かたいなか

Open App
6/21/2023, 3:26:33 PM

「『何故、それが』好きな色か、好きな『何の』色か、好きな色『を使って何をしたいのか』。シンプルな分、アレンジもしやすいわな」
あと好きな色「が、嫌いな色に変わった経緯」とか、「私が好きな色は、あの人の嫌いな色」とか?
某所在住物書きは新旧500円硬貨の金と銀を眺めながら首を傾けた――白金色は要するに銀だろうか?
「『私が好きな色は白黒であって、断じて黒白ではない』とかにしたら、多分解釈問答書けそうだな」
まぁ、頭の固い俺には常時書け「そう」であって、書け「る」までは百歩千歩遠いわけだが。物書きは更に首を傾け、最終的にうなだれた。

――――――

「先輩好きな色なに?」

職場の後輩に、退勤直前、突発的に好きな色を聞かれ、答えようとした途端喉がつっかえた。

「どしたの?まさか色の話地雷とかナシでしょ?」

原因の根底はすぐに推測できた。質問内容が漠然とし過ぎていたことと、過去の嫌なトラウマだ。
「何故」、私の好きな色を聞いたのか。
好きな「何の」色について聞かれたのか。
好きな色を聞いて、「何を」するつもりなのか。
なんなら、私に「コレ」と言って欲しい何かの色Aが存在していて、彼女はただ単に、私の口からその色Aの完全に一致した回答を聞きたいだけなのか。
強制再起動を食らったように、突然、本当に、分からなくなった。

【私】の【好きな色】は、【何であるべき】?
【何と回答すべき】?
複数の可能性を想定して、なんとか押し出せたのは、昔々の失恋の記憶に引っ張られた不自然だった。
「さぁ?少なくとも、私に白は似合わないだろうさ」

縁を切って久しい初恋の「あのひと」は、私が青を好むのを好まず、白を好むのを嫌った。
あのひとにとって、あのひとの見解と解釈の中で、【私】の一番好きな色は【赤】だった。
それ以外の私は不一致だった。
『恋で狂っちゃってる自覚有るし、自分が解釈厨で自論依存者なのはゴメンヤデだけどさ。青はギリ許せるけど、白は無いでしょって。君の好きは黒とみせかけて赤でしょって。完全に解釈違いなんだけど』
あの呟きの裏アカウントの記憶が強烈過ぎたのだ。だから喉を突いて出てしまったんだと思う。
「少なくとも私に白は似合わない」と。

後輩はそうは思わなかったらしい。
「白似合わないの?」

「どういう意味だ、……何がしたい?」
「今日マルベリーのジャムお裾分けで貰ったじゃん。ちょこちょこお茶シェアしたり、ごはん作ってもらったり、先月タケノコご馳走なったりもしたじゃん」
「まぁ、そうだな」
「先輩からいっぱい貰ってるのに、私先輩に何も返してないなって。じゃあ先輩実用的で長く使える物好きだから、季節的に先輩の好きな色の甚平プレゼントするの、どうかなって。で、好きな色は?」

「白は似合わないらしい。誰かが言っていた」
「誰かじゃなくて」
「お前は何色が好きだと思っているんだ」
「私でもなくて。『先輩は』、何色が好きなの」

「あのひと」でもなく、「この後輩」でもなく、「私」。主語が明確に一人称になった後のことは、ぼんやりとしか覚えていない。
正答も最適解も予測できなくなって、「私」の好きな色一点を求められて、甚平を贈るのは迷惑か迷惑じゃないかの問答も有ったかもしれない。
ただ最終的に、後輩とふたりで急きょ低価格帯の服屋を巡ることになり、ふたりでサイズ違いに類似デザインの、同じ穏やかな白さの甚平を、
後輩が購入しようとして決済アプリの残高が無かったことに直前で気付き、結局私が購入して、
笑い合ってイジって謝って、夜の少し遅い頃、アパートの自室に帰ってきたのは、事実だった。

6/21/2023, 3:07:06 AM

「あなたがいたから、『選択を誤った』のか『ミスを回避できた』のか、『新しい発見ができた』か」
何かの困難に耐えることができた、なんてバリエもあるんだろうな。過酷なダイエットとか。某所在住物書きは己の腹をプルプル、掴んでは上下に揺らした。
「あなたがいたから『そこに行くのをやめた』とか『アレを食えなくなった』とか、『彼は彼女と別れた』とかつったら、不穏なハナシも書ける、か?」
まぁ俺の場合、このアプリと、ハートくれる誰かがいたから、こんな自己満作文でもハナシを書き続けてこれたワケだが。
つんつんつん。物書きは腹を突っつき、体重計をチラリ見遣って……

