かたいなか

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6/17/2023, 7:58:07 AM

「5月8日のお題が、たしか『一年後』だった」
1年前の6月17日って、俺、何してたっけ。去年の行動内容をスマホに溜め込んだ写真やスクリーンショットに求めようとした某所在住物書き。
サ終したアプリや消し飛んだ課金額に思いが動いて切なくなり、過去発掘は5分で終了した。
「『今日から数えて』1年前だったら、2023年6月17日のハナシだが、『〇〇を実行する』1年前、とかならずっと昔のハナシも書けるんよな」
たとえば「ガチャ爆死する1年前」とか。「大量課金する1年前」とか。……とか。
「……あれ。おかしいな。涙が止まらねぇや」
その日物書きが金銭の話をすることは以降無かった。

――――――

6月半ばの都内某所。夜のあるアパートの一室。
人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者が、茶香炉焚いたぼっちの部屋で、スマホの画面をじっと見て、ため息をついている。
画面には、数十分前に実家から送られてきた、故郷近隣の祭風景。シャッター街と、さして人の入らぬ観光施設が、かつての賑わいを吹き返す数時間。
1年前より更に数の増えた感がある、露店と、見物客と、なによりおそらく、祭参加者の笑顔であった。
これが終わって、ようやく捻くれ者の故郷の春は完全に終わり、初夏が来る。
東京より短い夏が。風吹き花爆ぜる夏が。

捻くれ者は、職場の後輩にその画像を、ようやく届いた故郷の初夏を、共有しようと画策して、
送るメッセージを編集し終えた直前に、悲しき思い出に待ったをかけられ、苦悩し、悶々が続いて数十分。
吐いたため息は10を超えた。
(送るな。やめておけ)
それは昔から人間嫌いだった捻くれ者の、遅い遅い初恋と、いわゆるよくある黒歴史。失恋のエピソード。
(独り善がりだ。どうせ、どうせ)
都会と社会の悪意に揉まれ、折れそうになった時、確かに自分の心を支え、魂を助けてくれた筈のひとに、高く持ち上げられ、初速度つけて落とされた数年前。

「連休あなたの故郷に二人っきりで行ってみたいかも」と言うから、早速二人のぼっち旅のため、向こうの料理を店を花の状況を調べていた矢先、見つけてしまったそのひとの、呟きアプリの裏アカウント。
「あいつあたまおかしい」。
捻くれ者は連絡手段をすべて絶ち、部屋を引き払い、職場も居住区も全部変えて、今の場所に辿り着いた。
(まだ敵ではないだけで。何かが変われば。何かを、崩してしまったら。あいつだって)
人間など敵だ。あるいは「まだ」敵でないかだ。
でももしどこかの片隅に、まだひとつ希望があって、もう一度誰かと心から、笑い合うことができたら?
もしもう一度、平坦な心に暖かい風を吹かせて、波を立たせ花を咲かせることができたら?

(もし、もう一度、……もう一度、だけ)
心を寄せては、動かしてはいけない。それは己の、頭おかしい妄想でしかない。捻くれ者はズルズル、人の悪意と良心と己の諦めの悪さを思いながら、
(もういちどだけ、ひとを、しんじつづけられたら)
二人のぼっち旅の傷の、その先を空想に思い描き、画像共有のメッセージを送るそのボタンを、

(やめろ。駄目だ)
基本ヘタレなので、結局タップできず、メッセージを全部消し電源も落としてスマホをベッドへ放った。

6/16/2023, 5:21:40 AM

「意外と、何書くか、迷っちまうお題よな」
某所在住物書きは己の部屋の本棚を見つめて、一冊取ってはチラ見し、戻しを繰り返していた。
「『誰の』好きな本か。好きな『何の』本か。好きな本『をどうするか』。なんなら好きな本『を書いたひと』のハナシも書けるし、好きな『電子書籍の』本『がサ終で読めなくなった』ってのもあり得る」
毎度毎度恒例、アイディアは出てくるけど書けねぇのよな。俺の場合。物書きは本を棚に戻し、今日も今日とてほぼお約束的に、ため息をつく。

――――――

職場の先輩の部屋は、ともかく家具が少ない。
テレビと冷蔵庫は小さめ。炊飯器無し。ソファー無しにクッション無し。
去年の4月1日の午前中に先輩自身が言った、「昔ひとりで夜逃げしたことがあり、前の住所からデカいトランクひとつで区を越えてきた」って話が、
まるで事実のように、今もやろうと思えば部屋の引き払いがすぐ実行可能なくらいに、
先輩の部屋は、生活感が少ない。

