かたいなか

Open App

「『勝手に』落下『する』、『意図的に』落下『させる』、『誰かによって』落下『させられる』。
あとは何だ、『自由』落下?落下『防止対策』?」
寝てる時にガタンッて足がビクつく落下感は「ジャーキング」だっけ?某所在住物書きはスマホの画面を見ながら、ネット検索結果を辿っている。
「テーブルからパンが落ちる時、ほぼ確実にジャムを塗った面を下にして落下する、てのもあった」
落下って、結構いろんなハナシに持っていきやすいな。実際に書けるかは別として。
物書きはカキリ首を傾け、鳴らし、ため息を吐く。

――――――

落下とはさして関係無さそうですが、そろそろ全国、田植えも出揃った頃でしょう。一昨日投稿分に絡めて、こんなおはなしをご用意しました。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
そのうち末っ子の子狐は、偉大な化け狐、善き御狐となるべく、人界で絶賛修行中。
まだまだお得意様はひとりしかいませんが、ぺたぺたコンコン、お餅をついてアレコレ入れて、覚えたてのおまじないをひと振りふた振り。
週に1〜2回の頻度で売り歩きます。
子狐のお餅は不思議なお餅。ウカノミタマの大神様のご利益ある、風邪を除き心毒を抜き、ちょっと運を良くしてくれる、バチクソありがたいお餅なのです。

今日もコンコン子狐は、お守りさげて人間に化けて、まだ若草色した鬼灯の明かりと、お餅を入れた葛のカゴを手に、たったひとりのお得意様の、アパートのインターホンを鳴らしました。

「おとくいさんも、今年のおとしもち、どうぞ」
硬貨が好きな子狐用に、コインケースを持ってきた、人間嫌いで寂しがり屋の、捻くれ者なお得意様。
そのお得意様を、うんと見上げて、コンコン子狐がいつもより少し小さめなお餅を差し出しました。
「『落とし餅』?」
「そろそろ、ぜんこく、つっつウラウラ、田植えが揃うの。キタは5月4月で、ミナミは今頃なの」
「はぁ」
「田植えが終わったら、さのぼりなの。泥落としで、虫追いなの。悪い虫さん、落とすの」
「そう……だな、多分?」
「だからおとくいさんも、おとしもちで、今年の悪い虫さん落とし。どうぞ」

それは、田植えの終わりを祝い、五穀豊穣と悪疫退散を祈る、1年に1度だけのお餅でした。
かつてほぼ全国で祝われた、時期も形式も餅の有無さえ違えど、労働のねぎらいと豊作を願う根っこはきっと一緒であった、しかし昨今各地で失われつつある、日本の昔々でした。
捻くれ者の雪降る故郷でも「さなぶり」として僅かに残る、稲田と生き四季を辿る風習の欠片でした。

「虫落としの餅か」
懐かしさと共に、餅をひと噛み、ふた噛み。落とし餅は捻くれ者の心の中の、悪い虫に引っ付いて、落としていきます。
「お布施は、いくらが良いだろう?」
私のところでは、餅や御札を貰ったり、舞を舞ってもらったりする礼に、たしかお布施を渡していたから。
捻くれ者は付け足して、説明しました。

コンコン子狐、まんまるおめめをキラキラさせて、小さなおててをうんと上げて、答えます。
「いっせんまんえんです」
捻くれ者のコインケースがパッタリ落下しました。

「冗談だろう?」
「キツネうそいわない。いっせんまんえんです」
「本当は?」
「おとくいさん価格、おもちおんりー500円、ウカサマのおふだ3枚付き2000円。ぜーこみ」
「はぁ……」

6/19/2023, 4:02:59 AM