かたいなか

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「4月19日のお題が、『もしも未来を見れるなら』だったわ」
あの時は結局何も思いつかなくて、ほぼお手上げ状態だったわ。某所在住物書きは己の過去投稿分をたどり、当時の失態を思い出してため息を吐いた。
「未来『は明るい』、未来『を変えてはいけない』、未来『に行くタイムマシンは理論上存在し得る』、未来『が分かってりゃ誰も苦労しない』。
ケツじゃなく、アタマに言葉を足すなら、『10年後の』未来とか、『人の絶えた』未来とか、そういうハナシも書けるだろうな」
まぁ、ネタは浮かべどハナシにならぬ、ってのは毎度のことだが。物書きはうなだれて、再度ため息を……

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なかなか、おはなしのネタの掴みどころが無いのが「未来」なような気がします。こんなおはなしをご用意しました。
最近最近の都内某所。人に化ける妙技を持つ、化け狐の末裔が住む稲荷神社で、今年も小さな八重咲きの、水色や薄紫が、こんもり咲いています。
雨の花、大きな大きな大アジサイです。子狐は、「お星さまの木」と呼びます。
ちょっと大きめな葉っぱの上で、花は多くが上を向き、満開になれば、ふっくらこんもり花が寄り合います。それはまるで、お空の星粒が地上にやってきたようです。
神社敷地内の一軒家に住む子狐は、その星そっくりな花の咲く木を、「お星さまの木」と呼ぶのです。

狐の神社は森の中。いろんな星の花が咲きます。
キラキラ黄色いフクジュソウ、ヒラヒラ紫キクザキイチゲ、それから白い「お星さま」。
時折完璧な星の形をした水晶のキノコが、それを見に来た子狐に、「あなた近い未来、たぶん明日、今日の夜ふかしのせいでお寝坊するから、ちゃんと早く寝て目覚ましかけておくのよ」と、「私を信じなきゃあなた未来で不幸になるわよ」と、本当かウソか知らない未来を、イジワルな胡散臭い声で授けてきますが、
そういう変な連中は大抵、都内で漢方医として労働し納税する父狐に見つかって、周囲の土ごと掘り起こされ、『世界線管理局 植物・菌類担当行き』と書かれた黒穴に、ドンドと放り込まれていました。
多分気にしちゃいけません。きっと別の世界のおはなしです。「ここ」ではないどこかのおはなしです。

「お星さまの木の中は、涼しいなぁ」
コンコン子狐は枝と枝の間にスルリスルリ。水色のお星様を咲かせる木の中へ、入っていきます。
そこは子狐のお気に入り。枝の伸び具合と葉のつき具合で、中に子狐1匹分の「秘密基地」があるのです。
去年も似た場所に、小さな基地ができました。
今年もこの場所に、この基地ができました。
きっと来年も再来年も、その先も、子狐が大人狐になる未来まで、星空の秘密基地は、ずっとあり続けるのでしょう。

「お星さま、お星さま。良い夢分けてくださいな」
お星さまの木の中で、ガンガン熱気をさえぎる星空の下で、コンコン子狐は丸くなって、ふかふか尻尾を極上の枕に、お昼寝をすることにしました。
「お星さま、星の日傘、さしてくださいな」
最高気温32℃、朝から真夏日の都内でも、森の中のアジサイの、葉っぱの下に入れば快適です。
コンコン子狐はそのまま目を閉じ、すぐに寝息をたて始めました……

6/18/2023, 1:14:07 AM