「あなたがいたから、『選択を誤った』のか『ミスを回避できた』のか、『新しい発見ができた』か」
何かの困難に耐えることができた、なんてバリエもあるんだろうな。過酷なダイエットとか。某所在住物書きは己の腹をプルプル、掴んでは上下に揺らした。
「あなたがいたから『そこに行くのをやめた』とか『アレを食えなくなった』とか、『彼は彼女と別れた』とかつったら、不穏なハナシも書ける、か?」
まぁ俺の場合、このアプリと、ハートくれる誰かがいたから、こんな自己満作文でもハナシを書き続けてこれたワケだが。
つんつんつん。物書きは腹を突っつき、体重計をチラリ見遣って……
――――――
今日も真夏日一歩手前。東京の6月は今年も高温多湿で、たまに気になっちゃう生乾きな服とか加齢臭とかが無駄に滅入る。
昨晩某赤い人の美容スペシャルで、体臭減らすには朝シャワーが良いし、いい匂いになるにはカシスも効果的って覚えちゃったから、今日は近場のフルーツ屋さんでカシス入りのアイスティー貰って出勤だ。
案の定、昨日の番組観たひとで、店内そこそこ賑わってた。娘さんっぽい画像写ってるスマホとカシス持ってちょっと涙目の中年さん、大丈夫かな(察し)
「その番組なら、私も観た」
その日のお昼はチラホラ数名、カシスっぽいドリンクをチョイスしてるのが、あっちにも、こっちにも。
「個人的に気になったのは、希少糖と腎機能の方だったが、……私もカシスを飲んだ方が良いのだろうか」
同じテーブルで一緒にお弁当突っついてる、雪国の田舎出身っていう先輩も、スンスン手の甲とか袖とか嗅いで気にしてた。ちょっとかわいい。
でも先輩は別に加齢臭も何もしてないから、そんな気にしなくて良いと思う。
「先輩、アレ観たんだ」
「そうだが」
「あんなにニュースオンリー派だったのに」
「どこぞの誰かさんのせいだろう?ほら眼の前の」
「いいと思う」
「えっ?」
「ニュースばっかりより、別のも観た方が多分楽しいよ。きっと良いことだよ」
「……どうだか」
で、そのニュースオンリーで十分だった私から、恨み節のひとつでもないが。
コホン咳払いした先輩が、私から目をそらして、バッグのファスナー開けて、少し大きめの、250mLくらいの瓶を4個取り出しテーブルに載せた。
ほぼ黒な赤紫だ。多分ジャムだ。先輩の実家が故郷の四季をプチDoSアタックしてきたんだ。
先輩の、あきれ顔だか諦め顔だか、そんな表情に気付いて私はだいたい察してしまった。
あざす先輩。あざす先輩のご実家様。
あなたがいてくれたから、あなたが年に4〜5回、雪国の四季を送ってくださるから、私も極上美味をお裾分けしてもらえます。
なのに私先輩に数える程度しかお礼したことないや。
「お前、桑の実は――マルベリーは食えるよな」
先輩が言った。
「実家の母がな。『今年もたくさん採れた』と。ジャムにして大量に送りつけてきたんだ。
プレーンと、イチゴ入りと、実山椒入り、それからグミの実入り。……気に入った味だけで構わない。
食うの、手伝ってくれないか」
6/21/2023, 3:07:06 AM