かたいなか

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5/5/2023, 12:22:18 AM

「イイね!こういうお題こそ、抜け穴探しが楽しい」
前回に引き続き、長文の出題である。
曲解別解、揚げ足取りを大好物とする某所在住物書きは、新たな獲物に舌舐めずり。
今回はいかなる「違う、そうじゃない」を錬成し得るか、捕らぬ狸の皮算用的薄笑いを浮かべる。

「まぁ、まぁ。こういうのはまず、お題を丹念に確認して、強烈な第一印象を崩していくのが大事だ」
画面をスワイプ。通知画面の文章を再度確認する。
「何が未指定か。どれが曲解可能か。どの順序を逆にできるか。どこに別の文章を差し込めるか」
ただ、スラスラ書けるかっていうと、別なワケよ。
物書きは思考し、何も浮かばず、小さく息を吐いた。

――――――

雲が流れる空の下で、大地に寝転がり目を閉じる。
素直に読めばこの光景、少し捻くれてもこの設定。
そのことごとくを崩して捻って、逆にしたかっただけのおはなしです。

最近最近の都内某所。某アパートの一室へ、汗しっとり、意識朦朧一歩手前な部屋の主が、小さめの保冷バッグを片手に、命からがら帰ってきました。
「……あつい」
雪国の田舎出身、人間嫌いと寂しがり屋を併発したその捻くれ者は、帰ってきて早々、バッグの中身を、小さな冷蔵庫の冷凍室へ。
ガサガサガサ。それはサイダー味の氷菓子であり、バニラ味のミニカップアイスであり、小さめの棒アイスをチョコレートでコーティングした6本入りでした。
令和5年5月5日。東京は最高気温が27℃予報。
それは捻くれ者の故郷の、7〜8月相当です。
「向こうは明日17℃か……」
スマホで天気予報を見れば、上は10℃、下も8℃低い5月の故郷。きっと今頃、ようやく公園でアケビの花が、林道でぽつぽつガマズミの仲間が、道端ではオダマキの紫色が、咲き始めている頃でしょう。

目を閉じて、捻くれ者は思い浮かべます。
花と山野草溢れる街。コロナ禍前、最後に帰省したのは2019年。職場の隣部署の友人が「観光したい」と強引にゴネたので、実家に連れて行きました。
そうだ。あれは風だけ強い、冬の晴れた夜のこと。
最大瞬間風速30mで視界を奪う地吹雪と、地上の惨事も意に介さぬ満月の、対比を珍しがった友人が、
外に出て、
寒さと風の強さと夜空の美しさに叫び、
庭に広がる雪積もる大地にダイブして寝転がって、
その間雲は月光に照らされ、風に流れてゆきました。
結果友人は寒さで歯も指も震え、即座に捻くれ者が沸かしておいた、ちょっとぬるま湯なお風呂の中へ。
『さむいな』
『当たり前だ!今外気温何度だと思ってる、マイナス5℃だぞ、マイナス5℃!』
『ぱうだーすのーだった』
『だろうな!昨日の最低が最低だったから!』
それらすべてを、明るい月と流れる雲が、空から見守っておりました。

「……」
そういえば同部署の後輩が先日「先輩の故郷に行ってみたい」と言っていた。

「春にしよう。冬は駄目だ」
首を横に振る捻くれ者。きっとあの後輩も、氷点下の雪原にダイブする人種です。
帰省への同行は断固お断りで、最悪強引にゴネられても、冬の観光は絶対に阻止しよう。4年前の積雪の大地の記憶に、捻くれ者は固く、かたく誓うのでした。

5/3/2023, 10:21:14 PM

「第一印象を、いかに崩すか。そのお題に何個別解釈を用意できるか。最近心がけてるわな」
つまるところ、「ありがとうを伝えたかった対象Aが居る」と、「文章Bは、Aを思い浮かべて紡いだ言葉Cを内包している」が満たされていれば、
文章Bは対象A本人である必要は無いし、言葉Cは「ありがとう」そのものでなくても良い。
よって感謝成分少なめのC≠Aが執筆可能である。
題目の、重箱の隅を数時間突っつき続けた某所在住物書き。辿り着いた歪曲解釈は、出題者に「違う、そうじゃない」と頭を抱えさせるかもしれなかった。

