かたいなか

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5/3/2023, 2:00:34 AM

「第一印象って、対人関係にせよこのアプリでのお題にせよ、バチクソ強烈だと個人的に思うんよ」
昨日は緑茶の日で八十八夜。関係者様毎度お世話になっておりますと、一日遅れで無駄に三つ指などつく某所在住物書きである。
「『優しくしないで』。エモ系のお題よな。初恋のひとにメンタルボッコボコにされた真面目ちゃんに、『あのひと思い出すから優しくしないで』って言わせてみろよ。インスタント3分5分でエモが組めるぜ」

実際、似た物語進行で俺よりドチャクソ上手い投稿見つけたし。物書きはポツリ呟き、頭を抱え、
「エモなお題にはゼロエモで全力抵抗したくなんの」
全力抵抗したくなるのに、第一印象がもう「失恋」だからさ、等々ポツポツうなだれて……

――――――

筆者が「優しくしないで」の題目でエモい展開を書きたくないがゆえの、強引で珍妙な物語。
都内某所、某アパートの一室で、人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者が、ベッドにうつ伏せで寝そべって、職場の後輩たる女性に跨がられている。

「痛……っつ!……あだだだだ!」
「ほらー!ココがイイんでしょ!イイんでしょー!」
マッサージである(健全)
事実としてただのマッサージである(大事二度)

世はゴールデンウィーク。最大9連休のど真ん中。
「腰と首が折れる、頼む、もう少し優しく、」
「しゃらっぷ」
「がッ……ぐ!!」
食費節約――もとい、上司に規格外な量の仕事を押し付けられ、ゆえに自室で休日も仕事を続けているであろう先輩が、心配で、心配で。「心優しい後輩」たる彼女が「真面目な先輩」のアパートを訪れると、
見よ、案の定この青空広がる晴天に、部屋でどうやら徹夜の事務作業中である。
聞けば食事も出来合いで簡単に済ませているとか。

『先輩肩とか腰とか凝ってない?』
「心優しい後輩」は察した。
『ちょっと揉んであげる』
ここで手伝ってはいけない。非情こそ選択肢である。
優しくしては、この真面目で優秀な先輩は、在宅での過重労働を今後も単独で続けるであろう。
例の、上司にゴマスリばかりして、面倒な仕事を全部部下に丸投げする某係長が、悪しき心を改めるまで。

「今度一人っきりで勝手に無理してたら、また肩揉み腰揉みするから。優しくしないで全力で揉むから」
先月から仕事続きの背筋首筋は凝り固まっており、押すたび掴むたび叩くたび、苦痛に悲鳴が上がる。
「懲りた?懲りたよね?もう一回は要らないよね?」
せいぜいこの後揉み返しで、1日くらいぐっすり休養してれば良いよ。その方が体のためだよ。
分からせ業務(健全)を完遂した達成感に、後輩はパンパン、両手を高らかに叩き鳴らす。

「で、ごはんどうする?」

ぐったりの先輩は何も言わない。
ただ、何に対してのそれとも分からず、頭を小さく数度だけ振り、肯定あるいは承諾ないし、降参かもしれぬ態度を、静かに後輩に示すのみであった。

5/2/2023, 9:50:24 AM

8割童話、2割リアル調なおはなしです。細かい考察ガン無視なおはなしです。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が家族で暮らしており、そのうち末っ子の子狐は、不思議な不思議なお餅を売って、善良な化け狐、偉大な御狐となるべく修行をしているのでした。

そんな子狐、昨日の晩に、たったひとりのお得意様である某アパート在住の捻くれ者から、臨時の高収入を獲得しました。
捻くれ者が言うには、
ウチのバカジョーシがキューキョ「ユーキュー」を取って、「ジムサギョー」と「シリョーサクセー」を私にタイリョーに押し付けてきたから、料理の時間を削ってザイタクの仕事時間にあてたい。
とのこと。
お肉や野菜がたっぷり入った惣菜餅を、3日9食分。そこにおやつの計6個。しめて15個3000円。
コンコン子狐、いっちょまえに言葉は話せるので頭はそこそこ賢いのですが、なにせまだまだ生まれて○年なので、「馬鹿上司」だの「有休」だの「事務作業」だのはちんぷんかんぷん。
とりあえずお得意さんがいっぱいお餅を買ってくれた、それだけ覚えて、野口さんを3枚、代金として受け取りました。