「毒味してみるか?」
「どくみ?何?」
「オートミールクッキー。チョコとあずきホイップ」

その中で唯一先輩の部屋を「先輩の部屋」にしてるのが、特に好きなものだけ並べて残りの多数はロッカールームに預けてるっていう、大きな本棚と、そこに並んでるたくさんの本だ。
漫画も小説も、エッセーも無い。美術系も観光系も無い。ただ難しそうな、すごく難しそうな本が、ジャンルごとに左上から右下に向けて並んでて、
その、先輩の好きな本だらけの難しい部屋の中に、
最近、2冊3冊程度だけど、低糖質スイーツの料理本が入ってきた。
今まで無かった小さいオーブンレンジと一緒に。

「深い意味は無い」
今日の東京は最高30℃。雪国の田舎出身だっていう先輩は、早々にテレワーク申請出して、自分のアパートで、丁度良い冷房具合に少し温かめのお茶を淹れて、テキパキ仕事してる。
「本を見つけて、分かりやすかったから気に入って、買ったから実際に作ってみた。それだけだ」
その先輩のテレワークに便乗して、先輩の涼しい部屋とおいしいランチと仕事中のお茶を分けてもらって、一緒に仕事をするのが、コロナ禍の私のトレンドだ。
「本が好きなだけ。お前も知っているだろう」

「パッと見、オートミールってカンジしないね」
「徹底的に粉にしたからな」
「徹底的?」
「すり鉢製粉。ストレス解消。『自分の仕事くらい自分でやれゴマスリ上司』。誰とは明示しない」
「把握」
「なかなかスッキリするぞ。無心にもなれる」

少し形のいびつな、それでも丁寧に焼いてくれたんだろうクッキーを、ひとつつまんで、口に放る。
「……ちょこっと、焼き餅……風味?」
サクサクっていうより、ホロホロの食感で、低糖質推しの先輩が作ったらしく、甘さが控えめだ。
「災難だったな。今日私の部屋に来たせいで、美味くもないクッキーモドキの毒味をさせられて」
「好きだよ」
「なに、」
「好き。焼いてくれたのも、嬉しいし」

媚びても世辞を言っても、何も出せないぞ。
目が泳いで、照れてそうな少し嬉しそうな、でもそれを必死に隠してる平静顔の先輩。
それこそ照れ隠しに、あずきホイップのクッキーつまもうとして、ドジッ子的にホイップクリームに中指突っ込んじゃってるのを、
私はニヨニヨしながら、ジト見してた。

6/14/2023, 3:19:35 PM

「『あいまい』ってなんだって、検索したのよ」
13日の「はやぶさ」の日をまだ引きずっているらしい某所在住物書き。当時の画像を見ては泣き、当時の動画を再生しては鼻をかむ。
弱い涙腺の面目躍如、歳をとるとは、時にかくの如しである。すなわち落涙のタガにガタが来るのだ。

「サジェスト検索に『アイマイミーマイン』だとさ。最初『何だっけソレ』って、約15年前の某『アイマイマイン』な歌と脳内で誤変換したわ」
単純に英語「アイ」の三段活用よな。懐かしいわな。
物書きはぽつり呟き、口をとがらせて、
「『曖昧な空』じゃなく『I My な空』とか一瞬閃いたんだ。……『どう書けってよ』って即ボツよな」

――――――

「で、昨日の話、結局はやぶさの育ての親の故郷って今アジサイ咲いてるの」
「ほぼ咲いていない筈だ。見頃は7月近辺だろう」
「先輩そこ出身?」
「ではない」
「アジサイせめて1個くらいは咲いてる?」
「少なくとも今年は、日当たりや周辺温度の条件が良い場所なら、ごく一部咲いている筈だ」
「先輩そこ出身?」
「ではないと言っている」

相変わらず、ふぁっきん梅雨シーズン継続中。
職場は再拡大してきたらしい感染症への対策ってことで、換気機能付きの冷房と空調機をダブルで稼働中だけど、なんだろう、雰囲気が既に多湿。
窓の外は降水確率40%の、たまにどこかで降ってそうな降ってなさそうな、非常にあいまいな空がずーっと続いてる。
何度も言うけど、雰囲気的湿度が酷くて、蒸ッし蒸しだ。ふぁっきん(大事二度)