「つまり感謝を伝えたかった職場の先輩を思い浮かべて山菜蕎麦のハナシを書くことができる」

具体例をご覧頂こう。物書きは、捻くれた笑顔で文章(ことば)を紡ぎ始め……

――――――

職場に、ロクにありがとうを伝えられてないけど、仕事でしょっちゅう助けられてる先輩がいる。

先々月が特に、だった。今は別部署に飛ばされてるけど、当時のオツボネ係長に、私は仕事の重大ミスの責任を全部押し付けられたことがあった。
あの時そばに居て、話を聞いてくれたのが、雪国の田舎出身だという先輩だった。

その先輩の故郷では、今街のあちこちで山菜が大量に顔を出してるという。

山の中じゃない。林の中でもない。庭の中、公園の片隅、道路に少しある土の上。ありとあらゆる場所で、山菜が顔を出してるという。
どんな状況?って聞いてみた。「地元スーパーの駐車場にフキの群生が、公園の原っぱにアサツキの草原が、川の土手一面に菜の花畑があるのに、誰ひとりそれを採っていかない状況」って言われた。
よく分かんない。
なお公園に生えてるギョウジャニンニクとカタクリとアマドコロは、誰かが毎年毎年ごっそり採るせいで、増えず、下手すれば数が減ってるかもしれないとか。
山菜ごっそり独り占めで採ってくやつは、特定されて晒されて大炎上すれば良いと思う。

いいな私もタダで山菜採って山菜蕎麦食べたい。

フキ、フキノトウ、ワラビ、アサツキ、タラの芽。
東京のスーパーに並ぶ山菜はすごく高いけど、その山菜のパックを見かけるたび、
ロクにありがとうを伝えてなかった先輩の故郷っていう、どの都道府県とも知れない雪国の、きっと道端にポツンと生えてるであろう小さなフキやワラビなんかを、それに手を伸ばし優しく触れる先輩を、解像度低めで思い浮かべてる。
いいなぁ。私も公園で山菜採りしたい。それでフキの肉詰めとかワラビの辛子醤油和えとか、山菜蕎麦とか自分で作って食べたい。
なんてヨダレじゅるりしながら。

5/3/2023, 2:00:34 AM

「第一印象って、対人関係にせよこのアプリでのお題にせよ、バチクソ強烈だと個人的に思うんよ」
昨日は緑茶の日で八十八夜。関係者様毎度お世話になっておりますと、一日遅れで無駄に三つ指などつく某所在住物書きである。
「『優しくしないで』。エモ系のお題よな。初恋のひとにメンタルボッコボコにされた真面目ちゃんに、『あのひと思い出すから優しくしないで』って言わせてみろよ。インスタント3分5分でエモが組めるぜ」

実際、似た物語進行で俺よりドチャクソ上手い投稿見つけたし。物書きはポツリ呟き、頭を抱え、
「エモなお題にはゼロエモで全力抵抗したくなんの」
全力抵抗したくなるのに、第一印象がもう「失恋」だからさ、等々ポツポツうなだれて……

――――――

筆者が「優しくしないで」の題目でエモい展開を書きたくないがゆえの、強引で珍妙な物語。
都内某所、某アパートの一室で、人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者が、ベッドにうつ伏せで寝そべって、職場の後輩たる女性に跨がられている。

「痛……っつ!……あだだだだ!」
「ほらー!ココがイイんでしょ!イイんでしょー!」
マッサージである(健全)
事実としてただのマッサージである(大事二度)

