かたいなか

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「『うまく頭が働かないけどひとまず何か書く』と、『書けないお題で無理に書こうとする』と、『何でも良いから翌朝までにひとつ投稿する』が重なると、俺の場合、バチクソ納得いかん文章しか出ねぇのな」
アプリを入れ、はや60日の某所在住物書きである。
スマホの画面には前回の題目の投稿文。己の力量で、質を犠牲に速度を重視した結果が表示されている。

「投稿速度を取るか、自分で納得いく文章の質を取るか。どうしても二兎一兎になっちまうのかなぁ……」
物書きの、己の文才の限界を再認識した苦悩が、吐いたため息の風に乗って部屋の空気に溶けた。

――――――

職場の先輩が変な夢を見たらしいから、気晴らしに先輩の好きそうなスイーツカフェ、ゲホゲホ!……サイドメニューのおいしい東洋茶カフェに誘ってみた。
「まったく妙な話さ。夢の中でまで仕事をして」
「自業自得。『休日』なんだから休みなよって」
国産、各地の日本茶に、コンビニでも見慣れた台湾茶、それから「映え」の中国工芸茶。
それぞれの香りが、客や店員さんの移動で起きる風に乗って、混ざって、広がって、あちこちで咲いてる。
よく分かんないけど先輩が「どこかで業務用の茶香炉も焚いてるな」って推理してた。

「あの量を任されては、休んでなどいられない」
「それで全部期日で仕上げてるから、係長にナメられるんだよ。『こいつに押し付ければ楽できる』って」
「ごもっとも」
「ねぇ先輩。そろそろ、もう少し楽したら?」

だいたい、先輩の妙な夢の理由は予想できる。
最低限以外、誰も人を頼らないことだ。
年度始まって1ヶ月、先輩は悪徳上司に目をつけられて、膨大な、面倒な仕事ばっかり押し付けられて。
先輩はそのことごとくを、たまに私含めた他の人を頼るけど、大抵ひとりで、仕上げてしまう。
自分の部屋にまで仕事を持ち帰って。極力他の仲間の負担を重くしないようにって。
だから、その疲労が重なって変な夢を見たんだ。

「たとえば無理なら、仕事たまに断るとかさ」
「可能だから引き受けている」
「そうじゃないの。HPゼロになるまで引き受けるんじゃなくて、ちゃんと余裕持って、」
「メンタルと体調管理の話なら、」
「そうじゃなくて!もっと、自分を大事にしてって」

首を小さく振って、大きなため息をひとつ吐く。
さっき飲んでたミルクティーの、少しスパイスの効いた香りが、ふわり息の風に乗って、鼻に抜ける。
お茶の余韻に「まぁまぁ落ち着いて」って、なんとなく、言われてるような気分になった。
「私だってあの職場、そこそこ長いよ。先輩の押し付けられてる仕事も少し分かる。もう新人と教育係じゃないんだからさ。最低限頼るんじゃなくて、もっと対等に、都度都度頼ってよ。一人で抱え込まないでさ」
そんなんだから先々週、次倒れかけたら私云々。
つらつら愚痴る私を、先輩はキョトンと目を丸くして見つめてたけど、
途中から、なんか弟子や娘の成長を喜ぶ、師匠だの親だのみたいな穏やかさで、目を細めて、微笑してた。

「なに」
「何も」
「笑ってるじゃん。なに」
「笑顔といえば、こんな脳科学のネタがある」
「またそうやって話はぐらかして……」

4/30/2023, 2:33:50 AM