かたいなか

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「このアプリ、さてはエモ系と恋愛系と、空とその他サムシングのお題で過半数だな?」
だって先日も「愛があれば」だった。某所在住物書きは過去投稿分の題目を辿りながら、小首をひねる。
「続き物っぽい文章2ヶ月半投稿して思ったけどさ。意外と、『付かず離れずな日常風景の相棒もの』な物語って、ハナシ続けるのラクな気がする」
ベッタリ恋愛ものは続かねぇの。恋愛皆無の仲間ってのは俺の好物なの。
心の距離感便利。物書きはポツリ結び、今日も文章を投稿する。

――――――

昨日の猛暑から一転、今日の東京はいい具合に過ごしやすい気温に戻った。
昨日と一昨日でろんでろんに溶けてた、雪国の田舎出身だっていう先輩も、今日は通常運転。
上司にゴマスリばっかりしてる我らがゴマスリ係長の、押し付けられた仕事をテキパキさばいて、自分の本来の分担もさっさと終わらせてた。

昨日お疲れだった新人ちゃんは、「微熱と喉の痛みにより、念のため自宅待機」。
先輩からのリークで、「事情」は知ってる。
4月1日で左遷されたウチの前係長、名前通りのオツボネ様、尾壺根係長にいじめられた心の傷が酷くて、朝、涙が止まらなくなっちゃったって。
私もオツボネにいじめられたから分かる。こういうときは、職場でも泣きたくなっちゃうから、一旦有休でも欠勤でも何でも使って、家で休んでた方が良い。

今はそっとしておいて、元気になったら、先輩のお宝情報で釣って、お悩み相談会でも。
どこか、おいしいお肉が食べられる個室で。

「私のお宝情報?」
昼休憩、お悩み相談会の話を「リーク元」に渡したら、お弁当のスープジャーの中を突っつく手を止めて、先輩があんぐり口を開けた。
「何故、新人を釣るのに私の情報が要る?」

「だって新人ちゃんゼッタイ恋してるし」
「こい?……だれに?」
「先輩以外いないでしょ。先月4日か5日頃に1回先輩に相談して、昨日も2回目で先輩に相談して、どっちも『オツボネ係長がトラウマで、今すごく弱ってます』って話だったじゃん」
「たまたま係長への密告リスクの低い相談者が私だっただけだ」

「ああいう社会に出たばっかりのバンビちゃんってね。追い詰められてるときに優しくされると、キュンしちゃうんだよ」
「はぁ」
「てことで、交際決まったら呼んで。『ウチの先輩はやらん!』の頑固オヤジ役やりたいから」
「私はお前の何なんだ」

そもそも恋なんてものはだな。
所詮不勉強の付け焼き刃知識でしかないが、
前頭前野の活動鈍化とドーパミンの活発な分泌と、血中コルチゾールの上昇等々による、ただの生理現象であってだな。
照れもせず顔を赤くもせず、ただ淡々と、先輩はいつもの心理学&脳科学講義を、つらつら。

「先輩」
びしっ。私が人差し指を伸ばし、突き立てて、小さく左右に振り、
「恋の前にはね。多分ゼントーゼンヤは無意味なの」
恋愛は学問云々じゃなく、多分ハートから始まるんだよ、って意味でポツリ言うと、
「その通り。前頭前野は無意味だ」
なんか全然違う、ちゃんとした学問の話で意味が通じちゃったらしく、数度頷いてた。
ちがう。そうじゃない。

5/19/2023, 3:28:48 AM