かたいなか

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「『ひと』を書きたい。……とは常々思ってる」
昨日が昨日で今日も今日。19時着の題目に対して苦悩悶々安定な、某所在住物書きである。
「理想としてはドキュメンタリーよ。舞台の箱作って。設定持たせたキャラ置いて。当日のお題をテーマに動いて生活してもらって、そのシーンを撮影する感覚で文字に起こすの」
まぁ、所詮理想だから、結果はご覧の通りだけど。己の投稿作品を読み飛ばす物書きの視線は完全にチベットスナギツネであった。
「……理想の俺が遠過ぎて困難」

――――――

わたくし後輩、ただいま先輩に、居酒屋の個室で絵描き物書き用語を解説しております。
「特に女性に多いと思うけど、結構絵師や物書きは、心に理想の『The She』と『The He』がいるの」

スン。 先輩がメモの手をボールペンを止めて、短く、小さく息を吸った。
何か突発的に、気になる疑問とかが出てきたときの、先輩のひとつのクセだ。最上級になると息吸った後に「ん?」って吐き首を傾ける。
「『その』、『彼女』で、『その彼』なの」
私は補足した。
「たとえば、リバのツー様でも総受けのツー様でもなく、総攻めのツー様。『その』ツー様なワケ」
案の定先輩は短い声と一緒に小首をかしげた。

「先輩は『先輩』で、確かにココに居るでしょ?」
きっかけは都内某所の某最近青コンビニに商品コーナーができ始めてる四文字良品。私は百均後の寄り道で、先輩は文房具の買い足し中だった。
真面目な先輩が良品のシンプルでシックなグッズを使ってるのが解釈一致過ぎ。
それでつい「なんか解釈一致」って言ったんだけど、途端、先輩は少し苦しそうな顔をした。
解釈の二文字が諸事情で過敏なアレルギーらしい。
「絵描き物書きは、先輩に、先輩自身がそうでもそうじゃなくても、『先輩は実は漫画が大好き』とか、『先輩は料理がとても上手』とか設定付けるの」

その先輩が「解釈は、どのような意味で使っているんだ」って聞いてきて。急きょ一緒に居酒屋でごはん。
そんな大げさな話でもないのに、先輩は良品で買ったメモ帳に私の話をメモして静かに聞き始めた。
かわいい。

「私の部屋に娯楽書籍が皆無なことは、お前も知っているだろう」
「そうそこ。本人が、事実として、どうであるか、場合によっちゃ無関係なの。その絵師の世界では先輩は『漫画が好き』で、『昔レストランでバイトしてた』『実は昔やんちゃっ子』の、『元精神科医』なの」
「はぁ」
「この設定リストだのイメージだのが、『解釈』。『解釈一致』は『自分が考えてる○○のイメージと一緒』って意味で、『解釈不一致』はその逆ってこと」
「『地雷』は?」
「『自分にとってその設定とかイメージとかは精神的アレルギーなので受け付けません』って意味」
「そうか。……そう」

トン、トン。
ボールペンでメモを静かに叩き、頑張って内容を理解しようとしてる先輩は、数度頷き、ため息をついて、
「……アレルギーで不一致なら、すぐ捨ててくれれば良かったのに」
ぽつり、私に聞こえるか聞こえないかくらいの声量で、寂しげに呟いた。

5/21/2023, 12:37:57 AM