かたいなか

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「個人的にな。絵にせよ文にせよ、二次創作の一部界隈、『Aをバチクソ好きな人が、Aをバチクソ嫌いな人に配慮して、好きなものを好きに書けねぇ』って状況たまにあると思うんよ」
題目の「好き嫌い」に、どの言葉を差し込めば第一印象以上のイメージを取り出せるか。某所在住物書きはスマホの画面を見ながら、己の固い固い頭を懸命に働かせようと四苦八苦している。

「あと直近で言うとアレだ。『自分の心の中のAが長いこと好きだったのに、公式供給のAが自分の好きとズレてて、アレルギー起こしちまう』ってやつ」
俺は構わねぇけどさ。昔々の創作仲間がな。アレは「好き嫌い」を超えてたな。
物書きは深くため息をつき、数日前公開された某リバースの動画を眺めた。

――――――

6月もほぼ半分。雪国の田舎出身だっていう職場の先輩も、ようやく夏の気温に体が慣れてきたみたい。
相変わらず、上司にゴマスリばっかりしてる名前通りの後増利係長に、目をつけられて、仕事丸投げされて、暑さと戦いながらしれっと仕事終わらせてる。
あんまり他人を、私を頼ってくれなくて、ほぼほぼ単独で作業終わらせちゃうから、
いつかみたいに、丸投げを大量に押し付けられて、倒れかけやしないかって、心配ではある。
ゴマスリ係長は自分の仕事くらい自分でやれ(真理)

「先輩って、花に好き嫌いとかあるの?」
その日のお昼休憩は、いつもと違って休憩室がちょっと静かだった。
「『花に好き嫌い』?」
理由はすぐに分かった。いつも、別に誰が観てるでもなく付けっ放しになってるテレビだ。
中途採用で最近入った子が、「誰も観てないなら節電で消して良くないですか」って勝手にオフにしちゃったみたい。まぁ、正論っちゃ正論。一応。
お若いの。正論だけじゃ生きづらいぞ(経験論)
「先輩、よく綺麗な花の写真撮ってるじゃん。この花は撮るとかこの花は撮らないとか、あるのかなって」

休憩室のどこか遠くでは、例の勝手にテレビ消しちゃった中途採用君が、久々ご登場名前通りのオツボネ様、尾壺根前係長と色々言い合ってる。
誰も好きでもない番組をダラダラ流すよりテレビ消した方が節電じゃないですか。
あのねそういう話じゃなくてね。
あーだこーだ言ってるから、それを見て「なんかやってるね」ってランチトークのネタになってる。
珍しく、オツボネ支持者が多いケースっぽい。

「別に、……いや、嫌いな花はまだ無いが、好きといえばキンポウゲ科と、『春の妖精』あたりか」
「はるのようせい、」
「いつか見せただろう。フクジュソウ、キクザキイチゲ、キバナノアマナ、ニリンソウ」
「アマナとニリンソウは食べられるらしいから好き」
「お前は食い物に関してはよく覚えているな」
「先輩がよく食える食えない、美味い美味くない教えてくれるからでしょ」
「まぁ、たしかに。反論はしない」

中途採用君とオツボネのぐだぐだは、ウチの隣部署の宇曽野主任がしれっと割って入って、決着つかずで終わったみたい。
誰が好きってわけでもない番組を惰性で流してるテレビモニターは、結局今日一日は、電源オフのままになった。

6/12/2023, 10:42:07 AM