かたいなか

Open App

「人間、何か選ぶとき、実は脳ではパッと見の刹那だけでもう決まってる、てのはデマだっけ?」
最大9連休など何処吹く風。ぼっち予定無しの某所在住物書きが、早朝の塩分と糖質を茶で胃に流し込む。
「事故りそうになった時とかに、刹那の時間がバチクソ引き伸ばされてるように感じるのは事実だったか」
朝食のシリアルの隣には常設の菓子入れ。チョコを食べたくなって、衝動的に1粒つまんだ。

「このアプリ用の物語も、パッと見で良い話浮かんで、引き伸ばされた時間でパッパと書けりゃ、なぁ」
問題はその、刹那で浮かんだ最初の物語展開より、その後で考えつく文章の方が、比較的納得のいく良い出来になりやすいこと。

――――――

変な夢を見た。
自分のアパートで、割烹着を着た二足歩行の子狐が、どこから持ってきたとも知れぬ和箒で床を掃いたり、本棚の上のホコリを拭いたり。
ともすれば冷蔵庫の中の食材と自分で持ってきたらしい野菜だの調味料だので、一汁三菜の完全和風な朝食を作ったり。
『とんとんとん、こったお肩、たたきましょう
コンコンコン、こった首すじ、もみましょう』
仕事を始めれば、よく冷えた緑茶にみたらし餅。
それから時折のマッサージ。

疲れているのだろうか。
疲れていたのだと思う。

『子狐?おまえ……』
お前、一体何が目的で、私の部屋に来たんだ。
オートミールの袋に何故か威嚇する子狐を見ながら、夢の中の私はそれを聞こうとして、刹那、


「……まぁ、夢、だよな」
刹那。真昼のベッドで目が覚めた。

スマホを見れば、既に外気温は23℃。雪国の田舎出身な私には、いささか暑いくらいで、電気代は少々惜しいがすぐエアコンのスイッチを入れた。
「なんだったんだ。いったい」
何か妙な夢を見て、核心にもうすぐ触れそうな直後、結末迷子の尻切れトンボで目が覚める。
多くはなくとも、誰もが経験し得ることと思う。
部屋に童話チックな子狐が来るだけでも理解不能だというのに、その子狐が掃除やら料理やら、肩叩きやらまでし始めたのだから訳が分からない。

疲れているのだろう。
疲れているに違いない。

そういえば、新年度がスタートしてからこのかた、上司へのゴマスリばかりの後増利係長から、大量に仕事を押し付けられっ放しで、ろくに休めていなかったように思う。
「今日は仕事抜きで、少し休むか」
そもそも今日と明日は休日だから。別に昼に起きようと、部屋の外に出なくとも。
「……ん?」
まだ寝ぼけているらしい頭を起こそうと、冷蔵庫を開けて、緑茶の水出しポットを取り出した私は、刹那、

「これ、……いつ作った?」
刹那。その、「よく冷えた緑茶」を自分がいつ仕込んだか、思い出せないことに気がついた。
さあ、いつだったかしら。
冷蔵庫の奥ではこれ見よがしに、「みたらし餅」の載った皿が、ラップを被って鎮座している。

4/28/2023, 10:48:31 PM