世はゴールデンウィーク。最大9連休のど真ん中。
「腰と首が折れる、頼む、もう少し優しく、」
「しゃらっぷ」
「がッ……ぐ!!」
食費節約――もとい、上司に規格外な量の仕事を押し付けられ、ゆえに自室で休日も仕事を続けているであろう先輩が、心配で、心配で。「心優しい後輩」たる彼女が「真面目な先輩」のアパートを訪れると、
見よ、案の定この青空広がる晴天に、部屋でどうやら徹夜の事務作業中である。
聞けば食事も出来合いで簡単に済ませているとか。

『先輩肩とか腰とか凝ってない?』
「心優しい後輩」は察した。
『ちょっと揉んであげる』
ここで手伝ってはいけない。非情こそ選択肢である。
優しくしては、この真面目で優秀な先輩は、在宅での過重労働を今後も単独で続けるであろう。
例の、上司にゴマスリばかりして、面倒な仕事を全部部下に丸投げする某係長が、悪しき心を改めるまで。

「今度一人っきりで勝手に無理してたら、また肩揉み腰揉みするから。優しくしないで全力で揉むから」
先月から仕事続きの背筋首筋は凝り固まっており、押すたび掴むたび叩くたび、苦痛に悲鳴が上がる。
「懲りた?懲りたよね?もう一回は要らないよね?」
せいぜいこの後揉み返しで、1日くらいぐっすり休養してれば良いよ。その方が体のためだよ。
分からせ業務(健全)を完遂した達成感に、後輩はパンパン、両手を高らかに叩き鳴らす。

「で、ごはんどうする?」

ぐったりの先輩は何も言わない。
ただ、何に対してのそれとも分からず、頭を小さく数度だけ振り、肯定あるいは承諾ないし、降参かもしれぬ態度を、静かに後輩に示すのみであった。

5/2/2023, 9:50:24 AM

8割童話、2割リアル調なおはなしです。細かい考察ガン無視なおはなしです。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が家族で暮らしており、そのうち末っ子の子狐は、不思議な不思議なお餅を売って、善良な化け狐、偉大な御狐となるべく修行をしているのでした。

そんな子狐、昨日の晩に、たったひとりのお得意様である某アパート在住の捻くれ者から、臨時の高収入を獲得しました。
捻くれ者が言うには、
ウチのバカジョーシがキューキョ「ユーキュー」を取って、「ジムサギョー」と「シリョーサクセー」を私にタイリョーに押し付けてきたから、料理の時間を削ってザイタクの仕事時間にあてたい。
とのこと。
お肉や野菜がたっぷり入った惣菜餅を、3日9食分。そこにおやつの計6個。しめて15個3000円。
コンコン子狐、いっちょまえに言葉は話せるので頭はそこそこ賢いのですが、なにせまだまだ生まれて○年なので、「馬鹿上司」だの「有休」だの「事務作業」だのはちんぷんかんぷん。
とりあえずお得意さんがいっぱいお餅を買ってくれた、それだけ覚えて、野口さんを3枚、代金として受け取りました。

「やった、やった!」
お札を3枚も貰った子狐。ぴょこぴょこ跳んで喜びます。ピラピラお札はキラキラ硬貨ほどキレイではありませんが、これ1枚さえあれば、子狐の欲しい物は、全部、全部手に入るのです。
「ピラピラが、こんなにいっぱいある!」
神社の家に帰って、寝て起きて朝ごはんを食べた子狐は、さっそく野口さん3枚と、小さなお気に入りの宝箱を持って、ちゃんと人間に化けてから、人混みごちゃつく商店街に走っていきました。

まず化け狐仲間の駄菓子屋さんで、子狐はチャリチャリキレイなおはじきと、コロコロかわいいビー玉を、野口さん1枚で買いました。
赤青黄色のビー玉と、おはじきとお釣りが入り、宝箱の中に色が増えました。
それから大狸の和菓子屋さんで、子狐はあまーい金平糖と、ちょっとカラメルなべっこう飴を、野口さん1枚で買いました。
白薄緑に桃色の金平糖と、明るい茶色なべっこう飴で、宝箱の中はもっと色が増えました。
最後に最近越してきた魔女のおばあさんの喫茶店で、子狐はあったかココアと、優しいスコーンとショートケーキを、野口さん1枚でご馳走になりました。
宝箱の中身は何も増えませんでしたが、子狐の心とおなかは、ほっこりいっぱいになりました。

