるものか。
ひとまず物書きはネットの海に、カーテンの語源と種類と値段の幅を問うて、物語を組もうと画策する。

――――――

最近最近の都内某所、某稲荷神社に住む子狐は、不思議なお餅を売り歩く不思議な不思議な子狐。たまに「誰か」の夢を見ます。
それは神社にお参りに来た誰かの過去と悔恨。お賽銭を入れた誰かの現在と祈り。お餅を買った誰かの未来と予知。
楽しそうな子供時代の夢もあれば、美味しそうな旅行中の夢、寂しそうな仕事中の夢もあります。
今夜の夢は、「誰か」というより、「どこか」の夢の様子。コンコン、ちょっと覗いてみましょう。

『とうとう、私の田舎にも、「再生可能エネルギー」の波が来たらしい』
最初の夢は、ごく最近の都内某アパート。お餅を売る子狐の、唯一のお得意様のお部屋です。
お得意様、ふわふわ湯気たつ緑茶を片手に、夜の窓の外を見ております。
『あのミズアオイの花咲く田んぼが、メガソーラーにでもなったか』
お得意様に尋ねるのは、お得意様の親友さん。
どうやらシェアディナーの最中の様子。鶏肉がぼっち用鍋の中で、コトコト。美味しそうです。

『風力だ。山の上に、デカい風車だとさ』
寂しげに、でも希望をもって、お得意様が答えます。
『需要、経済、放置山林の活用。仕方ないことだ。分かっている。……それに、時代がどれだけ「田舎」を壊そうと、きっと、残る「何か」は、在ると思うよ』

ぱたり、ぱたり。
はためく窓のカーテンが、次の夢を連れてきます。

『今日の例のお客様、パないよ……』
次の夢は、同じ部屋の、違う時期。お得意様の後輩が、ゆっくり畏敬の念を含んで首を振ります。
前の夢でぼっち鍋のあった場所に、今回は低糖質のキューブケーキが複数個。
小ちゃくて、カラフルで、これまた美味しそうです。
『知らない言語でまくし立てて、クレーマーさん撃退しちゃったもん。きっと良識ある外人さんだよ……』

『あの客の話の前半、通訳してやろうか』
対する部屋の主、コンコン子狐のお得意様は相変わらず。平坦な声して冷たい緑茶をひとくち。
どうやら、暑い夏の頃のようです。
『「お前、いい歳して、こんな朝から、ぎゃーぎゃーわめくものじゃない。他の客の子供がお前を見て、怖がっているのが分からないのか」だ』

『なんでわかるの』
『私の故郷の方言だ』
『ふぁ……?』

ぱたり、ぱたり。
はためく窓のカーテンが、次の夢を連れてきます。

『買い過ぎた……』
最後の夢は、更に過去に飛んだ同じ場所。同じ部屋。
『それにしても、なんだったんだ、あの子狐。そもそも子狐……?』
ぼっち鍋やキューブケーキがあった場所には、握りこぶし1個くらいの大きさのお餅が合計10個。
どうやら、子狐とお得意様が初めて出会って、初めてお餅を買ってもらった、3月3日のその後の様子。
途方に暮れて、おでこを片手で押さえるお得意様。
でももう片方でお餅を1個、つまんで噛んで、ちょっと幸せそう。いや、泣いてそう……?

『懐かしい、味がする』
またひと噛み。お得意様が言いました。
『あの味だ。「田舎」の味だ。時代に壊されて、もう無くなったと思っていたのに』
壊されても、崩されても、残るものは在るのかもしれない。お得意様はまたひとくち、お餅を齧りました。

ぱたり、ぱたり。そろそろ頃合い。
窓のカーテンがはためいて、今日の夢は、おしまい、おしまい。

10/12/2023, 4:20:34 AM