「花は結構、いろんなお題で書いてきたわな……」
花咲いたスミレの砂糖漬け。咲いた花びらの形を星に見立てた「星空」に「流れ星」、それからつい先日、前々回投稿分で書いた白い花と、花言葉。
そろそろ花ネタも枯渇間近かな。某所在住物書きは己の過去投稿分を辿りながら呟いた。
「ぶっちゃけ、てっとり早く季節感出せるし、花言葉仕込めるから便利なんよ。なにより簡単に少しオシャレになるし。多分」
今ならニラとかミニトマトとか、あとバジルなんかも咲いてるのかな。物書きは思考し、ふと冷やしトマトやらピザやらを食いたくなり、そして冷えた酒の在庫を確認した。
――――――
週明け早々、山手線が始発から、一定時間死んだ。
信号機がどうとか言ってた。おかげで都内も呟きアプリも大騒ぎだ。
職場のクソ上司、ゴマスリばっかりして自分の仕事は部下に丸投げっていう後増利係長にメッセ送ったら、
似た理由で、急遽リモートワークに変更したり、◯分遅れの職場入りを事前連絡してる人が、チラホラ複数人。どの部署でも出てきてるとか。
ふーん(閃いた)
ということで、私も山手線遅延組・リモートワーク変更組に便乗することにした。
私のリモートワークは、大抵職場の先輩のアパート。27℃前後の室温を2人で割り勘する節約術だ。
さっそく先輩にコレコレ事情を送信したら、「ざる中華の予定だが、他に食いたいものがあれば来る途中で材料を買ってきてほしい」だって。
ざるちゅうか?ざる中華 is 何?
知らない料理が出てきて、他の食いたいものどころじゃない私は、ナスとトマトとブロックカットのスイカだけ買って、先輩のアパートに飛び込んだ。
「先輩、ざる中華って何?!」
「北海道では、ざるラーメンという」
今日の最高気温程度の私の好奇心に対して、先輩は完全に札幌あたりの朝の適温。通常運転だ。
「冷やしそうめんの麺を中華麺にしたもの、あるいはつけ麺のつけ汁を冷やしたもの。私の故郷では、氷入りの中華麺とめんつゆの組み合わせで食べていた」
スイカはウリ科の野菜です。くらいの淡々々なトーンで、先輩は説明した。
「冷やしラーメンじゃなくて?」
「アレは麺が、最初からスープに入っているだろう。つけるのさ。ざる蕎麦やそうめんのように」
手軽で、食いやすい。夏の風物詩だ。
先輩は本当になんでもない顔をして、電気ケトルでお湯沸かして、1リットルの耐熱ガラスポットにお団子モドキを入れた。
「茶棚を整理したら出てきた。見ないか」
さらさらさら。お湯がケトルの口からガラスポットに、静かに入ってく。コロンと小さなお団子モドキはお湯にのまれて、沈んで。お湯が無色透明から、段々薄い琥珀色に変わってく。
「工芸茶だ」
先輩が言った。
「ポットの中で花が咲く。大きめのポットに入れて、湯を注ぐと……この団子が開いて……綺麗なんだが」
どうだ。まだ咲かないか。ポットを覗く先輩につられて、私も薄い琥珀色を、じーっと見つめてると、
ポン!
団子モドキが音無く開いて、中からピンクの、手まりかアザミみたいな花が出てきて、その上を、水面まで、紐に繋がれたジャスミンが昇ってった。
「結構、いきなり、咲くんだね」
花咲いて、それがあんまり突然で、なかなか綺麗で。
ほんの数秒だけ、私の頭からざる中華が消えた。
7/24/2023, 1:44:21 AM