かたいなか

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6/19/2023, 4:02:59 AM

「『勝手に』落下『する』、『意図的に』落下『させる』、『誰かによって』落下『させられる』。
あとは何だ、『自由』落下?落下『防止対策』?」
寝てる時にガタンッて足がビクつく落下感は「ジャーキング」だっけ?某所在住物書きはスマホの画面を見ながら、ネット検索結果を辿っている。
「テーブルからパンが落ちる時、ほぼ確実にジャムを塗った面を下にして落下する、てのもあった」
落下って、結構いろんなハナシに持っていきやすいな。実際に書けるかは別として。
物書きはカキリ首を傾け、鳴らし、ため息を吐く。

――――――

落下とはさして関係無さそうですが、そろそろ全国、田植えも出揃った頃でしょう。一昨日投稿分に絡めて、こんなおはなしをご用意しました。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
そのうち末っ子の子狐は、偉大な化け狐、善き御狐となるべく、人界で絶賛修行中。
まだまだお得意様はひとりしかいませんが、ぺたぺたコンコン、お餅をついてアレコレ入れて、覚えたてのおまじないをひと振りふた振り。
週に1〜2回の頻度で売り歩きます。
子狐のお餅は不思議なお餅。ウカノミタマの大神様のご利益ある、風邪を除き心毒を抜き、ちょっと運を良くしてくれる、バチクソありがたいお餅なのです。

今日もコンコン子狐は、お守りさげて人間に化けて、まだ若草色した鬼灯の明かりと、お餅を入れた葛のカゴを手に、たったひとりのお得意様の、アパートのインターホンを鳴らしました。

「おとくいさんも、今年のおとしもち、どうぞ」
硬貨が好きな子狐用に、コインケースを持ってきた、人間嫌いで寂しがり屋の、捻くれ者なお得意様。
そのお得意様を、うんと見上げて、コンコン子狐がいつもより少し小さめなお餅を差し出しました。
「『落とし餅』?」
「そろそろ、ぜんこく、つっつウラウラ、田植えが揃うの。キタは5月4月で、ミナミは今頃なの」
「はぁ」
「田植えが終わったら、さのぼりなの。泥落としで、虫追いなの。悪い虫さん、落とすの」
「そう……だな、多分?」
「だからおとくいさんも、おとしもちで、今年の悪い虫さん落とし。どうぞ」

それは、田植えの終わりを祝い、五穀豊穣と悪疫退散を祈る、1年に1度だけのお餅でした。
かつてほぼ全国で祝われた、時期も形式も餅の有無さえ違えど、労働のねぎらいと豊作を願う根っこはきっと一緒であった、しかし昨今各地で失われつつある、日本の昔々でした。
捻くれ者の雪降る故郷でも「さなぶり」として僅かに残る、稲田と生き四季を辿る風習の欠片でした。

「虫落としの餅か」
懐かしさと共に、餅をひと噛み、ふた噛み。落とし餅は捻くれ者の心の中の、悪い虫に引っ付いて、落としていきます。
「お布施は、いくらが良いだろう?」
私のところでは、餅や御札を貰ったり、舞を舞ってもらったりする礼に、たしかお布施を渡していたから。
捻くれ者は付け足して、説明しました。

コンコン子狐、まんまるおめめをキラキラさせて、小さなおててをうんと上げて、答えます。
「いっせんまんえんです」
捻くれ者のコインケースがパッタリ落下しました。

「冗談だろう?」
「キツネうそいわない。いっせんまんえんです」
「本当は?」
「おとくいさん価格、おもちおんりー500円、ウカサマのおふだ3枚付き2000円。ぜーこみ」
「はぁ……」

6/18/2023, 1:14:07 AM

「4月19日のお題が、『もしも未来を見れるなら』だったわ」
あの時は結局何も思いつかなくて、ほぼお手上げ状態だったわ。某所在住物書きは己の過去投稿分をたどり、当時の失態を思い出してため息を吐いた。
「未来『は明るい』、未来『を変えてはいけない』、未来『に行くタイムマシンは理論上存在し得る』、未来『が分かってりゃ誰も苦労しない』。
ケツじゃなく、アタマに言葉を足すなら、『10年後の』未来とか、『人の絶えた』未来とか、そういうハナシも書けるだろうな」
まぁ、ネタは浮かべどハナシにならぬ、ってのは毎度のことだが。物書きはうなだれて、再度ため息を……