「話を折るようで、申し訳ないが、」
私のデスクの向かい側で作業してる先輩が言った。氷の入ったクラフト紙色の紙コップを差し出して。
「お前、後増利係長から押し付け……もとい、任されているアレ、進捗はどうなってる?」
夏の入口の風物詩だ。雪国の田舎出身な先輩は、体が暑さに慣れきってない今頃、だいたい梅雨明けまで、自宅で冷たいお茶を仕込んで持ってきて、私にシェアしてくれる。
「ひとりで大丈夫か?」
本日のお茶は何だろう。コップを受け取って香りをかぐと、ミントの清涼感が秒で鼻に広がった。

「丁度チョコ持ってる。先輩2個あげる」
「チョコミン党か」
「言うほどじゃないけど好き。これミントティー?」
「とは少し違う。台湾烏龍の水出しに、スッキリすると思って、少しミントを仕込んだだけだ」
「ふーん」

で、進捗は? 少し心配そうに私を見る先輩に、ひとまずリュックから出したチョコを2個3個シェアして、チョコ食べつつミント烏龍飲みつつ。
あいまいな空と、じめっとした雰囲気が、ちょっとだけ気にならなくなる程度には、ミントの冷たさとチョコの甘さは偉大だ。
「そういえば先週、おいしいチョコミントの専門店見つけたの」
「『後増利の押し付け業務はそこでチョコミントを食いながら片付けよう』、という話か?」
「違う違う。でも、低糖質メニューいっぱいあったから、先輩好きそう。行こうよ」
「はぁ」

何度も聞いて悪いが、本当に大丈夫なのか?
更に心配色の濃くなっていく先輩をチラ見しながら、私はもうちょっとだけ、後増利に押し付けられた仕事がドン詰まりになってることを曖昧にしたまま、ミント烏龍を楽しんだ。

6/13/2023, 1:51:02 PM

「某地平線音楽で初遭遇のアイディアだが、青を『セイ』、紫を『シ』って読ませて、『生死』の物語に織り込むのは、バチクソ良い衝撃だったわな」
その話、「誰も嘘を言ってない」前提なら、「あじさい」が青で、スミレが紫だったわ。某所在住物書きは20年程度昔の、布教されて得たアルバムの音源を、深い懐古の情と共に聴き直していた。
「……で、あじさい?」
花言葉は「辛抱強い」に「冷酷」等々。ふーん。
物書きはスマホ画面を見て、長考に首筋をかき……

――――――

今日は「はやぶさの日」だそうですね。どうしても「はやぶさ」を書きたかった物書きが、お題「あじさい」とこじつけ、こんなおはなしを書いたようです。

昔々の6月13日、1機のはやぶさが多くの人に見守られながら、空気の摩擦に火をまとい、流れ星と同じ要領と美しさで、大気圏に突入して消えました。
「第20号科学衛星MUSES-C」とも言うそうです。「アトム」という名前だったかもしれないそうです。
なんやかんやあって「はやぶさ」と名付けられたはやぶさは、2003年に打ち上げられ、2010年の6月13日に、運用が終了しました。

はやぶさの、複数ある「おつかい」のひとつは、遠くの小惑星から小石や砂を持ってくることでしたが、その道のりは初っ端から、困難苦難の連続でした。
打ち上げ半年で太陽フレアに焼かれるわ、2年後11月には実家の地球と通信途絶するわ。道中故障とアクシデントで、もう踏んだり蹴ったりです。
それでもはやぶさは、辛抱強く目的地に辿り着いて、必要なものをガバチョと手に入れました。

なんやかんや、ここで語っては文字数の酷くなるようなことがあって、なんとか帰路についた後も、はやぶさに向けられた人の目は一部冷酷でした。
「1位じゃなきゃ駄目なんですか」でお馴染みの、当時の某事業仕分けでは、後継機開発など宇宙開発関連予算が削減。
「お前のどこに税金つぎ込む価値があるの」と、
「お前より大事な事業はいくらでもある」と、
当時の政権から無情に無駄宣言されたようなもの、だったかもしれません(断言は避けるスタイル)
それでもはやぶさは辛抱強く、当初4年だった道のりを倍近くかけ、実家の地球に向け飛び続けました。