「やった、やった!」
お札を3枚も貰った子狐。ぴょこぴょこ跳んで喜びます。ピラピラお札はキラキラ硬貨ほどキレイではありませんが、これ1枚さえあれば、子狐の欲しい物は、全部、全部手に入るのです。
「ピラピラが、こんなにいっぱいある!」
神社の家に帰って、寝て起きて朝ごはんを食べた子狐は、さっそく野口さん3枚と、小さなお気に入りの宝箱を持って、ちゃんと人間に化けてから、人混みごちゃつく商店街に走っていきました。

まず化け狐仲間の駄菓子屋さんで、子狐はチャリチャリキレイなおはじきと、コロコロかわいいビー玉を、野口さん1枚で買いました。
赤青黄色のビー玉と、おはじきとお釣りが入り、宝箱の中に色が増えました。
それから大狸の和菓子屋さんで、子狐はあまーい金平糖と、ちょっとカラメルなべっこう飴を、野口さん1枚で買いました。
白薄緑に桃色の金平糖と、明るい茶色なべっこう飴で、宝箱の中はもっと色が増えました。
最後に最近越してきた魔女のおばあさんの喫茶店で、子狐はあったかココアと、優しいスコーンとショートケーキを、野口さん1枚でご馳走になりました。
宝箱の中身は何も増えませんでしたが、子狐の心とおなかは、ほっこりいっぱいになりました。

「赤青黄色、白茶色、色がいっぱいだ!」
カラフルになった宝箱の中を、キラキラおめめで確認して、コンコン子狐は大満足。
家に帰ってそれから1日、その日のお日さまが暮れるまで、子狐は、おはじきとビー玉と金平糖と、べっこう飴とほんの少し残った硬貨を眺めて、幸せに、幸せに過ごしましたとさ。

5/1/2023, 2:08:48 AM

「楽園の定義や所在、生活の中で感じる楽園、現代に楽園なんて無ぇよの嘆き、楽園Aと楽園Bの比較。どの視点から書くか、まぁまぁ、迷うねぇ」
俺としては金と美味い食い物と最高のベッドとストレスフリーな安全地帯があればそれで良いや。某所在住物書きはポテチをつまみ、茶をカップに注いで笑う。

「そういや楽園って、『飽き』の概念有んのかな」
スマホを手繰った物書きは、途端はたと閃いて……

――――――

最大9連休の中の、月曜日だ。呟きアプリでは「電車空いてる」とか、「席座れた」とかが、ちらほら。
私の職場の同期同年代で作ってるグルチャでも、○○課長っぽいひとがエグい服着てバス乗ってたとか目撃例が。画像見たけどたしかにエグい。

「おはよう」
最大9連休だろうと、ウチはウチ。血は多分有るけど涙が無い、ブラックに限りなく近いグレー企業。
「今日と明日、後増利係長が急きょ有休だそうだ。『お孫さんが熱を出したらしい』」
大型連休is何だっけの精神で職場に行くと、20℃超えの気温にようやく少し慣れてきたらしい、雪国の田舎出身っていう先輩が、向かい側の席で氷入りのコーヒーと一緒にもう仕事を始めてた。
「不思議だなぁ?『お孫さん』は先々週、『新型コロナの中〜重症で、病院に入院中』だった筈だが?」

「おはよー」
先輩の机の上には、上司にゴマスリばっかりしてる後増利係長が押し付けてった、大量の仕事の山がある。
「『退院してから普通の風邪引いた』んでしょ」
今日は仕事だけど、これで登山でも楽しんで、ってハナシなんだろう。なにそのオヤジギャク笑えない。
「先輩3日から7日のどこか空いてない?」
山の中から、私が確実に、絶対にできる仕事をザッカザッカ抜いて、問答無用で自分の机に置き直した。
ゴマスリ係長は一度この量を本当に一人で片付けられるか自分自身で検証すべきだと思う。
「手伝うから、どっかで先輩の故郷観光連れてって」

