かたいなか

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5/22/2023, 11:00:16 PM

「なんだ、『今日』の日はサヨナラじゃなくて、『昨日』へのサヨナラか」
19時着の題目を、チラ見して早合点した某所在住物書き。一部界隈にとってトラウマソングですらあるところの曲名を、スマホの音楽ライブラリで検索し、無駄にボーカル無し版など再生して無事自爆している。

「で。――昨日にサヨナラして、今日と出会うんじゃなく明日? 明日と出会うのに、サヨナラするのは今日じゃなく昨日?」
このお題、対象は「どこ」に居るんだ?
無駄にあれこれ捻くれて、今日も物書きは長考する。

――――――

「昨日にサヨナラする人」と「明日と出会う人」の2本立てを書こうとして挫折した某物書きです。折角なので、こんな苦し紛れはどうでしょう。

最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に住む、仲良し家族は化け狐の末裔。
人に化ける妙技を持ち、不断の努力でチョコもタマネギもナッツも克服した、古き御狐、善き化け狐です。
ネズミを食わず、毎日ちゃんとお風呂に入って、エキノコックスを克服した、安心安全なモフモフです。
その一家の末っ子は、徳を積み人間社会を知る修行のため、不思議なお餅を売り歩くやんちゃっ子。
防犯強化の叫ばれる昨今、お得意様はひとりだけですが、週に1〜2回、ラインナップ豊富な高コスパお餅を、コンコン、売ってキラキラ硬貨をもらいます。
今夜はちょっぴり高額収入。ヒラヒラ野口さん1枚の売上です。せっかくなので、最近都内に越してきた魔女のおばあさんの喫茶店で、おいしいココアとスコーンをご馳走になることにしました。

「あら子狐ちゃん。いらっしゃい」
チリンチリン。子狐が喫茶店のドアを開けると、いつもの暖炉の前で、おばあさんが揺り椅子に座り、
「いつものスコーン、丁度焼きたてがあるわよ」
泣きそうな、あるいは今まで泣いてた人間と、丁度売買取引を終わらせたところでした。
「あのおばちゃん、なに買ったの?」
人間が店から出たのを確認して、コンコン子狐、魔女のおばあさんに聞きました。
「あのひとに必要な物よ」
おばあさんは、子狐にスコーンとクリームとジャムの載ったお皿を差し出して言いました。

「必要なもの?ごはん?おあげさん?」
「昨日の記憶と引き換えに、今日をすっ飛ばして明日まで寝ちゃうお薬。最近の若い子は、『リアルスキップ機能』がどうとか、『昨日の記憶にさよならバイバイ、俺は明日と旅に出る』とか言うわねぇ」
「今日すっ飛ばしたら、今日のごはん、食べられないよ。おいしいお肉、食べられないよ」
「それどころか、昨日食べたごはんも忘れちゃうわ」
「なんで?なんで、そんなおくすり飲むの?」
「それが必要なひともいるの。苦しくて」
「ふーん」

なんで昨日のごはんと引き換えに、今日のごはん全部すっ飛ばしちゃうんだろう。
食いしん坊なコンコン子狐、首をこっくりこっくり、傾けて頑張って考えます。
世の荒波も、悪意もあまり知らない子狐を、魔女のおばあさんは愛おしそうに、微笑して、穏やかに見つめておりました。

5/22/2023, 2:04:11 AM

「先月は『無色』、今月最初は『カラフル』。で、今回は『透明』か」
さすがにもう色系のお題は来ねぇよな。某所在住物書きは、透明な水を湯に変えて、カップ麺に注いだ。
「色彩学じゃ無色と透明は別。それは覚えた」
無色のお題の方、バチクソ悩んだな。物書きは回想し、濁りを伴う透明スープから麺をつまむ。

「英語では『湯』が『茹でた水』程度の熟語表記で、単体定義としての単語は無いんだったっけ?」
湯→英語では湯も水も「Water」→酒は般若「湯」。
酒の話とか書けねぇのかな。物書きは麺をすすり、突発的な熱の痛みに悶絶した。