――――――

なかなか、おはなしのネタの掴みどころが無いのが「未来」なような気がします。こんなおはなしをご用意しました。
最近最近の都内某所。人に化ける妙技を持つ、化け狐の末裔が住む稲荷神社で、今年も小さな八重咲きの、水色や薄紫が、こんもり咲いています。
雨の花、大きな大きな大アジサイです。子狐は、「お星さまの木」と呼びます。
ちょっと大きめな葉っぱの上で、花は多くが上を向き、満開になれば、ふっくらこんもり花が寄り合います。それはまるで、お空の星粒が地上にやってきたようです。
神社敷地内の一軒家に住む子狐は、その星そっくりな花の咲く木を、「お星さまの木」と呼ぶのです。

狐の神社は森の中。いろんな星の花が咲きます。
キラキラ黄色いフクジュソウ、ヒラヒラ紫キクザキイチゲ、それから白い「お星さま」。
時折完璧な星の形をした水晶のキノコが、それを見に来た子狐に、「あなた近い未来、たぶん明日、今日の夜ふかしのせいでお寝坊するから、ちゃんと早く寝て目覚ましかけておくのよ」と、「私を信じなきゃあなた未来で不幸になるわよ」と、本当かウソか知らない未来を、イジワルな胡散臭い声で授けてきますが、
そういう変な連中は大抵、都内で漢方医として労働し納税する父狐に見つかって、周囲の土ごと掘り起こされ、『世界線管理局 植物・菌類担当行き』と書かれた黒穴に、ドンドと放り込まれていました。
多分気にしちゃいけません。きっと別の世界のおはなしです。「ここ」ではないどこかのおはなしです。

「お星さまの木の中は、涼しいなぁ」
コンコン子狐は枝と枝の間にスルリスルリ。水色のお星様を咲かせる木の中へ、入っていきます。
そこは子狐のお気に入り。枝の伸び具合と葉のつき具合で、中に子狐1匹分の「秘密基地」があるのです。
去年も似た場所に、小さな基地ができました。
今年もこの場所に、この基地ができました。
きっと来年も再来年も、その先も、子狐が大人狐になる未来まで、星空の秘密基地は、ずっとあり続けるのでしょう。

「お星さま、お星さま。良い夢分けてくださいな」
お星さまの木の中で、ガンガン熱気をさえぎる星空の下で、コンコン子狐は丸くなって、ふかふか尻尾を極上の枕に、お昼寝をすることにしました。
「お星さま、星の日傘、さしてくださいな」
最高気温32℃、朝から真夏日の都内でも、森の中のアジサイの、葉っぱの下に入れば快適です。
コンコン子狐はそのまま目を閉じ、すぐに寝息をたて始めました……

6/17/2023, 7:58:07 AM

「5月8日のお題が、たしか『一年後』だった」
1年前の6月17日って、俺、何してたっけ。去年の行動内容をスマホに溜め込んだ写真やスクリーンショットに求めようとした某所在住物書き。
サ終したアプリや消し飛んだ課金額に思いが動いて切なくなり、過去発掘は5分で終了した。
「『今日から数えて』1年前だったら、2023年6月17日のハナシだが、『〇〇を実行する』1年前、とかならずっと昔のハナシも書けるんよな」
たとえば「ガチャ爆死する1年前」とか。「大量課金する1年前」とか。……とか。
「……あれ。おかしいな。涙が止まらねぇや」
その日物書きが金銭の話をすることは以降無かった。

――――――

6月半ばの都内某所。夜のあるアパートの一室。
人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者が、茶香炉焚いたぼっちの部屋で、スマホの画面をじっと見て、ため息をついている。
画面には、数十分前に実家から送られてきた、故郷近隣の祭風景。シャッター街と、さして人の入らぬ観光施設が、かつての賑わいを吹き返す数時間。
1年前より更に数の増えた感がある、露店と、見物客と、なによりおそらく、祭参加者の笑顔であった。
これが終わって、ようやく捻くれ者の故郷の春は完全に終わり、初夏が来る。
東京より短い夏が。風吹き花爆ぜる夏が。

捻くれ者は、職場の後輩にその画像を、ようやく届いた故郷の初夏を、共有しようと画策して、
送るメッセージを編集し終えた直前に、悲しき思い出に待ったをかけられ、苦悩し、悶々が続いて数十分。
吐いたため息は10を超えた。
(送るな。やめておけ)
それは昔から人間嫌いだった捻くれ者の、遅い遅い初恋と、いわゆるよくある黒歴史。失恋のエピソード。
(独り善がりだ。どうせ、どうせ)
都会と社会の悪意に揉まれ、折れそうになった時、確かに自分の心を支え、魂を助けてくれた筈のひとに、高く持ち上げられ、初速度つけて落とされた数年前。