――――――

今日も真夏日一歩手前。東京の6月は今年も高温多湿で、たまに気になっちゃう生乾きな服とか加齢臭とかが無駄に滅入る。
昨晩某赤い人の美容スペシャルで、体臭減らすには朝シャワーが良いし、いい匂いになるにはカシスも効果的って覚えちゃったから、今日は近場のフルーツ屋さんでカシス入りのアイスティー貰って出勤だ。
案の定、昨日の番組観たひとで、店内そこそこ賑わってた。娘さんっぽい画像写ってるスマホとカシス持ってちょっと涙目の中年さん、大丈夫かな(察し)

「その番組なら、私も観た」
その日のお昼はチラホラ数名、カシスっぽいドリンクをチョイスしてるのが、あっちにも、こっちにも。
「個人的に気になったのは、希少糖と腎機能の方だったが、……私もカシスを飲んだ方が良いのだろうか」
同じテーブルで一緒にお弁当突っついてる、雪国の田舎出身っていう先輩も、スンスン手の甲とか袖とか嗅いで気にしてた。ちょっとかわいい。
でも先輩は別に加齢臭も何もしてないから、そんな気にしなくて良いと思う。
「先輩、アレ観たんだ」
「そうだが」
「あんなにニュースオンリー派だったのに」
「どこぞの誰かさんのせいだろう?ほら眼の前の」

「いいと思う」
「えっ?」
「ニュースばっかりより、別のも観た方が多分楽しいよ。きっと良いことだよ」
「……どうだか」

で、そのニュースオンリーで十分だった私から、恨み節のひとつでもないが。
コホン咳払いした先輩が、私から目をそらして、バッグのファスナー開けて、少し大きめの、250mLくらいの瓶を4個取り出しテーブルに載せた。
ほぼ黒な赤紫だ。多分ジャムだ。先輩の実家が故郷の四季をプチDoSアタックしてきたんだ。
先輩の、あきれ顔だか諦め顔だか、そんな表情に気付いて私はだいたい察してしまった。
あざす先輩。あざす先輩のご実家様。
あなたがいてくれたから、あなたが年に4〜5回、雪国の四季を送ってくださるから、私も極上美味をお裾分けしてもらえます。
なのに私先輩に数える程度しかお礼したことないや。

「お前、桑の実は――マルベリーは食えるよな」
先輩が言った。
「実家の母がな。『今年もたくさん採れた』と。ジャムにして大量に送りつけてきたんだ。
プレーンと、イチゴ入りと、実山椒入り、それからグミの実入り。……気に入った味だけで構わない。
食うの、手伝ってくれないか」

6/19/2023, 2:42:48 PM

「『あいあいがさ』って、こう書くのな……」
わぁ。シンプルなお題だけど、書ける気がしねぇ。某所在住物書きは乾いた笑顔で天井を見上げた。
「シチュは作れるの。カンタンさエモくすれば良い。仕事に疲れた後輩とその先輩でも放り込んどけよ、勝手に雨の中で先輩が濡れた後輩に傘差し出すから」
でもエモなお題には非エモで対抗したいのよ。物書きは己のこだわりを告白し、今日もため息をつく。

「ふーん、ウィキの『傘』の項目によると、『中国や韓国では、従者が主人に差し掛ける「差し掛け傘」はしばしば見られるけれども、相合傘は日本にのみ見られる図様である』。『単純に例の相合傘マークが日本のローカルネタなだけです』じゃなくて?マジ?」

――――――

「相合傘」は、ふたりがひとつの傘の中に寄り添うこと。「最合傘(もやいがさ)」は複数の人が共通で使うひとつの傘だそうですね。
「◯合傘」のトリビアひとつ添えたところで、本日のおはなしの、はじまりはじまり。

最近最近の都内某所。人間に化ける妙技を持つ、不思議な子狐の餅売りが、夜雨に降られておりました。
「寒いよ、さむいよ」
街灯乱反射する雨の夜道に、ひとりぼっちの子狐。絵になりますね。約20℃の夜の東京の、局所的な降雨は、コンコン子狐の傘持たぬ体をまんべんなく濡らし、体温を奪っていきます。
「かかさん、さむいよ。おててが冷たいよ」
都内でお茶屋を営む母狐の、おつかいの帰り道。買ったものを濡らさぬよう、ぎゅっと抱えて、体を丸めますが、それでもポタポタ水滴は容赦しません。
「かかさん、かかさん……」
キャン、キャン。力無く鳴く子狐は、とうとう道路のすみっこで、小ちゃく、うずくまってしまいました。