「赤青黄色、白茶色、色がいっぱいだ!」
カラフルになった宝箱の中を、キラキラおめめで確認して、コンコン子狐は大満足。
家に帰ってそれから1日、その日のお日さまが暮れるまで、子狐は、おはじきとビー玉と金平糖と、べっこう飴とほんの少し残った硬貨を眺めて、幸せに、幸せに過ごしましたとさ。

5/1/2023, 2:08:48 AM

「楽園の定義や所在、生活の中で感じる楽園、現代に楽園なんて無ぇよの嘆き、楽園Aと楽園Bの比較。どの視点から書くか、まぁまぁ、迷うねぇ」
俺としては金と美味い食い物と最高のベッドとストレスフリーな安全地帯があればそれで良いや。某所在住物書きはポテチをつまみ、茶をカップに注いで笑う。

「そういや楽園って、『飽き』の概念有んのかな」
スマホを手繰った物書きは、途端はたと閃いて……

――――――

最大9連休の中の、月曜日だ。呟きアプリでは「電車空いてる」とか、「席座れた」とかが、ちらほら。
私の職場の同期同年代で作ってるグルチャでも、○○課長っぽいひとがエグい服着てバス乗ってたとか目撃例が。画像見たけどたしかにエグい。

「おはよう」
最大9連休だろうと、ウチはウチ。血は多分有るけど涙が無い、ブラックに限りなく近いグレー企業。
「今日と明日、後増利係長が急きょ有休だそうだ。『お孫さんが熱を出したらしい』」
大型連休is何だっけの精神で職場に行くと、20℃超えの気温にようやく少し慣れてきたらしい、雪国の田舎出身っていう先輩が、向かい側の席で氷入りのコーヒーと一緒にもう仕事を始めてた。
「不思議だなぁ?『お孫さん』は先々週、『新型コロナの中〜重症で、病院に入院中』だった筈だが?」

「おはよー」
先輩の机の上には、上司にゴマスリばっかりしてる後増利係長が押し付けてった、大量の仕事の山がある。
「『退院してから普通の風邪引いた』んでしょ」
今日は仕事だけど、これで登山でも楽しんで、ってハナシなんだろう。なにそのオヤジギャク笑えない。
「先輩3日から7日のどこか空いてない?」
山の中から、私が確実に、絶対にできる仕事をザッカザッカ抜いて、問答無用で自分の机に置き直した。
ゴマスリ係長は一度この量を本当に一人で片付けられるか自分自身で検証すべきだと思う。
「手伝うから、どっかで先輩の故郷観光連れてって」

「私の故郷観光?何故?」
「先輩言ってたじゃん。先輩の故郷、花と山野草と山菜いっぱいの楽園だって」
「楽園と言った覚えはない」
「絶対楽園だもん。森林浴し放題。今何咲いてる?」
「おそらくニリンソウとフデリンドウと、山桜と、そろそろ道端でオダマキ。菜の花は丁度見頃だろうな」
「それを人混みも騒音もナシで見れるんでしょ?」
「見れる。公園は祭期間以外はガラガラだから、川だの風だの、あと鳥の声も聞きながら」

「ほら楽園だった。ストレスフリー。デトックス」
「んん……?」

「無理ならランチおごり1回。この前行ったとこ」
田舎出身の先輩は、自然あふれる静かな街がどれだけ貴重で尊いか、あんまり分かってない。
「4月6日頃のテラス席か?低糖質バイキング?」
「そうそこ。星空リベンジ」
それが無くて苦しいから、一定数の都民がこの連休で、花とか水とか音とかに癒やしを求めるのに。
当たり前と感じてるものを、「実は当たり前じゃない」って気付くのは、意外と難しいのかもしれない。
私が小さなため息をひとつ吐くと、先輩は心底不思議そうな顔で、私を見て、首を傾けた。

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