かたいなか

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4/27/2023, 12:15:41 PM

「一瞬俺は悪くねぇRPGのキャッチコピーかなと思ったけど、あっちは生きる意味を知るじゃなくて生まれた意味を知るだったのな」
玩具として生まれたウサギとトラを魔改造する番組をBGMに、某所在住物書きが頬杖をつく。
モニターには、原型からかけ離れた兎虎コンビ。彼等の生きる意味とは何ぞやと、別に気にはしていない。

「で、生きる意味?食い物だろ?俺ぶっちゃけ……」
ぶっちゃけ、存在意義とか生存意味とか気にしてないし。そう続ける前に、物書きは番組のナレーション音声が某少佐やエルフ耳の魔女であることに気付き、完全に視線をそらして玩具のレースを観始めた。

――――――

今日も今日で先輩が溶けた。
「こうはいよ。わたしはどうやら、ここまでらしい」

職場の先輩本人が言うには、「雪国の田舎生まれだから」。根っこに最「高」気温氷点下の冬があるから、20℃超えの4月はとてもしんどいらしい。
先週もたしか火曜日、18日あたりで散ってた。
「わたしがしょくばの、つゆときえたら、かわりに、あのクズじょうしを、せいばいしてくれ……」
十数年東京で仕事してる先輩の、それでも暑さに即応できず机でへにゃんとしてるのが、春の風物詩だ。
今日含めて、これからずっと真夏日スレスレだから、そろそろ暑さに慣れないと、先輩は溶ける通り越してきっとお湯だろう。

「先輩、私新人ちゃんの仕事チェックとゴマスリ係長の押し付けクソ案件どっち先やれば良い?」
「ぜんしゃ」
「ゴマスリの案件は?どうする?」
「わたし」
「先輩そのデロンデロンで仕事できるの?」
「やる。なんとかする」
「そうやって自分ひとりで仕事持ち帰って朝夜詰めるから体壊したんでしょって。先々週。13日」
「んん」

いつも淡々と仕事してて、真面目で、優しくて、
『頼む。やめてくれ』
今朝、私が古傷を攻め過ぎちゃった先輩。
多分すごく傷つけちゃったと思う。
『あのひとの話は本当に、本当にまだ苦しいんだ』
怪物と戦う者は、その過程で自分も怪物とならぬよう注意せよ。
先輩が朝言ってた、ニーチェの『善悪の彼岸』が、まだ頭に残ってる。
先輩の心をズタズタにしたっていう「初恋の人」を、ただ懲らしめたくなっただけだったのに。その私自身が、おんなじように、先輩の心を刺してしまった。

それでちょっと落ち込んでたのに、先輩のこの、そんなこと無かったようなデロンデロンは一体何だろう。

「先輩。せんぱい。コーヒー」
本格的にお湯になり始めた先輩がいたたまれなくて、休憩室の共用冷蔵庫から氷とグラス取ってきて、アイスコーヒー入れて先輩に渡すと、
「たすかる。……ありがとう」
すっっごく救われたような、それこそ今朝の傷心なんて無かったような感謝の顔して、
先輩は、コーヒーをイッキに喉に流し入れた。
「これのために、私は生きていると思う……」

「先輩大げさ」
「いや事実かもしれないぞ?所詮仕事は飯のためだ。ならこのコーヒーも」
「本。花。旅行。先輩は興味無いだろうけど推し活」
「あっ」
「ほら大げさだった」

4/27/2023, 12:01:21 AM

「善悪。イイねぇ!シンプルなお題は制約が少ないから、自分で選べる幅が広い。バチクソ好みよな」
二元論、グレーゾーン、「悪には悪を為す理由や大義が在る」への賛同ないし反論、あるいは単に嫌悪。 
どれで話を書いてやろうと、某所在住物書きが、悪い企み顔でスマホの通知画面を見る。
「……問題は好みに自分の力量が追いついてない点」
好きと、書きやすいと、それから書ける。皆似てるけど少し違う。物書きは首を傾け、ため息を吐いた。

――――――

「先輩の初恋のひとの話、聞いても良い?」
「随分と久々なネタを引っ張ってくるな。メタな話をすると、3月10日以来の」

先週の頭に、職場の先輩からチョコを貰った。
「初恋の話は私の古傷だと言った筈だ。何故?」
「『包み紙』の話聞いちゃった。製造元から」
17日だったか18日だったか、日付は覚えてない。キレイな、春の花の写真が薄く印刷されたオリジナルのワックスペーパーで、ちょっと崩れてたけどすごく丁寧に包まれた、散る桜の香りがするチョコだった。
「偶然だったの。顧客情報だから詳細伏せるけどって。『日頃世話になってるひとに礼がしたくて、って真面目で優しそうな人から、注文貰った』って」

先輩は先々週、13日、上司に一方的に押し付けられた致死量手前の仕事のせいで、職場で倒れかけた。
当日の仕事を引き継いで色々対応しておいた私へのお礼だって。いつも助けてくれる、自分にはもったいないくらいの後輩なのに、今までまともに礼をしたことがないって。先週のハンドメイドマルシェでわざわざ包み紙をオーダーして、準備してくれたらしい。
私に隠れて。店主相手に、私のことちょい褒めして。
その背景を私が知ったのは23日頃だった。

