かたいなか

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7/24/2023, 1:44:21 AM

「花は結構、いろんなお題で書いてきたわな……」
花咲いたスミレの砂糖漬け。咲いた花びらの形を星に見立てた「星空」に「流れ星」、それからつい先日、前々回投稿分で書いた白い花と、花言葉。
そろそろ花ネタも枯渇間近かな。某所在住物書きは己の過去投稿分を辿りながら呟いた。
「ぶっちゃけ、てっとり早く季節感出せるし、花言葉仕込めるから便利なんよ。なにより簡単に少しオシャレになるし。多分」
今ならニラとかミニトマトとか、あとバジルなんかも咲いてるのかな。物書きは思考し、ふと冷やしトマトやらピザやらを食いたくなり、そして冷えた酒の在庫を確認した。

――――――

週明け早々、山手線が始発から、一定時間死んだ。
信号機がどうとか言ってた。おかげで都内も呟きアプリも大騒ぎだ。
職場のクソ上司、ゴマスリばっかりして自分の仕事は部下に丸投げっていう後増利係長にメッセ送ったら、
似た理由で、急遽リモートワークに変更したり、◯分遅れの職場入りを事前連絡してる人が、チラホラ複数人。どの部署でも出てきてるとか。
ふーん(閃いた)

ということで、私も山手線遅延組・リモートワーク変更組に便乗することにした。
私のリモートワークは、大抵職場の先輩のアパート。27℃前後の室温を2人で割り勘する節約術だ。
さっそく先輩にコレコレ事情を送信したら、「ざる中華の予定だが、他に食いたいものがあれば来る途中で材料を買ってきてほしい」だって。
ざるちゅうか?ざる中華 is 何?
知らない料理が出てきて、他の食いたいものどころじゃない私は、ナスとトマトとブロックカットのスイカだけ買って、先輩のアパートに飛び込んだ。
「先輩、ざる中華って何?!」

「北海道では、ざるラーメンという」
今日の最高気温程度の私の好奇心に対して、先輩は完全に札幌あたりの朝の適温。通常運転だ。
「冷やしそうめんの麺を中華麺にしたもの、あるいはつけ麺のつけ汁を冷やしたもの。私の故郷では、氷入りの中華麺とめんつゆの組み合わせで食べていた」
スイカはウリ科の野菜です。くらいの淡々々なトーンで、先輩は説明した。
「冷やしラーメンじゃなくて?」
「アレは麺が、最初からスープに入っているだろう。つけるのさ。ざる蕎麦やそうめんのように」
手軽で、食いやすい。夏の風物詩だ。
先輩は本当になんでもない顔をして、電気ケトルでお湯沸かして、1リットルの耐熱ガラスポットにお団子モドキを入れた。
「茶棚を整理したら出てきた。見ないか」

さらさらさら。お湯がケトルの口からガラスポットに、静かに入ってく。コロンと小さなお団子モドキはお湯にのまれて、沈んで。お湯が無色透明から、段々薄い琥珀色に変わってく。
「工芸茶だ」
先輩が言った。
「ポットの中で花が咲く。大きめのポットに入れて、湯を注ぐと……この団子が開いて……綺麗なんだが」
どうだ。まだ咲かないか。ポットを覗く先輩につられて、私も薄い琥珀色を、じーっと見つめてると、
ポン!
団子モドキが音無く開いて、中からピンクの、手まりかアザミみたいな花が出てきて、その上を、水面まで、紐に繋がれたジャスミンが昇ってった。

「結構、いきなり、咲くんだね」
花咲いて、それがあんまり突然で、なかなか綺麗で。
ほんの数秒だけ、私の頭からざる中華が消えた。

7/23/2023, 6:19:09 AM

「タイムマシン。……タイムマシンねぇ……」
久しぶりにバチクソ不得意なお題が来た。某所在住物書きは3種の物語を組み、納得いかず白紙に戻し、最終的に無難な構成で妥協した。
すなわち「有ったら何する?」である。
「書きたいハナシはあるのよ。地球は太陽を、あと銀河系の中を回って移動してるわけだから、『24時間後の自分』と『今の自分』は空間的に、全然違う座標に居るワケ。そこを落とし込むとかさ」
それ書こうとしたら、クッッソ堅苦しくなって秒で白紙に戻したわ。物書きはため息を吐き、ポツリ。
「……下手に変わり種とか、からめ手とか、そういうの書くより、シンプルな方が性に合ってるのかな」

――――――

今日も東京は相変わらず。体温間近のギラギラ猛暑。どこかで救急車が鳴って、どこかの現場に飛んでって、どこかの病院に橋渡し。
私は電気代と食事代を節約したくて、あと「まだ先輩はここに居る」っていう安心が欲しくて、
職場の先輩のアパートに、5:5想定で光熱費と料理代を持参して、お昼ごはんとスイーツと、27℃前後の室温をシェアさせてもらってる。