「私の故郷観光?何故?」
「先輩言ってたじゃん。先輩の故郷、花と山野草と山菜いっぱいの楽園だって」
「楽園と言った覚えはない」
「絶対楽園だもん。森林浴し放題。今何咲いてる?」
「おそらくニリンソウとフデリンドウと、山桜と、そろそろ道端でオダマキ。菜の花は丁度見頃だろうな」
「それを人混みも騒音もナシで見れるんでしょ?」
「見れる。公園は祭期間以外はガラガラだから、川だの風だの、あと鳥の声も聞きながら」

「ほら楽園だった。ストレスフリー。デトックス」
「んん……?」

「無理ならランチおごり1回。この前行ったとこ」
田舎出身の先輩は、自然あふれる静かな街がどれだけ貴重で尊いか、あんまり分かってない。
「4月6日頃のテラス席か?低糖質バイキング?」
「そうそこ。星空リベンジ」
それが無くて苦しいから、一定数の都民がこの連休で、花とか水とか音とかに癒やしを求めるのに。
当たり前と感じてるものを、「実は当たり前じゃない」って気付くのは、意外と難しいのかもしれない。
私が小さなため息をひとつ吐くと、先輩は心底不思議そうな顔で、私を見て、首を傾けた。

4/30/2023, 2:33:50 AM

「『うまく頭が働かないけどひとまず何か書く』と、『書けないお題で無理に書こうとする』と、『何でも良いから翌朝までにひとつ投稿する』が重なると、俺の場合、バチクソ納得いかん文章しか出ねぇのな」
アプリを入れ、はや60日の某所在住物書きである。
スマホの画面には前回の題目の投稿文。己の力量で、質を犠牲に速度を重視した結果が表示されている。

「投稿速度を取るか、自分で納得いく文章の質を取るか。どうしても二兎一兎になっちまうのかなぁ……」
物書きの、己の文才の限界を再認識した苦悩が、吐いたため息の風に乗って部屋の空気に溶けた。

――――――

職場の先輩が変な夢を見たらしいから、気晴らしに先輩の好きそうなスイーツカフェ、ゲホゲホ!……サイドメニューのおいしい東洋茶カフェに誘ってみた。
「まったく妙な話さ。夢の中でまで仕事をして」
「自業自得。『休日』なんだから休みなよって」
国産、各地の日本茶に、コンビニでも見慣れた台湾茶、それから「映え」の中国工芸茶。
それぞれの香りが、客や店員さんの移動で起きる風に乗って、混ざって、広がって、あちこちで咲いてる。
よく分かんないけど先輩が「どこかで業務用の茶香炉も焚いてるな」って推理してた。

「あの量を任されては、休んでなどいられない」
「それで全部期日で仕上げてるから、係長にナメられるんだよ。『こいつに押し付ければ楽できる』って」
「ごもっとも」
「ねぇ先輩。そろそろ、もう少し楽したら?」

だいたい、先輩の妙な夢の理由は予想できる。
最低限以外、誰も人を頼らないことだ。
年度始まって1ヶ月、先輩は悪徳上司に目をつけられて、膨大な、面倒な仕事ばっかり押し付けられて。
先輩はそのことごとくを、たまに私含めた他の人を頼るけど、大抵ひとりで、仕上げてしまう。
自分の部屋にまで仕事を持ち帰って。極力他の仲間の負担を重くしないようにって。
だから、その疲労が重なって変な夢を見たんだ。

「たとえば無理なら、仕事たまに断るとかさ」
「可能だから引き受けている」
「そうじゃないの。HPゼロになるまで引き受けるんじゃなくて、ちゃんと余裕持って、」
「メンタルと体調管理の話なら、」
「そうじゃなくて!もっと、自分を大事にしてって」