アクシデントと故障に見舞われながら、一部の人間に価値と意義と重要性を否定されながら、それでも辛抱強く地球の近くまで来たはやぶさ。
その頃には報道や動画投稿サイト等々で、多くの人がはやぶさを知り、応援し、到着を待っていました。
体がボロボロ満身創痍で、それでも辛抱強く役目を果たし続けたはやぶさが、最期の最後に目を開き、地球を見て、何を思ったか。そもそも機械なので何も思わなかったか。
まぁ後者であることは事実なのでしょう。小惑星探査機のはやぶさには、思考のための前頭連合野も、褒めてほしいと望む側坐核もありません。
ただ6月13日、「はやぶさの日」が流れ星程度の短い間トレンド上位を横切って、
はやぶさの育ての親、プロジェクトマネージャーの故郷では、「辛抱強さ」を花言葉に持つ青や紫のあじさいが、その八割九割はツボミですが、
一部だけ、ほんの一部だけ、空を見上げて花を開き始めています……多分(断言は以下略)

多分二割、下手すれば八割九割、事実無根、実話に基づいたフィクションで成り立っているかもしれないおはなしでした。
おしまい、おしまい。

6/12/2023, 10:42:07 AM

「個人的にな。絵にせよ文にせよ、二次創作の一部界隈、『Aをバチクソ好きな人が、Aをバチクソ嫌いな人に配慮して、好きなものを好きに書けねぇ』って状況たまにあると思うんよ」
題目の「好き嫌い」に、どの言葉を差し込めば第一印象以上のイメージを取り出せるか。某所在住物書きはスマホの画面を見ながら、己の固い固い頭を懸命に働かせようと四苦八苦している。

「あと直近で言うとアレだ。『自分の心の中のAが長いこと好きだったのに、公式供給のAが自分の好きとズレてて、アレルギー起こしちまう』ってやつ」
俺は構わねぇけどさ。昔々の創作仲間がな。アレは「好き嫌い」を超えてたな。
物書きは深くため息をつき、数日前公開された某リバースの動画を眺めた。

――――――

6月もほぼ半分。雪国の田舎出身だっていう職場の先輩も、ようやく夏の気温に体が慣れてきたみたい。
相変わらず、上司にゴマスリばっかりしてる名前通りの後増利係長に、目をつけられて、仕事丸投げされて、暑さと戦いながらしれっと仕事終わらせてる。
あんまり他人を、私を頼ってくれなくて、ほぼほぼ単独で作業終わらせちゃうから、
いつかみたいに、丸投げを大量に押し付けられて、倒れかけやしないかって、心配ではある。
ゴマスリ係長は自分の仕事くらい自分でやれ(真理)

「先輩って、花に好き嫌いとかあるの?」
その日のお昼休憩は、いつもと違って休憩室がちょっと静かだった。
「『花に好き嫌い』?」
理由はすぐに分かった。いつも、別に誰が観てるでもなく付けっ放しになってるテレビだ。
中途採用で最近入った子が、「誰も観てないなら節電で消して良くないですか」って勝手にオフにしちゃったみたい。まぁ、正論っちゃ正論。一応。
お若いの。正論だけじゃ生きづらいぞ(経験論)
「先輩、よく綺麗な花の写真撮ってるじゃん。この花は撮るとかこの花は撮らないとか、あるのかなって」

休憩室のどこか遠くでは、例の勝手にテレビ消しちゃった中途採用君が、久々ご登場名前通りのオツボネ様、尾壺根前係長と色々言い合ってる。
誰も好きでもない番組をダラダラ流すよりテレビ消した方が節電じゃないですか。
あのねそういう話じゃなくてね。
あーだこーだ言ってるから、それを見て「なんかやってるね」ってランチトークのネタになってる。
珍しく、オツボネ支持者が多いケースっぽい。

「別に、……いや、嫌いな花はまだ無いが、好きといえばキンポウゲ科と、『春の妖精』あたりか」
「はるのようせい、」
「いつか見せただろう。フクジュソウ、キクザキイチゲ、キバナノアマナ、ニリンソウ」
「アマナとニリンソウは食べられるらしいから好き」
「お前は食い物に関してはよく覚えているな」
「先輩がよく食える食えない、美味い美味くない教えてくれるからでしょ」
「まぁ、たしかに。反論はしない」

中途採用君とオツボネのぐだぐだは、ウチの隣部署の宇曽野主任がしれっと割って入って、決着つかずで終わったみたい。
誰が好きってわけでもない番組を惰性で流してるテレビモニターは、結局今日一日は、電源オフのままになった。

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