かたいなか

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「なんだ、『今日』の日はサヨナラじゃなくて、『昨日』へのサヨナラか」
19時着の題目を、チラ見して早合点した某所在住物書き。一部界隈にとってトラウマソングですらあるところの曲名を、スマホの音楽ライブラリで検索し、無駄にボーカル無し版など再生して無事自爆している。

「で。――昨日にサヨナラして、今日と出会うんじゃなく明日? 明日と出会うのに、サヨナラするのは今日じゃなく昨日?」
このお題、対象は「どこ」に居るんだ?
無駄にあれこれ捻くれて、今日も物書きは長考する。

――――――

「昨日にサヨナラする人」と「明日と出会う人」の2本立てを書こうとして挫折した某物書きです。折角なので、こんな苦し紛れはどうでしょう。

最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に住む、仲良し家族は化け狐の末裔。
人に化ける妙技を持ち、不断の努力でチョコもタマネギもナッツも克服した、古き御狐、善き化け狐です。
ネズミを食わず、毎日ちゃんとお風呂に入って、エキノコックスを克服した、安心安全なモフモフです。
その一家の末っ子は、徳を積み人間社会を知る修行のため、不思議なお餅を売り歩くやんちゃっ子。
防犯強化の叫ばれる昨今、お得意様はひとりだけですが、週に1〜2回、ラインナップ豊富な高コスパお餅を、コンコン、売ってキラキラ硬貨をもらいます。
今夜はちょっぴり高額収入。ヒラヒラ野口さん1枚の売上です。せっかくなので、最近都内に越してきた魔女のおばあさんの喫茶店で、おいしいココアとスコーンをご馳走になることにしました。

「あら子狐ちゃん。いらっしゃい」
チリンチリン。子狐が喫茶店のドアを開けると、いつもの暖炉の前で、おばあさんが揺り椅子に座り、
「いつものスコーン、丁度焼きたてがあるわよ」
泣きそうな、あるいは今まで泣いてた人間と、丁度売買取引を終わらせたところでした。
「あのおばちゃん、なに買ったの?」
人間が店から出たのを確認して、コンコン子狐、魔女のおばあさんに聞きました。
「あのひとに必要な物よ」
おばあさんは、子狐にスコーンとクリームとジャムの載ったお皿を差し出して言いました。

「必要なもの?ごはん?おあげさん?」
「昨日の記憶と引き換えに、今日をすっ飛ばして明日まで寝ちゃうお薬。最近の若い子は、『リアルスキップ機能』がどうとか、『昨日の記憶にさよならバイバイ、俺は明日と旅に出る』とか言うわねぇ」
「今日すっ飛ばしたら、今日のごはん、食べられないよ。おいしいお肉、食べられないよ」
「それどころか、昨日食べたごはんも忘れちゃうわ」
「なんで?なんで、そんなおくすり飲むの?」
「それが必要なひともいるの。苦しくて」
「ふーん」

なんで昨日のごはんと引き換えに、今日のごはん全部すっ飛ばしちゃうんだろう。
食いしん坊なコンコン子狐、首をこっくりこっくり、傾けて頑張って考えます。
世の荒波も、悪意もあまり知らない子狐を、魔女のおばあさんは愛おしそうに、微笑して、穏やかに見つめておりました。

5/22/2023, 11:00:16 PM