先日先輩の初恋相手とバッタリ会ってから、先輩に昔々災害級のトラウマ埋め込んで、先輩の心をズッタズタのボロッボロに壊したっていう失恋相手とエンカウントしてから、
元々最低限しか家具の無かった先輩の部屋は、更に超最小限に片付けられた。
テレビ撤去。本棚は大幅縮小。消えた本はレンタルロッカーでお留守番。
一時期私に手作りで、具体的な日付を言うと6月16日あたり、初心者ながら丁寧にオートミールクッキーを焼いてくれたオーブンレンジも、どこへやら。
まるで、ここでの暮らしを近々畳んじゃうように。
トラウマな失恋相手さんから、いつでも、すぐ逃げられるよう準備して、それが完了しちゃったように。

いつか職場に突然来なくなって、連絡も取れなくなって、このアパートも引き払っちゃうんだろう。
ふぁっきん失恋相手さん(ふぁっきん)

さて。
「タイムマシンって、あるじゃん」
今日のごはんは先々週、11日あたりに食べておいしかった冷雑炊の、中華スープ版。それからコトコトじっくり煮込んだ鶏手羽元。
「アレあったらさ。私、失恋相手さんが先輩と合う前に、ボッコボコにやっつけられたのかな」
煮込んだ鶏の出汁で作ったパイタン風スープ含めて、全部合わせて塩分2g未満だとか。
相変わらず先輩のごはんは低糖質低塩分で優しい。
雑炊にしっかり味つけてる分、パイタンは鶏と野菜と生姜の出汁で、薄味に整えたんだって。

「『自分も怪物とならぬよう注意せよ』。お前まで怪物になってどうする」
手羽元のお肉をほぐして、スープと雑炊に入れながら、穏やかな白の甚平姿の先輩が言った。
フリードリヒ・ニーチェ、「善悪の彼岸」。
4月27日頃にも聞いた一節だ。まだ3ヶ月も経ってないのに、失恋相手さんのことを知らなかったあの頃が、ちょっと、長い昔みたいに感じる。

「ただ、」
ぽつり呟いて、つんつん。雑炊を突っつく。
「……」
何か言いたそうに、口を開けて、軽く閉じて、視線を少し下げて。言いたいことを、言おうか別の話題にすり替えようか、迷ってるように見えた。

「そうだな」
ぽつり。先輩が顔を上げた。
「それが有ったら、競馬か競艇あたりで億貯めて、今のクソ上司ともブラック気味な職場とも、早々にオサラバしてるだろうよ。お前もそうだろう」
すり替えたんだ。
何かもっと、言いたいことがあったんだ。
そう思う程度には、先輩はまだ寂しそうな顔だった。

7/21/2023, 1:54:36 PM

「『一番欲しいもの』?多分このアプリで言えば、有料で良いから広告削除プランか、もしくは文章に過去投稿分へのリンク埋め込む方法よな」
4ヶ月以上前から、なんちゃっての続き物で書いてきてるから、伏線回収が面倒なのよ。某所在住物書きは
スマホを下から上へスワイプし続けながら言った。
4月1日投稿分の文章になかなか辿り着けないのだ。
「後々の投稿の、ネタになればとバラまいたはイイものの、いざ回収するとなると『あの伏線いつの投稿で書いたっけ』だの、『そもそも伏線どこに張ったっけ』だの」
ここで続き物を書くの、なかなかにひと苦労。物書きはうなり、ため息を吐き、またスワイプし続ける。

――――――

7月17日か18日あたりから始まった、ありふれた失恋ネタの続き物も、これで一旦の小休止。
最近最近の都内某所、某アパートに、人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者が住んでおり、
元々家具の最低限最小限しか置かれていなかった部屋は、更に縮小的に整えられていた。
いつでも部屋を引き払えるように。執着の強かったらしい初恋相手の追跡から、すぐ逃げられるように。
部屋の主は名前を藤森といった。

「あのひとと、バッタリ会った」
生活感少ない部屋に唯一ある底面給水式の鉢を、そこに咲いた白花を、近くに置き、無念の寂しさで見つめて、藤森が言った。
部屋にひとりの来客があったのだ。
「初恋で失恋の、例の。加元さんに」
客は十数年来の親友で、職場の部署が隣同士。宇曽野という。藤森が「藤森」になる前、旧姓の頃からつるみ、笑い、悩みを共有し、たかがプリン一個でポコポコ喧嘩してはケロリ仲直りを繰り返している。
「居場所がバレたかまでは、分からない。でも、
……でも今のうち、言える間に、『こんな私を見捨てず、友人でいてくれてありがとう』とは言っておく」