「連休あなたの故郷に二人っきりで行ってみたいかも」と言うから、早速二人のぼっち旅のため、向こうの料理を店を花の状況を調べていた矢先、見つけてしまったそのひとの、呟きアプリの裏アカウント。
「あいつあたまおかしい」。
捻くれ者は連絡手段をすべて絶ち、部屋を引き払い、職場も居住区も全部変えて、今の場所に辿り着いた。
(まだ敵ではないだけで。何かが変われば。何かを、崩してしまったら。あいつだって)
人間など敵だ。あるいは「まだ」敵でないかだ。
でももしどこかの片隅に、まだひとつ希望があって、もう一度誰かと心から、笑い合うことができたら?
もしもう一度、平坦な心に暖かい風を吹かせて、波を立たせ花を咲かせることができたら?

(もし、もう一度、……もう一度、だけ)
心を寄せては、動かしてはいけない。それは己の、頭おかしい妄想でしかない。捻くれ者はズルズル、人の悪意と良心と己の諦めの悪さを思いながら、
(もういちどだけ、ひとを、しんじつづけられたら)
二人のぼっち旅の傷の、その先を空想に思い描き、画像共有のメッセージを送るそのボタンを、

(やめろ。駄目だ)
基本ヘタレなので、結局タップできず、メッセージを全部消し電源も落としてスマホをベッドへ放った。

6/16/2023, 5:21:40 AM

「意外と、何書くか、迷っちまうお題よな」
某所在住物書きは己の部屋の本棚を見つめて、一冊取ってはチラ見し、戻しを繰り返していた。
「『誰の』好きな本か。好きな『何の』本か。好きな本『をどうするか』。なんなら好きな本『を書いたひと』のハナシも書けるし、好きな『電子書籍の』本『がサ終で読めなくなった』ってのもあり得る」
毎度毎度恒例、アイディアは出てくるけど書けねぇのよな。俺の場合。物書きは本を棚に戻し、今日も今日とてほぼお約束的に、ため息をつく。

――――――

職場の先輩の部屋は、ともかく家具が少ない。
テレビと冷蔵庫は小さめ。炊飯器無し。ソファー無しにクッション無し。
去年の4月1日の午前中に先輩自身が言った、「昔ひとりで夜逃げしたことがあり、前の住所からデカいトランクひとつで区を越えてきた」って話が、
まるで事実のように、今もやろうと思えば部屋の引き払いがすぐ実行可能なくらいに、
先輩の部屋は、生活感が少ない。

「毒味してみるか?」
「どくみ?何?」
「オートミールクッキー。チョコとあずきホイップ」

その中で唯一先輩の部屋を「先輩の部屋」にしてるのが、特に好きなものだけ並べて残りの多数はロッカールームに預けてるっていう、大きな本棚と、そこに並んでるたくさんの本だ。
漫画も小説も、エッセーも無い。美術系も観光系も無い。ただ難しそうな、すごく難しそうな本が、ジャンルごとに左上から右下に向けて並んでて、
その、先輩の好きな本だらけの難しい部屋の中に、
最近、2冊3冊程度だけど、低糖質スイーツの料理本が入ってきた。
今まで無かった小さいオーブンレンジと一緒に。

「深い意味は無い」
今日の東京は最高30℃。雪国の田舎出身だっていう先輩は、早々にテレワーク申請出して、自分のアパートで、丁度良い冷房具合に少し温かめのお茶を淹れて、テキパキ仕事してる。
「本を見つけて、分かりやすかったから気に入って、買ったから実際に作ってみた。それだけだ」
その先輩のテレワークに便乗して、先輩の涼しい部屋とおいしいランチと仕事中のお茶を分けてもらって、一緒に仕事をするのが、コロナ禍の私のトレンドだ。
「本が好きなだけ。お前も知っているだろう」

「パッと見、オートミールってカンジしないね」
「徹底的に粉にしたからな」
「徹底的?」
「すり鉢製粉。ストレス解消。『自分の仕事くらい自分でやれゴマスリ上司』。誰とは明示しない」
「把握」
「なかなかスッキリするぞ。無心にもなれる」