――――――

今日5月22日は抹茶新茶の日らしい。
インスタ不具合で一部界隈ほか大多数がメッチャ大変そうだけど、その大混乱のトレンドに隠れて、チラッとだけ、呟きにその話が流れてきた。
東京都内は本日最高気温28℃予想。お茶なんて、ホットは飲んでられなそうな暑さ。ただ明日はバチクソ冷え込んで、20℃未満まで急降下するらしい。
「明日は仕事がはかどる」って、雪国の田舎出身な先輩が言ってた。東京育ちの私としては今の時期の17℃前後は肌寒いくらいだ。
令和ちゃんそろそろ温度管理資格取って(切実)
で、そんな5月22の職場の、いち場面の話。

「やぶきた品種。川根の新茶だ」
耐熱のカップに、休憩室の冷蔵庫から氷を失敬して2個4個。それと自前の、おひとり用耐熱ガラス急須。
「一般的な緑茶より渋みがあって、鼻に抜ける余韻がとても甘い。好きなやつは好きな味だな」
昼休憩、休憩室のテーブルに一式並べて、お弁当と一緒に私と先輩での突発的お茶会が開催された。
「個人的に濃い甘さの菓子、生菓子とか生クリーム系とかと、相性が良い気がする」
蒸らし終わって濃い緑から薄緑に変わった茶葉に、少しだけ温度の下がった熱湯を、ひたり、ひたり。
ガラスの急須の中で、熱い水の無色透明が、明るい黄色味の差す黄緑な有色透明に変わる。

「いつも淹れてくれるお茶の色と違う」
私がぽつり言うと、
「産地と品種が違う」
先輩は、お茶成分のよくよく染み出した急須の中を少しの水でちょっとだけ冷ましてから、
「私の部屋でお前に出しているのは、埼玉県の狭山茶とか、あさつゆ品種の知覧茶。それと静岡の本山」
その、明るい黄々緑色の透明を、氷入りのカップに、静かに注ぎ入れた。
「あちらの方が、味として甘いし、優しい気がする」
カラリ、カラリ、カラン。カップの中の氷がお茶の熱で溶けて、踊って、少しだけ小さくなった。

「なんで今日に限って?」
「お前が朝に『今日抹茶新茶の日だって』なんて送ってきたからだろう」
「そうじゃなくて。なんで今日に限ってカワネ?」
「突然だったからな。いつものを切らしていた。それで少々渋いが、新茶だし、自分用を」
「自分用。……へー……」

先輩、いつもはこういうの飲んでるんだ。
差し出されたカップをクンカクンカしてから、私はおそるおそる「渋い」というお茶を舌にのせて、
「あっ……想像以上に渋……あれ……甘……?」
キリッとした渋さの後に来た味に、鼻から抜ける確実な甘さに、そこそこ混乱してた。
「悪い。嫌いだったか」
「違う違う。不思議なだけ。大丈夫」
「弁当の前に食うか?生クリームどら焼き?」
「たべる。好き」

5/21/2023, 12:37:57 AM

「『ひと』を書きたい。……とは常々思ってる」
昨日が昨日で今日も今日。19時着の題目に対して苦悩悶々安定な、某所在住物書きである。
「理想としてはドキュメンタリーよ。舞台の箱作って。設定持たせたキャラ置いて。当日のお題をテーマに動いて生活してもらって、そのシーンを撮影する感覚で文字に起こすの」
まぁ、所詮理想だから、結果はご覧の通りだけど。己の投稿作品を読み飛ばす物書きの視線は完全にチベットスナギツネであった。
「……理想の俺が遠過ぎて困難」

――――――

わたくし後輩、ただいま先輩に、居酒屋の個室で絵描き物書き用語を解説しております。
「特に女性に多いと思うけど、結構絵師や物書きは、心に理想の『The She』と『The He』がいるの」

スン。 先輩がメモの手をボールペンを止めて、短く、小さく息を吸った。
何か突発的に、気になる疑問とかが出てきたときの、先輩のひとつのクセだ。最上級になると息吸った後に「ん?」って吐き首を傾ける。
「『その』、『彼女』で、『その彼』なの」
私は補足した。
「たとえば、リバのツー様でも総受けのツー様でもなく、総攻めのツー様。『その』ツー様なワケ」
案の定先輩は短い声と一緒に小首をかしげた。