「嬉しかった。先輩、私のこと頼ってたんだって」
詳しく知らないけど、この真面目な先輩を、その優しい心を、4回もズタズタにした極悪人がいたらしい。
こんな、ちょっと不器用でどこまでも善良な人の心を、バッキバキにへし折った極悪人がいたらしい。
どんなクズだったのか、怒りと一緒に興味が湧いた。

「ホントに初恋の人がクズだったら、呟き垢特定して火種まいて、もし新しい恋人とか家族とか居たら、」
「『怪物と戦う者は』、」
「っ、」
「『その過程で自分も怪物とならぬよう注意せよ』。……フリードリヒ・ニーチェ、『善悪の彼岸』の一節だ。お前のそれは、動機と理由がどこであっても、画面の先にいる人の心を同様に傷つけてしまう」
「先輩が、そもそも傷つけられたんでしょ?!」
「頼む。やめてくれ。あのひとの話は本当に、本当にまだ苦しいんだ」

すまない。
ポツリそう結んで、先輩は申し訳無さそうに目を細めて、うつむいた。
私の中には酷いモヤモヤが無駄に残って、でも先輩に「ごめん」も何か少し違う気がして、
ただ、先輩と同じように、私も視線を下げた。

4/25/2023, 1:23:56 PM

「星、ほしかぁ……」
結構、星ネタも多いな。過去の投稿分をさかのぼりながら、某所在住物書きは数度小さく頷いた。
「星が溢れる」、「星空の下で」、そして「流れ星に願いを」。約2ヶ月で3回出題の星ネタである。
「今までこのアプリの出題傾向、『エモネタ』『季節・時事』『空関係』で睨んでたが、『星』も出題頻度高めで想定しても良さそうか……?」
満天の星、星降る夜、星の瞬き、星隠す雨雲。想定し得るネタをメモアプリに記しながら、しかし物書きはそのいずれにも、まともな物語が思い浮かばず……

――――――

流れ星といえば、夜が定番ではありますが、ひねくれ屁理屈でこんなおはなしはいかがでしょう。

最近最近、桜散り時の都内某所。
某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
その家族の中の末っ子は、お星様がとっても大好き。敷地に芽吹き咲く花が、星の形に似ていれば、それを星の木星の花と、呼んで愛でて尻尾で囲って、一緒にスヤスヤお昼寝します。
桜も見れば5枚の花びら。子狐の目には「星の木」で、散る花びらは流れ星。桜吹雪は流星雨です。

桜散り時の稲荷神社。
その日は風がよく吹いて、コンコン子狐の視界いっぱいに、「流れ星」が舞い飛びました。

「お星さま、お星さま!」
数日後には葉桜の、寂しい未来もすっかり忘れて、子狐は稲荷神社の敷地をくるくるくる。
「ながれ星が、いっぱいだ!」
跳んで、はしゃいで、駆け回って、今年の桜の最後を体いっぱい楽しみます。
「ながれ星いっぱいで、お願い事が足りないや!」
流れ星に願いを託せば、託した願いがいつか叶う。
コンコン子狐、子狐なりにちょっと賢いので、人間たちの古くからの、信じちゃいないけどささやかな、祈りの形を知っています。

「お星さま、願いを叶えてくださいな、いっぱい叶えてくださいな」
今年もおいしいお米が、いっぱい育ちますように。おいしいおいなりさんとお揚げさんが、いっぱい食べられますように。それからそれから、えぇとそれから。
小さなおててで花びらを集めて、この流れ星にはこのお願い、その流れ星にはそのお願い。
子狐は幸せで小さな欲張りを、おててが桜の流れ星でいっぱいになるまで、吹き込み続けました。

桜の花を星に見立てた、散る流れ星と星好き子狐のおはなしでした。
細かいことは気にしません。だいたい童話の狐は話をするし、リアルガン無視でファンタジーなのです。
しゃーない、しゃーない。

4/25/2023, 4:17:11 AM

「そういや最近、ルール作家、あんまり見かけなくなった気がするんだが。ほらアレ。エセマナー講師」
今頃どうしてんだろうな。それとも見かけなくなったの、気のせいだったりすんのかな。某所在住物書きはニュースをぼーっと観ながら、ランチを食う。
「自作のルールで誰かを殴るとか、殴ルーラーでもあるまいし、某ソシャゲの中だけにしとけよとは思う。……まぁ個人的な意見と感想だけどさ」
ところでルールとマナーって云々、モラルとの違いは云々。物書きは味噌汁をすすり、ため息をついて……

