かたいなか

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「死別、夜逃げ、恋仲をフッて縁切り。メジャーどころはこんなモンか」
ちょっと変わり種で、今まで頑張って進めてきたゲームのデータを不注意で初期化?
かつて某モンスター収集ゲームで、129匹登録した図鑑を「はじめから」の「ボックスをかえる」でサヨナラバイバイした経験のある某所在住物書き。もう15年程度昔の失敗談である。

「……セーブデータとの突然の別れは、一部失恋より喪失感ハンパない説」
昔々のモノクロドットを思い出す物書きは、懐かしさに負けて、折り畳みの2画面ゲーム機を取り出す。

――――――

「突然の別れ」。なかなか、そこそこ想像力をかきたてそうなお題ですね。こんな失恋話はどうでしょう。
約8年前。まだ年号が平成だった頃。
都内某所で、とある人間嫌いで寂しがり屋な捻くれ者が、初恋のひとの前から突然姿を消しました。
同じ職場で昨日まで、普通に一緒に働いていたのに、まるでコインをひっくり返したように、あるいは長々書いていた文章を全選択して一括削除したように。
捻くれ者は、電話番号もグループチャットのアカウントも住み慣れたアパートの一室さえ、すべて、ごっそり、さっぱり。消えてしまっておりました。

これに一時パニクったのが「初恋」側。
思い当たる節が大き過ぎて、失踪当日から1週間程度、急きょ有休を申請して、探し続けたのでした。

(別垢で、愚痴ってたのがバレた?)
「初恋」側にとって、捻くれ者は人生二度目の恋人。顔に惚れて、真面目過ぎる性格に解釈違いを起こし、娯楽に疎い学術トークが地雷で駄目でした。
(皆愚痴るでしょ?あれでも我慢した方だよ?)
「真面目過ぎて地雷」、「解釈不一致」、「話合わない」、「頭おかしい」。
吐き出せる場所が呟きアプリの別垢しか無くて、苦しみを数度、ポロリしました。
前の恋人と比較して愚痴って、それでも捻くれ者を捨てられなかったのは、恋のステータスを手放したくなかったから。
(まだ間に合う?まだ元に戻せる?)
ごめんなさい。言葉が人をこんなに傷つけることを、ちゃんと理解してなかっただけなの。
せめて目の前から消える前に、こっちの言い分を聞いて、話をさせて。勝手に一人勝ちしないで。
その言葉を伝えたくて、区内は勿論、近隣の区も日夜探し続けましたが、手がかりのひとつも見つからず。
珍しい名字のひとだから簡単に足がつくだろうと、依頼料の金額に目をつぶって頼った探偵も、「都内にこの名字のひとは居ませんね」と空振りでした。

「会いたい」
それから何度か誰かに恋して、振って振られて、また恋をして。
結局「あの二度目の恋人」が、トークも性格も解釈不一致で地雷だったけど、一番優しくて誠実なひとだったと、気付いて再度行方を追って。
「どこにいるの、附子山さん……」
今日もその「初恋」側は、突然別れた恋人を、一方的な勝ち抜けが気に入らなかったか恋の執着ゆえか、
ひとりで、探し続けているそうです。

5/19/2023, 3:30:19 PM