首を小さく振って、大きなため息をひとつ吐く。
さっき飲んでたミルクティーの、少しスパイスの効いた香りが、ふわり息の風に乗って、鼻に抜ける。
お茶の余韻に「まぁまぁ落ち着いて」って、なんとなく、言われてるような気分になった。
「私だってあの職場、そこそこ長いよ。先輩の押し付けられてる仕事も少し分かる。もう新人と教育係じゃないんだからさ。最低限頼るんじゃなくて、もっと対等に、都度都度頼ってよ。一人で抱え込まないでさ」
そんなんだから先々週、次倒れかけたら私云々。
つらつら愚痴る私を、先輩はキョトンと目を丸くして見つめてたけど、
途中から、なんか弟子や娘の成長を喜ぶ、師匠だの親だのみたいな穏やかさで、目を細めて、微笑してた。

「なに」
「何も」
「笑ってるじゃん。なに」
「笑顔といえば、こんな脳科学のネタがある」
「またそうやって話はぐらかして……」

4/28/2023, 10:48:31 PM

「人間、何か選ぶとき、実は脳ではパッと見の刹那だけでもう決まってる、てのはデマだっけ?」
最大9連休など何処吹く風。ぼっち予定無しの某所在住物書きが、早朝の塩分と糖質を茶で胃に流し込む。
「事故りそうになった時とかに、刹那の時間がバチクソ引き伸ばされてるように感じるのは事実だったか」
朝食のシリアルの隣には常設の菓子入れ。チョコを食べたくなって、衝動的に1粒つまんだ。

「このアプリ用の物語も、パッと見で良い話浮かんで、引き伸ばされた時間でパッパと書けりゃ、なぁ」
問題はその、刹那で浮かんだ最初の物語展開より、その後で考えつく文章の方が、比較的納得のいく良い出来になりやすいこと。

――――――

変な夢を見た。
自分のアパートで、割烹着を着た二足歩行の子狐が、どこから持ってきたとも知れぬ和箒で床を掃いたり、本棚の上のホコリを拭いたり。
ともすれば冷蔵庫の中の食材と自分で持ってきたらしい野菜だの調味料だので、一汁三菜の完全和風な朝食を作ったり。
『とんとんとん、こったお肩、たたきましょう
コンコンコン、こった首すじ、もみましょう』
仕事を始めれば、よく冷えた緑茶にみたらし餅。
それから時折のマッサージ。

疲れているのだろうか。
疲れていたのだと思う。

『子狐?おまえ……』
お前、一体何が目的で、私の部屋に来たんだ。
オートミールの袋に何故か威嚇する子狐を見ながら、夢の中の私はそれを聞こうとして、刹那、


「……まぁ、夢、だよな」
刹那。真昼のベッドで目が覚めた。

スマホを見れば、既に外気温は23℃。雪国の田舎出身な私には、いささか暑いくらいで、電気代は少々惜しいがすぐエアコンのスイッチを入れた。
「なんだったんだ。いったい」
何か妙な夢を見て、核心にもうすぐ触れそうな直後、結末迷子の尻切れトンボで目が覚める。
多くはなくとも、誰もが経験し得ることと思う。
部屋に童話チックな子狐が来るだけでも理解不能だというのに、その子狐が掃除やら料理やら、肩叩きやらまでし始めたのだから訳が分からない。

疲れているのだろう。
疲れているに違いない。

そういえば、新年度がスタートしてからこのかた、上司へのゴマスリばかりの後増利係長から、大量に仕事を押し付けられっ放しで、ろくに休めていなかったように思う。
「今日は仕事抜きで、少し休むか」
そもそも今日と明日は休日だから。別に昼に起きようと、部屋の外に出なくとも。
「……ん?」
まだ寝ぼけているらしい頭を起こそうと、冷蔵庫を開けて、緑茶の水出しポットを取り出した私は、刹那、

「これ、……いつ作った?」
刹那。その、「よく冷えた緑茶」を自分がいつ仕込んだか、思い出せないことに気がついた。
さあ、いつだったかしら。
冷蔵庫の奥ではこれ見よがしに、「みたらし餅」の載った皿が、ラップを被って鎮座している。

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