――――――

ウチの職場には、誰が決めたとも分からないし、別にハッキリ規定に書かれているワケでもないけど、確かに「ここ」に存在するルールがある。

始業はこの時刻です。
「でもその時間ピッタリに仕事を始める人はいません。10〜20分早く業務を開始してください」。
終業はこの時刻で、その先は残業手当が入ります。
「でも非正規や、入ってきたばかりの方々の場合は、残業ではなく自己ケンサン、自己啓発です。残業として申告してはなりません」。
休日は休日なので、職場は一切関与しません。
「でも連休でどこか遠くに旅行した場合、部署の同僚・部下・上司に、合計2000円以上1万円以内でお土産を買い、配布してください」。
他にも色々、上司の指示は絶対断っちゃいけないとか終業時刻から10分程度は仕事を続けるとか、古くさいルールが未だに残ってるのが、ウチの職場だ。

「これでも少なくなった方だ」
私より何年か先にここに就職してた先輩は言う。
「トップが今の緒天戸に交代する前、ドン引きするやつが複数個あった。……本当に酷いルールさ」
昼休憩、一緒の机で、お弁当とちょっとのお菓子を広げて、18年前の大変な事故のニュースをBGMに、先輩は昔の話をほんの少しだけしてくれた。

「ドン引きって?学校のブラック校則みたいな?」
「ブラック校則そのものか、それ以上だ。私が入って2〜3年で撤廃になったが」
「たとえば?」
「よせよせ。メシがマズくなる」

意外とルールは「ルール」になってしまうと云々、時代に合わないから変えましょうと言っても云々、これだから云々と、あきれた目で遠くを見る先輩。
「そういえばどっかで、『大昔の会社は、女のひと採用するとき、勤務してる男性社員の結婚相手になることを見越して、キレイな若い子選んでた』ってデマ、見たことある気がする」
すんごく昔の、社会に女性が参加し始めた初期だったと思うけど、って前置いてぽつり私がしゃべったら、
「昔。むかしねぇ?」
先輩が小さい、短い息をフッと吐いて、乾いた空虚な微笑っぽい何かで、私を見た。

「……あったの?」
「黙秘」
「ガチ?男尊女卑?セクハラ?」
「『男女平等』。あとは言わない」
「待って!平等ってなに、どっち?!」
「黙秘だ」

4/24/2023, 8:54:53 AM

「わぁ。今日もネタ浮かばねぇまま午後になった」
今日の心模様、って、今日も今日とて相も変わらず、平坦よな。某所在住物書きはポテチをかじり、茶をすすって、長いため息を吐いた。
「それこそ先日のお題の、『無色の世界』な状態よ。色彩学の定義だと、色の偏りが無いことを『無色』って言うらしいからな」
ぼっちだからダチだのハイグーシャだのに気ぃ遣う必要も無ぇし。自分の機嫌だけ取ってりゃ良いし。
付け足す物書きは、ふと誰かの視線に気付き、
「……泣いてねぇし。別に寂しかねぇし」
ぼっち万歳。ただポツリとそれだけ、呟いた。

――――――

人の心とは、まぁまぁ、不思議なものでございます。
脳科学のだいぶ進んだ昨今、あの感情にはあの領域とこの物質、この感情にはこの領域とその物質。
愛情ホルモンなんて持て囃されているオキシトシンが、実は他方で、ある条件下の攻撃性を、高めるとか仲間外れを群れから排除云々とか。
人間の今日の心模様は、その日の脳の機嫌次第。その日までの脳の形成過程次第。
現実世界の心は所詮、生理現象なのでございます。
いずれ物理的に操作可能になる日も訪れましょう。

しかしながら人間は、本当に厨二ちっくなものが大好きな種族でございまして。
大昔から現代まで、心は特別で神秘性があり、何かチカラを有していて、物質にもホルモンにも縛られず、自由であるとお考えの方々が、ちらほら、ちらほら。
物語世界の心は所謂、超常現象なのでございます。
魂か魔法の類でございましょう。

「……で、その魂か魔法の類の、その日の模様をそっくりそのまま取り出して、鑑賞して、バックリ食べてしまう化け物が、私なのでございますが」

都内、某所に確かに在る筈なのに、何故かマップアプリに表示されず、道を聞いても辿り着ける者と着けない者の居る古風な喫茶店。
店の名前は「ネタ置き場」。いつ日の目を見るともしれぬ「一発ネタ」が「閃いちゃっただけの設定」が、仮置きの名目で詰め込まれ、いつ来るとも知れぬ出番をここで待っている。すなわち「アプリの短文投稿に採用されるまで出られない部屋」である。

「設定が設定なもので、やること成すことほぼエナジードレイン系のセンシティブ案件でございます。アレでございますね。体から鏡だの結晶だの種だの取り出す系。……無理でしょう。出番とか。
かといって、無理矢理『ここ』から出て行こうものなら、『世界線管理局 密入出・難民保護担当行き』の、密入出の方でお縄になって退場なわけで」

どこかにこんな変態、ゲホゲホ!……妙な化け物でも、物語に採用してくれる物書き様はいらっしゃらないモンですかねぇ。
大きなため息ひとつ吐き、喫茶店のカウンターでココアをすする自称化け物。
「どこぞの物語のチョイ役でも良いので、出番、無いですかねぇ」
1カメ、2カメ。ちらりちらりと視線を送る「彼」の肩を、喫茶店の店員が、旧知の同士へのソレよろしく、優しく、同情的に叩いた。

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