かたいなか

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「第一印象を、いかに崩すか。そのお題に何個別解釈を用意できるか。最近心がけてるわな」
つまるところ、「ありがとうを伝えたかった対象Aが居る」と、「文章Bは、Aを思い浮かべて紡いだ言葉Cを内包している」が満たされていれば、
文章Bは対象A本人である必要は無いし、言葉Cは「ありがとう」そのものでなくても良い。
よって感謝成分少なめのC≠Aが執筆可能である。
題目の、重箱の隅を数時間突っつき続けた某所在住物書き。辿り着いた歪曲解釈は、出題者に「違う、そうじゃない」と頭を抱えさせるかもしれなかった。

「つまり感謝を伝えたかった職場の先輩を思い浮かべて山菜蕎麦のハナシを書くことができる」

具体例をご覧頂こう。物書きは、捻くれた笑顔で文章(ことば)を紡ぎ始め……

――――――

職場に、ロクにありがとうを伝えられてないけど、仕事でしょっちゅう助けられてる先輩がいる。

先々月が特に、だった。今は別部署に飛ばされてるけど、当時のオツボネ係長に、私は仕事の重大ミスの責任を全部押し付けられたことがあった。
あの時そばに居て、話を聞いてくれたのが、雪国の田舎出身だという先輩だった。

その先輩の故郷では、今街のあちこちで山菜が大量に顔を出してるという。

山の中じゃない。林の中でもない。庭の中、公園の片隅、道路に少しある土の上。ありとあらゆる場所で、山菜が顔を出してるという。
どんな状況?って聞いてみた。「地元スーパーの駐車場にフキの群生が、公園の原っぱにアサツキの草原が、川の土手一面に菜の花畑があるのに、誰ひとりそれを採っていかない状況」って言われた。
よく分かんない。
なお公園に生えてるギョウジャニンニクとカタクリとアマドコロは、誰かが毎年毎年ごっそり採るせいで、増えず、下手すれば数が減ってるかもしれないとか。
山菜ごっそり独り占めで採ってくやつは、特定されて晒されて大炎上すれば良いと思う。

いいな私もタダで山菜採って山菜蕎麦食べたい。

フキ、フキノトウ、ワラビ、アサツキ、タラの芽。
東京のスーパーに並ぶ山菜はすごく高いけど、その山菜のパックを見かけるたび、
ロクにありがとうを伝えてなかった先輩の故郷っていう、どの都道府県とも知れない雪国の、きっと道端にポツンと生えてるであろう小さなフキやワラビなんかを、それに手を伸ばし優しく触れる先輩を、解像度低めで思い浮かべてる。
いいなぁ。私も公園で山菜採りしたい。それでフキの肉詰めとかワラビの辛子醤油和えとか、山菜蕎麦とか自分で作って食べたい。
なんてヨダレじゅるりしながら。

5/3/2023, 10:21:14 PM