「加元か。8年前あれだけ、『地雷』だの『解釈不一致』だのと、影でお前をこき下ろしたくせに」
初恋相手が藤森にした仕打ちを知っている宇曽野。花をチラリ見遣り、ため息をつく。
「なんでまた、その地雷を今更追っかけるやら」
フウロソウやモミジガサに似た葉は、ひとつひとつ形が違い、上の葉ほど丸く優しい。
花本来の時期に先んじて開いた白は、己の花言葉のもと、藤森の苦しみと悲しみと寂しさを、一身に引き受けているようである。
誠実に、礼をもって、弱きに寄り添う。
それは「騎士道」を花言葉にもつ、白花のトリカブトであった。

「私も、毒が、チカラが欲しい」
「ん?」
「こいつのように、人間を追っ払って遠ざけられるだけの毒が。誰も近づけさせない毒が。私も、欲しい」
「残念ながらお前は『附子』だ。人を救う薬であって、人を害する毒じゃない」
「くすり、」
「お前に今必要なのは、お前が本当に今一番欲しいと思っているのは――」

本当は、  、じゃないのか。
宇曽野はそれを口に出すことはせず、かわりに少しイジワルに笑い、空っからに透明なプリンの容器をポケットから取り出して、藤森に振ってみせた。

「おまえ、また私のプリン食ったのか」
「お前の大事な天目茶碗を割っちまったんでな。附子食って詫びようとしたんだが。おかしいなぁ」
「はいはいウソ野ジョーク。私の部屋に天目茶碗など無いし、それの元ネタ、プリンではなく砂糖か水飴だろう。で?」

「新しいの買いに行かないか。どこか近場で」
「道中であのひとに会ったら一生お前を恨んでやる」
「どうぞ。ご自由に。好きなだけ」

7/20/2023, 10:00:13 AM

「『戸籍に名前の読み仮名が登録されていない』。これがメリットにはたらく事例を、ひとつ知ってるわ」
俺自身は年が年だから、「優しい子になりますように」のレトロネームだが、毒母の影響で「優しさとか草ァ!」に育ったぜ。某所在住物書きは語る。

「読み方だけが残念な、キラキラネームの変更よ。『夏美』と書いて『ねったいや』って読むとする。そこは『なつみ』だろって思う方多いだろう。
可能なのよ。少なくとも今年までは。読み方の変更。『戸籍には読み仮名が登録されていないから』」
自治体と状況にもよるが、要はこういうことらしい。物書きは一例をひとつ、物語に組み込んだ。

――――――

「『附子山 礼(ぶしやま れい)』。
私の旧姓旧名は、附子山礼だ」

都内某所、某稲荷神社近くの茶葉屋、奥の個室。すなわち上客専用のカフェスペース。
『実は昔と今とで自分の姓名が違う』。
フィクションならではの衝撃事実を、苦しそうに、わずか俯きがちに、告白する者がある。
向かい合って座るのは職場の後輩。驚愕半分心配四半分の目には、心からの配慮がにじみ、ただ優しい。
場違いに部屋に入り込んでいるのは、店主がよく抱え撫でている子狐。いつもと表情の違う常連に、ビタンビタン尻尾を振って、ベロンベロン鼻を舐めようとするも、構ってもらえず。
仕方がないので連れの方、後輩の膝上に陣取り、腹を出したり体を丸めたりしている。

「名前に関しては、漢字の読み仮名変更だ」
店の常連、「附子山」と名乗った方、後輩が今まで「藤森」と認識していた先輩が、種を明かした。
「偽名本名の話じゃない。事実、私の戸籍は今、『藤森 礼』で登録されている。
改姓は説明が長くなるから割愛するが、名前は『礼』の読みを、『れい』から『あき』に変えただけ。
戸籍に読み仮名が書かれていないことを利用した、複数の自治体で認められている手続きだ」
来年からは法改正で、これが難しくなるらしい。
お前も読み仮名を変更したければ今のうち、かもな。
先輩は補足し、懸命に少しの笑顔を見せた。

「どうして、そこまで」
「縁を完全に断ちたいひとがいた。私の名字は珍しいから、都内で暮らしていては、すぐ足がつく。名字も名前も、スマホも番号もすべて変えて、暮らしてたアパートも引き払って。住んでいた区を離れた」
「そんなに会いたくなかったの。先輩のこと、鍵も掛けてない別垢でボロクソにディスってたっていう」
「それが、さっき会ったあのひとだ。『加元(かもと)』さん。下の名前はもう、忘れてしまった」

