かたいなか

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「第一印象って、対人関係にせよこのアプリでのお題にせよ、バチクソ強烈だと個人的に思うんよ」
昨日は緑茶の日で八十八夜。関係者様毎度お世話になっておりますと、一日遅れで無駄に三つ指などつく某所在住物書きである。
「『優しくしないで』。エモ系のお題よな。初恋のひとにメンタルボッコボコにされた真面目ちゃんに、『あのひと思い出すから優しくしないで』って言わせてみろよ。インスタント3分5分でエモが組めるぜ」

実際、似た物語進行で俺よりドチャクソ上手い投稿見つけたし。物書きはポツリ呟き、頭を抱え、
「エモなお題にはゼロエモで全力抵抗したくなんの」
全力抵抗したくなるのに、第一印象がもう「失恋」だからさ、等々ポツポツうなだれて……

――――――

筆者が「優しくしないで」の題目でエモい展開を書きたくないがゆえの、強引で珍妙な物語。
都内某所、某アパートの一室で、人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者が、ベッドにうつ伏せで寝そべって、職場の後輩たる女性に跨がられている。

「痛……っつ!……あだだだだ!」
「ほらー!ココがイイんでしょ!イイんでしょー!」
マッサージである(健全)
事実としてただのマッサージである(大事二度)

世はゴールデンウィーク。最大9連休のど真ん中。
「腰と首が折れる、頼む、もう少し優しく、」
「しゃらっぷ」
「がッ……ぐ!!」
食費節約――もとい、上司に規格外な量の仕事を押し付けられ、ゆえに自室で休日も仕事を続けているであろう先輩が、心配で、心配で。「心優しい後輩」たる彼女が「真面目な先輩」のアパートを訪れると、
見よ、案の定この青空広がる晴天に、部屋でどうやら徹夜の事務作業中である。
聞けば食事も出来合いで簡単に済ませているとか。

『先輩肩とか腰とか凝ってない?』
「心優しい後輩」は察した。
『ちょっと揉んであげる』
ここで手伝ってはいけない。非情こそ選択肢である。
優しくしては、この真面目で優秀な先輩は、在宅での過重労働を今後も単独で続けるであろう。
例の、上司にゴマスリばかりして、面倒な仕事を全部部下に丸投げする某係長が、悪しき心を改めるまで。

「今度一人っきりで勝手に無理してたら、また肩揉み腰揉みするから。優しくしないで全力で揉むから」
先月から仕事続きの背筋首筋は凝り固まっており、押すたび掴むたび叩くたび、苦痛に悲鳴が上がる。
「懲りた?懲りたよね?もう一回は要らないよね?」
せいぜいこの後揉み返しで、1日くらいぐっすり休養してれば良いよ。その方が体のためだよ。
分からせ業務(健全)を完遂した達成感に、後輩はパンパン、両手を高らかに叩き鳴らす。

「で、ごはんどうする?」

ぐったりの先輩は何も言わない。
ただ、何に対してのそれとも分からず、頭を小さく数度だけ振り、肯定あるいは承諾ないし、降参かもしれぬ態度を、静かに後輩に示すのみであった。

5/3/2023, 2:00:34 AM