「先輩は『先輩』で、確かにココに居るでしょ?」
きっかけは都内某所の某最近青コンビニに商品コーナーができ始めてる四文字良品。私は百均後の寄り道で、先輩は文房具の買い足し中だった。
真面目な先輩が良品のシンプルでシックなグッズを使ってるのが解釈一致過ぎ。
それでつい「なんか解釈一致」って言ったんだけど、途端、先輩は少し苦しそうな顔をした。
解釈の二文字が諸事情で過敏なアレルギーらしい。
「絵描き物書きは、先輩に、先輩自身がそうでもそうじゃなくても、『先輩は実は漫画が大好き』とか、『先輩は料理がとても上手』とか設定付けるの」

その先輩が「解釈は、どのような意味で使っているんだ」って聞いてきて。急きょ一緒に居酒屋でごはん。
そんな大げさな話でもないのに、先輩は良品で買ったメモ帳に私の話をメモして静かに聞き始めた。
かわいい。

「私の部屋に娯楽書籍が皆無なことは、お前も知っているだろう」
「そうそこ。本人が、事実として、どうであるか、場合によっちゃ無関係なの。その絵師の世界では先輩は『漫画が好き』で、『昔レストランでバイトしてた』『実は昔やんちゃっ子』の、『元精神科医』なの」
「はぁ」
「この設定リストだのイメージだのが、『解釈』。『解釈一致』は『自分が考えてる○○のイメージと一緒』って意味で、『解釈不一致』はその逆ってこと」
「『地雷』は?」
「『自分にとってその設定とかイメージとかは精神的アレルギーなので受け付けません』って意味」
「そうか。……そう」

トン、トン。
ボールペンでメモを静かに叩き、頑張って内容を理解しようとしてる先輩は、数度頷き、ため息をついて、
「……アレルギーで不一致なら、すぐ捨ててくれれば良かったのに」
ぽつり、私に聞こえるか聞こえないかくらいの声量で、寂しげに呟いた。

5/19/2023, 3:30:19 PM

「死別、夜逃げ、恋仲をフッて縁切り。メジャーどころはこんなモンか」
ちょっと変わり種で、今まで頑張って進めてきたゲームのデータを不注意で初期化?
かつて某モンスター収集ゲームで、129匹登録した図鑑を「はじめから」の「ボックスをかえる」でサヨナラバイバイした経験のある某所在住物書き。もう15年程度昔の失敗談である。

「……セーブデータとの突然の別れは、一部失恋より喪失感ハンパない説」
昔々のモノクロドットを思い出す物書きは、懐かしさに負けて、折り畳みの2画面ゲーム機を取り出す。

――――――

「突然の別れ」。なかなか、そこそこ想像力をかきたてそうなお題ですね。こんな失恋話はどうでしょう。
約8年前。まだ年号が平成だった頃。
都内某所で、とある人間嫌いで寂しがり屋な捻くれ者が、初恋のひとの前から突然姿を消しました。
同じ職場で昨日まで、普通に一緒に働いていたのに、まるでコインをひっくり返したように、あるいは長々書いていた文章を全選択して一括削除したように。
捻くれ者は、電話番号もグループチャットのアカウントも住み慣れたアパートの一室さえ、すべて、ごっそり、さっぱり。消えてしまっておりました。

これに一時パニクったのが「初恋」側。
思い当たる節が大き過ぎて、失踪当日から1週間程度、急きょ有休を申請して、探し続けたのでした。

(別垢で、愚痴ってたのがバレた?)
「初恋」側にとって、捻くれ者は人生二度目の恋人。顔に惚れて、真面目過ぎる性格に解釈違いを起こし、娯楽に疎い学術トークが地雷で駄目でした。
(皆愚痴るでしょ?あれでも我慢した方だよ?)
「真面目過ぎて地雷」、「解釈不一致」、「話合わない」、「頭おかしい」。
吐き出せる場所が呟きアプリの別垢しか無くて、苦しみを数度、ポロリしました。
前の恋人と比較して愚痴って、それでも捻くれ者を捨てられなかったのは、恋のステータスを手放したくなかったから。
(まだ間に合う?まだ元に戻せる?)
ごめんなさい。言葉が人をこんなに傷つけることを、ちゃんと理解してなかっただけなの。
せめて目の前から消える前に、こっちの言い分を聞いて、話をさせて。勝手に一人勝ちしないで。
その言葉を伝えたくて、区内は勿論、近隣の区も日夜探し続けましたが、手がかりのひとつも見つからず。
珍しい名字のひとだから簡単に足がつくだろうと、依頼料の金額に目をつぶって頼った探偵も、「都内にこの名字のひとは居ませんね」と空振りでした。