そこに現れたのが母狐の茶っ葉屋の常連さんで、餅売り子狐の唯一のお得意様。
「おまえ、あの子狐か」
黒い大きな傘で、ぴっちゃり濡れた子狐を覆い、雨から遠ざけてくれました。
「濡れて動けないのか?茶葉屋に帰りたいのか?」
あーあー。こんなに濡れて。洗濯直後のぬいぐるみかシャンプー中の犬猫だ。
お得意様は子狐に、エキノコックスも狂犬病も無いのを知っているので、手持ちのタオルで毛を拭いて、拭ききれないのを諦めて、自分のリネンのサマーコートを脱ぎ、それで包んでやりました。

「丁度良い。私もこれから、部屋に帰るところだ」
子狐が大事に持っていた袋を、母狐からのおつかいの物を防水バッグに入れる、常連さん兼お得意様。リネンに包んだ子狐を抱え、黒い大傘を差し直します。
「捻くれ者と相合傘だが、文句言うなよ」
まぁ、子狐と人間で、相合傘がそもそも成立するのか不明だが。お得意様が云々付け加えて話す間に、体が少し乾いてあったかくなった子狐は、すっかり安心して、スピスピ寝息をたててしまいました。
街灯乱反射する雨の夜道に、子狐抱えて傘さし家路につく大人は、それは、それは絵になる構図でした。

人間の大人と子狐が、相合傘するおはなしでした。
深い意味はありません。某所在住物書きが、ただ書きたかっただけのおはなしです。
人間と人間の、エモでムーディーな相合傘を書けないがゆえの、苦し紛れなおはなしなのです。
しゃーない、しゃーない。

6/19/2023, 4:02:59 AM

「『勝手に』落下『する』、『意図的に』落下『させる』、『誰かによって』落下『させられる』。
あとは何だ、『自由』落下?落下『防止対策』?」
寝てる時にガタンッて足がビクつく落下感は「ジャーキング」だっけ?某所在住物書きはスマホの画面を見ながら、ネット検索結果を辿っている。
「テーブルからパンが落ちる時、ほぼ確実にジャムを塗った面を下にして落下する、てのもあった」
落下って、結構いろんなハナシに持っていきやすいな。実際に書けるかは別として。
物書きはカキリ首を傾け、鳴らし、ため息を吐く。

――――――

落下とはさして関係無さそうですが、そろそろ全国、田植えも出揃った頃でしょう。一昨日投稿分に絡めて、こんなおはなしをご用意しました。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
そのうち末っ子の子狐は、偉大な化け狐、善き御狐となるべく、人界で絶賛修行中。
まだまだお得意様はひとりしかいませんが、ぺたぺたコンコン、お餅をついてアレコレ入れて、覚えたてのおまじないをひと振りふた振り。
週に1〜2回の頻度で売り歩きます。
子狐のお餅は不思議なお餅。ウカノミタマの大神様のご利益ある、風邪を除き心毒を抜き、ちょっと運を良くしてくれる、バチクソありがたいお餅なのです。

今日もコンコン子狐は、お守りさげて人間に化けて、まだ若草色した鬼灯の明かりと、お餅を入れた葛のカゴを手に、たったひとりのお得意様の、アパートのインターホンを鳴らしました。

「おとくいさんも、今年のおとしもち、どうぞ」
硬貨が好きな子狐用に、コインケースを持ってきた、人間嫌いで寂しがり屋の、捻くれ者なお得意様。
そのお得意様を、うんと見上げて、コンコン子狐がいつもより少し小さめなお餅を差し出しました。
「『落とし餅』?」
「そろそろ、ぜんこく、つっつウラウラ、田植えが揃うの。キタは5月4月で、ミナミは今頃なの」
「はぁ」
「田植えが終わったら、さのぼりなの。泥落としで、虫追いなの。悪い虫さん、落とすの」
「そう……だな、多分?」
「だからおとくいさんも、おとしもちで、今年の悪い虫さん落とし。どうぞ」

それは、田植えの終わりを祝い、五穀豊穣と悪疫退散を祈る、1年に1度だけのお餅でした。
かつてほぼ全国で祝われた、時期も形式も餅の有無さえ違えど、労働のねぎらいと豊作を願う根っこはきっと一緒であった、しかし昨今各地で失われつつある、日本の昔々でした。
捻くれ者の雪降る故郷でも「さなぶり」として僅かに残る、稲田と生き四季を辿る風習の欠片でした。