少し形のいびつな、それでも丁寧に焼いてくれたんだろうクッキーを、ひとつつまんで、口に放る。
「……ちょこっと、焼き餅……風味?」
サクサクっていうより、ホロホロの食感で、低糖質推しの先輩が作ったらしく、甘さが控えめだ。
「災難だったな。今日私の部屋に来たせいで、美味くもないクッキーモドキの毒味をさせられて」
「好きだよ」
「なに、」
「好き。焼いてくれたのも、嬉しいし」

媚びても世辞を言っても、何も出せないぞ。
目が泳いで、照れてそうな少し嬉しそうな、でもそれを必死に隠してる平静顔の先輩。
それこそ照れ隠しに、あずきホイップのクッキーつまもうとして、ドジッ子的にホイップクリームに中指突っ込んじゃってるのを、
私はニヨニヨしながら、ジト見してた。

6/14/2023, 3:19:35 PM

「『あいまい』ってなんだって、検索したのよ」
13日の「はやぶさ」の日をまだ引きずっているらしい某所在住物書き。当時の画像を見ては泣き、当時の動画を再生しては鼻をかむ。
弱い涙腺の面目躍如、歳をとるとは、時にかくの如しである。すなわち落涙のタガにガタが来るのだ。

「サジェスト検索に『アイマイミーマイン』だとさ。最初『何だっけソレ』って、約15年前の某『アイマイマイン』な歌と脳内で誤変換したわ」
単純に英語「アイ」の三段活用よな。懐かしいわな。
物書きはぽつり呟き、口をとがらせて、
「『曖昧な空』じゃなく『I My な空』とか一瞬閃いたんだ。……『どう書けってよ』って即ボツよな」

――――――

「で、昨日の話、結局はやぶさの育ての親の故郷って今アジサイ咲いてるの」
「ほぼ咲いていない筈だ。見頃は7月近辺だろう」
「先輩そこ出身?」
「ではない」
「アジサイせめて1個くらいは咲いてる?」
「少なくとも今年は、日当たりや周辺温度の条件が良い場所なら、ごく一部咲いている筈だ」
「先輩そこ出身?」
「ではないと言っている」

相変わらず、ふぁっきん梅雨シーズン継続中。
職場は再拡大してきたらしい感染症への対策ってことで、換気機能付きの冷房と空調機をダブルで稼働中だけど、なんだろう、雰囲気が既に多湿。
窓の外は降水確率40%の、たまにどこかで降ってそうな降ってなさそうな、非常にあいまいな空がずーっと続いてる。
何度も言うけど、雰囲気的湿度が酷くて、蒸ッし蒸しだ。ふぁっきん(大事二度)

「話を折るようで、申し訳ないが、」
私のデスクの向かい側で作業してる先輩が言った。氷の入ったクラフト紙色の紙コップを差し出して。
「お前、後増利係長から押し付け……もとい、任されているアレ、進捗はどうなってる?」
夏の入口の風物詩だ。雪国の田舎出身な先輩は、体が暑さに慣れきってない今頃、だいたい梅雨明けまで、自宅で冷たいお茶を仕込んで持ってきて、私にシェアしてくれる。
「ひとりで大丈夫か?」
本日のお茶は何だろう。コップを受け取って香りをかぐと、ミントの清涼感が秒で鼻に広がった。

「丁度チョコ持ってる。先輩2個あげる」
「チョコミン党か」
「言うほどじゃないけど好き。これミントティー?」
「とは少し違う。台湾烏龍の水出しに、スッキリすると思って、少しミントを仕込んだだけだ」
「ふーん」

で、進捗は? 少し心配そうに私を見る先輩に、ひとまずリュックから出したチョコを2個3個シェアして、チョコ食べつつミント烏龍飲みつつ。
あいまいな空と、じめっとした雰囲気が、ちょっとだけ気にならなくなる程度には、ミントの冷たさとチョコの甘さは偉大だ。
「そういえば先週、おいしいチョコミントの専門店見つけたの」
「『後増利の押し付け業務はそこでチョコミントを食いながら片付けよう』、という話か?」
「違う違う。でも、低糖質メニューいっぱいあったから、先輩好きそう。行こうよ」
「はぁ」

何度も聞いて悪いが、本当に大丈夫なのか?
更に心配色の濃くなっていく先輩をチラ見しながら、私はもうちょっとだけ、後増利に押し付けられた仕事がドン詰まりになってることを曖昧にしたまま、ミント烏龍を楽しんだ。

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