「会いたい」
それから何度か誰かに恋して、振って振られて、また恋をして。
結局「あの二度目の恋人」が、トークも性格も解釈不一致で地雷だったけど、一番優しくて誠実なひとだったと、気付いて再度行方を追って。
「どこにいるの、附子山さん……」
今日もその「初恋」側は、突然別れた恋人を、一方的な勝ち抜けが気に入らなかったか恋の執着ゆえか、
ひとりで、探し続けているそうです。

5/19/2023, 3:28:48 AM

「このアプリ、さてはエモ系と恋愛系と、空とその他サムシングのお題で過半数だな?」
だって先日も「愛があれば」だった。某所在住物書きは過去投稿分の題目を辿りながら、小首をひねる。
「続き物っぽい文章2ヶ月半投稿して思ったけどさ。意外と、『付かず離れずな日常風景の相棒もの』な物語って、ハナシ続けるのラクな気がする」
ベッタリ恋愛ものは続かねぇの。恋愛皆無の仲間ってのは俺の好物なの。
心の距離感便利。物書きはポツリ結び、今日も文章を投稿する。

――――――

昨日の猛暑から一転、今日の東京はいい具合に過ごしやすい気温に戻った。
昨日と一昨日でろんでろんに溶けてた、雪国の田舎出身だっていう先輩も、今日は通常運転。
上司にゴマスリばっかりしてる我らがゴマスリ係長の、押し付けられた仕事をテキパキさばいて、自分の本来の分担もさっさと終わらせてた。

昨日お疲れだった新人ちゃんは、「微熱と喉の痛みにより、念のため自宅待機」。
先輩からのリークで、「事情」は知ってる。
4月1日で左遷されたウチの前係長、名前通りのオツボネ様、尾壺根係長にいじめられた心の傷が酷くて、朝、涙が止まらなくなっちゃったって。
私もオツボネにいじめられたから分かる。こういうときは、職場でも泣きたくなっちゃうから、一旦有休でも欠勤でも何でも使って、家で休んでた方が良い。

今はそっとしておいて、元気になったら、先輩のお宝情報で釣って、お悩み相談会でも。
どこか、おいしいお肉が食べられる個室で。

「私のお宝情報?」
昼休憩、お悩み相談会の話を「リーク元」に渡したら、お弁当のスープジャーの中を突っつく手を止めて、先輩があんぐり口を開けた。
「何故、新人を釣るのに私の情報が要る?」

「だって新人ちゃんゼッタイ恋してるし」
「こい?……だれに?」
「先輩以外いないでしょ。先月4日か5日頃に1回先輩に相談して、昨日も2回目で先輩に相談して、どっちも『オツボネ係長がトラウマで、今すごく弱ってます』って話だったじゃん」
「たまたま係長への密告リスクの低い相談者が私だっただけだ」

「ああいう社会に出たばっかりのバンビちゃんってね。追い詰められてるときに優しくされると、キュンしちゃうんだよ」
「はぁ」
「てことで、交際決まったら呼んで。『ウチの先輩はやらん!』の頑固オヤジ役やりたいから」
「私はお前の何なんだ」

そもそも恋なんてものはだな。
所詮不勉強の付け焼き刃知識でしかないが、
前頭前野の活動鈍化とドーパミンの活発な分泌と、血中コルチゾールの上昇等々による、ただの生理現象であってだな。
照れもせず顔を赤くもせず、ただ淡々と、先輩はいつもの心理学&脳科学講義を、つらつら。

「先輩」
びしっ。私が人差し指を伸ばし、突き立てて、小さく左右に振り、
「恋の前にはね。多分ゼントーゼンヤは無意味なの」
恋愛は学問云々じゃなく、多分ハートから始まるんだよ、って意味でポツリ言うと、
「その通り。前頭前野は無意味だ」
なんか全然違う、ちゃんとした学問の話で意味が通じちゃったらしく、数度頷いてた。
ちがう。そうじゃない。

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