かたいなか

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「イイね!こういうお題こそ、抜け穴探しが楽しい」
前回に引き続き、長文の出題である。
曲解別解、揚げ足取りを大好物とする某所在住物書きは、新たな獲物に舌舐めずり。
今回はいかなる「違う、そうじゃない」を錬成し得るか、捕らぬ狸の皮算用的薄笑いを浮かべる。

「まぁ、まぁ。こういうのはまず、お題を丹念に確認して、強烈な第一印象を崩していくのが大事だ」
画面をスワイプ。通知画面の文章を再度確認する。
「何が未指定か。どれが曲解可能か。どの順序を逆にできるか。どこに別の文章を差し込めるか」
ただ、スラスラ書けるかっていうと、別なワケよ。
物書きは思考し、何も浮かばず、小さく息を吐いた。

――――――

雲が流れる空の下で、大地に寝転がり目を閉じる。
素直に読めばこの光景、少し捻くれてもこの設定。
そのことごとくを崩して捻って、逆にしたかっただけのおはなしです。

最近最近の都内某所。某アパートの一室へ、汗しっとり、意識朦朧一歩手前な部屋の主が、小さめの保冷バッグを片手に、命からがら帰ってきました。
「……あつい」
雪国の田舎出身、人間嫌いと寂しがり屋を併発したその捻くれ者は、帰ってきて早々、バッグの中身を、小さな冷蔵庫の冷凍室へ。
ガサガサガサ。それはサイダー味の氷菓子であり、バニラ味のミニカップアイスであり、小さめの棒アイスをチョコレートでコーティングした6本入りでした。
令和5年5月5日。東京は最高気温が27℃予報。
それは捻くれ者の故郷の、7〜8月相当です。
「向こうは明日17℃か……」
スマホで天気予報を見れば、上は10℃、下も8℃低い5月の故郷。きっと今頃、ようやく公園でアケビの花が、林道でぽつぽつガマズミの仲間が、道端ではオダマキの紫色が、咲き始めている頃でしょう。

目を閉じて、捻くれ者は思い浮かべます。
花と山野草溢れる街。コロナ禍前、最後に帰省したのは2019年。職場の隣部署の友人が「観光したい」と強引にゴネたので、実家に連れて行きました。
そうだ。あれは風だけ強い、冬の晴れた夜のこと。
最大瞬間風速30mで視界を奪う地吹雪と、地上の惨事も意に介さぬ満月の、対比を珍しがった友人が、
外に出て、
寒さと風の強さと夜空の美しさに叫び、
庭に広がる雪積もる大地にダイブして寝転がって、
その間雲は月光に照らされ、風に流れてゆきました。
結果友人は寒さで歯も指も震え、即座に捻くれ者が沸かしておいた、ちょっとぬるま湯なお風呂の中へ。
『さむいな』
『当たり前だ!今外気温何度だと思ってる、マイナス5℃だぞ、マイナス5℃!』
『ぱうだーすのーだった』
『だろうな!昨日の最低が最低だったから!』
それらすべてを、明るい月と流れる雲が、空から見守っておりました。

「……」
そういえば同部署の後輩が先日「先輩の故郷に行ってみたい」と言っていた。

「春にしよう。冬は駄目だ」
首を横に振る捻くれ者。きっとあの後輩も、氷点下の雪原にダイブする人種です。
帰省への同行は断固お断りで、最悪強引にゴネられても、冬の観光は絶対に阻止しよう。4年前の積雪の大地の記憶に、捻くれ者は固く、かたく誓うのでした。

5/5/2023, 12:22:18 AM