かたいなか

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「『あいまい』ってなんだって、検索したのよ」
13日の「はやぶさ」の日をまだ引きずっているらしい某所在住物書き。当時の画像を見ては泣き、当時の動画を再生しては鼻をかむ。
弱い涙腺の面目躍如、歳をとるとは、時にかくの如しである。すなわち落涙のタガにガタが来るのだ。

「サジェスト検索に『アイマイミーマイン』だとさ。最初『何だっけソレ』って、約15年前の某『アイマイマイン』な歌と脳内で誤変換したわ」
単純に英語「アイ」の三段活用よな。懐かしいわな。
物書きはぽつり呟き、口をとがらせて、
「『曖昧な空』じゃなく『I My な空』とか一瞬閃いたんだ。……『どう書けってよ』って即ボツよな」

――――――

「で、昨日の話、結局はやぶさの育ての親の故郷って今アジサイ咲いてるの」
「ほぼ咲いていない筈だ。見頃は7月近辺だろう」
「先輩そこ出身?」
「ではない」
「アジサイせめて1個くらいは咲いてる?」
「少なくとも今年は、日当たりや周辺温度の条件が良い場所なら、ごく一部咲いている筈だ」
「先輩そこ出身?」
「ではないと言っている」

相変わらず、ふぁっきん梅雨シーズン継続中。
職場は再拡大してきたらしい感染症への対策ってことで、換気機能付きの冷房と空調機をダブルで稼働中だけど、なんだろう、雰囲気が既に多湿。
窓の外は降水確率40%の、たまにどこかで降ってそうな降ってなさそうな、非常にあいまいな空がずーっと続いてる。
何度も言うけど、雰囲気的湿度が酷くて、蒸ッし蒸しだ。ふぁっきん(大事二度)

「話を折るようで、申し訳ないが、」
私のデスクの向かい側で作業してる先輩が言った。氷の入ったクラフト紙色の紙コップを差し出して。
「お前、後増利係長から押し付け……もとい、任されているアレ、進捗はどうなってる?」
夏の入口の風物詩だ。雪国の田舎出身な先輩は、体が暑さに慣れきってない今頃、だいたい梅雨明けまで、自宅で冷たいお茶を仕込んで持ってきて、私にシェアしてくれる。
「ひとりで大丈夫か?」
本日のお茶は何だろう。コップを受け取って香りをかぐと、ミントの清涼感が秒で鼻に広がった。

「丁度チョコ持ってる。先輩2個あげる」
「チョコミン党か」
「言うほどじゃないけど好き。これミントティー?」
「とは少し違う。台湾烏龍の水出しに、スッキリすると思って、少しミントを仕込んだだけだ」
「ふーん」

で、進捗は? 少し心配そうに私を見る先輩に、ひとまずリュックから出したチョコを2個3個シェアして、チョコ食べつつミント烏龍飲みつつ。
あいまいな空と、じめっとした雰囲気が、ちょっとだけ気にならなくなる程度には、ミントの冷たさとチョコの甘さは偉大だ。
「そういえば先週、おいしいチョコミントの専門店見つけたの」
「『後増利の押し付け業務はそこでチョコミントを食いながら片付けよう』、という話か?」
「違う違う。でも、低糖質メニューいっぱいあったから、先輩好きそう。行こうよ」
「はぁ」

何度も聞いて悪いが、本当に大丈夫なのか?
更に心配色の濃くなっていく先輩をチラ見しながら、私はもうちょっとだけ、後増利に押し付けられた仕事がドン詰まりになってることを曖昧にしたまま、ミント烏龍を楽しんだ。

6/14/2023, 3:19:35 PM