悔しいな。もう少し逃げられると思っていたのに。
小さなため息を吐く先輩につられて、視線を下げ、うつむいた後輩。
膝の上では子狐が、いつの間にか小さな横長看板を前足で支え持ち、そこには「参考過去作:7月18日か6月3日か5月30日投稿分」と書かれている。
なにそれ。後輩の目は一瞬点になった。

「どうするの。これから」
「分からない。ただ、……残念だとは、思う。
親友の宇曽野もこの茶葉屋も、仕事も、多分お前も。ここには、『附子山』の毒や傷は何もない。『藤森』の花と宝物だけが、詰まっているから」
「それって、また区を離れて、」
「……」

分からない。
小さく首を振り、口を閉ざしてしまった先輩を、知ってか、知らずか。
後輩の膝上の子狐が、横長看板をくるり裏返す。
不穏にも板には「そんな『藤森』に来月末、多分更なる事件が!?引き留められるか、後輩ちゃん!」と書かれており、再度後輩の目は点になった。

7/19/2023, 10:00:41 AM

「ハナシ書くとき、カメラワークは気にしてる、気では、一応いるわな。一人称の語り手の視線が、どこに向いてるかとか、どう移動するかとか」
三人称書く際も、視線の先があっちこっち飛び過ぎないように、ある程度上から下とか、左から右とかな。
某所在住物書きは過去投稿分をスマホで辿り、7月3日の投稿分を見た。当時は「先」は「先」でも、「この道の『先』」であった。
「あと視線っつったら、読んでて視線が滑らないように、句読点利用するとか、ある程度場面場面で1行空白入れるとか?」
まぁ、所詮娯楽小説の一冊も読まねぇ素人の工夫だけどな。物書きはふと振り返り、視線の先には面白みに欠けた本棚が鎮座している。

――――――

リモートワークの気分転換。美味しいランチでも食べに行こうって、職場の先輩誘って外に出て十数分。
人の往来激しい道のド真ん中で、突然先輩が立ち止まって、恐怖か何かで短く、鋭く息吸って、
すごく小さな、震える声で呟いた。
「カモトさん……」

「『カモトさん』?」
先輩の、視線の先にはたくさん人が居たけど、職場の仲悪い誰かが居たワケじゃないし、私には何が何だか、よく分からない。
いつも通り。何も変わらない。普通の日常だ。

「先輩、どしたの、」
先輩が呟いた「カモトさん」と思しきひとを、探そうとあちこち見る前に、
先輩は私の手を引いて、暑い中歩いて来た道を、全力で走って引き返した。
「ねぇ、先輩、先輩ったら、」
こんな、余裕の全然無い先輩は初めてだ。
いつも真面目で誠実で、実はちょっと寂しがり屋で、猛暑日酷暑日は大抵デロンデロンに溶けてるけど、
それでも、取り乱す先輩は一度も見たことなかった。

「ブシヤマさん!ブシヤマさんでしょ?!」
後ろから聞こえてきたのは、低い女声なのか、高い男声なのかすごく分かりづらい、中性的な大声。
多分この声が、カモトさんなんだろう。
「待って、話を聞いてブシヤマさん!レイさん!」
ブシヤマさんって、誰?先輩は藤森でしょ?
「藤森 礼(ふじもり あき)」。後ろのひとが叫んでるのは「ブシヤマ レイ」。別人だ。
「レイさん!!」
通行人の、好奇心の目とスマホは、例の大声出してるひとに向いてる。その隙に、先輩はするり小さな路地を抜けて、ただ、私の手を引いて。必死に。

「待って、待ってって先輩」
時折後ろを振り返って、「カモトさん」が追ってきてないか確認する先輩は、すごく怯えてる。
「人違いだよ、先輩ブシヤマじゃないもん、大丈夫だよ。ホントにどうしたの」
落ち着いてほしくて言った言葉も、多分全然届いてない。ただ小道に入って、曲がって、走って。
「先輩、ねぇ先輩っ!」
やっと立ち止まった頃には、私の息はメッチャ上がってて、汗もヤバいことになってた。

「……ブシヤマ、だったんだ」
私と同じくらい疲れちゃって、肩で息してる先輩が、蒼白な顔で言った。
「あのひとは、以前話していた、私の初恋のひと。私を地雷だ解釈不一致だと、嫌って呟きアプリで愚痴っていた筈のひと。私は……」
私は。
その先を言おうと口を開いて、閉じて、目を細めてうつむく先輩は、とても苦しそうで、痛々しい。
どこか落ち着いて話ができる場所を、探して周囲を見渡して、少し遠くに目を向けたら、
視線の先には、丁度良く、先輩の行きつけの茶っ葉屋さんがあった。

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