「虫落としの餅か」
懐かしさと共に、餅をひと噛み、ふた噛み。落とし餅は捻くれ者の心の中の、悪い虫に引っ付いて、落としていきます。
「お布施は、いくらが良いだろう?」
私のところでは、餅や御札を貰ったり、舞を舞ってもらったりする礼に、たしかお布施を渡していたから。
捻くれ者は付け足して、説明しました。

コンコン子狐、まんまるおめめをキラキラさせて、小さなおててをうんと上げて、答えます。
「いっせんまんえんです」
捻くれ者のコインケースがパッタリ落下しました。

「冗談だろう?」
「キツネうそいわない。いっせんまんえんです」
「本当は?」
「おとくいさん価格、おもちおんりー500円、ウカサマのおふだ3枚付き2000円。ぜーこみ」
「はぁ……」

6/18/2023, 1:14:07 AM

「4月19日のお題が、『もしも未来を見れるなら』だったわ」
あの時は結局何も思いつかなくて、ほぼお手上げ状態だったわ。某所在住物書きは己の過去投稿分をたどり、当時の失態を思い出してため息を吐いた。
「未来『は明るい』、未来『を変えてはいけない』、未来『に行くタイムマシンは理論上存在し得る』、未来『が分かってりゃ誰も苦労しない』。
ケツじゃなく、アタマに言葉を足すなら、『10年後の』未来とか、『人の絶えた』未来とか、そういうハナシも書けるだろうな」
まぁ、ネタは浮かべどハナシにならぬ、ってのは毎度のことだが。物書きはうなだれて、再度ため息を……

――――――

なかなか、おはなしのネタの掴みどころが無いのが「未来」なような気がします。こんなおはなしをご用意しました。
最近最近の都内某所。人に化ける妙技を持つ、化け狐の末裔が住む稲荷神社で、今年も小さな八重咲きの、水色や薄紫が、こんもり咲いています。
雨の花、大きな大きな大アジサイです。子狐は、「お星さまの木」と呼びます。
ちょっと大きめな葉っぱの上で、花は多くが上を向き、満開になれば、ふっくらこんもり花が寄り合います。それはまるで、お空の星粒が地上にやってきたようです。
神社敷地内の一軒家に住む子狐は、その星そっくりな花の咲く木を、「お星さまの木」と呼ぶのです。

狐の神社は森の中。いろんな星の花が咲きます。
キラキラ黄色いフクジュソウ、ヒラヒラ紫キクザキイチゲ、それから白い「お星さま」。
時折完璧な星の形をした水晶のキノコが、それを見に来た子狐に、「あなた近い未来、たぶん明日、今日の夜ふかしのせいでお寝坊するから、ちゃんと早く寝て目覚ましかけておくのよ」と、「私を信じなきゃあなた未来で不幸になるわよ」と、本当かウソか知らない未来を、イジワルな胡散臭い声で授けてきますが、
そういう変な連中は大抵、都内で漢方医として労働し納税する父狐に見つかって、周囲の土ごと掘り起こされ、『世界線管理局 植物・菌類担当行き』と書かれた黒穴に、ドンドと放り込まれていました。
多分気にしちゃいけません。きっと別の世界のおはなしです。「ここ」ではないどこかのおはなしです。

「お星さまの木の中は、涼しいなぁ」
コンコン子狐は枝と枝の間にスルリスルリ。水色のお星様を咲かせる木の中へ、入っていきます。
そこは子狐のお気に入り。枝の伸び具合と葉のつき具合で、中に子狐1匹分の「秘密基地」があるのです。
去年も似た場所に、小さな基地ができました。
今年もこの場所に、この基地ができました。
きっと来年も再来年も、その先も、子狐が大人狐になる未来まで、星空の秘密基地は、ずっとあり続けるのでしょう。

「お星さま、お星さま。良い夢分けてくださいな」
お星さまの木の中で、ガンガン熱気をさえぎる星空の下で、コンコン子狐は丸くなって、ふかふか尻尾を極上の枕に、お昼寝をすることにしました。
「お星さま、星の日傘、さしてくださいな」
最高気温32℃、朝から真夏日の都内でも、森の中のアジサイの、葉っぱの下に入れば快適です。
コンコン子狐はそのまま目を閉じ、すぐに寝息をたて始めました……

Next